トップインタビュー (株)スタート・ラボ 井橋孝夫氏
3つの事業を核にして VHSからDVDレコーダーへ、家庭用の録画機の主役交代に、メディアもDVDがこれからの中心になる。もっとも構成比の高いDVD―R、そのビジネスを牽引してきたのがスタート・ラボだ。昨年創業15周年を迎え、「ザッツ」ブランドの再構築に向け、本格的な取り組みも開始した。Rメディアのパイオニアとして、どのようなビジネス戦略を描いているのか。ソニーの時代から30年以上にわたり光ディスク開発畑を歩む、井橋社長に話を聞く。 インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征 Rを色々なシーンでお使いいただきたい。
―― まず、昨年15周年を迎えられた「スタート・ラボ」という会社について、ご説明いただけますか。 井橋 私どもはソニーと太陽誘電との合弁会社です。正式にはSony Taiyo Yuden Advanced Recording Technology Laboratoryの頭文字を略した会社です。太陽誘電の持つCDの記録膜の技術と、ソニーの持つシステム技術を合わせることで非常に面白いビジネスができるのではないかというのがそもそものスタートです。 ―― Rにはこれからどのような新しい可能性がありますか。 井橋 Rの最大の特長は、非常に簡単に書き込みができることです。例えば、ネットはストリーミングには非常にいいのですが、実際に自分がきれいな映像や画像をとっておきたいという際には適していません。そこで、ネットでストリーミングをしていただく一方、Rでオンデマンドで配給する、「Rオンデマンド」というビジネスが考えられます。この利点は、ソフトビジネスを在庫を持たずに可能にする新しいコンセプトです。コンサートに来た人にRをつくって会場で帰りにお渡ししたり、少し時間をいただければ日本中どこへでも送付できます。今のネット環境では、DVDの4GBほどのデータを自宅でPCを使って落とすこともできますが、時間がかなりかかりますからね。 ―― 反対に、課題としてはどういう点が指摘されますか。 井橋 世界中に生産施設が広がった結果、品質の悪いものが世の中に出回ってしまっています。これが一番の課題ですね。しかも、消費者はそれをきちんと区別できません。記録したデータによっては、10年とか20年とか、長期の保存が必要なものも少なくありません。それが、いつのまにか消えてなくなってしまっては困るのですが、その可能性も否定できないわけです。記録できないメディアから、1週間もしたら再生できなくなるメディアまで市場に出回ってしまう現状があります。
―― 映像の世界でも、DVDレコーダーがどんどん普及する中で、録画用DVD-Rとして使用されています。 井橋 品質面においては、録画ができなかったり、残しておいた映像が消えてしまったら、大変なことです。今までのPCとは違う世界が、録画用DVD-Rでは、品質面で求められています。最近は店頭でも品質に対して目を向けはじめられたようで、「海外のメディアには気をつけましょう」といった張り紙も目にするようになりました。もちろん、私どものザッツはCD-Rを含めてすべて日本で製造しておりますので、品質管理も徹底して行っており、安心して使用できる高品質の商品として高く評価されています。 ―― 品質と価格で海外製の粗悪商品に対してきちんと差別化できるように、録画用の高品質商品としてのもうひとつの山を創っていくことが大切ですね。 井橋 DVDはここ2、3年で急激に数が増え、今年は45億から50億枚くらいの生産が予想されています。映像の世界ともなれば、よい品質で残しておきたいというニーズが高まってきますが、ザッツには、それに対して高い次元で応えることができる技術とノウハウがあります。 ―― DVDレコーダー&メディアのビジネスもまだ始まったばかりです。 井橋 これからですよ。だからこそ、早めに手を打たなければなりません。しかも、RがこれからROMと同じように使われるようなると、著作権の問題もきちんとクリアする仕組みが必要になりますし、記録したデータを保護したいという要望への対応の仕方も、技術的な課題を含めクリアしなければなりません。そういう新しい部分を私どもはシステムごと提供していきます。ハードのソリューション、メディアのソリューション、そこにソフトのソリューションを付加したRの総合的な技術開発センター兼販売センターというのが、私どもの使命だと考えております。Rはこれからさらに面白いビジネス媒体として成長していくと思います。
―― DVDレコーダー時代を迎え、DVDメディアが映像メディアの中心としてクローズアップされる中、ザッツのブランド戦略についてお聞かせください。 井橋 ザッツのブランドはマニア層には非常に有名です。特に世界で初めてデータ用のCD-Rを開発し、ビジネスをスタートしたこともあり、データ用の世界では15〜20%のシェアがあります。しかし残念ながら、DVD録画用の分野では、まだ、あまり知られていないのが現実です。映像の世界で、これから一般の方に、どれだけザッツというブランドを認知いただくかが最大の焦点だと考えております。とにかく商品名のザッツというブランドを前面に打ち出していきたいと思います。 ―― 自社ブランドのザッツの認知と、太陽誘電を今度はPBでの信頼のマークとしてどう認知させていくかですね。 井橋 2つの作業を同時進行でやっていこうと思います。マニア向けのところは、私どものプレゼンスはわかっていただけていると思いますので、特に一般の方に向けたメッセージを発信して参ります。 ―― カセットオーディオの時代にザッツは品質の高いブランドとして知られていました。今、その中心であった団塊世代が、デジタルAVの世界に、クオリティを求める層として戻ってきました。こうしたものの分かる人、理解できる人を中心に打ち込んでいくのもひとつの方法ですね。 井橋 その通りです。団塊の世代の方には高品質のカセットテープの代名詞だったザッツは非常によく知られています。その意味では2007年問題は、ザッツデジタルAV元年ととらえ、新たな需要を掘り起こしていきたいと今から計画を練っています。 ―― 商品のクオリティ、ユーザーの使い勝手、さらに地球環境と、3つの観点から差別化を行っていくわけですね。 井橋 Rのアプリケーションについて、ハードとメディアの双方で色々な提案を行ってきました。メディアがたくさん売れるようになり、メディアの事業が現在は主になっていますが、スタート・ラボはメディアの販売会社としてだけではなく、Rの事業、ハードのソリューションの事業、そして、コンテンツのサービス事業という3つの事業を核にして、ビジネスを全世界に展開しています。 ―― それでは最後に、業界の皆さんにメッセージをお願い致します。 井橋 スタート・ラボはRのビジネスという新しい境地を開いてきた先進的な企業としてこの15年ビジネスを展開してきました。おかげさまで、Rは大変大きなビジネスとなり、色々な分野でアプリケーションに使われるようになっています。それをもっと発展させていきたいと考えています。ひとつはデジタルAVというジャンルで新しい境地を開くことです。もうひとつがアーカイブまたはパブリッシングというジャンルで品質を含めた新しい世界をつくることです。特にネットとの融合はRの新しい可能性を引き出し、大きなビジネスに成長すると確信しています。 ◆PROFILE◆ Takao Ihashi |