パイオニア(株)
常務執行役員
ホームエンタテイメントビジネスグループ 本部長

安田 信治
Shinji Yasuda

パイオニアの音と映像技術を総集結し、
AVのプレミアムブランドへ

プラズマテレビの分野で、世界初50V型フルHDプラズマモニターを発表したパイオニア。ともすると価格下落に陥りがちの薄型大画面テレビ市場に一石を投じる、渾身の高付加価値商品である。AVの総合メーカーとして、一貫してハイクオリティな音と映像を求め続けてきたパイオニアが、今見据えているものは何か。そして目指していくものは。新体制ホームエンタテインメントビジネスグループの本部長、安田信治氏にお話を伺った。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

―― PDP―5000EXについては、パイオニアらしい商品が、満を持して出てきたという思いがいたします。この商品の戦略についてお伺いします。

安田 当社のホームエンタテインメントビジネスグループは、AVのプレミアムブランドメーカーを目指す、というコンセプトで動き始めています。いろいろなアイテムがありますが、その中でもこのPDP―5000EXは、フラグシップモデルというべき位置付けの商品です。
あえて今回、テレビではなくモニターということでこの商品を出すことになりましたのも、そういう思いが込められているということです。中身のパネルとしては、業界最高水準の性能を持っているという自信がございますし、期待も込めています。

―― 商品の内容についてお聞かせください。

安田 まず、50インチで1920×1080のフルHD解像度を実現するということで、従来のXGAに対して画素面積が半分以下と非常に小さく、加工技術を極限まで高めることがポイントでした。それから、画素が小さくなると、放電のスペースも小さくなり、発光効率や色の表現力が犠牲になる危険性があります。しかし、当社独自の革新的な技術である「高純度クリスタル層」や新しい電極構造を採用することによって、小さい画素でも高効率、そして表現力の高いディスプレイが実現できました。
また、当社のもともとの強みである「ピュアドライブ」というドライブ回路の技術があります。動きに対して非常に滑らかで、かつ高精度の階調が実現できます。
加えて、前面ガラスがないダイレクトカラーフィルターを採用しており、クリアな画像を、前面ガラスによる外光の多重反射やパネルの内部反射に邪魔されることなく見ていただけるということです。このように、プラズマの高画質技術を総結集させた結果がこの商品だと考えております。

―― このような商品コンセプトは、第一世代のプラズマから続く、パイオニアらしい流れの中から生まれたものではないでしょうか。

安田 その通りです。1997年に第一世代の50インチプラズマテレビを送り出した時から一貫して、当社は高性能、高画質といった差別化の技術をベースに、プレミアムを目指して参りました。この商品はその流れの集大成です。

―― 第一世代のプラズマの導入期には、AV専門店を中心に、御社は非常にきめ細かな展開をされていました。今日では価格下落などいろいろな問題がありますが、この商品をどういうお客様に、どういうチャネルで伝えていくのか、そのあたりの構想をお聞かせください。

安田 この7年間、日本の家電のチャネル構造は大きく変化しました。そんな中で今回のPDP―5000EXについて、従来のチャネル政策を若干見直しました。基本的に高価な商品ですから、内容を理解していただけるお客様、そしてお客様に理解していただけるようなアプローチをしてくださる販売店様、そういうところでビジネスを展開していくということが大事であると考えます。先日の商品発表会の後、AV専門店の方々にも集まっていただいて、あらためてこの商品について共に取り組んで参りましょう、というお話をさせていただきました。皆様パイオニアらしい商品が出てきたと喜んでくださいましたし、パイオニアが再びAV専門店というチャネルを大事にするという方針を出したことについても、歓迎していただきました。私共も手応えを感じています。

―― 巨大量販とともに、地域密着型のお店が健闘しています。AV専門店も、これまでは価格競争に巻き込まれていましたが、だんだん自分の守備範囲のお客様をしっかり掴まえられるようになりました。そういうお店にとって、実に魅力的な商品だと思います。

