編集長インタビュー (株)デノン 坂本光成 氏
一昨年10月1日にスタートした新生デノン。坂本社長を中心にした新体制のもとで、ユーザーの琴線に触れる商品を次々と市場に送り出している。先日横浜で開催されたA&Vフェスタの会場では大型液晶テレビを参考出品して来場者を驚かせた。新体制で二年を経過、同社の今後のマーケティング戦略を坂本社長に聞いた。 インタビュー ● 音元出版社長 和田光征 流通とメーカーがお互いに オーディオ業界の命運を握る ―― 最初に最近の市況の動きからお聞かせください。いかがでしょうか。 坂本 今年の上半期のオーディオ市場は、日本国内が前年比85%と低迷しましたが、全世界ベースでも非常に低迷しました。4〜6月の第1四半期はメーカー出荷ベースで前年比約30%ダウン、店頭での実販ベースでも15〜20%ダウンしました。 その中でプラズマや液晶の大型のビジュアル機器は前年比2〜3倍以上の伸びと絶好調です。これに伴ってDVDも非常に健闘しています。DVDでは特に録再機が特に好調です。昨年末以降、再生専用機の需要の一部が録再機に切り替わってきていることもあって、金額的には約6対4の比率で録再機の方が多くなっています。 先ほど上半期は大変厳しかったとお話しましたが、この年末については、非常に楽しみにしています。大型テレビやDVDの普及に加えて、地上デジタル放送も始まります。これから面白くなっていくのではないでしょうか。 ―― その年末に向けた戦略をお聞かせください。 坂本 商品面ではホームシアターの強化、営業面では専門店への取り組みの再強化が最大のテーマです。大画面ディスプレイの普及を背景に、ようやく日本でもホームシアターが定着しつつあります。 ホームシアターは久々に出てきた大型商材です。オーディオでは従来からも技術革新による商品の変化はありましたが、ビジュアルまで含めた家庭内の娯楽製品がこれほど大々的に変革されるという機会は滅多にありません。これを千載一遇のチャンスととらえて、業界全体でこれを定着・拡充させていけるかどうかがオーディオ業界の命運を握っているといっても過言ではありません。 今年の年末からは地上デジタル放送が始まると、大型画面が一気に増えると思います。これはわれわれにとって大変な追い風です。画面の大型化や鮮明化に負けないような音作りが、われわれの使命だと思っています。 D&Mが米国で買収した会社の技術をいかに早くデノンの技術と融合させてハイグレードな商品作りができるかどうかということを急いでやっています。また、DVDの録再機も急激に普及が進んでいますので、こういうところでも遅れをとらないように頑張っていきます。 ―― ホームシアターと一口に言っても、いろいろなニーズがありますね。 坂本 多様なユーザーニーズに対応するために、当社ではハイグレードシステム、ファミリーシステム、パーソナルシステムという区分けで、目的別のラインナップ戦略をとっています。 ハイグレードシステムは、AVアンプのAVC―A1SR―N、DVD―A11―Nと高級スピーカーをセットにしたシステムを中心に展開していきます。現在約300店でこのハイグレードシステムを展開していますが、オーディオ専門店での展開も含めて今後450店まで拡大していきたいと思っています。 オーディオ専門店はピュアオーディオだけでは、経営が難しくなってきています。オーディオのノウハウを強みに、インストール事業を含めてホームシアターのジャンルにも取り組んでいかれるところとも協力して、やっていきたいと思っています。 ―― ファミリーシステムについてはいかがでしょうか。 坂本 これは今人気をいただいているインテリア指向の7Lシリーズを核に推進していきます。現在、このシリーズは約300店舗で展開していますが、これを500店舗に広げていきます。同じコンセプトで11月に、よりお買い求めやすい価格帯の3Lシリーズを投入して、このシリーズのラインナップをさらに強化していきます。 ―― パーソナルシステムについてはいかがでしょうか。 坂本 ドルビーバーチャルサラウンド搭載のADV―M71を中心にしたシステムがこれにあたります。現在約1000店で展開していますが、これを下期には1200店に広げていきたいと考えています。 ホームシアターシステムは今までオーディオ売場に限定して展開してきましたが、今後はテレビ売場などビジュアルコーナーでの展示を強化していきます。今、大型液晶テレビやPDPが大変な人気です。また、まもなくスタートする地上デジタル放送ではサラウンド音声の番組が数多く流される予定です。