トップインタビュー

鞄立製作所
執行役常務
ユビキタスプラットフォームグループ
グループ長&CEO

立花和弘 氏
Kazuhiro Tachibana

 

グループの総力を挙げて
「次世代三種の神器」で
ユビキタスの実現をリード



ブラウン管テレビにかわる新世代のテレビとしてプラズマテレビの市場を牽引する日立。同社ではWoooワールドの構築に向けて、プラズマテレビ、DVDビデオカメラ、HDD/DVDレコーダー、ブロードバンドパソコンなどのデジタルAV製品を投入。来るべきユビキタス時代に向けた商品整備を着々と進めている。ユビキタスプラットフォームのグループ長として、日立のデジタルAV事業を指揮する立花和弘執行役常務に同社のデジタル家電戦略を聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

三大ネットワークが整備されて
それらの融合が始まると
巨大な新市場が産まれてきます

日立の総合力を活かして
ユビキタス事業を展開

―― アテネオリンピック効果もあって、今年の夏商戦はデジタルAV機器が絶好調でした。

立花 アテネオリンピックは国際的なビッグイベントとして、日本だけでなく、アメリカやヨーロッパでもプラスに働きました。ただ、われわれにとってはアテネオリンピックも大切でしたが、日本に限って言うと地上デジタル放送の方が大きなテーマです。
今、日本に約1億台のテレビが普及しています。そのうち地上デジタル放送を受信できるテレビはまだ100万台強にすぎません。残りの9000万台以上が、2011年までに置き換わっていくことになります。まさにこれからが勝負です。

―― 日立ではユビキタスプラットフォームという全体構想の中に、様々なデジタルAV製品を展開されています。日立の考えるユビキタスとはどのようなことを指すのでしょうか。

立花 日立では最終的にテレビとブロードバンドPCと記録装置がユビキタス社会のキーコンポーネントになると考えています。いわゆる「新三種の神器」は薄型テレビとレコーダーとデジカメですが、日立では「次世代三種の神器」として、大画面薄型テレビとDVDハードディスクアプライアンス、ブロードバンドPCの3つを位置づけています。
当面はそれぞれが単独の市場を形成していますが、いずれこれらが繋がってきます。この「次世代三種の神器」がネットワークで繋がる社会のことを日立ではユビキタス社会と呼んでいます。

―― それを実現するための要素技術とキーディバイスをすべてグループ内に持たれています。そのメリットは何でしょうか。

立花 まったく新しい製品であるデジタル家電では、従来とまったく違う新しい技術が必要です。たとえばテレビのパネルやエンジン、LSIもそうです。新しい機能や製品をどんどん開発し、それを市場に安定供給していくためには、キーコンポーネントを自社で持っているのと他社から買ってきてアッセンブルするのでは大きな差があります。

―― ユビキタスを構成する商品の開発では、様々な分野の技術を組み合わせることが必要だと思います。この点で日立の総合力が強みになると思われますが、いかがでしょうか。

立花 日立には中央研究所をはじめとしてたくさんの研究所があります。たとえばわれわれの内部にもユビキタスプラットフォーム開発研究所があります。最近の技術開発の大きな特徴は業際がなくなってきたということです。昔は家電では家電の技術、重電は重電の技術でした。ところが最近では技術がボーダーレス化してきています。
技術だけでなく市場もボーダーレス化しています。たとえばプラズマパネルはコンシューマー用のテレビだけでなく、業務用のディスプレイにも使われています。またハウスメーカーさんにパネルを納めて、最終的にマンションに組み込んで買っていただくなど、業態が非常に多様化してきています。日立の中には情報系や都市開発系のルートを持った事業グループもありますので、技術だけでなく市場面でも総合力が活きてきます。

最先端の商品と販路の拡大で
ニッチビッグを実現していく

―― 様々なタイプが存在する薄型テレビ市場における日立のテレビ事業に対する基本戦略は何でしょうか。

立花 薄型テレビをグローバルに見ると、プラズマ・プロジェクションテレビ・液晶プロジェクター・液晶テレビの四つの大きな製品ジャンルがあります。この四つのジャンルでは、それぞれ求められるニーズが違います。
例えばアメリカや中国ではプロジェクションテレビが主流です。これに対して日本と欧州、アジアの一部ではプラズマが主流です。昔はすべてブラウン管テレビでしたが、今はお客様の目的と懐具合にあわせてパネルを選択できるようになってきました。
薄型テレビの四ジャンルのすべてのキーディバイスと最終製品を持っている会社はほとんどありません。日立はそのすべてを持っています。世界的に大画面テレビが人気を集めている中で、地域性やお客さまの嗜好性にあわせて適正なパネルやテレビを供給していくことが日立のテレビの基本戦略です。

