トップインタビュー

井橋孝夫氏

(株)スタート・ラボ
代表取締役社長

井橋孝夫
Takao Ihashi

3つの事業を核にして
「R」の新境地を切り開き
新しい世界を創造する

VHSからDVDレコーダーへ、家庭用の録画機の主役交代に、メディアもDVDがこれからの中心になる。もっとも構成比の高いDVD―R、そのビジネスを牽引してきたのがスタート・ラボだ。昨年創業15周年を迎え、「ザッツ」ブランドの再構築に向け、本格的な取り組みも開始した。Rメディアのパイオニアとして、どのようなビジネス戦略を描いているのか。ソニーの時代から30年以上にわたり光ディスク開発畑を歩む、井橋社長に話を聞く。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

Rを色々なシーンでお使いいただきたい。
ネットとの統合やRオンデマンドの
サービス事業にまで飛び込んでいきます


CD-Rから始まった
スタート・ラボ

―― まず、昨年15周年を迎えられた「スタート・ラボ」という会社について、ご説明いただけますか。

井橋孝夫氏井橋 私どもはソニーと太陽誘電との合弁会社です。正式にはSony Taiyo Yuden Advanced Recording Technology Laboratoryの頭文字を略した会社です。太陽誘電の持つCDの記録膜の技術と、ソニーの持つシステム技術を合わせることで非常に面白いビジネスができるのではないかというのがそもそものスタートです。
その発端となったのがCD-Rです。当時、CDをCD-ROMとしてデータを入れたいという話が持ち上がったときに、実際に1GBのデータをつくってみると、これが大変な作業でした。当時最高速のコンピューターを使って、やっとできるという具合でした。しかも、その検証作業が輪をかけて大変な騒ぎとなりました。互換がとれるメディアがないと検証ができない。そこで登場してきたのがCD-Rというわけです。
皆さんが音楽CDをコピーするのにCD-Rを使われたりしたのは、このずっと後のことで、スタート・ラボが設立した89年当時は、CD-R1枚がおよそ100ドルで販売されていた時代です。CD-Rは、CD-ROMをつくるためには欠かせないひとつのツールとして、業務用の世界には欠かすことができないものとなりました。例えば、CD-Rがなければ、ソフトをつくれず成立しなかったと、ゲーム業界からも感謝されています。
90年代に入り、コンピューターソフト会社がCD-ROMでOSのバージョンを配り始めたあたりを契機に爆発的に普及が進み、産業用の世界では隠れたヒット商品となりました。しかしその一方、色々なメーカーが参入してきたものですから、97年くらいから値段が極端に下がり始めてしまい、一部の外国製品の品質問題等もあり、非常に苦しい時代を経て、現在に至っています。それでもCD-Rは、全世界でおよそ140億枚が今年だけで使われています。VHSのカセットが最盛期でおよそ30億巻ですから、100億枚を超えるメディアというのは、実は人類史上、初めてなんですね。
私どもスタート・ラボは、例えば音のCDのオーサリングでは、ソニックソリューションという会社と一緒につくったシステムを使い記録したCD-Rがマスターとなり、各音楽用CDのプレス工場で使用されています。メディアはもちろん、システムからソリューションまですべてを供給しており、単なる販売会社ではないというのが、スタート・ラボなのです。
Rのアプリケーションとして、ハードウェアの開発・販売も行っていますし、また、どんなアプリケーションにどのようなものが使えるのかというソリューションの提言も行っています。アプリケーション、周辺のハード機器、さらにその使い方についても、今後も皆様方にさまざまな提案を形として提供して参りたいと考えています。

―― Rにはこれからどのような新しい可能性がありますか。

井橋 Rの最大の特長は、非常に簡単に書き込みができることです。例えば、ネットはストリーミングには非常にいいのですが、実際に自分がきれいな映像や画像をとっておきたいという際には適していません。そこで、ネットでストリーミングをしていただく一方、Rでオンデマンドで配給する、「Rオンデマンド」というビジネスが考えられます。この利点は、ソフトビジネスを在庫を持たずに可能にする新しいコンセプトです。コンサートに来た人にRをつくって会場で帰りにお渡ししたり、少し時間をいただければ日本中どこへでも送付できます。今のネット環境では、DVDの4GBほどのデータを自宅でPCを使って落とすこともできますが、時間がかなりかかりますからね。
また、最近は、情報を紙ではなく、別の電子媒体で納入する形が普及してきましたが、そこで使われているのがRです。それは、Rは一度書いたら消せないという最大の特長があるからで、すなわち証拠として残るわけです。アーカイブの世界でネットとうまく組み合わせることで、Rは非常に重要な媒体となって、世界中でますます使われていくと思います。

