トップインタビュー 鞄立製作所 立花和弘 氏
グループの総力を挙げて インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征 三大ネットワークが整備されて 日立の総合力を活かして ―― アテネオリンピック効果もあって、今年の夏商戦はデジタルAV機器が絶好調でした。 立花 アテネオリンピックは国際的なビッグイベントとして、日本だけでなく、アメリカやヨーロッパでもプラスに働きました。ただ、われわれにとってはアテネオリンピックも大切でしたが、日本に限って言うと地上デジタル放送の方が大きなテーマです。 ―― 日立ではユビキタスプラットフォームという全体構想の中に、様々なデジタルAV製品を展開されています。日立の考えるユビキタスとはどのようなことを指すのでしょうか。 立花 日立では最終的にテレビとブロードバンドPCと記録装置がユビキタス社会のキーコンポーネントになると考えています。いわゆる「新三種の神器」は薄型テレビとレコーダーとデジカメですが、日立では「次世代三種の神器」として、大画面薄型テレビとDVDハードディスクアプライアンス、ブロードバンドPCの3つを位置づけています。 ―― それを実現するための要素技術とキーディバイスをすべてグループ内に持たれています。そのメリットは何でしょうか。 立花 まったく新しい製品であるデジタル家電では、従来とまったく違う新しい技術が必要です。たとえばテレビのパネルやエンジン、LSIもそうです。新しい機能や製品をどんどん開発し、それを市場に安定供給していくためには、キーコンポーネントを自社で持っているのと他社から買ってきてアッセンブルするのでは大きな差があります。 ―― ユビキタスを構成する商品の開発では、様々な分野の技術を組み合わせることが必要だと思います。この点で日立の総合力が強みになると思われますが、いかがでしょうか。 立花 日立には中央研究所をはじめとしてたくさんの研究所があります。たとえばわれわれの内部にもユビキタスプラットフォーム開発研究所があります。最近の技術開発の大きな特徴は業際がなくなってきたということです。昔は家電では家電の技術、重電は重電の技術でした。ところが最近では技術がボーダーレス化してきています。 最先端の商品と販路の拡大で ―― 様々なタイプが存在する薄型テレビ市場における日立のテレビ事業に対する基本戦略は何でしょうか。 立花 薄型テレビをグローバルに見ると、プラズマ・プロジェクションテレビ・液晶プロジェクター・液晶テレビの四つの大きな製品ジャンルがあります。この四つのジャンルでは、それぞれ求められるニーズが違います。 ―― 日立ではニッチビッグを目指すという方針を打ち出しています。これは高付加価値商品に特化していくということでしょうか。 立花 従来の高付加価値化は、たとえばテレビでは同じブラウン管の中で画面サイズを大きくするということでした。ところが今はそうではありません。商品そのものがまったく変わってきています。 ―― ユビキタス社会の中での、家庭用テレビの役割とあり方をどのように考えていますか。 立花 日立では「家族団らんの真ん中にプラズマテレビを」と申し上げています。日本は特にそうですが、世界的にも家族が一番という流れが強くなってきているように思います。その家庭の中で大きな存在感を持っている家電製品がテレビです。 ―― 日立のプラズマでは全機種ハイビジョンへの対応と、AVCセパレートが大きな特徴になっています。 立花 家族みんなで楽しむテレビでは、大画面でハイビジョンの高画質が条件になります。なぜかというとテレビにこだわりを持ち、楽しみたいという方がお買い求めになるからです。それぞれのお客様には様々な趣味やニーズがありますので、ここで使われるテレビはコモディティーではありません。 ―― PCがAV機能を強化してきています。今後AVとPCの関係はどのようになっていくと思われますか。 立花 簡単に言うと、茶の間はテレビ、個室はPCという世界です。ただし、ここでのPCは今までのように情報系の機能だけでなくテレビとしての機能が必須になってきます。これからは家族の時代であることは間違いありませんが、昔と違って家族は大切にするけれども自己主張する時代です。その自己主張の道具としてPCはぴったりです。デジタルテレビの機能がついたPCのことを、われわれがブロードバンドPCと呼んでいるのはこのためです。 