トップインタビュー

牧野利彦氏

TDKマーケティング
常務取締役
マーケティング部長

牧野利彦 氏
Toshihiko Makino

もう一度原点に戻り
TDKらしさを
もっと強く訴えていく

DVDレコーダーが急速に普及していく一方で、DVDメディアを含めたそのマーケットには様々な課題が浮き彫りになってきた。「価格」が幅を効かせる中で、お客様が本当に満足できる付加価値の提案も大きな課題のひとつ。「超硬」でDVDメディア市場にいちはやく付加価値提案を投げ掛けたTDKでは、今の市場をどのように捉え、これからどのような取り組みを展開していくのか。TDKマーケティング牧野常務に話を聞く。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

本当に満足していただくためにも
お客様におわかりいただけるように
価値を創造していく責任があります

HDDの存在を
プラスに転じる

―― 現在、DVDレコーダーが急速に普及する一方で、予想以上の単価の下落に厳しいビジネスが強いられています。メディアのビジネスにおいても、DVDメディアが中心的存在と言えると思いますが、その近況についてどのように見ていらっしゃいますか。

牧野利彦氏 牧野 今年度の需要は、数量ベースではほぼ予想通りですね。ただ、予想と大きく違っていた点がふたつあります。ひとつには、売価の下落が予想以上に激しかったこと。もうひとつは品種構成です。機能としての付加価値が高い書換型が期待したほどには伸びず、逆に追記型がぐんと数を伸ばしました。店頭ベースでの両者の売価は倍くらい違いますから、金額ベースの市場規模は少々予想を下回っています。

―― DVDレコーダーへのHDDの搭載が当たり前のようになる中で、DVDメディアの需要という観点からは、アーカイブ用に追記型の利用が増えてきているように思えますがいかがですか。

牧野 録り貯めたものを、ある程度の量をまとめてDVDディスクに焼き込む場合に、少しでも単価の安いDVD―Rをという傾向は確かに見られます。しかし一方で、年末の店頭ヒヤリング調査から、面白い傾向もわかりました。
DVDレコーダーはご家族皆さんでお使いになりますが、普段、お家にいらっしゃるお子さんやお母さんはHDDをメインに、お父さんは書換型のDVD―RWディスクをメインに使用するというケースが見られました。こうした場合には、何度も繰り返してディスクを使用されるわけですから、当社の「超硬」の特長をうまくアピールしていける切り口にもなります。もっとも懸念していた、「HDDがあるからDVDディスクは要らない」という方は、現実にはほとんどいらっしゃらないようでほっとしています。

―― HDDの影響そのものはどのように見ていますか。

牧野 タイプ別の構成に関しては、先ほど申し上げた通りです。ただ、HDDにはこれまで以上に気軽に録画ができるからか、録画機会そのものは増えているように思います。HDDが一時的な保管場所としての役割を果たしており、そこからいかにDVDディスクに落としていただくかが大きなテーマとなります。
TDKでは、クリーナー等で機器等をお掃除いただきましょうといった提案を毎年末に展開していますが、昨年末には、HDDの中に貯まったコンテンツも、整理してDVDに移しかえてもらいましょうと、「HDDお掃除大作戦」と題し、ポットケース入りのスピンドルの10枚、20枚、30枚パックを投入しました。これが、我々の予想をはるかに超える需要を獲得しました。
当初、こういうタイプの商品はPCのお客様しか使わないのではないか。レコーダーのお客様は1枚1枚Pケースに保存されるのではないかという見方が強かったのですが、「10枚なら50GB相当」というようにご説明申し上げたのもわかりやすかったのか、HDDに貯まったものを、ある程度まとめて移し変える場合に、大変重宝な商品と認識いただけたようです。「今度はDVD―RWでもスピンドルでやってくれないか」という声が、販売店さんから上がってきています。

―― 商品ももちろんですが、何GB移し変えるのなら何枚必要ですよという伝え方は、大変分かりやすかったのではないでしょうか。

牧野 お客様もそういう考え方をしていますので、いい目安になったと思いますね。当初こそ、HDD搭載を脅威する向きもありましたが、我々の提案の仕方次第で、HDDに貯まったものを、後でまとめてDVDディスクにアーカイブするという今までのVHSレコーダーには見られなかった、新しい需要のスタイルも生まれ、HDDの存在は総じてプラスという見方をしています。


