新春トップインタビュー 富士フイルムイメージング(株) 田中康夫 氏 写真をもっと楽しめる インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征 ライフスタイルの変化を デジタル化に対応できる ―― 10月1日スタートの新会社の設立背景からお聞かせください。 田中 今まではサービスを含めたいろいろな製品を、製品ごとに縦割りにしてマーケティングを行っていました。しかし、デジタル化のうねりの中で、撮影/入力からプリント/出力まで、アナログもデジタルもハイブリッドも含めて総合的にトータルソリューションとして考えていくことが不可欠になりました。フィルムだけで最大適応しても、デジタル時代では写真の楽しみを大きくし、写真文化の高揚に貢献するという点からは限度があります。寄与できなければ当然、それに対するリターンも少なくなります。海外では富士フイルムイメージングが行うスタイルで昔からマーケティングを行っておりますので、日本がそのスタイルと同様になるということです。 ―― 街の写真屋さんならではの特徴がありますね。 田中 写真にはまずカメラが必要です。そこにフィルムを入れないと写真が撮れない。さらに、それを現像し、ペーパーに焼き付ける仕事がついて回るわけです。最近では1時間仕上げが当たり前のようになりましたが、写真屋さんにはそうした現像処理サービスを含めた一連のノウハウと商売の仕方が求められます。そこが、一般の家電量販店とは大きくニュアンスが異なるところですね。 ―― 特にデジカメの登場で、生活の中での写真の在り方が様変わりしました。 坂根 そうなんです。デジタルカメラはフィルムなしで写真が撮れます。お客様によっては、パソコンのディスプレイで見られればいいからと、プリントをしない人も少なくありません。しかし富士フイルムでは、デジタルカメラのユーザー層が広がり、コンパクトカメラ感覚で使用する人が増えてくるのに従い、やはりコンパクトカメラの時と同様に、「プリントをしたい」というニーズが高まると予測し、いわゆる「お店プリント」のできるデジタルミニラボを発売しました。 ―― デジタルカメラと連動した取り組みも期待されますね。 田中 デジタルミニラボでは、わが社の「フロンティア」という商品がデファクトスタンダードになっています。その最大の理由は、わが社のレントゲン写真や印刷業界の経験から、デジタルの可能性を早くから知っていたこと。カラーフィルムで培ったいい写真とはどんなものか、きちんと論理的に解析できる知見があったことで他社に先駆けて参入したからです。 多種多様な商品構成を ―― お客様とより近づくことで、そこからあがってくる情報を商品づくりの上でも生かすことができますね。 田中 当社が富士フイルムに対して注文したものが、そのまま工場に入り、商品として出てきたものは当社がすべて買い取ります。どんな新製品が売れるからつくってくれという次元に早くもっていきたいですね。スピードをあげるというのはそういうことだと思います。販売とマーチャンダイジング、その2つが両輪です。
田中 売れる商品をつくるという意味から、ハードだけではなく、コンテンツを含め、お客様に写真をどのようにして楽しんでいただくか、いかに大切な思い出をつくっていただくかというマーケティングをやっていきたいと思います。 坂根 アナログからデジタルまで、一般コンシューマーからプロ用まで。写真で言えば、入力から出力、さらに記録まで、すべて包含して持っているのは我が社しかありません。これは大変な商品構成になります。何十年にわたって培ってきた写真店ルート、電気店ルート、それにコンビニ、大手スーパー、レンタル店、ホームセンターなど、小売においてもあらゆる販路を持っています。そこに、それらの商品をどう組み合わせて販売していくかが、大きなテーマだと思います。 田中 財産はあります。それを垂直的な統合というよりは、水平的にいかに有機的にまとめていけるかだと思います。 坂根 カルフールさんが日本に進出してきたときに、富士フイルムの製品を、富士フィルムアクシアがテープとデジカメ、フジカラーサービスがカラープリント、バッテリーはフジフイルムバッテリーというように、それぞれ商品ごとにバイヤーと交渉するわけです。