トップインタビュー

日本ビクター(株)
常務取締役
AV&マルチメディアカンパニー
副社長

平林正稔 氏
Masatoshi Hirabayashi

 

オンリーワン技術で
お客様に感動していただける
商品を提供していく


「The Perfect Experience」をスローガンに掲げ、大画面薄型ディスプレイやDVDレコーダー、高級スピーカーなどで意欲的な商品展開を進めるビクター。
同社常務取締役AV&マルチメディアカンパニー副社長・平林氏は、日本オーディオ協会の副会長も務めている。ビクターのAV事業を牽引する一方で、「A&Vフェスタ2003」の実行委員長として同フェスタの成功に尽力した同氏に話を聞いた。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

楽しさを体験してもらうために
ソフトからの発想で
買い場提案を進めています

成功裡に終わった
新生A&Vフェスタ

―― 先日開催されたA&Vフェスタでは、有料入場数6万2000人を集めて成功裡に終わりました。いったん途切れた後の開催だっただけに、ずいぶんご苦労も多かったのでしょうね。

平林 とにかく失敗しなくて良かったというのが正直な気持ちです。一昨年あるメーカーから、「こんな古い体質でやってもオーディオフェアは続かないのでいったんやめよう。今後10年くらいを見据えてどういうフェアならお客様に喜んでもらえるかを考え直そう」という話が出て、昨年のオーディオエキスポが中止になりました。

今回のA&Vフェスタを開催するにあたっては、最初に各企業のトップが集まって準備委員会を結成し、その場でやるべきか、やらざるべきかという原点から検討し直しました。そこでやるべきだという合意が形成され、さらにどうやって成功させるかという方向性を出した上で、実行委員会におろして肉付けをしました。

―― こういう大きな問題はトップダウンでいかないとなかなかまとまりません。最初に各社のトップによる準備委員会で方向性をまとめ上げていくというやり方が良かったと思います。

平林 準備委員会での検討の中で、「体感・交流」というキーワードが出てきました。

私自身、オーディオフェアのあり方について、思っていたことがありました。ビクターは一昨年のオーディオエキスポでメインブースとは別の場所に試聴室を設けて、当社の技術者が直接お客様にDDスピーカーを説明しました。そこではオーディオファンの人たちが技術者をつかまえて思いを語り、技術者も自分が作った製品に込めた思いをオーディオファンの人たちに語っていました。

私はその様子を見ていて、これは素晴らしいことだと思いました。一方的な主張ではなくて、作り手とユーザーが一緒に音を聞いて、直接会話しあう。これこそがオーディオフェアのあるべき姿ではないかとその時に思いました。

―― 今回のA&Vフェスタでは各社のブースの出展内容もずいぶん変わりましたね。

平林 今までとの最大の違いはブースの派手さを競い合うのではなく、楽しみ方を提案してそれをお客様に肌で感じていただけたということではないかと思います。商品的にも今まではオーディオ主体でしたが、ホームエンターテインメントという視点から映像系も入れました。

大切なことはお客様をいかに集められるか、来場されたお客様にいかに楽しんでいただき、感動して帰っていただくためにはどういうことをしなければいけないかをみんなで考えるということです。商売ではお互いにコンペティターですが、ファン作りやユーザーを捕まえるという部分では一緒にやらないといけません。

オーディオは日本ブランドが世界のどの市場でも大きなポジションを持っています。もし、その日本でショーが何もなくなってしまうというようなことがあってはいけないと思います。

得意の高画質と高音質を
融合した商品作りを展開

―― 世の中の変化にあわせて自分たちも変わっていかなければいけません。それが今回できたと思います。
次にビクターさんの話を聞かせていただきたいと思います。スピーカーのSX―L9、26V型の液晶テレビなど、このところ非常に意欲的な商品展開が目立ちますね。

平林 ビクターは今までどちらかというと、技術の先進性は非常に高く評価されていましたが、プロダクトアウト的な体質の会社だったように思います。これをお客様に満足を与えられるような会社に変えていこうとしています。

ビクターは製品ラインナップで勝負するような規模の会社ではありませんし、ブランドイメージや販売力などで勝負するような会社でもありません。ビクターでは「The Perfect Experience」という標語を掲げて全社員の意識改革を進めています。