―― 反対に、課題としてはどういう点が指摘されますか。

井橋 世界中に生産施設が広がった結果、品質の悪いものが世の中に出回ってしまっています。これが一番の課題ですね。しかも、消費者はそれをきちんと区別できません。記録したデータによっては、10年とか20年とか、長期の保存が必要なものも少なくありません。それが、いつのまにか消えてなくなってしまっては困るのですが、その可能性も否定できないわけです。記録できないメディアから、1週間もしたら再生できなくなるメディアまで市場に出回ってしまう現状があります。


技術開発センター兼
販売センターとして機能

―― 映像の世界でも、DVDレコーダーがどんどん普及する中で、録画用DVD-Rとして使用されています。

井橋 品質面においては、録画ができなかったり、残しておいた映像が消えてしまったら、大変なことです。今までのPCとは違う世界が、録画用DVD-Rでは、品質面で求められています。最近は店頭でも品質に対して目を向けはじめられたようで、「海外のメディアには気をつけましょう」といった張り紙も目にするようになりました。もちろん、私どものザッツはCD-Rを含めてすべて日本で製造しておりますので、品質管理も徹底して行っており、安心して使用できる高品質の商品として高く評価されています。

―― 品質と価格で海外製の粗悪商品に対してきちんと差別化できるように、録画用の高品質商品としてのもうひとつの山を創っていくことが大切ですね。

井橋 DVDはここ2、3年で急激に数が増え、今年は45億から50億枚くらいの生産が予想されています。映像の世界ともなれば、よい品質で残しておきたいというニーズが高まってきますが、ザッツには、それに対して高い次元で応えることができる技術とノウハウがあります。
非常に品質の高いものを安定してつくっていくためには、そこにアナログ的なノウハウが必要となります。それは日本でないとできないんですね。例えば、海外製品の中には歩留まりという概念のあまりない商品もあります。仕様に合致したものから不良品まですべて市場に投入してしまうようです。その上、メディアのIDを詐称したものを作るとか、ありとあらゆることが起きて、市場を乱しているというのが実情ですが、これに対し、今後、業界としてどう対処していくのか。法整備の問題も含め、もっと真剣に検討していく必要があると思います。
例えば、米国ではNIST(National Institute Standard Technology)という政府機関が評価基準を作ろうとしています。欧州では偽物やライセンスを受けていない物などは港で抑えるとか、関税を高くするといった対策をECとしてきちんと行っています。ところが日本はそういうことがまだできていないものですから、何でも入ってきてしまいます。恬ヌ貨が悪貨揩駆逐するような仕組みを早くつくらないといけないですね。

―― DVDレコーダー&メディアのビジネスもまだ始まったばかりです。

井橋 これからですよ。だからこそ、早めに手を打たなければなりません。しかも、RがこれからROMと同じように使われるようなると、著作権の問題もきちんとクリアする仕組みが必要になりますし、記録したデータを保護したいという要望への対応の仕方も、技術的な課題を含めクリアしなければなりません。そういう新しい部分を私どもはシステムごと提供していきます。ハードのソリューション、メディアのソリューション、そこにソフトのソリューションを付加したRの総合的な技術開発センター兼販売センターというのが、私どもの使命だと考えております。Rはこれからさらに面白いビジネス媒体として成長していくと思います。


「ザッツ」ブランドを
一般層へ強烈に刻み付ける

―― DVDレコーダー時代を迎え、DVDメディアが映像メディアの中心としてクローズアップされる中、ザッツのブランド戦略についてお聞かせください。

井橋孝夫氏井橋 ザッツのブランドはマニア層には非常に有名です。特に世界で初めてデータ用のCD-Rを開発し、ビジネスをスタートしたこともあり、データ用の世界では15〜20%のシェアがあります。しかし残念ながら、DVD録画用の分野では、まだ、あまり知られていないのが現実です。映像の世界で、これから一般の方に、どれだけザッツというブランドを認知いただくかが最大の焦点だと考えております。とにかく商品名のザッツというブランドを前面に打ち出していきたいと思います。
また、現在、各量販店様においてプライベート・ブランド(PB)のビジネスに大変高い要望をいただいています。ここでは、ザッツの名前がついていない場合もありますが、太陽誘電製という商品が出てくることになります。皆様の目に止まるという点においては、有効に生かしていければと考えています。