―― 日立ではニッチビッグを目指すという方針を打ち出しています。これは高付加価値商品に特化していくということでしょうか。

立花 従来の高付加価値化は、たとえばテレビでは同じブラウン管の中で画面サイズを大きくするということでした。ところが今はそうではありません。商品そのものがまったく変わってきています。 
日本市場ではこの3年間でプラズマと液晶を合わせた薄型テレビは、販売台数でテレビ市場全体の17%程度になってきました。金額ベースではすでに50%を超えています。このような商品を日立ではニッチビッグと定義して、そこを中心にやっていこうということです。

―― ユビキタス社会の中での、家庭用テレビの役割とあり方をどのように考えていますか

立花 日立では「家族団らんの真ん中にプラズマテレビを」と申し上げています。日本は特にそうですが、世界的にも家族が一番という流れが強くなってきているように思います。その家庭の中で大きな存在感を持っている家電製品がテレビです。
大きなテレビでみんなでオリンピックを見て楽しむとか、あるいは共通の映画を見て楽しむなどといったいわゆるホームシアターの世界が開けてきます。そこで使われるテレビとしては、大画面が適しています。

―― 日立のプラズマでは全機種ハイビジョンへの対応と、AVCセパレートが大きな特徴になっています。

立花 家族みんなで楽しむテレビでは、大画面でハイビジョンの高画質が条件になります。なぜかというとテレビにこだわりを持ち、楽しみたいという方がお買い求めになるからです。それぞれのお客様には様々な趣味やニーズがありますので、ここで使われるテレビはコモディティーではありません。
日立ではそのようなお客様の多様なニーズを満たせるようにするために、多様なパネルと多様なAVCを分離することによって自由な組み合わせができるような構成にしています。

―― PCがAV機能を強化してきています。今後AVとPCの関係はどのようになっていくと思われますか。

立花 簡単に言うと、茶の間はテレビ、個室はPCという世界です。ただし、ここでのPCは今までのように情報系の機能だけでなくテレビとしての機能が必須になってきます。これからは家族の時代であることは間違いありませんが、昔と違って家族は大切にするけれども自己主張する時代です。その自己主張の道具としてPCはぴったりです。デジタルテレビの機能がついたPCのことを、われわれがブロードバンドPCと呼んでいるのはこのためです。

ホームサーバー時代を睨んだ
HDD/DVD商品戦略

―― 日立のレコーダーでは、ハイビジョン録画とHDDが特に重視されています。その狙いは何でしょうか。

立花 デジタルビデオレコーダーには二つの流れがあります。ひとつはいわゆるビデオデッキの代替機としてのレコーダーです。これはテレビの番組の録画機ですから、当然ハイビジョンで録画できないといけません。
もうひとつはホームサーバーの時代がまもなく来るということです。日立ではこれをブロードバンドサーバーと呼んでいます。家庭用サーバー市場はまだ立ち上がっていませんが、05年度あたりから徐々に立ち上がってくると見ています。
レコーダーの概念は今までよりも広くなっていくのではないかと思います。今まではビデオだけでしたが、これからはサーバーとしての役割も求められるようになります。それに対応するためのすべての技術とハードが日立にあります。そこでこれに向けたベースを作っておくとともに、今後お客様のニーズを見ながら商品を展開していきたいと思っています。

―― 映像系ではフロントプロジェクターにも力を入れられていますね。

立花 日立の液晶プロジェクターは、海外市場でトップシェアの地位にあります。以前は業務用を中心にやってきましたが、ホームシアター市場の成長によって家庭用のプロジェクター市場が世界的に非常に伸びていますので、そこに注力しています。
これもハイビジョンで展開していますが、おかげさまで非常に好調で、隠れたヒットになっています。

―― ホームシアター市場は日本ではもうひとつ伸ばしきれていません。その理由をどこにあると考えますか。

立花 最大の原因は日本の住宅事情にあると思います。ただ、最近、少し状況が変わってきました。ハウスメーカーさんの話では、新築マンションや一戸建てを購入する時にプラズマや音系を含めたホームシアターを組み込んでしまうという流れが増えてきているそうです。
もうひとつはリフォームです。今までのリフォームは茶の間を大きくしたりとか、台所をきれいにしたりということが大半でしたが、これからはもう少し住む人の思想を織り込んだものになっていくと見ています。
たとえば、映画や音楽が好きなのでシアタールームを作りたいとかいうことです。これからのリフォームの大きなテーマはホームシアターとキッチンになっていくのではないかとみています。

