編集長インタビュー

野島広司 氏

潟mジマ
代表執行役社長

野島広司 氏
Hiroshi Nojima

ピュアオーディオ文化
創造へ「オーディオの
ノジマ」完全復活宣言

かつてオーディオに親しみ、大きな夢を抱いた団塊世代の回帰など、ピュアオーディオ復活が待望される中、昨年10月、ノジマがオーディオ専門店「audio square(オーディオスクエア)」をオープンした。一年半ぶりのオーディオビジネス返り咲きを果たすと同時に、今後のピュアオーディオへの全力投球を宣言。オープニングセレモニーを大々的に行うなど、並々ならぬ意欲を見せ、開店後の動向にも注目が集まっている。業界の期待も大きく膨らむ中、ピュオーディオにかける熱い思いと今後の意気込みを野島広司社長に聞いた。


ピュアオーディオを
もっと大きく育てたい

―― 昨年10月、神奈川県藤沢市にオーディオ専門店「audio square(オーディオスクエア)」をオープンされ、怎Iーディオのノジマ摯怺が業界でも大きな注目を集めています。今、ここでなぜ、ピュアオーディオを事業の柱に据えられたのか。そこからお話をいただけますでしょうか。

野島広司 氏野島 ノジマはそもそもオーディオでスタートを切った会社です。オーディオというのは非常に楽しい、ワクワクする商品で、当社の単品コンポの取り扱いは、一時は36店舗まで拡大しました。ところが、家電流通を取り巻く市場環境が大変厳しくなったこと。さらに、オーディオを販売する人材が途切れてしまったこともあり、今から一年半ほど前に、一旦、取り扱いを終了しました。
しかし、オーディオで育ててもらったノジマですから、オーディオがないのはやはり大変さびしい。また、今の市場を見ると、昔のように夢を売るとか、お客様をワクワクさせるような商品が少なくなってしまっているような気がします。単に商品がお店を通してお客様へと渡り、売上げだけを回収するような、狩猟型の商売は決してよいものではないと思います。
そこでもう一度、ピュアオーディオを大きく育てたいと思っていたところに、社内から「ピュアオーディオの専門店を立ち上げたい」というアイデアをもらい、私の気持ちとピタリと合致したというわけなんです。その構想を聞きますと、フロアの半分を試聴室のように使える贅沢なものにする一方で、既存のピュアオーディオのお客様だけでなく、これからのお客様を丹念に育てていきたいというものでした。それならば、会社として資金はいくらでも出してやろうではないかということで、オーディオスクエアの開店に至ったというわけです。
私自身、本当にうれしかったですね。オーディオは人ですから、人がだらしないとダメになります。その点、今回は素晴らしいスタッフを揃えることができました。かつて、不況の中でもピュアオーディオを継続してやっていましたが、会社の経営が改めて黒字化できたことで、ノジマを育てたピュアオーディオに対し、その市場再活性化へ少しでも貢献することができたらと思います。

―― 昨年末商戦では、市場を牽引する薄型大画面テレビやDVDレコーダーが急激に単価ダウンしました。かつてない家電流通のオーバーストア状態が続く中で、必要以上な価格争いを引き起こしている面は否めないと思います。そこに対する、ピュアオーディオの果たす意義はとても大きいのではないでしょうか。

野島 オーディオはまさに、我々の業界の商売の原点と言えるのではないかと思いますね。ピュアオーディオの商売は、言わばロールスロイスを売るようなものなんです。性能だけだったら、他にいいものはいくらでもあります。それでも高価なロールロイスをお客様が購入していくのは、そこに夢とロマンがあるからです。
商品を語り、オーディオならば出てくる音に対するアドバイスまで、トータルでお客様に説明し、そして楽しんでいただくことが何より必要です。単に価格だけの商売ではありません。むしろ、それ以外のものの方が大きな要素を占めるのがピュアオーディオの商売の特徴だと思います。
オーディオスクエアも、このご時勢ですから、周囲の店に価格でいじめられるようなこともあるかと思います。しかし、我々に今申し上げたようなクオリティが備わっていれば、お客様は必ず付いてきてくれると確信しています。


他には真似ができない
自信と誇りがある

―― 今回、オーディオスクエアは、ショッピングモール「湘南FILL」の中への出店となりました。また、ノジマ藤沢店の中へのショップインショップのようなスタイルをとられましたが、これには何か特別な狙いがあるのですか。

野島 モールには出店するチャンスがあったためで、これまで、現在の藤沢店の商圏に3店舗あったものを1つの大型店として統合し、そこへオーディオスクエアを併設する形にしたものです。
当社のお客様は、茅ヶ崎から藤沢、鎌倉、大船までいらっしゃいますので、オーディオのノジマを理解していただいている人が多い土地柄であること。そして、いわばオーディオの空白域ともいえるこの場所に、オーディオの文化をつくりあげたいという強い気持ちからです。もちろん、ショッピングモールですので、その集客力も魅力のひとつになりました。