―― 自社ブランドのザッツの認知と、太陽誘電を今度はPBでの信頼のマークとしてどう認知させていくかですね。

井橋 2つの作業を同時進行でやっていこうと思います。マニア向けのところは、私どものプレゼンスはわかっていただけていると思いますので、特に一般の方に向けたメッセージを発信して参ります。

―― カセットオーディオの時代にザッツは品質の高いブランドとして知られていました。今、その中心であった団塊世代が、デジタルAVの世界に、クオリティを求める層として戻ってきました。こうしたものの分かる人、理解できる人を中心に打ち込んでいくのもひとつの方法ですね。

井橋 その通りです。団塊の世代の方には高品質のカセットテープの代名詞だったザッツは非常によく知られています。その意味では2007年問題は、ザッツデジタルAV元年ととらえ、新たな需要を掘り起こしていきたいと今から計画を練っています。
一方で、これだけメディアが世の中に使用され、全世界で1年に100億枚以上が出荷されている事実があります。ディスク厚が1・2mmとして、100億枚で1万2000km。地球の直径を超え、もう何年もすると、重ねると月まで到達するかもしれません。ところが、回収する仕組みがまだできていないんです。エコロジーの観点から、また、ディスクもケースもほとんど石油ですから、回収してもコストは見合います。今後はこの回収の仕組みは、グリーンプロダクトチェーンの運用として業界として対応すべきだと考え、大学と共同の研究を行っています。
実は当社では、バルクタイプのディスクが増えたり、ユーザーの保有枚数がどんどん増えていく中で、収納の様々なアイデアを盛り込んだ「楽らく収納」という商品をシリーズ化しました。ディスクの収納や保存・検索の使い勝手に対して応えていくのが狙いなのですが、もう一方で、パッケージを紙などの回収できるものにするという狙いが実は含まれています。

―― 商品のクオリティ、ユーザーの使い勝手、さらに地球環境と、3つの観点から差別化を行っていくわけですね。

井橋 Rのアプリケーションについて、ハードとメディアの双方で色々な提案を行ってきました。メディアがたくさん売れるようになり、メディアの事業が現在は主になっていますが、スタート・ラボはメディアの販売会社としてだけではなく、Rの事業、ハードのソリューションの事業、そして、コンテンツのサービス事業という3つの事業を核にして、ビジネスを全世界に展開しています。
Rを色々なシーンでお使いいただきたい。Rこそがメディアの中心であるという自信のもと、ネットとの統合はもちろんのこと、Rオンデマンドでサービスできるサービス事業にまで飛び込んでいきたいと考えていますので、ご期待ください。

―― それでは最後に、業界の皆さんにメッセージをお願い致します。

井橋 スタート・ラボはRのビジネスという新しい境地を開いてきた先進的な企業としてこの15年ビジネスを展開してきました。おかげさまで、Rは大変大きなビジネスとなり、色々な分野でアプリケーションに使われるようになっています。それをもっと発展させていきたいと考えています。ひとつはデジタルAVというジャンルで新しい境地を開くことです。もうひとつがアーカイブまたはパブリッシングというジャンルで品質を含めた新しい世界をつくることです。特にネットとの融合はRの新しい可能性を引き出し、大きなビジネスに成長すると確信しています。
さらに、ディスクの回収の方法といったエコロジーの問題を含め、Rのメディアを皆さんの中心的なメディアとして使っていただけるよう、今後とも微力ですが、スタート・ラボは全力を尽くしたいと考えています。Rの技術をはじめとするあらゆることに関しては、スタート・ラボに、ぜひ、気軽にご相談ください。

◆PROFILE◆

Takao Ihashi

1944年生まれ。1967年ソニー鞄社。中央研究所を経て、光ディスク関係に従事、この間、LD、CD、MO等の企画・開発、設計の責任を担う。事業部統括部長、本社マルチメディア推進室長、DVD戦略部長等を経て、現在、潟Xタート・ラボ代表取締役社長。CDs 21 Solutions幹事会議長。