2本のスピーカーで手軽に本格的なサラウンドの魅力を楽しめるADV―M71とセットにして売っていただきたいと思います。 このカテゴリーでは、DHT―310という非常にコンパクトなサイズの本格的な5・1chシステムにも力を入れていきます。 社内に専任チームを組織して ―― デノンは高級オーディオの分野で多くの銘機を生み出してきました。今、あらためて専門店への取り組み強化を打ち出されてきましたが。 坂本 当社では、営業部門の効率を高めるために、プロパーの営業マンを減らして、その分をレップに切り替えてきました。しかし、一部でその弊害が出てきています。レップはどうしても量を追いかけますので、説明商品を根気良く売るよりも、量販で量を稼ぐ方向に動きがちです。その結果、専門店への取り組みが弱くなってきていました。 そこで専門店の専任グループを社内に組織化して、専門店へのバックアップ体制を充実させていきます。この問題は急を要しますので、下期中に組織やシステムを作り上げたいと思っています。総合オーディオメーカーとして、ピュアオーディオにも従前以上に力を入れていきたいと思っています。 ―― グループ会社のデノンラボが取り扱っている輸入高級スピーカーの活用も考えられますね。 坂本 デノンブランドではハイエンドスピーカーを持っていませんが、当社の100%子会社であるデノンラボではデンマークのDALI社と米国のINFINITY社の高級スピーカーを取り扱っています。デノンラボとの流通の棲み分けを明確にしたうえで、これらをデノン本体でも扱ってオーディオ専門店再強化の一助にしていくことを考えています。キンバーケーブルについても同様のことを考えています。 ―― 専門店向けの販促活動ではどういうことをお考えでしょうか。 坂本 商品の魅力を実際に体験していただくための試聴会やセミナーを積極的に展開していきます。デノンには全国で9カ所に営業拠点があります。オーディオ銘機賞を頂いたDVD―A11、AVC―A1SRA、DALIのHELLICONの組み合わせを中心に、それぞれの地域で一週間に一度くらいのペースで、ハイグレードホームシアターの試聴会を実施していく予定です。 販売店向けの勉強会にも積極的に取り組んでいきます。販売店への支援強化では、以前専門店さんの集いであったAVSSを再構築していきたいと思っています。いつの間にか立ち消え状態になっていましたが、組織作りを含めて下期中に再構築していきたいと思っています。 ―― 厳しい収益環境を背景にメーカー側でも流通への取り組みを見直そうという動きが出てきています。この点についてはいかがでしょうか。 坂本 メーカーと流通がお互いに適正な付加価値がとれるような商売でないと長続きしません。流通とWIN、WINの関係で、しかも買ったお客様にも良いものを買ったという満足感を持って頂けるような戦略を考えていきたいと思っています。おこがましいようですが、どこの流通をターゲットにしていくかということがメーカーにとって非常に重要な課題になります。もちろんこれはある日突然というわけにいきません。半年、一年経った時に、変化が見えてくるような施策を進めています。 「ホームシアターはデノン」 ―― その時に商品政策が特に重要になってきますね。 坂本 コロムビアの時代には、低価格ゾーンの商品も展開してきましたが、低価格ゾーンから撤退して深さを増す方向へと基本戦略の転換を進めています。すでにかなりモデルの整理ができてきましたが、今後、この戦略をさらに押し進めて、全世界規模でデノンブランドにとってのエントリーモデル以外は、ミドルからハイレンジに特化します。この基本路線にもとづいて、今後、強力な新製品を続々と投入していきます。 まずコンポーネントではデノンが得意なAVアンプとDVDを中心に、デノンラボが輸入しているハイエンドのスピーカーやケーブルなどを加えて、プレミアムグレードのホームシアター商品を強化していきます。 DVDプレーヤーでは、先日発売したDVD―A11を含めてこの年末商戦でユニバーサルプレーヤーのラインナップが3機種になりました。来年はさらに2機種追加して5機種構成に増強して前年比200%のDVDの販売を計画しています。 ユニバーサルプレーヤーはデノンという世界を作っていきたいと思っています。またAVアンプでも、来年はデザインを含めて一新した非常に強力な商品をフルラインナップで投入します。 ―― それ以外の商品ではいかがですか。 坂本 専門店への取り組みの再強化という方針ともリンクしますが、ハイエンド商品を強化していきたいと考えています。今、デノンには海外ブランドのハイエンド商品に匹敵するようなハイエンド商品がありません。 