ホームサーバー時代を睨んだ ―― 日立のレコーダーでは、ハイビジョン録画とHDDが特に重視されています。その狙いは何でしょうか。 立花 デジタルビデオレコーダーには二つの流れがあります。ひとつはいわゆるビデオデッキの代替機としてのレコーダーです。これはテレビの番組の録画機ですから、当然ハイビジョンで録画できないといけません。 ―― 映像系ではフロントプロジェクターにも力を入れられていますね。 立花 日立の液晶プロジェクターは、海外市場でトップシェアの地位にあります。以前は業務用を中心にやってきましたが、ホームシアター市場の成長によって家庭用のプロジェクター市場が世界的に非常に伸びていますので、そこに注力しています。 ―― ホームシアター市場は日本ではもうひとつ伸ばしきれていません。その理由をどこにあると考えますか。 立花 最大の原因は日本の住宅事情にあると思います。ただ、最近、少し状況が変わってきました。ハウスメーカーさんの話では、新築マンションや一戸建てを購入する時にプラズマや音系を含めたホームシアターを組み込んでしまうという流れが増えてきているそうです。 三大ネットワーク技術で ―― 日立では「次世代三種の神器」でトップメーカーを目指されています。そのための戦略は何でしょうか。 立花 ひとつはこれらのすべてが新しい商品だと言うことです。例えばプラズマテレビは、今の商品が最終形ではありません。まだまだ多くの新しい技術開発が必要です。他の製品にいたってはまだ始まったばかりです。ですから日立の全社の技術力を使って、世界最先端の商品を出す。あるいはネットワークを取り入れるとか、システムアップが可能なホームシアターなどによって、それぞれでNo.1を実現していこうということです。 ―― その時にネットワークの問題が出てくると思いますが。 立花 ネットワークにはその範囲と方法の2つがあります。まずネットワークの範囲では、室内配線をなくする室内のネットワーク、宅内ネットワーク、宅外とのネットワークの3種類があります。ネットワークの方法では、われわれが三大ネットワークと呼ぶIPネットワーク・高速携帯通信ネットワーク・デジタル放送ネットワークの3種類があります。 ―― 三大ネットワークが整ってくると、どのようなサービスや商品が考えられますか。 立花 たとえば地上デジタルのモバイル放送が実現すると、高速通信系とデジタル放送系の融合が起きて、アウトドアテレビというような世界が出てきます。このようなことがネットワーク融合によるユビキタス社会の進化です。これはまったく新しくしかも非常にに大きな市場に成長していきます。当社ではすでにモバイル地上デジタル放送が受信できる端末機器の試作が終わっています。 メイド・イン・ジャパンを ―― ユビキタス社会を実現していくためにクリアーすべきポイントは何でしょうか。 立花 ひとつはネットワーク系の進歩です。今から10年前ほど前にマルチメディアということが騒がれた時期がありました。当時は基盤がなかったので繋がりませんでしたが、ユビキタスの基本的な概念はこの頃から変わっていません。 ―― 年末に向けた見通しと御社の戦略を聞かせてください。 立花 国内市場で薄型テレビの販売金額構成比は50%を超えましたが、台数ではまだまだです。例えばプラズマテレビの販売台数はテレビ全体の3%程度に過ぎません。
◆PROFILE◆ Kazuhiro Tachibana 1946年11月6日生まれ。1970年3月小樽商科大学経済学部卒業。70年4月鞄立製作所入社、92年2月家電事業本部事業戦略企画センタ長、93年2月AV機器事業部事業企画部長、94年8月家電・情報メディア事業本部事業統括本部事業企画部長、97年5月家電・情報メディア事業本部事業統括本部長、98年2月家電事業本部事業統括本部長、98年9月家電事業本部事業統括本部長兼AV事業部長、99年4月家電グループ熱器ライティング事業部長(業務役員)、01年4月デジタルメディアグループ事業統括本部長(業務役員)、01年6月理事就任、02年4月ユビキタスプラットフォームグループCSO兼CIO兼事業統括本部長(業務役員)、04年4月ユビキタスプラットフォームグループ長&CEO(執行役常務)、04年10月コンシューマ事業統括本部長兼ユビキタスプラットフォームグループ長&CEO(執行役常務)に就任予定。 |