トップインタビュー (株)日立製作所 野田哲夫 氏
トップランナーとしての インタビュー ● 音元出版社長 和田光征 国内プラズマ市場で3年連続の
商品企画の基本に徹して ――薄型大画面テレビの最近の動向と、日立の状況から聞かせてください。 野田 2001年の3月に日立が初めて32V型の家庭用プラズマテレビを発売して足掛け4年目になりました。日立が32V型という手頃なサイズで、しかもお求め安い価格で市場に導入したことが、家庭用プラズマテレビという新しい市場をブレイクさせる起爆剤になったと思っています。プラズマや液晶の薄型テレビが成功したことによって、DVDレコーダーが普及してきました。デジタルカメラもそうです。われわれには新三種の神器と言われるデジタル家電を立ち上げるきっかけを作ったのは、日立のプラズマテレビの成功だと自負しています。 プラズマは国内だけでなく海外でも昨年から急速に伸びています。ワールドワイドでの市場規模は250万台から270万台に育ってきました。昨年まで薄型テレビはステータス的な商品でしたが、価格もこなれてきましたので今年は一気に大衆化しそうです。 ――新しい市場をブレイクさせるために、商品企画面で留意されたことはどのような点でしょうか。 野田 メーカーはいい商品を作ることが使命ですが、それは難しいことではありません。マーケティングの基本を守ることです。商品企画は素直でないといけません。分からなかったらお客様に聞けということが鉄則です。プラズマという新しい商品を企画するにあたって、お客様からいろいろなことを聞くことから始めました。仮説を立ててそれを検証し、実行する。マーケティングの基本は、このサイクルの繰り返しです。 商品づくりに当たっては、日立が持っている強みとしてのコアコンピタンスをどんどん取り入れて他社との差別化を図ってきました。それが日立のプラズマの顔として、お客様や販売店の皆様に分かっていただけたのだと思います。 ――家庭用プラズマテレビ1号機のW32―PD2100は32V型という画面サイズと60万円という価格で世の中を驚かせましたが、お客様の声を聞いた結果として決定されたということですね。 野田 当時われわれが家庭用薄型テレビの市場を一気に立ち上げるために採った戦略は、お客様が求めるサイズと、お客様にとって手が届く価格を実現することでした。中途半端なことをやっても結果は出ません。私はいつも「倍・半理論」と言っていますが、今までの2倍美しいとか、奥行きが半分になるとかいうことでないとブレイクスルーはしません。 価格面ではこの倍・半戦略に則って、当時の42V型のプラズマの市場価格は120万円ほどでしたので、その半分の60万円に設定しました。サイズについてはお客様の意見を徹底的に調査しました。今でもそうですが家庭のリビングルームのテレビは、29型の4対3のブラウン管テレビが圧倒的です。そのお客様が次に買い替える時にどのサイズのテレビに買い替えたいかを聞いたところ、32型という回答がトップでした。そこで、家庭用プラズマという新しい市場を一気に立ち上げるための戦略的なサイズとして32V型を選びました。 次世代テレビの役割は ――当時は現在のようなペースでの市場の成長を予測されていましたか。 野田 予測していたというよりも、当社にはそうしなければいけないという切実な事情がありました。当時、日立のブラウン管テレビ事業は、収益面で非常に厳しい状態にありました。デジタル化という時代の流れの中で、ブラウン管テレビでは事業としての将来性を期待できませんでした。そこで、薄型のプラズマに一気に事業構造を転換するという決断を下しました。それがうまくいったということです。最後尾を走っているランナーでも、世の中の流れを逆にするとトップに立つことができます。これは非常に大変なことですが、日立はそれをやってのけたということです。 ――その結果、新しい市場をブレイクさせるとともに、国内のプラズマテレビ市場で見事にトップシェアを実現されました。 野田 今はその分野で1位を取らないとメーカーは生き残れない時代です。ですから常にNo.1になれ、そして、No.1を取ったらそれを絶対に守れと言っています。