―― ショッピングモールということで、様々な目的を持った不特定多数のお客様がいらっしゃると思います。これまでの単独店舗にはない、思いがけないメリットもあったのではないですか。

野島 ちょっとお店をのぞいてみたらピュアオーディオがおいてある。昔やっていたので大変懐かしくなった、また始めてみようか、というお客様もいらっしゃいましたね。そういうお客様を拝見しますと、地域の人に対するオーディオの啓蒙という観点からも、出店してよかったとつくづく思います。

―― ピュアオーディオをはじめてやる方や、昔やっていたけどまたやりたいという方には、オーディオ専門店では敷居が高いし、かといって、量販店にはミニコンポしか置いていない。どうしたらいいだろう、どこへいけばいいのだろうという潜在需要を、オーディオスクエアでは顕在化できているのではないでしょうか。

野島 オーディオスクエア、藤沢店に関しては、当社14年ぶりの大型店として、お客様やメーカーの方にも大変喜んでいただけました。私も、これまでは店舗が減るばかりでしたので(笑)、高くご評価をいただき大変うれしかったですね。
また、オーディオスクエアについては、存在意義そのものが、ノジマにおいても大きなプラスの影響を与えるものだと思っています。それは、販売員を育てることや、お客様をご贔屓のお客様にグレードアップしていく姿を見せてくれる、いいお手本となるからです。これも、かつてノジマがピュアオーディオをやっていた財産があったからこそできることであり、他の店がおいそれとは真似のできることではないと自信を持っています。


「人」と「在庫」が
これからの課題

―― これからの課題はどのような点になりますか。

野島 “オーディオの好きな人”と、“オーディオをビジネスにできる人”とは違います。当社が他にはないピュアオーディオに対する人材を持つ一方で、1年半ものブランクができてしまったのは、まさにこの点にあります。ですから、今後も最大の課題は「人」。人材を育てることです。
お客様に喜ばれるようなオーディオの店を、これからもつくり続けていきたいと思います。そのためには、売る側が成長していかないことには、お客様も成長することはできません。さらに商売の上でも、オーディオをビジネスとしてものにできていないと、いつのまにか価格優先に走ってしまい、荒っぽいやり方になってしまいます。ただ、夢やロマンをお客様に語るのにマニュアルはありませんから、そこが、ピュアオーディオの商売のむずかしいところですね。

―― 御社では、オーディオショップを出店していくひとつの目安として300万商圏1店舗の構想をお持ちですね。

野島 今申し上げた人の成長と、投資回収にある程度の目安をつけることができれば、基本としては、今後もピュアオーディオの店をもっと出店し、増やしていきたいと思います。

―― オーディオの場合にはまた、マスの商品とは異なりますから、在庫の問題が常にクローズアップされてきます。

野島 お客様も、単にいくつかの店をまわって価格を調べて、一番安いところから買っていくという性格のものではありません。基本的に、そんなに頻繁に売れるものではないということが言えると思います。ですから、お客様が見たいもの、聴きたいものをすべて置いていったら在庫過多になってしまいますし、かといって、商品を絞り込みすぎると、お客様は欲求不満になってしまいます。
また、十人十色のお客様に対して、色々な商品の中からもっともご満足いただけるものを見つけて、お薦めしていくのですが、そこで、どのお客様にも提案できなかった商品が、不良資産となって残ります。ピュアオーディオからの撤退をやむ無く決断したときも、在庫の額がどんどん増えてしまったのがその一因となりました。
オーディオにとって在庫は永遠の課題です。在庫を入れすぎて、お客様に適さない商品を無理やりはめ込んだりすると、そのツケは全部お店に返ってきます。お客様の中には、価格を5割引にすればどんなものでも満足して購入するという方もいらっしゃいますが、あくまで基本スタンスは、お客様と商品との相性、すなわちマッチングだと思います。この基本を踏み外してしまうと、「あの店ではとんでもないものを売りつけられた」とか、悪い評判がすぐに立ってしまいますからね。


オーディオスクエアは
ノジマを大きく成長させる

―― オーディオスクエアでの、開店以来のお客様の反応も含めまして、ピュアオーディオ市場の近況の感触はいかがですか。 

野島広司 氏野島 ピュアオーディオは、今話題になっているサラウンドより楽しいと思う人もたくさんいると思います。ただ、ピュアオーディオの世界を知らない、というよりも、知ることができない人が多いため、両者を比較することすらできないのが実情です。ピュアオーディオ市場は間違いなく、もっと大きく伸ばせると思います。

