(株)フジテレビジョン
デジタル技術推進室
役員待遇 技師長

関 祥行
Yoshiyuki Seki

今年は地デジ普及元年
様々な手法を駆使して
魅力を体験していただく

2003年12月の放送開始以来、順調に放送エリアを広げてきた地上デジタル放送。2006年は全国県庁所在地で放送が始まり、全国で“地デジ”が出揃うほか、注目の“ワンセグ”サービスもスタートする。大きなスポーツイベントが集中し、テレビ市場にとって大きな転換期となる年だと言える。総務省の地上デジタル推進全国会議・普及促進分科会の主査も務める、フジテレビジョンデジタル技術推進室の関祥行技師長に、加速する地上デジタル普及への取り組みを聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

デジタル化のメリットは"ハイビジョン"
スポーツ、ドラマ、ニュースが高画質で
楽しめるのは最高の環境だと思います

一気に放送エリアが広がり
地デジの面的展開が始まった

―― 放送のデジタル化の進捗状況はいかがですか。

 地上デジタル放送が東名阪でスタートしたのが03年12月のことです。その当時は、アナログ周波数変更工事、いわゆるアナ=アナ変更の関係から東名阪以外での地上デジタル放送の開始は06年に集中するのではないかと思っていたのです。しかし、工事が順調に進んだ結果、NHKも民放も多くのエリアにおいて、前倒しで地上デジタル放送をスタートさせることができました。

―― 今年は47都道府県の県庁所在地がすべて地デジの放送エリアに入り、全国で地上デジタル放送が出揃います。

 これは大変大きな話です。今までは東名阪エリアと若干の地方以外のお客様には、デジタル放送と言えばBSデジタルハイビジョンしかご覧いただけなかったのですが、今年末には地デジが一気に3800万世帯にまで放送エリアを広げ、面的展開が始まります。ですから、放送開始から今までを立ち上げの時期とし、今年は「地デジ普及元年」として展開していこうと考えています。

――  今年は「ワンセグ」という新しいサービスも始まります。

 ワンセグが始まることで、やっとデジタル放送らしくなりますね。デジタル放送のメリットの一つに電波が圧縮できることが挙げられますが、ワンセグというのはまさにその恩恵で生まれたサービスです。
それからもう一つ、放送技術者の立場で言えば、やはり日常の放送コンテンツがハイビジョンになり、高画質・高音質で楽しんでいただけるようになるということも大きなメリットだと感じていただきたいですね。

―― 地上デジタル推進全国会議では、普及促進分科会の主査を務めておられます。そのお立場からは、地上デジタル対応テレビの普及状況をどのように見ていますか。

 普及ロードマップでは、今年開催されるサッカーW杯ドイツ大会を機に1000万世帯の大台に乗せることを目標にしています。
直近の受信機の出荷台数を見ると、05年12月までの累計がチューナーも含めて836万台に達しています。12月単月だけでも103万台で、このペースで行けば、1000万世帯を超え、1200万世帯ぐらいまで望めるのではないでしょうか。
受信機がここまで普及してきたというのは、やはり価格が下がってきたということが大きいですね。大変ありがたいことだと思います。それから、景気が回復してきたことも一因に挙げられます。

―― 普及については、今のところは順調に目標通りに推移してきているということですね。

 一つ気にしているのが、昨年春の調査で「2011年にアナログ放送が停波すること」をご存じの方が9・2%しかいなかったということです。アナログ放送が停波することは6割の方がご存じでしたが、その時期が2011年ということまでは、まだ認知が進んでいないようです。
地上デジタル推進全国会議では、これを今年末には50%にまで引き上げたいと考えています。アナログが停波することは、放送事業者側からはなかなか言い出しにくいのですが、その辺りはデジタルハイビジョンの良さをアピールするなど、上手くお伝えしていくしかないですね。


コンテンツの質の向上が
差別化に直結していく

―― 今後の受信機の普及についての見通しはいかがですか。

 今、受信機はほとんどが三波共用機で地デジのほか、BSデジタル、110度CSデジタルが受信できます。これに加え、今年になって地デジ専用チューナー内蔵のPCが登場しました。さらに今年は地上デジタル専用の車載用受信機も出てくるだろうと思っています。
普及ロードマップのカーブ曲線を現実のものにするには、このようにPCで受信できるようになったり、小型のテレビに地デジのチューナーが内蔵されたり、単機能のチューナー単体など、受信形態が多様になれば、ロードマップカーブ通りに普及させることができるのではないでしょうか。