これはオンリーワンの技術力を活用して商品力の高さでお客様に買っていただけるような会社を目指していこうということです。

―― それが液晶テレビやDVDレコーダーなどで、具体的な形になってきたということですね。

平林 ビクターはPDPや液晶テレビ、DVDレコーダーなどで、少し出遅れましたが、ようやく発売にこぎつけた第一号機ではそういう思いがすべて入った商品ができたと思います。たとえば、大変高い評価をいただいている26V型の液晶テレビの画を見ると昔の純白カラーの再来を感じます。高画質へのこだわりというビクターのDNAを感じさせるような圧倒的な高画質に仕上がっていると思います。DVDレコーダーでもDVDマルチの採用で、あらゆるフォーマットに対応できるという製品で他社にはない商品です。

お客様に感動を与えるにはどうしたらいいか、お客様により便利に使っていただくにはどうすればいいかを技術者が必死になって考えた結果、こういう商品ができてきました。技術者の自己満足ではなく、ビクターのオンリーワン技術を使ってお客様に喜んでいただけるような商品作りができてきたように思います。

―― PDPや液晶テレビでは音にも相当こだわっていますね。

平林 ビクターは映像だけの会社ではありませんし、オーディオだけの会社でもありません。当社の最大の強みである高画質と高音質を融合することによって、非常に面白いことができる会社です。

今回の液晶テレビやPDPでは、オブリコーンスピーカーやDDスピーカーといったビクターのオンリーワン高音質化技術を入れることによって、画がいいだけでなく、音もいいディスプレイになっています。

―― オーディオでもビクターの伝統を感じさせるスピーカーのSX―L9が出ましたね。

平林 音に対するこだわりはビクターのDNAそのものです。ここだけは絶対に裏切ってはいけないということで、設計者の音に対する探究心や執念にはものすごいものがあります。
たとえばDDスピーカーを作るのに3年もかかりました。ウッドコーンスピーカーでは20年前に考え付いたアイデアをようやくものにすることができました。

誰にでも簡単に使えることが
ホームシアター普及のキー

―― 中間決算の数字を発表されましたが、大変健闘されていますね。

平林 上期は増益を実現できましたが、減収になってしまいました。市場別ではアメリカと日本で苦戦しました。特に私が担当している日本が良くなかったことに悔しさを感じます。

昨年の上期はサッカーW杯がありましたので、今年減収になったのは止むを得ないという面はありますが、それはそれとしてまだまだ努力が足りなかったと思っています。

商品面での最大の問題はビデオレコーダーでした。VHSが前年比50%近くも落ち込むとは予想していませんでした。カムコーダーも苦戦しました。オーディオ、ディスプレイ、DVDなど他の分野では前年をキープしましたが、この二つの落ち込みが大きすぎました。

下期はPDPや液晶テレビ、DVDレコーダーなどに強力ラインナップが揃ってきましたので、増収増益を実現していきたいと思っています。

―― 大画面にオーディオを組み合わせたシステム提案をもっと強力に展開していきたいですね。

平林 欧米で大ヒットしているホームシアターが日本ではなかなかブレイクしてこないのはおかしいと思います。ソフトは質・量ともにずいぶん揃っています。早く立ち上げないと、日本ではホームシアターは駄目だということになってしまいます。

当社でもシステム提案を強力に推進していきたいということで、店頭でのシステム展示やユーザー向けの体験会も実施しています。大画面ディスプレイを買いに来た人にシステムを提案して成約できれば、販売店にとって客単価が上がります。また、お客様にとっても大画面の楽しさと満足度がさらに高まります。

―― ホームシアターを爆発させていくには、商品面でもそれが実現できるようなものが必要ですね。

平林 大画面の次は、必ずホームシアターだと思います。ただ、オーディオと違ってテレビは家族がみんなで楽しむものです。ですから、一般家庭に普及させていくためには、奥様や子供でも簡単に使えるようなものでないといけません。