すると、「富士」の商品を仕入れるのに何故何人も会わなくてはならないのか。ひとりにしてくれと言うわけです。ところが本社の営業が行ったところで、きちんとしたジャッジはできない。従来はそういう仕組みで商売をしていたわけです。これは、典型的な例のひとつですが、お客様にとっても商売がしやすくなる部分が出てくると思います。 田中 今回は販路ごとの体制をとりますが、例えば家電の量販の中では、入口から出口、記録までのトータルソリューションを念頭に置いていろいろな提案を行っていきますし、また、コンビニはハードをがんがん売るところではありませんが、それでも、ハードがどういうふうに売れていくからこういうフォローアップが必要だという有機的な動きがプラスに作用することは間違いないと思います。 写真の楽しみ方を増やす ―― デジカメの商品づくりにも、従来にないプラス効果が期待できますね。 田中 デジタルカメラはこれまで、画素数とズームの競争でした。しかしこれからは、お客様の使い方に焦点をあてたような商品が必要になってくると思います。一眼タイプのデジカメが人気を集めているのも、そうした流れのひとつだと思います。富士フイルムで言えば、デジタルカメラだけで完結してしまうのではなく、やはり、プリントするところまで考えた商品企画に特色を持たせて、使いやすさや品質の上でもっと提案していきたいと思います。その商品をどういう人が使うのかを考え、トータルコストの中で、どこにどう振り分けていくかをもっと綿密に考えていく時期に来ていると思います。 ―― Pivi(ピヴィ)という新提案のプリンターも発売されました。 田中 カメラ付携帯電話からのプリントアウトを狙ったモバイルプリンターです。もちろん、デジタルカメラで撮影した画像をプリントすることもできます。ライフスタイルがどんどん変化するのに伴って、楽しみ方が今日も明日も同じとは限りません。メーカーも小売店も、ライフスタイルの変化をよく観察することがこれからはますます大事になります。 ―― 富士フイルムアクシアをスタートされたときに、どこもが商品性能による縦マーケティングを展開する中、使い方に的を当てた横マーケティングでシェアを獲得されました。トータルソリューションを機能させることができる商品づくりにおいては、今もお話にありました横マーケティングが大事なように思います。 田中 写真に赤ちゃんを撮るのに適したフィルム特性があるように、デジカメにも、お母さん用や、旅行用といった商品展開があっていいと思います。機能や操作を複雑にすればもちろん可能ですが、複雑すぎると、何もできないのと同じになってしまいます。まず、いろいろな写真の楽しみ方の種類を増やすことが、われわれの責任です。そうすれば、何が必要なのかがわかります。それを商品化すればいいわけですからね。 ―― それでは最後に、ご販売店の方にメッセージをお願いします。 坂根 さきほども申し上げましたように、入口から出口まで、他社にはない豊富な商品が揃っています。しかも、それらをひとつの窓口で対応できるようになりました。今後さらに、色々な提案もさせていただきたいと思いますので、是非、一緒になって新しい商材を開発していきたいと思います。 田中 メーカーが作った商品を、店頭で右から左へとただ販売するというのではなく、店づくり、売り場づくりというところも一緒になってやっていきたい。お客様が写真をもっと楽しんでいただくことで、お店でももっといろいろなものが売れる環境を提案させていただきたいと思います。 ◆PROFILE◆ Yasuo Tanaka 1941年3月9日生まれ。京都府京都市出身。63年3月京都大学経済学部卒業。同年4月富士写真フイルム(株)入社、00年6月取締役専務執行役員 Fuji Photo Film U.S.A.,Inc. (米国)社長、02年6月取締役副社長 Fuji Photo Film U.S.A.,Inc.(米国)社長、04年4月代表取締役副社長FujiPhotoFilmU.S.A., Inc.(米国)会長、04年6月富士フイルムアクシア(株)代表取締役社長、(株)フジカラーイメージングサービス代表取締役社長、04年10月富士フイルムイメージング(株)代表取締役社長、現在に至る。趣味はゴルフ、ダイビング、山歩き、音楽鑑賞 |