巻頭言

咸有一徳

和田光征
WADA KOHSEI


2006年の正月、いろいろと思いを馳せる時間が流れていきました。そんな中で読んだ本、触れた言葉、思索したことを思うと、「業界の建設的な発展に寄与する」という小社の企業理念をさらに推し進める重要性を改めて心に決めたのでした。
「才なく知なくも、徳や情があれば人生、間違いない。徳が根幹、才は枝葉である。才より徳のまされるを君子といい、才徳共に兼備していることを聖人といい、才徳兼亡を愚人という」。(王陽明)
このことに照らしみた時、小泉首相は徳や情が薄いと思わざるを得ません。歴史的にどういうかたちで記憶されるのでしょうか。
「個人は質素に、社会は豊かに」
経団連元会長の土光敏夫氏の言葉です。ご承知のように構造改革をやり遂げ、JRを誕生させました。その折々の対応は、まさに聖人だったと思います。種が結実する充実感を心深く感じたものでした。
この春、経団連会長に就任されるキヤノンの御手洗冨士夫社長は次のことを強調されています。「第一は強いブランド力や市場占有力のある製品、つまりキラープロダクトを持っていること、第二に安定した収益を生み出すビジネスモデルを確立すること、第三は揺るぎないリーダーシップを持った経営者が企業を牽引していることが成長の条件である」。
さらにジュリアーニ前ニューヨーク市長は「企業が長期的に収益を上げていくには株主だけでなく、従業員や地域社会など幅広い利害関係者への配慮が欠かせない。リーダーは利益追求にとどまらない、経営上の意義・信念を持つこと、楽天的であることが条件である。リーダーは最悪の状況を想定し、対策を持って備えておくことを求められる」と、語っています。
「批判ばかりされた子どもは非難することをおぼえる。殴られて大きくなった子どもは力にたよることをおぼえる。寛容にであった子どもは忍耐をおぼえる。激励をうけた子どもは自信をおぼえる」。皇太子様が語られたドロシー・ロー・ノルトの言葉で感激しました。
ソニーの大賀典雄名誉会長は「経営とはバトンを受け継いだトップがその時代や企業の成長段階にあわせ、この会社をどういう方向へ持っていこうか自分の頭で考えるものだ。リーダーシップはいつも経営者に問われる大きなテーマだ」と述べていますが、この後、ストリンガー会長の誕生がありました。
「スーパー正直な企業」。松下電器の中村邦夫社長が語られた言葉で、そのことの真意は今回の一件で強力に証明されました。ジュリアーニ氏の言葉のくだりではありませんが、重大なことが発生したときの心のこもった迅速かつ大胆な本質をついた対応は、多くの人々に「ここまで顧客のことを思う会社」として印象付けられました。松下幸之助翁のDNAの素晴らしさと凄さを思い知ったのでした。
咸有一徳
今年一年、「徳」のある業界の発展を祈念してやみません。

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