ソニー(株)
オーディオ事業本部 ホームオーディオ事業部
事業部長

大津 雅弘
Masahiro Otsu

オーディオはソニーの原点。
ニーズを顕在化しビジネスを拡大する

リスニングルームからリビングルームへ、日本のリビング環境にマッチする新しいオーディオを積極的に展開するソニー。団塊世代のオーディオ回帰、さらにデジタルオーディオプレーヤーの普及拡大を背景に若い世代に音楽体験を通じてオーディオの楽しみを訴求していくなど、オーディオの新時代をリードする。これからのオーディオビジネスをいかに拡大していくのか。ホームオーディオ事業部事業部長に就任された大津雅弘氏に聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

―― 4月に事業部長に就任されました。これまでのご経歴をお聞かせください。

大津 オーディオは長い間趣味として持っておりますが、幸いにして1981年にソニーに入社以来、一貫してオーディオビジネスに携わってきました。主にセットステレオの設計を担当した当時、弊社のミニコンの代表モデルであった怎潟oティー揩フ設計担当をしたのは思い出のひとつです。

―― まさにオーディオ畑を歩んでこられたわけですが、新たな事業方針が掲げられる中、中鉢さんのものづくりへの思いはどのように浸透されていますか。

大津 常にものづくりのことは言われています。もともとわれわれは設計者なので、ある時期ものづくりが疎かになっていると感じていたこともありました。世の中がIT時代を迎え、パソコンやソフトウェアを駆使して何でもできるという時代になってきたように言われますが、ソニーに入社してきた人は元来ものが好きで入ってきた人が多いので、違和感を覚えていた人もいたと思います。
そのような中で、新しいメッセージを受け、ある意味われわれ設計者・技術者は、ソニーはやはりこうあるべきだろうと意を強くしています。ですから新たな方針、ものづくり重視への回帰は極めて自然に浸透しています。
昨年から今年にかけてテレビやビデオカメラなどヒット商品もどんどん出てきていますので、全体としてはいい傾向です。しかしまだまだこれからです。国内のオーディオでも強力な商品を生み出して参ります。

――  オーディオ市況は厳しい環境が続いています

大津 事業部としてビジネスが成り立たなければなりません。日本の状況だけをみると非常にオーディオは厳しいですが、私はもともとオーディオが好きで、オーディオ一筋できていますので、なんとか日本も含めてしっかりとやっていきたいという思いです。
ビジネスとしてはどうしても海外に依存している部分もあります。北米、ヨーロッパといった地域はどちらかと言えばコンピューターであるとか、オーディオといってもポータブルタイプのオーディオが普及し、ビジネス的に難しいのは日本と同じです。
一方、ラテンアメリカ、アジア、アフリカなどの地域はソニーが強いところです。オーディオはやはり人間の根幹だと思いますが、音楽がないと生きていけない、音楽をがんがん聴いてダンスをして…という具合に、音楽は欠かせないものだという人が大勢います。


―― ホームシアターの拡がりはいかがですか。

大津 もちろん、そのような地域でもだんだんDVDの普及などにより、映像系も入ってきて、ホームシアターは世界的に拡がりをみせています。アメリカ、ヨーロッパでは音楽よりもホームシアターが盛んです。日本だけではなく世界の各メーカーがホームシアターに力を入れ、競争が厳しい状況になりつつあります。しかしそこはソニーは音と映像と両方の強みを持っていますから、そのような状況の中で新しい展開も行っていかなければなりません。

―― 新しい展開を具体的にお聞かせください。

大津 今、テーマといたしましては『リスニングルームからリビングルームへ』とよく申し上げております。昨年のAVフェスタでもこのテーマに沿った新たな展示を行いました。
例えば日本の家庭の状況を考えると、テレビは大画面化していますし、リビングもスペース的にそう余裕はありません。奥様が大きなスピーカーを置くのを嫌がるケースもあります。また、部屋にケーブルが這い回っては掃除も大変ですし、小さなお子様がいらっしゃる家庭ではつまずくことも考えられます。そういった環境の中にどう商品を入れていくか。リビングルームに溶け込み、ご主人が購入したいと言った時に、奥様にダメと言われないようなオーディオも展開していかなければなりません。
そのような商品をいくつか開発しています。海外からの展開になっていますが、テレビとオーディオが一体となった商品も発売しています。最近では日本でも市場ができつつありますが、薄型テレビと組み合わせてご使用いただけるテレビラック型のシステムRHT―G1000も昨年から発売いたしました。こういったものもリビングルームの商品の一環としてさらにいい商品を出していきたいと思います。

―― RHT―G1000をはじめフロントサラウンドへのニーズの高まりを感じます。御社のフロントサラウンドは大変よくつくり込まれていますね。

大津 ソニー独自のS―Forceフロントサラウンドの大きな違いは壁からの反射音を利用しないことです。つまり部屋の形状に影響されず、どんな部屋の環境でも理想的なサラウンド効果が得られます。さらにフルデジタルアンプS―Masterの搭載など、大変高性能なものです。
また、マンションなどでは低音を響かせると周囲の迷惑になり困ってしまいますが、やはり映画などでは迫力の低音を楽しみたいものです。そこでRHT―G1000では、独特の方式でサブウーファーをラックの中に収め、低音はしっかり楽しめるが、床は振動しないという特長を備えました。もともとリアプロなどは振動に弱く、光源が揺れてしまうので、そうさせないために開発してきた技術を活かしています。床に響かせることなく、低音を十分に楽しめますので、日本の家庭環境に最適な商品として、必ずご支持をいただける特長であると自信を持っています。今後も採用した商品を増やしていきたいと思います