三大ネットワーク技術で
ユビキタス時代をリード

―― 日立では「次世代三種の神器」でトップメーカーを目指されています。そのための戦略は何でしょうか。

立花 ひとつはこれらのすべてが新しい商品だと言うことです。例えばプラズマテレビは、今の商品が最終形ではありません。まだまだ多くの新しい技術開発が必要です。他の製品にいたってはまだ始まったばかりです。ですから日立の全社の技術力を使って、世界最先端の商品を出す。あるいはネットワークを取り入れるとか、システムアップが可能なホームシアターなどによって、それぞれでNo.1を実現していこうということです。
第二は販売チャネルの拡大です。例えば、住宅メーカーさんとのコラボレーションを図ることなどによって、新しい販売チャネルを加えていこうということです。この二つが「次世代三種の神器」で日立がトップに立つための戦略です。

―― その時にネットワークの問題が出てくると思いますが。

立花 ネットワークにはその範囲と方法の2つがあります。まずネットワークの範囲では、室内配線をなくする室内のネットワーク、宅内ネットワーク、宅外とのネットワークの3種類があります。ネットワークの方法では、われわれが三大ネットワークと呼ぶIPネットワーク・高速携帯通信ネットワーク・デジタル放送ネットワークの3種類があります。
これらが相互に絡み合いながら、新しいネットワーク社会が形成されていくことになります。IPネットワークは光やADSLの出現でようやく高速で繋げるようになってきましたが、その他はようやく立ち上がってきたばかりです。
高速携帯ネットワークでは、われわれはKDDIさんと一緒にWINという製品を発売していますが、これも去年の12月から始まったばかりです。地上デジタル放送も、NHKさんと民放さんを合わせても受信可能世帯はまだ500万世帯くらいですが、おそらく来年にはこれらが整ってくるのではないかと思っています。

―― 三大ネットワークが整ってくると、どのようなサービスや商品が考えられますか。

立花 たとえば地上デジタルのモバイル放送が実現すると、高速通信系とデジタル放送系の融合が起きて、アウトドアテレビというような世界が出てきます。このようなことがネットワーク融合によるユビキタス社会の進化です。これはまったく新しくしかも非常にに大きな市場に成長していきます。当社ではすでにモバイル地上デジタル放送が受信できる端末機器の試作が終わっています。
ネットワーク社会ではこの三大ネットワークのすべてが必要になってきますが、ホーム系がなかったり、テレビ系をやられていなかったりというところがほとんどです。当社ではこの三大ネットワークのすべてに参入していますので、その技術ノウハウをベースにインフラの環境に合わせていち早く商品化することができます。これがユビキタス社会に向けた当社の大きな強みです。

メイド・イン・ジャパンを
進化するメイド・イン・日立

―― ユビキタス社会を実現していくためにクリアーすべきポイントは何でしょうか。

立花 ひとつはネットワーク系の進歩です。今から10年前ほど前にマルチメディアということが騒がれた時期がありました。当時は基盤がなかったので繋がりませんでしたが、ユビキタスの基本的な概念はこの頃から変わっていません。
もうひとつのポイントは日本の高度で先進的な技術です。デジタルAV製品ではパネルやLSIなど部品のほとんどが日本で開発され、日本で生産されたものです。これによって日本の家電産業や個々の企業が久しぶりに元気になってきました。その「メイド・イン・ジャパン」の中でも、さらに前に進めたものが「メイド・イン・日立」です。

―― 年末に向けた見通しと御社の戦略を聞かせてください。

立花 国内市場で薄型テレビの販売金額構成比は50%を超えましたが、台数ではまだまだです。例えばプラズマテレビの販売台数はテレビ全体の3%程度に過ぎません。
薄型テレビそのものもまだ幼稚園の段階で、これから巨大な市場になっていきます。とりわけこの下期、特に年末商戦での最大のテーマは何と言っても地上デジタル放送エリアの拡大です。私どもではここにポイントを置き、「すべてハイビジョン」の戦略で頑張っていきたいと思っています。

◆PROFILE◆

Kazuhiro Tachibana

1946年11月6日生まれ。1970年3月小樽商科大学経済学部卒業。70年4月鞄立製作所入社、92年2月家電事業本部事業戦略企画センタ長、93年2月AV機器事業部事業企画部長、94年8月家電・情報メディア事業本部事業統括本部事業企画部長、97年5月家電・情報メディア事業本部事業統括本部長、98年2月家電事業本部事業統括本部長、98年9月家電事業本部事業統括本部長兼AV事業部長、99年4月家電グループ熱器ライティング事業部長(業務役員)、01年4月デジタルメディアグループ事業統括本部長(業務役員)、01年6月理事就任、02年4月ユビキタスプラットフォームグループCSO兼CIO兼事業統括本部長(業務役員)、04年4月ユビキタスプラットフォームグループ長&CEO(執行役常務)、04年10月コンシューマ事業統括本部長兼ユビキタスプラットフォームグループ長&CEO(執行役常務)に就任予定。