差別化のポイントは
まだまだたくさんある

―― 低価格化の問題については、どのようにお考えですか。

牧野 要因のひとつには、単純に供給が需要を大きく上回ってしまった需給のバランスの問題があげられます。それからもうひとつが、これは多くのデジタル商品に共通する現在の大きな課題だと思いますが、お客様が製品の特長やその価値を長期に満足していただくことが難しくなる環境にあります。いきおい値下げによって一時的な満足をお客様に提供して対応することが恒常化してしまっています。また、その機会を過度に流通に依存してしまっているのも問題です。我が業界に限らず、世の中の構造的な問題として危惧すべきところだと思います。それに対しTDKマーケティングは自助努力を何もしていないわけではなく、しっかりとした商品をつくり、特にデジタル環境に即したお客様への価値創造を行っているわけですが、問題の根本的な解決までにはさらなるニーズ、ウォンツの探究努力とソリューションの実現努力を重ねなければならないと考えています。

―― DVDレコーダーやメディアについて言えば、10%を超えたハードウエアの普及率を考えれば、本来なら、皆が一番潤わなければいけない時期ですね。

牧野 その通りなんです。成長期ですから、原材料メーカー、ハードメーカー、そしてメディアを供給する我々も流通も、一番儲けないといけない時期です。成熟期に入れば、シェアの取り合いということにもなりますが、今は、シェアが小さかろうが大きかろうが、全員が利益を出さなければいけない時期なんです。

―― ビジネス構造そのものに、歪みというか、大きな問題がありますね。しかし、そうした環境を背景としながらも、御社では低価格化への対抗という意味も含め、付加価値戦略にも早くから熱心に取り組まれています。

牧野 デジタルは差別化が難しいと言われます。現実に、本来性能の部分はそうかもしれませんが、それ以外の周りの部分には当てはまりません。高密度、高容量、転送スピードの高速化というDVDメディアの特長が、それを入力する時、出力する場合、様々な使用環境でいつでも同じレベルを維持できるのか。ここにひとつの差別化のポイントがあります。
しかもそれは、デジタルだからなのではなく、今までのオーディオカセットやVHSのときにもやってきたことです。例えば、VHSなら転写を防ぐためにバックコーティングをしたりなど、記録・再生時の環境を少しでもよくするためのアイデアを、新しい技術を開発して実現してきました。長期にわたり保存する上での差別化、付加価値のポイントもありますし、気づいていないところ、探しきれていないところがまだまだあるはずです。

―― 「超硬」もそのひとつですね。

牧野 さらに高密度・高容量のDVDの次世代メディアを視野に入れたときに、クリアすべきハードルは一層高くなります。その取り組みの成果を、前倒ししてDVDメディアに採用したのが「超硬」です。日本と海外とで商品名称等が違っていたため、このたび、「DURABIS」という技術名称で統一しました。

―― 付加価値提案については、御社はじめ、各社それぞれの提案ももちろん大切ですが、業界全体で、差別化戦略をいかに市場に認知させていくかという課題もありますね。

牧野 付加価値商品では、各社がブランドを掲げ、自分の領域を確立しようと一生懸命になっています。その手法やアピールの仕方こそ違いますが、それが打ち消しあいにならず、注目されるお客様を集めようという方向に向かっています。 ところがこれが確たる特長のない、価格競争だけの商品となると、お互いのコスト努力を打ち消しあい、何も残らないというのが実情です。
例えばオーディオテープの全盛期には、ハイポジションのテープの音はこうあるべきだと、TDKでもスーパーアビリンがありましたし、各社がそれぞれに提案し、それぞれのお客様を掴んでいました。この独自性の領域をしっかりともっていたので、ある程度スタンダード商品で競争をしても、お客様は特長商品に注目していただき、全体としてビジネスが成立しました。ところが今は、ほとんどが競争領域になってしまっています。
われわれは、アナログのオーディオカセットに始まり、VHS、カムコーダーと、お客様と長いお付きあいを重ねてきましたし、将来もメディアを通してそうしたお付き合いをしていきたいと思います。そのためにも、お客様にわかっていただけるような価値を創造していく責任があります。
お客様の階層をヒエラルキーにして表現しますが、DVDメディアについて言えば、付加価値商品をきちんと理解して使用していただける階層の方も大切ですし、後からお使いになるお客様は、先ほどお話した、われわれを育てていただいた、オーディオカセットやビデオカセットを今も長く使っていただいているお客様でもあり、これからDVDメディアをお使いになる方です。そういうお客様にも十分伝わるように、汎用品でも、ある程度のクオリティや配慮を練り込んだ商品にしていかないとだめだと思います。
現在、DVDレコーダーでは、VHSを搭載した3in1タイプの構成比が10%もあります。エルダー層がどんどん増えていきますが、彼らがかつてVHSで保存していてよかったと思っていただけるように、VHSとDVDレコーダーとの接点があることも、もっとフォーカスして訴えかけていかなければいけないテーマのひとつだと思います。

―― 今まで2つのビジネスモデルがありました。ひとつは、今おっしゃられたAVの分野できっちりとロイヤルカスタマーをつくるモデル。もうひとつはコンピューターの分野で機能とコストで競争するモデルです。後者がどうなったかは、皆経験して知っているはずですし、特に、VHSやデジカメでとった大切な映像記録をDVDメディアに移し変えようとしているわけですから、安ければ何でもいいというわけにはいきません。AVというもうひとつの山をきちんと創っていかなければなりません。

