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セイコーエプソン(株)
映像機器事業部
事業部長

羽片 忠明
Tadaaki Hagata

お客様のニーズを鋭く捉え
誰もが簡単に使える商品で
映像事業を拡大していく

プロジェクター市場の拡大をリードするエプソン。その大きなビジネスチャンスを見出し、EMP−TWD1など新しいコンセプトの商品も市場で好評を得ている。お客様の要望を最優先とした同社の商品企画の姿勢や、価格競争が激化する中でのものづくりの要となる品質という視点等、映像事業拡大へ向けての取り組みを、映像機器事業部長の羽片忠明氏に聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

ものづくりの視点は"無駄とり"
無駄が無く信頼性の高いものづくで
「天使のサイクル」が生まれます

ホームプロジェクターは
まだまだこれから拡大する市場

―― これまでのご経歴と、映像機器事業部に来られてのご感想をお聞かせください。

羽片 映像機器事業部で仕事をさせていただくようになったのは、昨年の4月1日からです。それまでは入社以来、業務用途のレシートを発行するいわゆるPOSプリンター事業に携わってまいりました。POSプリンター事業においては、製造技術、インクジェットヘッドの開発、海外生産、商品企画、設計など様々な業務を担当してきました。
当事業部においては、生産担当として約半年間仕事をしてきました。映像機器はプリンターと違い、光を使いますので内部を構成する部品特性が非常に定量化しにくく、品質管理という観点で、難しさを感じました。事業部長となった今は、ものづくりに加え経営全般に関して、勉強の日々です。
セイコーエプソンの企業文化は「創造と挑戦」です。私自身もこれまで様々な挑戦や、好きなこともさせていただきました。映像機器事業部はもともと社内デバイスを使った応用商品を生み出すことから始まった事業部で、非常にチャレンジ精神旺盛な社員が多いです。プロジェクターも最初はうまくいかず失敗もありましたが、もう一度やってみようというチャレンジ精神の中で生まれてきました。プロジェクションテレビも、いわゆるテレビの専門技術者は社内にいませんでしたが、テレビを創ろうとする熱意を持った人達によって、本当に創り出してしまいました。このチャレンジ精神はすごいと思います。
最近特に嬉しかったことは、昨年9月にリリースしたホームプロジェクターのEMP―TWD1です。企画担当者の強い思いが市場のニーズにマッチし、各方面で取り上げていただき、市場でも大変好調で、特に国内単独機種で40%程度のシェアになっていることです。

―― 新たに映像機器事業部長に就任された抱負、ものづくりの考え方をお聞かせください。

羽片 プロジェクターは、プレゼンテーションを主要用途としたビジネスプロジェクターと、個人が家庭で映画等を楽しんでいただくことを目的したホームプロジェクターがあります。我々の事業は、ビジネスプロジェクターが主であり、この市場は、多くのコンペティターがいらっしゃいますので、そこに負けないような商品づくりをして参ります。また、ホームプロジェクターは、まだまだこれからの市場ですから、どう拡大していくかが一番のポイントになると思います。
私が、プロジェクターについて感じていることは、使い勝手が悪く、改善が必要だということです。お取引先様のトップの方など、外部の方とお話をする機会が多いのですが、その会話のなかで、「プロジェクターは、好調ですね」「プロジェクターは便利ですね」とおっしゃってくださる方が多いです。その時、私は「本当に便利だと思われますか」「ご自身でプロジェクターをセットされたことがありますか」とお聞きするのです。そしてその後、自社製品を例にプロジェクターと外部機器との接続の煩雑さや、使い勝手・性能の悪さをあえて説明させていただいています。
なぜ、自社製品を、けなすようなことをお話させていただくかというと、プロジェクターはいろいろな面で改善が必要であることを認識いただいた後で、その改善によって、まだまだビジネスとして大きなチャンスがあることをわかっていただくためです。