安田 趣味の分野では、車やカメラ、洋服などでも、大衆的な商品もあれば、高級品もあります。商品にはいろいろな幅があり、お客様の好みも多様化しています。デジタル家電だけがひとつの色分けになる必要はない、というふうに考えております。


―― 御社はこのたび新体制となられました。新たに発足されましたホームエンタテインメントビジネスグループ全体の戦略についてお聞かせください。

安田 現在、高い評価をいただいておりますEXシリーズのスピーカーを皮切りに、オーディオの再活性化を重要な方針の一つに掲げております。引き続いて、商品を色々と拡充していこうと考えております。
この4〜5月、国内はもちろん北米や欧州などの地域の第一線の販売スタッフとの商品会議で、マーケティング、プランニング、技術のスタッフが一堂に会して議論しております。従来ならば、いかにコストを下げるかという話になりがちですが、お客様に満足していただける質感を出すためにはどうすればいいか、という議論ができるようになってきました。

―― スピーカーのEXシリーズも、今回のプラズマ5000EXも、パイオニアの持つ方向性をわかりやすく打ち出したものと言えそうです。まさに今はピュアなビジュアル、ピュアなサウンド、という、パイオニアの草創期から根底に流れているものが普遍であると同時に、新しく花開いたということではないでしょうか。新しい本部長のご就任で、音と映像がいい意味でドッキングし、関連したプレミアム商品が登場する予感が致します。今後はどのような商品づくりとなるのでしょうか。

安田 中心はプラズマになりますが、その周辺に、当社の創業時から基礎になっているスピーカー、アンプ、レシーバーなどを配置して、さらにそこにシステム化された商品が加わります。また今後は、我々も最も期待しているブルーレイ・ディスク・プレーヤーを中心に、ブルーレイ・ディスクのもつ高画質・高音質とフルHDプラズマ、高音質オーディオシステムとを組み合わせるなどの展開があります。
私共は、パネルから高性能のプラズマを自分達で作れる。そして、スピーカーはコーン紙、ユニットから作れる。そして長い伝統のあるオーディオ技術を持っています。ブルーレイ・ディスク・プレーヤーについてはピックアップから、全部自分達で開発できます。規模は大きくはありませんが、全てを自前で開発できるメーカーは、世界的にもそう多くはないと思います。それを総合的に活かして、プレミアムブランドを目指していく、それは十分実現できることと思っています。


―― それでは、安田さんのご経歴についてお伺いします。

安田 私はもともと研究所の出身ですが、その後子会社で生産現場を経て、川越工場で様々な製品の開発に携りました。その中で取り組んだ製品がカーナビゲーションです。当社が民生用の市販のカーナビゲーションとして、初めて世に送り出したAVIC―1については、私が川越で技術を取りまとめたものです。
その後、目黒で2年ほどカーナビゲーション事業部長を務め、CD―ROMベースのカーナビゲーションの立て直しをすると同時に、DVD―ROMにメディアを替える際の基本路線を敷きました。そしてもういちど川越工場に戻り、2度目の川越工場長に就任しました。今度はDVD―ROMベースのナビゲーションを世に送り出すための開発体制を整えました。カーナビゲーションについては、自分としては思いを込めて取り組んだという気が致します。
カーナビゲーションは自動車メーカーの工場で装着される1次純正と、2次純正と呼ばれるディーラーオプションがあります。実は、後者がかなり伸びてきております。車のサイクルは数年、1次純正ですとどうしてもナビゲーション商品のサイクルに追い付きません。一方、2次純正には最新のものを取り付けられる、ということでディーラーオプションの比率が高くなってきているのです。当社は1次純正も採用していただいておりますし、ディーラーオプションでも、アフターマーケットでもすべての分野でビジネスを展開しております。
私はかつてカーナビゲーションを担当しているときに、とにかく自動車メーカーさんに入り込まなくては、という思いで、当時まだ契約が決まる前に、工場の中にプロジェクトを先に作ってしまいました。今ではなかなか考えられないような無茶なことですね。しかし、それが当社のディーラーオプションの獲得につながっていったのです。
次はプラズマを中心に、一刻も早くホームエンタテインメント事業を黒字化するのが最大の目標です。

