トップインタビュー 三菱化学メディア 大塚 重徳 氏 先進的な技術をコアに 大容量記録に対する注目度が高まる中、世界初の片面二層DVDの発売で技術力の高さを強力にアピールした三菱化学メディア。独自開発の素材を採用した同社の記録メディアは信頼性の高さで内外の市場で高い評価を獲得。価格下落が急速に進むDVDメディアの世界で、技術力の高さを活用した差別化商品の投入で利益重視の事業展開を推進している。本年4月、新たに同社の社長に就任した大塚重徳氏に事業戦略とブランド戦略を聞いた。 インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征
―― 社長ご就任おめでとうございます。最初に大塚新社長のご経歴から聞かせてください。 大塚 私は団塊世代のピークの昭和22年に生まれました。学校では基礎技術を勉強しましたが、学校を卒業してから有機系材料の機能的な性質を様々なエレクトロニクス機器に使うといったような基礎技術中心の仕事に携わってきました。 ―― 事務機と記録メディアの違いはありますが、光を使った記録との関わりという点では共通ですね 大塚 アゾなどの色素は私の特に得意な分野です。ですからその点での違和感はそれほどありません。私にとってこれから一番勉強していかなければいけないことは、コンシューマー・マーケットです。三菱化学が関わっている事業全体の中で当社は唯一のコンシューマー・マーケットに関わる仕事です。これは私にとってまったく初めての分野ということで、挑戦のしがいを感じています。 ―― 新社長としての抱負をお聞かせください。 大塚 当社の基本的な位置付けは販売会社ですが、ただの販売会社ではありません。先端の技術をしっかりとキャッチして、自分達の技術に基づく製品を販売していきます。 ―― 強力な先発メーカーと対抗していくためには、商品面での明確な差別化が求められると思います。 大塚 当社では、「Something Difference」と「Something a Bit Advanced」をテーマにしています。
―― DVDレコーダーの普及が急速に進んでいるにもかかわらず、ハードメーカー、メディアメーカーともに収益面で大変苦しんでいます。 大塚 この業界に入って一番驚いたことは、単価下落のスピードの速さです。DVDでは画質などハード、メディア双方の品質は非常に高められてきています。にもかかわらず価格は対数で下がってきています。 ―― これはメディアに限らずデジタル製品に共通の問題です。 大塚 例えば半導体を開発するにはものすごく苦労しますが、いったん作ってしまえばどんどん安くなっていきます。さらに技術が進歩するとあっという間にコストが大幅に下がってしまうという怖さがあります。 ―― 付加価値の源泉は差別化ですが、価格の下落が激しいDVDメディアの世界で収益を出せるようにしていくためには、スタンダード商品だけでなく、より高品位な記録が可能なプレミアムゾーンの市場を創造していくことが必要ではないでしょうか。 大塚 次世代DVD規格としてBDなどの提案もなされていますが、本格的に普及するのはまだまだ先のことです。その間DVDは伸び続けていくことが見込まれますが、今のような値下がりが続くようでは事業として成立しなくなってしまいます。 ―― デジタル製品では性能面での差別化が難しいということがよく言われます。本当にそうでしょうか。 大塚 デジタルではフォーマットで規定されている規格の中にあるわけですが、信頼性やエラーレートなど、差異化できる要素があります。デジタルといえども、これらによって音質や画質に明らかに影響します。耐久性の問題もあります。市販されている商品の中には、長期間、経過することによって、記録内容が劣化するような商品もあります。
―― デジタル・メディアでもAV用では綺麗な画といい音が望まれます。そのためなら、多少高くても良いものを使われます。そこがPC用のメディアとAV用のメディアが決定的に違います。 大塚 これはAV用だけに限らないことですが、お客様が本当に求めているものは、ただ安ければいいということではありません。特にAV用では一回きりの映像を記録する場合がよくあります。ビデオカメラでお子様の記録を取る場合や放送の録画などがそうです。その時に使われるメディアには、値段の安さよりも信頼性や品質の高さが求められます。 ―― 光ディスクの分野で、御社は素材を含めて様々な先進技術をもたれています。特にDVD―Rは、御社の素材抜きには商品カテゴリーそのものが存在できないといってもいいほどです。 大塚 当社の技術面での大きな強みのひとつが素材を持っていることです。ライトワンスから始まって、MO、CD―R、RW、そしてDVDと、すべてのタイプのディスクを揃えていることも当社の大きな特長です。 ―― 製品の展開範囲が非常に広いDVDでは、互換性の高さが特に求められます。一部のメーカーの製品には問題があるものもあるようですが。 大塚 DVDで性能面以上に大きな問題になるのが互換性です。これをきちんととって出すことは、メーカーの大きな責任です。ところが価格の安さを売り物にしている製品の中には、いい加減な製品もかなりあります。ただこれはお客様が購入される段階ではわかりません。 ―― 御社が他社に先駆けて商品化した二層型は、新しい商品分野だけに互換性の確保が気になりますが。 大塚 二層型のDVDに対応した録画機がパイオニアさんから出ました。今後、他社さんからも出てくると思います。その時に互換性などが現実の問題として出てくる可能性があります。2層型DVD+Rディスクは複数の会社から発売されるようになりましたが、われわれがテストをしてみると、互換性を考慮していないような製品もあります。
―― AVメディア事業におけるブランド戦略を聞かせてください。 大塚 当社ではシェアを競うのではなく、利益重視のビジネスを図っています。利益が出ないような事業では、やっていく意味がありません。これは海外についても同じです。そのためにきちんとした商品を送り出しています。 ―― そのための最大の課題は何でしょうか。 大塚 マーケティング力の強化です。 当社の技術や製品の優位性をお客様にきちんと伝えきれているかというとまだまだです。当社のメデイァビジネスはデータ用からスタートしたことから、一部のPCマニアの間では、三菱化学メディアというブランドは認知されていますが、AVではテープの時代から商品を出されてきたTDKさんやマクセルさん、フジさん、ソニーさんなどに比較するとブランド認知度はまだまだです。この点を強化するために人の採用も含めて強力に取り組んでいきたいと考えています。 ―― 最後に販売店の皆様方へのメッセージをお願いします。 大塚 当社はAV用の記録メディアの世界では後発ですが、光ディスクでの世界では最も長い歴史を持っています。他社さんとは一味違う先進の技術をコアに、一味違う魅力を感じていただけるような商品を送り出し続けていくことがこの会社の最大の使命だと思っています。販売店の皆様方には、ぜひとも私どもの将来性を買っていただきたいと思います。 ◆PROFILE◆ Shigenori Otsuka 1947年9月生まれ。大阪出身。72年3月 東京大学光学系大学院物理工学研究科修士課程卒業。72年4月 三菱化成鞄社。72年6月中央研究所研究開発室。95年6月 情報電子カンパニー情報機材事業部グループマネージャー。98年2月三菱化学インフォニクス社副社長。00年6月三菱化学鰹報電子カンパニー オプトエレクトロニクス事業部長兼化学システムサービス事業部長。02年4月情報電子カンパニー規格管理部長。04年6月執行役員 情報電子部門長兼記録メディア部長。05年4月三菱化学且キ行役員 三菱化学メディア椛纒\取締役社長に就任。現在にいたる。 |