2003年度のワールドワイドでのシェアはまだ出ていませんが、国内のGFKデータでは暦年で1位でした。2002年のワールドワイドのシェアも日立がトップでした。 ――日立では当初からモニターとAVCステーションのセパレート構成にこだわってきましたが、それはなぜでしょうか。 野田 われわれは環境に合わせてAVCステーションをどんどん進化させていきたいと思っています。世の中がデジタル化しています。放送がデジタル化されていく一方で、ホームネットワーク化も進んでいきます。その時にAVCステーションをホームネットワークのサーバーへと進化させていきたいということで、当初からモニターとAVCステーションをセパレートで構成してきました。 日立のプラズマテレビのもうひとつの特徴が「Woooセレクション」です。お客様のお部屋や使い勝手に合わせて、画面のサイズとAVCステーションの組み合わせを自由に選んでいただけるように、5種類のパネルと4種類のAVCステーションを揃えています。 ――今後の家庭用テレビのありようを見据えて、プラズマテレビの展開をされているということですね。 野田 さきほどプラズマの画面サイズを決めるにあたって仮説の検証をした時に、最も多かった回答が32V型で、その次に37V型、26V型が続いたと言う話をしましたが、そのサイズであればブラウン管でもいいわけです。ところが、どんなタイプのテレビを望んでいますかという問いかけに対しては「薄型」という回答が圧倒的でした。 ホームネットワークやインターネットの普及などによって、デジタル時代のテレビには様々な情報が放送系や通信系などから入ってきます。そこではテレビは今までのような放送系の番組を受信するだけではなくて、家庭内の掲示板としての役割を持つことになります。これが次世代のテレビです。 掲示板としての表示ディスプレーでは、今までのブラウン管のような奥行きの厚いものではなくて、薄型になっていくことは必然です。 日立の総合力を結集して ――先日発表した「Wooo55V」では55V型の大画面を実現されました。家庭用プラズマの画面サイズはどのあたりが上限になると思われますか。 野田 50V型を買っていただいたお客様を調査したところ、その人たちはそのサイズで満足していないことがわかりました。液晶テレビと違ってプラズマは大型のサイズでラインナップを組むことができます。そこで今回、55V型を発売したわけです。 技術的には、もっと大きな物を作ることも可能ですが、日本の一般の家庭に入るものとしては55V型がほぼ限界のように思います。価格の問題もあります。そういう意味では55V型はいいサイズではないかと思っています。 ――「Wooo55V」ではハードディスクを内蔵しています。その狙いは何でしょうか 野田 日立では自分たちの持っているコアコンピタンスを全面的に活用して、日立の総合力でAVCステーションを進化させていきたいという思いがあります。 今、市場ではハードディスクを搭載したDVDレコーダーが非常に売れています。そのお客様に意見を聞くと、ハードディスクが果たしている役割は、実はテレビの基本機能だということが浮かび上がってきました。 テレビを見ている時に、ちょっと録画しておきたいと思う時があります。その時にDVDレコーダーのハードディスクに録ろうとすると、DVDレコーダーの電源を入れたり、別のリモコンで操作をしなければならないので面倒です。これに対してハードディスクをテレビに内蔵しているWooo55Vでは、テレビの電源を入れると同時にハードディスクの電源が自動的にスタンバイ状態になりますので、テレビのリモコンを操作するだけで手軽に録ることができます。 たとえばクイズ番組を見ている時に送り先の住所をいちいち書きとれません。見るということだけではなく、録るということもテレビの基本機能のひとつです。そこで今回の製品では日立グループのストレージ技術を活かして、AVCステーションの中にハードディスクを入れることによって、「録れるプラズマ」を実現しました。 ――日立にはIBMから買収したデジタルストレージ部門がありますね。 野田 昨年の1月1日にIBMのハードディスク部門を買収して、「日立グローバルストレージテクノロジー」という会社を作りました。