牧野 デジタル商品になり、我々の商売の有り様も変わってきていますが、ここでもう一度原点に戻り、自分たちの特長、いわばTDKらしさをもっと訴えていきたいですね。それがきちんとできるのは、やはりスーパーハードコートですとか、オリジナルの付加価値商品のところになります。営業も、自社の技術とその特長を販売店に説明をして、そのメリットが店頭からお客様に伝わる仕組みを創らないと、どの商品も売り場も皆同じということになってしまうと思います。

―― デジタルという言葉で勘違いされている部分がありますね。

牧野 DVDレコーダーについて言えば、導入期ならまだしも、この段階に及んでまだ、「よくわからない」という声がお客様から聞かれます。本格的な成長段階に入っているわけですから、付加価値提案を行っていくためにも、まずはハードメーカーさんと一緒になって、もっと啓蒙を図っていきたいと思います。

―― しかも、御社の「超硬」にお客様が敏感に反応したことは、お客様がそういう商品を求めていること。ポイントをきちんと説明してあげられる商品であれば、お客様が支持していただけることを証明しました。

牧野 「超硬」も好調ですが、それ以上に普及加速によってスタンダードのゾーンが広がってしまっていますので、今年は付加価値タイプの商品にもっと力を入れて、金額レベルでの構成比を20%まで上げていきたいと思います。市場での価値を、普及率に伴って創っていく責任があります。価値が最終ユーザーにきちんと伝わるようにするのもメーカーの役割だと強く認識しています。


おろそかにできない
アクセサリー商品

―― DVDメディアにとどまらず、御社ではレンズクリーナーなどメンテナンス周りの商品にも力を入れていらっしゃいますね。

牧野 われわれは業務用でも実績がありますし、民生用でも現在、ブランクメディア1000枚に対して、レンズクリーナー6枚の需要があります。平均単価では10倍以上になりますし、ここはもっとしっかり取り組まれるべきだと思います。
当社でも、お客様の実際の使い方、何に困っているのか、どんなトラブルに遭遇しているのかなどがだんだんわかってきました。特に、汚れの大きな要因となっているのは、ゴミ・埃の他にたばこのヤニや気化した食用油などを含んだ粘着性のあるゴミ・埃などが主です。当社のDVDレンズクリーナーは、このような汚れにも効果的にクリーニングできるように他社との差別化を図っています。また、これらの汚れはディスクの表面にも付着しますのでトラブルの原因となることがあります。当社のスーパーハードコートは、傷がつきにくいだけではなく、こうした油汚れにも強さを発揮します。「失敗するから安いディスクでいいや」という悪循環が一番いけませんね。

―― デジタルでも差が出るということを啓蒙する上で、こんなにわかりやすい例もないと思います。教育効果も大きいのではないですか。

牧野 映像を保管したり、つくったりすることは、昔はそれこそ夢の世界でしたが、それが現実となりました。おじいちゃんから息子さんへ、お孫さんへとつないでいくのが、我々の役割だと思います。

―― ブルーレイとHD DVDについてはいかがですか。

牧野 われわれはBDA(ブルーレイディスクアソシエイツ)に加盟していますので、ブルーレイディスクの商品開発と販売に全力を注いでいきます。

―― DVDが中心であることは間違いないですからね。

牧野 まだまだ成長途上の商品です。ハードメーカーさんもいろいろなものを開発してくださるでしょうし、今年はDVDムービーにも期待しています。ムービー用の使用環境は大変厳しいため、DVDムービー用のメディアはすべてスーパーハードコートを採用しています。ムービーのお客様は、撮影に二度目はない、失敗は許されないことを十分に認識されています。そういった品質に敏感なお客様に共感していただけるような商品をどんどん出していきたいですね。

―― カメラにスーパーハードコートを使えば、アーカイブ用にそれ以下のものということはないですからね。

牧野 「デジタルだから」という一言で、あれもいらない、これもいらないというのはとても悲しい風潮だと思います。お客様に本当に満足していただくためにも、店頭におかれましては、是非、付加価値商品、メーカーの特徴が現れている商品を品揃えしていただきたいと思います。

◆PROFILE◆

Toshihiko Makino

1953年9月28日生まれ。東京都出身。1979年東京電気化学工業梶i現TDK梶j入社以来、記録メディア製品とその関連製品の営業一筋。BS放送の黎明期、センターフィード小型正円形のBSアンテナの市場導入に従事。01年国内販売会社TDKマーケティング設立時に取締役マーケティング部長に就任。現在に至る。趣味はコーラス、バス・フィッシング。