トップインタビュー ヤマハ(株) 関口 博 氏
ホームシアターの インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征 新たな事業展開を図るには 薄型大画面テレビに最適な ―― 最初にYSP―1の開発の経緯から聞かせてください。 関口 ヤマハは「シネマDSP」をコアにして、幅広いお客様に応えるべく様々なシアター商品を開発し事業展開を行ってきましたが、その基本コンセプトとして、当初から映像と音の一体化というテーマに取り組んできました。ヤマハは、企業理念にあるように、音・音楽を原点に培った技術と感性で、新たな感動と豊かな文化を世界の人々と作り続けています。「音の良さ」や「豊かな音楽性の表現」を通して、「音の楽しみ」を提供するということです。これに則って今までマルチチャンネルの音源をマルチスピーカーで再現するという方法で映画館の臨場感を家庭の中で再現してきました。しかしながら、ホームシアターを巡る市場環境が最近大きく変化してきました。 ―― その結果、生まれてきたのがYSP―1ですね。 関口 ヤマハでは音・音楽事業で培ってきたデジタル音響技術や3、000を超える音場のデータ蓄積をはじめとするマルチチャンネル音場創生、半導体などの独自の技術やノウハウを持っています。これとワンリミテッド社が持つビーム制御技術を融合すれば新しいホームシアターのソリューションを生み出すことができる、と考えたことが今回の開発に至った発端です。 ―― YSP―1の特徴を簡単に説明してください。 関口 YSP―1の最大の特長は、42V型のプラズマテレビとほぼ同じ横幅で奥行きもわずか11cm強のワンボディーのシステムで、リアル5・1チャンネルのサラウンド音声の再生を実現していることです。外から見ると一個の箱に見えますが、内部には4cmの小型スピーカー40個と11cmのサブウーファー2個とそれぞれのスピーカー専用の独立したデジタルアンプが納められています。新開発のLSIとデジタルシグナルプロセッサーが信号を精密に時間制御し、40個のスピーカで正確に再生することにより各チャンネルの音をビーム化して壁に向かって送り出します。壁から反射した音を視聴者は聴いているわけです。壁面に仮想スピーカーを創り出して、実際にその場所にスピーカーを置いた場合と同じような再生音を実現しています。 ―― YSP―1は一般層へのホームシアターの普及を図っていく上で画期的な商品ですね。 関口 ホームシアターに関心を持たれるお客様は、マニア層から一般層にも急速に広がってきています。そこでは現在のスタイルのみならず、映像と音がデザイン調和した新しい形のホームシアターのソリューションが求められています。それを実現したものがYSP―1です。 メインターゲットは薄型 ―― 大画面テレビになればなるほど音が重要になってきます。 関口 ハード、コンテンツの両面でホームシアターのインフラが急速に拡大している中で、サラウンドは楽しみたいが、部屋に何本ものスピーカーを置きたくないとか、部屋のインテリアに調和しないものは置きたくないといった思いを持たれているお客様は大勢いらっしゃいます。 ―― YSP―1の登場はDSPが登場した時と同じようなエポックメイキングな出来事のように思います。 関口 設置や接続、操作性などに対するソリューションが今までなかったわけではありません。バーチャルタイプのサラウンド方式を使った在来型のフロントサラウンドがこれにあたります。限られた条件下でサラウンド感を創出するこのバーチャルタイプに対して、YSP―1では、実際に5・1チャンネルの音声が独立して再生されていて、しかも各チャンネルの音が本来の方向から聞こえるので、リスナーが移動してもサラウンド感が損なわれることがありません。従って、このYSPのサラウンド方式はバーチャル・サラウンドとはまったく分野を異にするものです。 急成長する市場への参入で ―― ヤマハのAV・IT事業戦略全体の中で、この商品はどのような位置付けになるのでしょうか。 関口 ヤマハではホームシアターの事業の成長と拡大を目指して、競争戦略と成長戦略を展開しています。競争戦略では既存事業の強化を推進しています。お蔭様で当社のAVレシーバーやホームシアター・イン・ナ・ボックスは、世界の主要市場でリーディングポジションをとり続けています。この分野については今後さらに強化を図っていきます。 ―― ヤマハには半導体部門があります。将来的には様々な形の事業展開が考えられそうですね。 関口 デジタル・サウンド・プロジェクターは、ヤマハが培ってきた怏ケ揩ノ関連する技術が最も生かせる商品のひとつです。デジタルアンプや音場創生技術、カスタム半導体、音場をコントロールする技術など当社の持っている様々な技術があります。薄型テレビメーカーとの協業による新ビジネスモデルの構築も視野に入れて今後さらに進化させていきたいと思っています。 いよいよ成長期を迎える ― 大きな可能性を持った商品だけに、それをいかに訴求していけるかが非常に重要になると思いますが。 関口 この商品は、顧客ターゲットと顧客ベネフィットがはっきりしています。また、驚きと感動を得られる体感商品でもあります。したがって、対象顧客に向けての的確な情報の提供、ベネフィット・効果訴求が大事なポイントです。 ―― かつてDSPアンプを導入した時のような販売店と一体になった商品訴求活動が必要なように思います。 関口 この商品は驚きと感動を得られる体感商品です。この商品の良さを売り場でお客様にわかっていただくためには、いかにしっかりお客様にとってわかりやすく売り場に設置していただけるかがポイントになります。特に導入初期には、この点がキーになると思っています。これは私どもだけではできません。ぜひ販売店さんのご理解とご協力をいただきたいと思います。 ―― 商品説明の仕方でも従来のホームシアターとは違うものが求められるのではないでしょうか。 関口 YSP―1の凄さは、実際にその音を聞いていただければすぐに理解されますが、言葉で説明するだけでは理解していただけないところがあります。A&Vフェスタのデモンストレーション会場では、思わず首を廻すお客様が大勢いらっしゃいました。そしてそこにスピーカーがないのを見て不思議そうな顔をされていました。 ―― この商品はその特長から電気店以外のルートでの販売も考えられそうですね。 関口 インテリアとのマッチング、家具との調和、薄型大画面TVとの組み合わせなど、対象とするお客様に視点を置いて幅広く考えています。 ―― 販売店の皆様へのメッセージをどうぞ。 関口 ヤマハではホームシアターを軸にAV・IT事業を展開しています。デジタル放送の普及、薄型テレビやDVDの急激な市場拡大などによって、日本のホームシアター市場ではお客様が一般層へと広がってきています。我々の業界ではテレビとメディアの変化が市場に大きな変革をもたらしてきました。 ◆PROFILE◆ Hiroshi Sekiguchi 1949年5月生まれ。東京都出身。74年4月1日ヤマハ(株)入社。00年6月AV・IT事業本部営業本部副本部長兼営業本部AV海外営業部長、01年3月AV・IT事業本部営業本部本部長、02年6月執行役員、03年5月AV・IT事業本部長兼アジア・中国室長、04年2月AV・IT事業本部営業統括部長。現在に至る。 |