たとえば今年発売したAVアンプのRX―ES1では聴きたい場所で手をたたくだけで、誰にでも簡単に自動的に最適な音場を設定できる「スマート・サラウンド・セットアップ」機能を搭載しています。こういうことも含めて、特別な知識のない人でもリモコンひとつで簡単に使えるような製品が求められます。

―― 地上デジタル放送がいよいよ始まりますね。

平林 12月から地上デジタル放送が開始されます。来年の8月にはアテネ五輪が開催されます。それに先立つ6月にはビクターがサポートしているサッカーのユーロ2004(UEFA)が始まります。今年の年末から来年のユーロカップ、アテネ五輪に向けて大きな商戦期が続きますので楽しみです。

今までビクターは商戦機とはあまり関係なく商品ができた時に発売してきましたが、これからは商戦期に照準を合わせて商品を投入していきます。特にディスプレイでは、さすがビクターといわれるようなすばらしい商品を出していきます。

販売店と一緒になって
買い場を作り上げていく

―― 流通の再編が進んでいます。これについてはどのように見られますか。

平林 7〜8年前にアメリカで起きた流通革命と同じようなことが、日本でも起きてきているように思います。これからは単に販売金額の大きさで戦うのではなく、自店のターゲットを明確にしてそれに合わせた店作りや販売活動を展開していくところが勝っていくと思います。

流通の再編はこれから急速に進んでいくと思います。その変化にメーカーがついていけなければ、今度はそのメーカーが淘汰されてしまいます。われわれが持っている強みを活かせる販売店と一緒に手を組んでいくことを真剣に考えていかなければいけないと思っています。

―― 営業活動や販促活動の内容も従来とは変わってきますね。

平林 今後のメーカー営業の役割は、いかにしてお店のメリットになるようなお手伝いをできるかということです。われわれはメーカーですから商品は決まっています。それをただ売ってくださいというのではなく、いかにして売っていくかについての勉強会や販売施策、売り方の提案、販促提案などをお店の身になって徹底してやっていこうと思っています。

今当社が展開している買い場提案でも、メーカーがお店の買い場まで提案することはおかしいと思われるかもしれませんがそうではありません。今まで合展、個展をずいぶんやってきましたが、今度は買い場まで延ばしていこうということで、商品ごとにいろいろな買い場パターンを提案させていただいています。

―― お客様に商品の魅力をわかっていただくには、ソフトを含めた見せ方をどうするかということも大切ですね。

平林 実際に体験していただかないと、その商品の楽しさや便利さを理解していただけない部分があります。そのためにはハードだけでなくソフトも大切です。

そこで大画面ホームシアター用デモソフトとして、WOWOWやBS―iとのタイアップで制作してきたシーズンごとの番宣ソフトに加えて、ビクターだけのオリジナル店頭デモソフトとして宝塚歌劇団のハイビジョン映像ソフトを作ります。

また、ハイビジョンムービーの買い場では、ハイビジョン撮影の美しい画像で「日本の夏祭り編」や「スポーツ編」などデモソフトを用意して、こんな楽しいものが気軽に作れますよというように、ソフトからの発想で買い場作りの提案を進めています。

先ほどのユーロ2004でも、店頭とWEBの両方でキャンペーンを展開します。DVDやコンパクトコンポのEX―A1でも体験をキーワードにしたキャンペーンを展開していきます。

―― 販売店と一緒に販売の現場まで作っていこうということですね。

平林 今流通が抱えている問題の中には、メーカーがお手伝いすることで片付けられるものがいくつもあります。

商品では他社には真似のできないオンリーワン技術でお客様に感動していただけるものを提供するとともに、販売店さんが困っている問題にわれわれができる範囲のお手伝いをしてくことによって業界を盛り上げていきたいと思っています。

 

◆PROFILE◆

Masatoshi Hirabayashi

1942年6月1日生まれ。66年3月日本大学理工学部精密機械工学科卒業。同年4月日本精密工業鞄社。69年7月日本ビクター鞄社。95年10月オーディオ事業部長、97年4月理事オーディオ事業部長、99年6月取締役オーディオ事業部長、00年4月取締役AV&マルチメディアカンパニー副社長、03年6月常務取締役AV&マルチメディアカンパニー副社長、現在に至る。