デジタルストレージのコアコンピタンスということでは、ハードディスク以外にDVDのドライブ系でも「日立LGグローバルストレージ」が世界でトップシェアを持っています。 映像処理をするエンジン部分では、テレビ事業の長い歴史の中で培ってきた技術をベースにした「DIPP」と呼ばれる映像処理プロセッサー技術が日立にはあります。デジタルAV機器を構成するコア技術のすべてが、コアコンピタンスとして社内にあることが当社の大きな強みです。 ――自社で開発することによって、様々な面でアドバンテージが出ますね。 野田 画作りだけではなく、商品開発のスピードなどでも非常に大きなアドバンテージになっています。今回の「Wooo55V」でも、試作パネルが手元に届いた翌々日にはもう画像が出ていました。こんなことは普通ありえません。パネルを入手できても、それを駆動する回路や様々な情報がないとエンジン部分だけでは画像を出せないからです。 液晶やPDPのパネルを複数の外部から調達する場合、それらのすべてのパネルとエンジンとの相性をとらなければいけませんので、開発スピードが落ちます。これに対してわれわれは、パネルと回路の開発を同時進行していくことができますので、開発期間を大幅に短縮できます。 一方、お店にとっては安定した商品供給が一番大切ですが、この面でも当社ではパネルをグループの中で作っていますから、安定した供給を行うことができます。日立では持てる強みを最大限に活かしています。基幹部品を自社のグループで調達できるという強みがあったからこそ、日立が3年間トップシェアを守ってくることができたのだと思っています。 未来に向けて夢が広がる ――今年は8月にアテネオリンピックが開催されますが、時差が6時間ある関係から、録画が大きなポイントになりますね。 野田 その時にテレビ側のハードディスクにとりあえず録っておいて、その中から残しておきたいものだけを保存メディアに落とすという使い方ができます。デジタル録画はこれからどんどん大衆化していきます。その時に誰にでも簡単に使えることが重要です。 ――4月から始まる新年度に向けた抱負を聞かせてください。 野田 われわれにとって今年は勝負の年です。ブラウン管の時代に日立はテレビでトップを走ったことがありませんでしたが、プラズマでは発売以来3年連続でトップを走っています。 後から追いかけている時は、相手の背中を見て走っていればすみました。ところがいざ自分がトップに立ってみると、今の方向で走っていって本当に勝ち続けていけるのだろうかという不安がいつもありました。しかし今では、国内のプラズマ市場で3年連続トップシェアを取り続けてきたことによって、ようやく社内の開発陣や営業に、自分たちの進むべき道はこうだということについての自信が出てきました。今年もトップシェアをとることができれば、その先も先頭を走り続けることができます。 日立のプラズマ事業の土壌が固まってきた、まさに今が勝負です。 ――プラズマを核に据えた日立の「Woooワールド」が、着実に広がってきましたね。 野田 「Woooワールド」ということで、今後さらに周辺機器の展開を広げていきます。デジタルAVは、インフラを含めてお客様に提案していく世界になりますので、未来に対して非常に大きな夢が広がります。お客様には商品を使う夢があり、お店にはビジネス上の夢があります。そしてメーカーには商品を開発する夢があります。
日立では自分たちの進むべき道を見失わずに、素晴らしい商品を送り出していきます。ぜひ期待してください。
◆PROFILE◆ Yoshinori Yamamoto 1951年4月17日生まれ。岐阜県出身。74年3月名古屋市立大学経済学部卒。74年4月(株)日立製作所入社、音響機器事業部配属。89年2月AV機器事業部テレビオーディオ部部長代理、93年2月リビング機器事業部洗濯機グループ部長代理、97年5月電化機器事業部商品企画部長、01年2月デジタルメディアグループ商品企画部長、02年10月デジタルメディア事業部映像メディア本部担当本部長、03年4月デジタルメディア事業部映像メディア本部兼ストレージメディア機器本部担当本部長。 |