―― 今年秋からは、第7次行動計画がスタートします。

 第7次行動計画の策定で最大の議論となるのが、アナログのみの受信機の製造販売をいつの時期まで続けるかということになると思います。
第5次行動計画策定の頃から、メーカーさんには、「その時期を明言してはいかがですか」と申し上げてはおりました。
昨年秋に地上デジタル放送推進協会(D―PA)にご協力いただいて、販売店店頭に展示されているアナログのみの受信機に「2011年アナログテレビ放送終了」というシールを貼って、お客様にアナログ停波時期を周知いたしました。
今年夏には、出荷するアナログのみの受信機すべてに、このシールを貼るという方向で検討を進めています。
そうすると具体的な次のステップとして、アナログチューナーの製造と販売の終了時期がいつになるかということが焦点となります。

―― アナログのみの受信機を製造中止することについて、メーカーさんの反応はいかがですか。

 まだまだ厳しいものがありますね。メーカーさんの立場からすれば、海外メーカーの安価なテレビに対抗するために、なかなか引けない部分だと思います。
ただ、あるメーカーさんでは、現行モデルについては生産を継続するが、改めて新しいモデルは投入しないことになったそうです。
いずれにしても、この点での議論はさらに続けていかないといけないと考えています。

―― 地上デジタルの普及に向けて、放送事業者サイドでは、具体的にどのような取り組みをされているのですか。

 最も力を入れているのが、ハイビジョンで放送する番組を増やすことです。視聴者の方からすれば、美しいハイビジョン番組を見たくて、高価なテレビを買ったのに、ハイビジョン番組が少ないのでは、お叱りを受けかねません。このハイビジョン率を高めることに最も注力しているところです。
さらに昨年からは、番組内容により連動したデータ放送にも取り組んでいます。各社とも同じ動きをされていますから、今後はデジタル放送ならではのコンテンツが充実してくるものと思います。

―― テレビ放送は、コンテンツの良さを求められますからね。

 そこが一番の狙いですね。デジタル化のメリットを一言で言い表すとしたら、やはり「ハイビジョン」だということです。スポーツ、ドラマ、ニュースなどがハイビジョンで楽しめるというのは最高の環境だと思います。
一昨年ぐらいまでは、「ハイビジョン」に対するニーズが一般的でなかったのですが、最近ではその美しい映像を見たいとデジタルテレビをお求めになる人が増えてきています。薄型テレビの画面もきれいなものへと進化してきていますし、コンテンツの質の向上を図ることが差別化に直結しているという印象です。

―― テレビ売り場でもハイビジョンの美しい映像で訴求することが一般的になりました。

 とにかく、ハイビジョンの映像を実際にご覧いただくことが魅力を理解していただく最大の方法です。
よく接触率という言い方をしますが、喫茶店や居酒屋など人が多く集まるところでも、ぜひ積極的にデジタルテレビを導入していただきたいですね。体験していただければ必ず虜になりますよ。
全国の県庁所在地が放送エリアに入ることで、地上デジタルの接触率が上がることを期待しています。


ワンセグはサイマルを基本に
独自コンテンツも用意する

―― 番組編成上で、デジタルとアナログで差別化をするということはありますか。

 現在、番組制作はハイビジョンカメラで行うようになっています。現場の制作スタッフの感覚もハイビジョンがメインになってきています。そういう意味では、デジタルを促進するために差別化をするということは特にありません。
放送免許上は、アナログの番組の3分の2をデジタルでサイマル放送を行うということになっているのですが、デジタル受信機が5割ぐらいまで普及してくれば、自然とメインがデジタルでアナログがそのサイマルという位置付けに変わってくると思います。
以前は、その時期が08年頃と言われていたのですが、今年にもそれが起こりそうです。

―― 4月からスタートするワンセグ放送は、今までなかったサービスです。ワンセグを使った新しいビジネスについても期待が集まっています。

 ワンセグでは、当初サイマル放送は考えておりませんでした。携帯電話など固定でない環境でのコンテンツは、別に用意した方が良いだろうと思っていたのです。
ところが、自動車メーカーの方々などと意見交換をしてみると、ワンセグ独自のコンテンツより、家で見ているテレビ番組を外でも見たい、今放送している番組を見たいというニーズが非常に強いことがわかってきたのです。ですから放送内容はサイマルを基本に、一部でワンセグ独自のコンテンツ、というものになるのではないでしょうか。
実は当初、地上デジタル放送の一つのチャンネルを構成する13のセグメントを固定端末受信用に9セグメント、車載端末受信用に3セグメント、携帯端末受信用に1セグメントに分割して送信することも想定されていたのですが、実験の結果、100km/h以上で走行する自動車でも固定用の12セグメントのハイビジョンが受信できることがわかり、現在の放送形式に落ち着きました。
これらのことを考えると、全体としてユビキタス受信という考え方が浸透してきたという感があります。