―― 薄型大画面テレビ商品から買い替える人たちは、同じサイズのものを買おうとは思いません。もっと大きいサイズを求めます。しかしあまり大きいと、部屋に入らない。そこに5000EXのような商品が出てきますと、同じサイズでスムーズに買い替えられる、ということになると思います。そういうお客様も有り難いし、販売店様もなかなか買い替えないお客様を説得しやすい要素があります。そういった意味で、業界としても意義のある商品だと思います。

安田 例えば、カーナビゲーションは長年にわたり、システム商品の価格があまり下がっていません。最初にCD―ROMを使用したAVIC―1という商品を発売した時は、当時システムトータルで30万円を上回る価格でした。その後メディアをDVD―ROMに置き換えた時、価格が下がるのを止め、新たな提案をすることができました。次にハードディスクを搭載することによって、現在でも30万円程の価格を提案しています。そういう意味で、新しい提案をすることによって、価格を下げずに付加価値を生み出すことがカーナビゲーションではできたわけです。
同じようにこのプラズマのような商品を出すことによって、価格低下だけではなく、新しいものをお客様に提案していくことで、お客様にも楽しんでいただきたい。販売店の皆様にも新しいビジネスチャンスを一緒に作っていきたいと思います。

―― PDP―5000EXは商品そのものもシステム化しやすく、高付加価値の共通した商品が出てきやすい。これから先のマーケットの変化にも対応できるような体制になったという感じもしています。今回の体制につきまして、全体をどう活性化していくか、どのような絵を描かれているかをお話下さい。

安田 現在、当社はプレミアムブランドを目指しているわけですが、地域的に先行しているのはヨーロッパです。ヨーロッパでは、この数年の取り組みで、ID(インディペンデント)、日本で言うとAV専門店あるいは地域量販店といった位置づけになると思いますが、そこでのビジネスの比率が非常に高いのです。これは他社の大手メーカーとは全然違うチャネル構造です。そこでプレミアムブランドとしての評価が高い。
アメリカでは「エリート」というブランドを当社が長い間かけて育ててきたのですが、このエリート店でのビジネスがアメリカのプレミアムブランド構築のベースになっていて、当社の商品が高い評価をいただいています。それと同じようなことを、日本でも構築していきたい。それを実現するためには、販売の一線でプレミアムブランド構築のために努力している人、日本で企画をする人、技術開発する人、生産をする人、そういう人たちが思いを一つにして、パイオニアらしい商品を作り、お客様に提供していく。それに向って力を合わせていくことが一番大事だと思っております。

―― 最後に、販売店の皆様にメッセージをお願い致します。

安田 当社の規模は小さいですが、山椒は小粒でピリリと辛い、という言葉のように、技術開発面、商品づくりの面ではひと味違う、なるほどと思っていただけるような商品を、5000EXに引き続いて出していくつもりです。それを最終的にはお客さまに理解して、買っていただかなくてはいけないわけですから、ぜひ当社の姿勢について、ひとつでも多くの販売店様に理解していただき、少しでも多くのお客様に理解して買っていただいて、また次の取り組みへというサイクルを回していきたいと思います。御支援を宜しくお願い致します。

◆PROFILE◆

Shinji Yasuda

1970年パイオニア入社、1992年カー・エレクトロニクス事業本部 川越工場長、1994年ナビゲーションシステム事業部長、1998年Pioneer Electronics Asiacentre Pte.Ltd.取締役社長、2006年常務執行役員 ホームエンタテイメントビジネスグループ本部長 兼 大森事業所長、現在に至る。