―― 今の売り場を見てみると、家電量販店の多くは効率重視で、オーディオはラジカセからミニコン止まりというところが少なくないですね。

野島 オーディオスクエアにいらっしゃるお客様からも、そうした潜在ニーズが強く感じられるようです。ピュアオーディオをきちんとやれば、「なんだこういうものがあるのか。それなら是非買ってやってみたい」という人はいっぱいいらっしゃいます。オーディオスクエアはまさにそういう人に支えられている。それが大きな励みですね。
オーディオスクエアのこれまでのお客様は、オーディオマニアなどの顔見知りのお客様が2割に対し、かつてオーディオをやっていた復活組や新規のお客様が8割を占めています。マニアと顔見知りばかりでないところに、今後のさらなる成長が期待できると思います。
また、ピュアオーディオとはこういうものだということを、お客様だけでなく、ノジマの販売員も含めて啓蒙・成長していきたいと思います。「テクニクス」が松下電器のブランドであることを知らない販売員を叱るのではなく、「これまで教えてこなかったから知らないのは当たり前」という低い視線に立ち、ひとつひとつのことに初歩から取り組んでいきたいと思います。
オーディオスクエアには、箱根から川崎までのお客様が日常出入りされています。これは、湘南FILLの商圏のアウトレンジ、しかもかなり遠くからご来店いただいていることになります。オーディオスクエアの登場を機に、家電流通がしのぎを削る中で、改めて「ノジマ」の存在を知っていただいたお客様も数多くいらっしゃると思います。ノジマへの来客増、売上げ増という面に対する効果も期待できると思います。

―― 他店に対するノジマの大きな差別化ポイントにもなるわけですね。「あそこは何か違うぞ」と。

野島 そう思っていただければうれしいですね。
実は、オーディオスクエアの出店を機に、社内では「自分もやりたい」という声が次々にあがっています。しかし、それと、マネージメントはまた別の問題ですからね。ただ、もともとピュアオーディオをやってきたからこそ、育てればできる人材が豊富にいるのも事実です。例え、価格だけで真似たお店がそばにできても、「人材面でここまでできますか」と問えるだけの自信と誇りがあります。

―― ホームシアターについては、「体験型」ということでピュアオーディオと共通項があると思いますが、両者の関係についてはどのようにお考えですか。 

野島 僕も20年以上オーディオをやってきて、マルチチャンネルには何度となく痛い目にあいました(笑)。人間は耳が前に向いていますし、周りを演奏者に囲まれて、真ん中で音楽を聞くということもありません。ですから、マルチチャンネルのホームシアターは、映画等の臨場感を高めるためのものであって、2チャンネルのピュアオーディオとは、まったく違う次元のものとして考えるのがいいと思います。


長期的な視点を持ち
きちんとした足取りで臨む

―― ピュアオーディオ市場の活性化へは、製販双方からの取り組みが必要になると思います。メーカーに対する要望をお聞かせいただけますか。 

野島 古いかもしれませんが、お客様はもちろん、販売する側もワクワクするような夢のある商品づくりと、健全かつ成長できるマーケットづくりにもっと力を入れてほしいですね。

―― 特に課題となるのはどういう点になりますか。

野島 大変なのは、ピュアオーディオをきちんと啓蒙して、ベースとなるお客様の数を増やしていくということだと思います。それではお客様を増やすためには何をすればいいのか。そのひとつとして、商品の価格政策があげられます。
夢のある商品なのですから、メーカーさんもある程度のマージンをとるべきだと思いますし、それをマーケットの活力にしていただきたい。販売店も、単に並べれば売れるという商品ではないのですから、きちんと商品の説明をしたり、試聴会をしたりする分、ある程度のマージンをとり、それを次のお店だとか、新しいお客様の創造にまわしていくべきだと思います。

―― 秋口に行われるオーディオのフェアやイベントも、お客様を創るという意味からは非常に大切だと思います。

野島 どのようにしてお客様にピュアオーディオの楽しみを感じていただくか、メディアも巻き込み、もっと考えていくべきだと思いますね。

―― それでは最後に、ピュアオーディオに対する意気込みをお願いします。

野島 会社としてピュアオーディオへは今後もさらに力を入れていきたいと思います。ただ、何度も申し上げているように、そこで大事なのは「人」です。あせることなく、長期的な視点を持ち、きちんとした足取りで取り組んでいきたいと思います。
ピュアオーディオの文化に貢献できる会社になるという決意でおりますので、是非、今後とも宜しくお願い申し上げます。

◆PROFILE◆

Hiroshi Nojima

1951年1月12日生まれ。神奈川県出身。1973年中央大学商学部卒業、4月有限会社野島電気商会(現株式会社ノジマ)入社、2000年8月執行役員、8月CEO、2003年6月取締役、6月執行役社長、現在に至る。趣味は読書とゴルフ。