誰もが簡単に使える、それが
「ホーム」と名が付く商品

――  プロジェクターはまだこれからの商品であるということですね。

羽片 特にご家庭でお使いいただく場合はご年配の方、機器に不慣れな方、お子様等、様々な方が使われるのですから、設置や配線が煩わしいのは大きな問題です。テレビを購入しても、設置やチャンネル設定は電器屋さんがやってくれることが多いですから、ほとんどの人は機器の配線などされたことはないと思います。社内の人間は機器を繋ぐことは皆、日常的にやりますから、その煩わしさの感覚が麻痺していると思います。
そこで私は常々、「あなたのお母さんはこのプロジェクターが使えますか、プレゼントして喜んでもらえますか」と企画・設計者に問いかけています。それは、身近な人の立場に立って商品の使い勝手を考えることによって、その使いづらさを気づかせるためです。こういう話をしていると何をやらなければならないかが見えてきます。
誰にでもすぐに使えなければ「ホームプロジェクター」とは言えないと思います。プロジェクターという言葉は知っていても見たことがない人も多いでしょう。それが当たり前として捉え、そういう人たちに使っていただける商品を創っていかなければいけません。
テレビは、スイッチを入れれば映像が映ります。あとはチャンネルの操作ぐらいです。ビデオ録画も面倒というのが普通です。ですから目指すところはテレビ並みの操作性です。
EMP―TWD1は、DVDとスピーカーが付いていることが価値なのではなく、それを繋がなくても良いということが価値なのです。今はDVDだけですが、映像の周辺機器はたくさんありますから、それらとの接続性が重要となります。いちいち線を繋ぐようでは、たぶん駄目ですね。
ほとんどのお宅のリビングは8〜15畳程度の広さだと思います。そこには応接セットがあって、テレビがあって、ちょっとした家具があって、普段は洗濯物が出ていたりします。そこへいろいろな線をひっぱっていては、つまずいて転んでしまいます。ワイヤレスということが重要になるでしょう。となるとセキュリティの問題も出てきますから、そういうことも考慮に入れて開発していかなければいけません。


お客様の用途に応じたニーズを
鋭く尖らせた商品を提供する

―― 使い勝手の他に価格ということもポイントです。

羽片 モノの「お買い得感」ということだと思います。それは絶対金額ではありません。例えばご家庭の奥様たちは、大根1本が400円といわれると、とても高いと感じられます。ところがお父さんたちがお付き合い、またはプライベートで、一晩に数千〜数万円を飲食代に使っても、高いと感じてはいらっしゃらないのではないでしょうか。お買い得感というのは単に金額が安いということではなく、商品価値、満足感なのです。「お買い得感」を高めることは、家庭用商品としてはとても重要なことだと思っています。

―― 具体的にどのようなことが基準になりますか。

羽片 プロジェクターは、輝度がそのプロジェクターの性能を決める最も重要な仕様です。輝度5000lmのプロジェクターも数100インチのスクリーンに映せば暗いですし、逆に1200lmのプロジェクターも投射エリアが狭ければ十分に明るく映ります。つまり、何のためにどのように使うのかが価値基準となります。
例えば、ビジネスにおいて携帯してプレゼンテーションするプロジェクターは、高輝度の必要性より小型・軽量である、電源を入れたらすぐに使える、丈夫であることが求められます。逆に、学校の教室で使うならば、いろいろな機能よりも、高輝度・長寿命、埃に強いということが求められます。
それぞれの用途に一番求められる機能、スペック、信頼性、そこを鋭く尖らせる商品の提供が重要です。お客様が何を望んでいるのかを知ることが大切です。
ただ、そうは言っても競争相手がいるわけですから、私どもの商品がお客様に満足していただけるレベルなのかを知る必要があります。但し、ベンチマークが先ではなく、お客様の価値がどこにあるのかを考えることが優先だと思っています。そういう視点でものづくりをすることで、結果としてお客様のご支持をいただけるはずだと思っています。