―― 今後の課題としては、どのようなものがありますか

 もちろん、最大の課題は2011年に向けて、放送エリアを拡大していくことです。デジタル放送を世の中に広めていくために、放送事業者はエリア拡大を、メーカーさんは受信機を普及させることを役割として担っています。
これに加えて、各県庁所在地で放送開始するのに合わせて、今年から放送の中でもデジタル放送の魅力をお伝えし始め、さらなる普及に努めていきます。そういう意味でも06年は普及元年だと言えるのです。
2011年に向けて、放送エリアをどこまでカバーできるかが課題になると思います。

―― デジタル化への投資が、財政基盤の弱い地方局にとって負担となっているという指摘がありますが、この点についてはいかがですか。

 具体的な数字は申し上げられませんが、予想していたよりはずっと低い額ですね。デジタル化に伴う投資総額は当初、全民放で8082億円と試算されていましたが、機材の価格も下がり、投資負担は少なくなっているように思います。その点では、普及に向けてのハードルは低くなってきていると思います。

―― 一方で、現行のアナログ放送のエリアを100%カバーするということも、必要になってきますね。

 この点については、まさにありとあらゆる手段を使って邁進していきます。あまり話題になっていないのですが、ギャップフィラーという機能があります。これは、山陰などで局地的に電波が届かない地域に対して、スポットで電波を再送信する装置です。
このほか、ケーブルテレビでの再送信やIP再送信、CS再送信もフル活用して100%カバーを目指していきます。


単機能で低価格な受信機の
ラインナップ充実にも期待

―― メーカーさんの普及に向けての動きをどのように見ていますか。

 現在、チューナー単体の価格が4万円ほどです。これを5000円ほどまで下げていただきたいと考えています。それでもVHFからUHFへのアンテナ変更工事が必要なことを考えると、1万円ほどの費用になるかと思いますが。
いずれにしても、そういう安い受信機やチューナーのラインナップも増やしていただきたいですね。場合によっては、例えば地デジの受信だけに機能を絞り込んだ機器ということでも良いと思います。
今はまだ、それほど急ぐ話ではないのかも知れませんが、08年頃からは本気で取り組む必要が出てくるのではないでしょうか。

―― デジタルハイビジョンには、データ放送や5.1chのサラウンドなど今までにない魅力があります。しかし、この部分がまだ上手くビジネスになっていません。

 サラウンドについては、まだまだ視聴環境が少ないです。そういうこともあって、特に民放では対応した番組が少ししかありません。
データ放送については、昨年から番組連動を強化しています。ただし、まだどういうスタイルが視聴者に受け入れられるのか、つかみ切れていないのが現状です。宝を手にしているのに、それを上手く活かせていないという印象です。何か一つでもサクセスストーリーが出てくれば、勢いに乗ることができると思います。

―― それでは、最後にテレビを売る側、販売店の皆さんに対するメッセージをお願いいたします。

 昨年、各地の販売店様をお訪ねして、いろいろと意見交換をさせていただきました。その際に、なるべくハイビジョンをお薦めください、とお願いしたのですが、今はテレビ売り場はほとんどの展示が地デジ対応ハイビジョンテレビになりました。
アナログ停波のシールを貼ることも、販売店の皆さんにとっては、お客様にアナログ受信機を買わないでください、と言っているようなものでしたが、我々のお願いを受け入れていただき、大変感謝しております。
販売店の皆さまはハイビジョンについての知識の吸収に大変意欲的で、セミナーやインストラクションの依頼を数多くいただきました。そういう意味では、改めてお願いするということはなくて、引き続きハイビジョン受信機の普及にご協力いただきたいと思います。

◆PROFILE◆

Yoshiyuki Seki

1945年生まれ。長野県出身。
1968年京都大学工学部卒業。同年フジテレビジョン入社。ドラマ制作に従事した後、71年から技術開発室にてテレビ放送関係の技術開発に携わり、総合開発室などを経て,99年に技師長、04年から現職。(社)電波産業会(ARIB)、(社)地上デジタル放送推進協会(D-PA)、(社)BSデジタル放送推進協会(BPA)、総務省審議会委員などで多数の要職を務め、地上デジタル放送、BS放送、CS放送など、放送技術の規格化を推進する。