エプソン販売(株) 田場 博己 氏
使い勝手をさらに高めて 家庭用プロジェクター市場に参入以来、エプソンではプロジェクター市場の裾野の拡大を戦略の中核に据えている。昨年発売したEMP−TWD1では、DVDプレーヤーとスピーカーを内蔵。普及の大きな障害となっていた機器間の接続の面倒さを解消し、ユーザー層を大幅に拡大した。プロジェクター市場は年々伸びているものの、まだまだその普及率は低い。本年4月に新たに取締役コンシューマ事業部長に就任した田場博己氏に同社の戦略を聞いた。 インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征 ―― 4月1日からエプソン販売のコンシューマ事業部長に就任されました。最初にご経歴を聞かせてください。 田場 私は1983年にセイコーエプソンに入社しました。ほとんどの期間、海外で仕事をしてきました。1986年にヨーロッパに展開しているエプソンの販売子会社のひとつに販売・マーケティング担当として赴任しました。 ―― 海外でもプロジェクタービジネスに関わられていらっしゃったのでしょうか。 田場 エプソンはもともとプリンターを中心にPCのペリフェラル事業を展開していました。ですから、プロジェクターを全世界で立ち上げようという時に、現地法人のなかには市場のことを良く知っている人があまりいませんでした。そこで私が全ヨーロッパでプロジェクターを売りました。これは私にとって、貴重な体験になりました。 ―― 国内の販売店を回られての印象はいかがでしょうか。 田場 どこの地域でも基本的なビジネスは非常に似ています。海外と国内での大きな違いは、エンドユーザーの特性と流通チャネルの二点です。まず、ユーザー特性では、可処分所得が比較的高いこともあって高額な商品が売れます。また、今すぐに必要でなくても将来使うかもしれない機能に対して、プレミアムを払って買っていただけるお客様が結構いらっしゃいます。 ―― 薄型大画面テレビの価格が急速に下がってきたことから、プロジェクターは少し苦しくなってきています。私は逆に、薄型大画面ユーザーはプロジェクター市場の潜在需要になるという認識を持っていますが、いかがでしょうか。 田場 プラズマや液晶テレビは、当初、20〜30インチ程度の画面サイズでした。それが最近では65V型が商品化され、試作品ベースでは100V型まで登場しています。薄型大画面テレビは、今、インチあたりの価格が1万円どころか、5000円程度のものまで出ています。でもプロジェクターとはまったく異なる商品です。 ―― 薄型テレビの大画面化が進んでいますが、家庭内で使用するという意味では限界がありますね。 田場 プロジェクターの最大の特徴は大画面化が容易だということです。60インチ以上、特に80インチや100インチといった画面サイズになってくると、プロジェクターは圧倒的に有利です。大きさや、重量を考えると、巨大な画面サイズのプラズマや液晶テレビを家庭内に持ち込むことは現実的ではありません。 価格帯的にも薄型テレビとフロントプロジェクターとでは全然違います。さらに可搬性の良さなど、プロジェクターの利点はいろいろあります。 ―― 問題はそれをいかにお客様にわかっていただくかということですね。 田場 プロジェクターによってもたらされる非日常的な感動や体感をどうやってお客様に伝えるか。家庭用プロジェクターの市場を拡大していくためには、そこが最大のキーポイントです。 ―― プロジェクターを簡単に楽しめるという点で「EMP―TWD1」は画期的な商品ですね。 田場 プロジェクターをもっともっと多くの人に楽しんでいただくためには、使いやすさや解像度など、メーカーとしても改善すべきところはありますが、その中でも最大の問題はケーブリングです。 ―― EMP―TWD1のような商品戦略が広がっていくわけですね。 田場 私はEMP―TWD1は家電に近い製品ではないかと見ています。と言いますのは、女性に限らずケーブルがあるともうお手上げという方が結構いらっしゃいます。これはある人に聞いた話ですが、お孫さんが遊びに来てテレビゲームを薄型テレビで楽しんだ後、そのままにして帰ったそうです。ところが、残されたお爺ちゃんやお婆ちゃんは、普通にテレビを見るのにどうしたらいいのかわからなくて途方にくれたそうです。 ―― 販促面での課題についてはいかがでしょうか。 田場 当社は1994年、業界に先駆けて、データ用プロジェクターのELP―3000を発売しました。その時に社内で議論になったことは、プロジェクターは実際に映してみないとわからないということでした。たとえば明るさを語るときに、何ルーメンと言っても、スクリーンの真ん中では何ルーメンだけど、端っこの方はそれよりも暗いということは実際に見てみないとわかりません。 ―― あらゆる商品で販売チャネルをどうするかは大きなテーマですが、プロジェクターのように新しい楽しみを提案する商品では特に重要ですね。 田場 流通政策という観点からのキーポイントはそこだと思っています。プロジェクターの大画面は体験してみてはじめて感動が伝わると考えています。そういう点では、プロジェクターを初めて出した時のチャネルの選択基準は、いまだにまだ活きていると思っています。EMP―TWD1のような商品といえどもそうです。 ―― 昔はどのオーディオ専門店でも必ず試聴室があって、そこで音を確認できました。プロジェクターでもそういった販売手法が必要だと思います。 田場 暗室を設けていただくことなどによって、プロジェクターの大画面を体験していただける販売店さんは全国で500店くらいあります。ただ、私もそこで見たりしていますが、お客様がまるで自分の家のリビングルームで見ているように思える、リアルな生活空間を再現するための工夫ももっと必要だと思います。 ―― プロジェクターに対する告知活動がまだまだ不十分ですね。 田場 私どもでもそこに努力してきたつもりですが、プロジェクターの存在そのものを知らない方がまだまだ多くいらっしゃいます。その人たちに対しては、プロジェクターはこういうものだということを告知することが必要です。その一方で、プロジェクターの存在は知っていても実際に購買にまで至らない人に対しては、実際に家に置いてみると、こういう臨場感があるということをやらなければいけない。その両方を同時並行的にやっていくことが裾野を広げることに繋がるのではないかと思います。 ―― 最後に販売店の皆様へのメッセージをどうぞ。 田場 ヨーロッパでは6年ほど前に、ようやく家電量販店でプロジェクターを置き始めるようになりました。その時は置いていただけるだけで驚きましたが、日本では暗室まで作っていただいている私どものパートナーさんが多くいらっしゃいます。これには本当に驚きましたし、非常にありがたいことだと思っています。 ◆PROFILE◆ Hiromi Taba |