コストダウンは"無駄とり"
品質を上げることがポイント

―― コストダウンについては、どのようなお考えをお持ちですか。

羽片 同じ性能の商品なら安い方が良いに決まっています。従って、他社に負けないようなコスト競争力が必要になります。安くモノを作るために"コストダウン"という言葉を使われる方が多いと思いますが、私は、"無駄とり"という言葉を使います。"無駄とり"の結果がコストダウンなのです。
恂ウ駄揩フ最たるものは、"品質問題"です。工場、市場での品質問題は多くの無駄を生みます。特に、市場での品質問題はお客様にご迷惑をおかけします。販売チャンスを失い、お客様の信頼を失います。
仕事の品質、商品の品質を上げることで、無駄は相当排除できます。しっかりとしたものづくりをすることで、エプソンの商品への信頼が高まります。その結果、お客様にまたエプソンの商品をお買い上げいただける好循環の商品作りができていきます。私は、この好循環を「天使のサイクル」と言っています。

―― するとシェアも拡大していきますね。

羽片 エプソンはプリンターの会社であるというイメージが大きいと思います。しかし今後は、デジタルイメージングカンパニーとして画像と映像の融合領域を拡大していきます。従って、映像事業の拡大に対する期待は大変大きいと認識しています。
プロジェクター市場はここ数年20数%の大きな伸びを示してきましたが、今後はそう簡単にはいかないと思っています。その市場成長の中で我々が目指している目標値を達成していくためには、今以上のシェアをいただかなければなりません。ナンバーワンであり続けるということは、競争に勝ち続けることですから、物づくりに関しては貪欲に無駄とりを行い、お客様へは、積極的なセールス活動をして参ります。


「エプソン=フレンドリー」
人々が集い、心を結ぶ存在に

―― EMP―TWD1は、お客様のご要望に見事に応えた商品であり、市場を拡大していくことで、非常に大きな意義があります。

羽片 こういった商品は、すぐにキャッチアップされると思いますから、それを越えるようなものを継続的に創らなければならないと思っています。いろいろなメーカーさんが参入してくることで市場は広がっていきますから、それは大歓迎です。市場での認知度も上がりますし、裾野も広がります。

―― まだまだプロジェクターの夢は拡がりますね。

羽片 映像の世界は夢が語れて楽しいと感じています。事業部内のある方がバーベキューセットを例に出して「バーベキューセットは単なるクッキング道具ではなく、皆で集まって"わいわい楽しむ"ためのメインの道具なんです。プロジェクターもそうなればいいですよね。そうしたいですね」との話をしてくれました。この話をきっかけに、私たちの事業ビジョンを見直すことにしました。新たなキーワードも考えました。「エプソン=フレンドリー」つまり、「我々の提供する商品を介して、人々が集い、人と人の心を結び、団欒、友愛を育み、人々の生活に豊かさと新しい文化を提供したい。人に優しく、使い勝手が良く、地球に優しい商品を創り続けたい」を事業ビジョンとすることにしました。

―― 今後の展開が楽しみです。

羽片 まだまだプロジェクターは改善する余地はたくさんあります。特に、ホームプロジェクターについては、いままで述べてきた、お客様の心をつかんだ商品を提供することにより、このビジネスはまだまだ大きくなる可能性を秘めていると思います。
我々は、常にお客様の想いや期待を超える製品・サービスを提供し続けていきます。人の中心にエプソンの商品がある、そんな新たな映像文化が創造できたらいいですね。

◆PROFILE◆

Tadaaki Hagata

1957年12月1日生まれ。長野県出身。1983年3月信州大学大学院卒業。1983年4月エプソン(株)(現セイコーエプソン(株))入社。2003年10月BS事業部副事業部長。2005年4月映像機器事業部副事業部長。2005年11月映像機器事業部事業部長就任。現在に至る。趣味は城址めぐり。