先日のA&Vフェスタでユニバーサルトランスポート、ビデオ部・オーディオ部別ユニットのAVプロセッサー、デジタルパワーアンプを参考出品しました。フルシステムで500万円近い価格になると思いますが、この商品化を進めています。 これによって、ホームシアターのトップエンドからパーソナルまでをカバーして、ホームシアターのデノンという形を実現していきたいと思っています。 映像機器にも進出 ―― A&Vフェスタで参考出品されていた大型液晶テレビが注目を集めていましたね。 坂本 今後、映像機器にも取り組んでいきたいと考えています。詳細はまだ確定していませんが、2004年に大型液晶テレビを投入する計画を持っています。 また、プロジェクター使用のシアター的な考え方で、スクリーンやラックまで含めたシアターシステムの展開も考えています。PDPや液晶テレビでは大画面化には限度があります。 100インチや200インチといった大画面はプロジェクターとスクリーンで楽しむことになります。その時に、スクリーンを取り付けるための工事が必要だとか、見たい時にいちいちスクリーンをどこからか持ってこなければいけないようでは普及しません。 プロジェクターまで自社ブランドで発売する予定はありませんが、ラックの機能アップと絡めて、使いやすくてスタイリッシュなシアターシステムを提案していきたいと思っています。 ―― 今年発売されたアナログプレーヤーが好調ですね。 坂本 これはわれわれの予想を超える大ヒットになりました。専門店筋の商材としても非常に有効な商品で、今までデノンと取り引きのなかったお店からも引き合いがありました。オーディオの総合メーカーとして、オーディオマニアの気持ちを大切にした商品にも力を入れていきたいと思っています。 ホームシアターからは外れますが、デノンはアメリカを中心に海外でDJプレーヤーを展開しています。多機能と多彩な使い方のDJプレーヤーはハイテクの塊のような商品ですが、DSPを使った音作りや加工という点ではAVプロセッサーやAVアンプなどと技術的なベースは同じです。CDプレーヤーのメカ技術でも強みを持っている当社にとって、非常に取り組みやすい商品です。 DJプレーヤー市場は日本ではまだ育っていませんが、アメリカではデノンが非常に強い商品分野です。国内でもシングルCDのDJ用プレーヤー2機種を投入して営業活動を始めていますが、予想以上に売れています。今後、このDJプレーヤーにも力を入れていきます。 ―― 各社では海外生産が進んでいます。デノンでは海外生産をどのように位置付けられていますか。 坂本 コストだけを考えれば、全面的に中国に生産移管することがベストです。しかし、先日のSARSや戦争などといったカントリーリスクを常に考えなければいけません。為替の問題もあります。 最大の問題は製品のグレードです。中国生産のクオリティーが上がってきたとはいえ、日本で作るのとはまだ品質的に大きな差があります。当社でも一部の製品を海外で生産していますが、すべて当社できちんとチェックしています。また、商品の基本となる設計はすべて自社で行っています。 さらなるブランドイメージの ―― 商品戦略、営業戦略以外で取り組まれている大きなテーマはありますか。 坂本 全世界でデノンブランドの力をさらに高めていくための戦略に、全社をあげて取り組んでいます。マーケティングの強化とデノンブランドのイメージを高めることを目的に、先日、全世界を対象としたプロジェクトチームを新しく立ち上げました。メンバーは地域面では米国、欧州、アジア、日本など世界各地域から、機能面では営業、商品企画、設計、宣伝で構成しています。このメンバーを定期的に集めて、ブランドイメージを高めるための活動をしていきます。 まだまだやることはいっぱいあります。会社を分割して2年間、経営のバランスをとりなら、新たな体制でいかに攻めていくかについて準備をしてきました。おかげさまで財務体質的にはある程度安定してきましたので、今後はD&Mの中枢はデノンだという認識と責任の下で、いろいろな意味で将来への投資をしていきます。 会社の力がついてくるにつれて大きな投資が可能になります。これからは攻めの体制で、さらに強力な商品を続々と投入していきます。ご期待ください。
◆PROFILE◆ Mitsushige Sakamoto 1940年4月24日生まれ。64年中央大学商学部卒業。同年4月日本コロムビア入社。経理・財務部門勤務を経て、89年財務部長。91年より電機事業本部海外営業本部長。99年取締役就任。01年常務取締役。01年10月1日会社分割により潟fノン代表取締役社長。現在に至る。趣味は音楽鑑賞とゴルフ。 |