―― ぜひブラビアと一緒に提案していきたいですね。

大津 テレビにお金が流れていくと、一時的にオーディオにお金がまわらなくなります。しかし、ハイビジョン化で映像が高品位になると音へのニーズも必ず高まります。そこに向けた商品も投入していかなければなりません。


―― 単コンについてはいかがでしょうか。

大津 単コンもビジネスとしては厳しい状況にありますが、オーディオはソニーの原点と考えていますので、いい商品を出し続けて参ります。
先日、大変興味深い出来事がありました。銀座のソニービルにあるソミドホールで、スーパーオーディオラウンジというイベントを開催しました。普段スーパーオーディオCDのイベントでは、クラシックやジャズをかけるのですが、若い方が好むロックなどもかけたところ、口コミで10代のお客様も大勢集まってきました。3時間くらいのイベントでしたが、皆さん感動されてその場を動かなかったということです。
普段ヘッドホンステレオで音楽を聴いていたりする人が、CDにこんないい音が入っていたとは知らなかった、こんなにすごい世界があったのかと、大きな話題になりました。
今の若い方は部屋でちゃんと音を出して音楽を聴く機会が昔と比べ少なくなっていますので、このように体験できる機会をもっとつくらないといけないと感じました。さらにブログや口コミなども上手く利用できるように考えて参ります。いい音というものを知っていただくことで潜在的なニーズを掘り起こすチャンスになります。

―― 我々の世代と今の若い人では、音楽との接し方が変わりましたね。

大津 もちろん今も若い人と音楽のかかわりは大いにあります。昔、オーディオが娯楽のひとつだった頃から一時、娯楽が他のものに移って、音楽を聴くことが減ったと思います。ただ、デジタルオーディオプレーヤーなどの普及により、また音楽を聴く機会が増えていると思います。さらに音楽を聴く層が厚くなり、音楽と接する機会が増えてきたのはひとつのチャンスと捉えます。そこで、本当の音はこういうものだと体験させてあげることが大切です。
あと、今よく言われていることですが、団塊世代でこれからまたオーディオを楽しみたいという人が増えてきます。その層に向けた提案も大切です。ですから、先ほど申し上げたようなリビングルームにマッチするものから、本格的なもの、昔オーディオが好きだったひとがもう一度じっくり家で楽しめるものといろいろな可能性があります。そこを追求して、オーディオのビジネスを拡げていきたいと思います。

―― ソニーの単コンを待っているユーザーは多いと思います。

大津 昨年発売したTA―DR1aなどは高額な商品ですが、オーディオファンの皆様方から大変なご注目いただきました。2chについてもお客様が見直されていると感じているところです。団塊世代の方はもともと2chで音楽を楽しまれてきました。CDは2chですが、スーパーオーディオCDはマルチということもあり、今後マルチチャンネル、2chともにバランスをとりながら展開していきたいと考えています。

―― 計画されている商品などお聞かせください。

大津 先ほどの話とも関係しますが、パソコンに音楽がたまっているという状態にある方は多いのではないでしょうか。そこにご提案する商品として、もっといい音で聴くためのPC用のスピーカーはたくさんありますが、そうではなくDLNA(デジタル リビング ネットワーク アライアンス)を利用して音楽が聴けるというものです。
DLNAとは家電、PC、携帯端末の業界大手17社が集まりホームネットワークを通じて音楽、写真、動画といったデジタルAVコンテンツを家の中で自由にやりとりできるようにするための業界団体の名称であり、ここで策定されたガイドラインを通じて「DLNA認定製品」として発売されるものです。
既に昨年からアメリカで発売しており、今年はワイヤレス化したものをどんどんリリースして参ります。新しい音楽の楽しみ方も拡げていきたいと思います。

―― 様々なAV商品がソニーにはあります。全社統合的な商品の誕生は大変強力ですね。

大津 今言われたような統合的な繋がりというのが少し弱かったというのも感じています。今、怎\ニーユナイテッド揩ニいうスローガンを掲げ、その点についても中鉢社長のもと、取り組んでおります。

―― 販売店へ向けてメッセージをお願いします。

大津 薄型大画面テレビが普及していく中、次は必ずオーディオだと確信していますので、そこに向けた商品をまず開発していきたいと思います。
若い人へ向けてもきっかけをつくれば市場は育ちますし、団塊世代のオーディオ回帰と市場環境からも大変楽しみな時期だと思っています。オーディオを愛してくださる方はたくさんいらっしゃいます。ソニーはオーディオメーカーと思っていただいている方もいらっしゃいますから、そうしたユーザーの皆様のご期待にも応えられる商品を出して参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

◆PROFILE◆

Masahiro Otsu

東京都出身。1981年ソニー(株)入社。システムステレオ、AVレシーバーなどホームオーディオビジネスを一貫して歩み、2006年4月オーディオ事業本部ホームオーディオ事業部長に就任、現在に至る。趣味は音楽鑑賞、ゴルフ、テニス。