受賞インタビュー (株)ディーアンドエムホールディングス 横尾 秦氏
新しい技術を提案し続け 初のフルハイビジョン対応DLPプロジェクターであるマランツのVP-11S1。その商品性能が高く評価され、ビジュアルグランプリ2006 SUMMERにおいては金賞をはじめ、ホームシアター大賞最優秀賞、批評家大賞に輝いた。VP-11S1の商品企画と技術について、そしてホームシアタービジネスの今後について、(株)ディーアンドエムホールディングスの横尾本部長にお話を伺った。 インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征 フルハイビジョンを実現した ―― ビジュアルグランプリ2006SUMMER、金賞受賞おめでとうございます。この商品は専門性も高く、審査員の方からの評価も満場一致で、批評家大賞にも選ばれています。ビジュアルグランプリの、特に三賞は販売という面と商品のクオリティという面と両方で評価します。その意味は非常に大きいと思います。この商品は、ハイビジョンに向ってのプロジェクターの流れの中で、ひとつのゴールを迎えたものという気が致します。 横尾 マランツは、1999年にプロジェクターの第一号機、VP8000というモデルを出しています。いろいろな制約がある中、思いきって立ち上げたDLPのプロジェクターでした。その2年後に今のシャーシを使ったVP-12S1を作っています。そこからが720pのパネルで、HD対応というものですね。 ―― 今回の商品の開発テーマについてお聞かせください。 横尾 準備に4、5年の時間をかけた1080pパネルを採用し世界で最初に発売、これが一つ。さらに1080pの画、フルHDの画をきちんと出したいというのがもう一つ。非常に難しかったですが、この二つが最大のテーマです。1080pの画をきちんと出すことを目指しましたが、何をもってきちんとした画なのかというと、課題になっていたのはノイズ感です。一番下の階調から一番上の階調まで全てきちんと出て、しかもデジテルノイズをできるだけなくしていく、これがエンジニアにとっては今回初めての領域までいきました。限られた時間のなかで最上のものをつくるため、必死になりました。とにかく入ってきた物を忠実に伝えること、お客様が喜んでくださる忠実さを目指し、そのためにノイズを減らす。階調をしっかり出して忠実に映像を表現していく。そこがポイントですね。 ―― 価格設定については、社内で議論はありませんでしたか。 横尾 もちろんありました。他社は他社、マランツはマランツのスタイルということで、この価格になりました。 エンジニアの技術と情熱で ―― マランツが映像に取り組まれたのは1999年からですが、商品にはプレミアム感があり、ホームシアターブランドの中でも大変バランスが取れていると感じます。音と画、両方ともに強い製品を持って、きちんと価値付けした選択をされています。それに対してユーザーが応えてくださっている。この短期間に、それだけのものを作り上げられたバックボーンは何でしょうか。 横尾 マランツとしましては、PHILIPSの世界戦略のなかで高画質技術の設計を担っておりましたから、違和感なく始めることができました。また通信機のエンジニアもいましたので、デジタル化に向かってディスプレイと高周波の技術を扱うことができ、技術的な要素が揃っていたと言えます。 ―― 直視管でなくプロジェクターを選ばれた意味はわかりますが、DLPを選ばれたポイントは何でしょうか。 横尾 DLPの良いところ、コントラストが非常によく出るというのが最大のポイントでした。最初に見た時、黒が締まっていることに驚きました。そこでDLPでと決めたのです。DLPを扱うテキサス・インスツルメントさんは、当時限られた会社にしかそのパネルを配らないということでしたので、それも一つの魅力でした。 ―― 商品の開発と、地上デジタルなどソースの動きが連動していますよね。そこは予想通りだったのでしょうか。 横尾 我々の社内の動きという点から見ると、正直なところHD化に対してはもう少し準備の時間が欲しかったと思います。そんな中でジェナムを選択しました。ジェナムは放送業界では実績があり、入ってきたものをとても正直に出す、加工しないことに専念していますから、マランツの方向と合っていると判断させていただきました。一緒にできてよかったと思っています。 ―― フルHDが必要だ、というのは、国内ではハイビジョンコンテンツがアナログでたくさんあって、お客様がすでに体験していた。そこからの要望が多いということもありますよね。 横尾 1080pについても、こうなっていくだろうということは予測がついていました。それをどのように具現化していくか、大きな投資がいることですから計画的にやる必要があります。
ホームシアタービジネスで ―― インストーラーさんに対して、商品企画の部分で配慮されたところはありますか。 横尾 新モデルはシャーシが同じですから、インストーラーさんも扱いやすいと思います。また光学系で、VP-12S3から12S4でレンズシフトの範囲が2倍になっています。インストールの現場では、天井の高さなどいろいろな条件が存在しますから、できるだけ天吊りポールを使わないですむよう配慮しました。RS232Cでの制御が安定できるように、また継続して同じソフトが使えるように心がけています。 ―― 他のコンポーネントとの連携についてはどういう取り組み方をしておられますか。 横尾 技術の横のつながりについては、良い方ではないかと思います。我々として何をしなくてはならないかは、エンジニアの一人一人に染み込んでいます。マランツがホームシアターのカテゴリーで何をアピールしていくかというと、プロジェクター、AVレシーバー、DVDプレーヤーを、それぞれ単体で訴求するとともに、ホームシアターシステムとしてお客様、ディーラーさんにいかに提案していくかが勝負だと考えています。そういう商材を使って、いかに差別化した提案を出していけるか、お客様の満足をいかにつかみ取れるか、そのための準備をいかにやっていくかが今後の課題だと思っています。 ―― ホームシアターを一通り揃えたお客様にとって、次のステップはリモコンだと思います。そういうソリューションがきっちりと揃えられて、ホームシアター文化もできていくのではないかと思います。 横尾 アメリカのようなインストール、とてもゴージャスな雰囲気、夢のある提案を国内でも行っていける余地はあると思いますね。 ―― 御社の12Sシリーズについては、購入されて持ち帰る方とインストールされる方の割合はいかがでしょうか。 横尾 おそらく今はインストレーションする方のほうが多いと思われます。12S1、S2、S3くらいまでは、持って帰られる方7割から8割いらっしゃいましたが、最近は半数以上、もしかしたら6割ほどの方がインストレーションですね。アメリカではほとんどインストレーションされています。 ―― インストーラーにとっての成功のキーポイントは何でしょうか。 横尾 一つは、提案できる人材だと思います。お客様とのコネクション、提案能力がある人材の開発は必要ですよね。そして、物件単価の高いお客様を獲得し常客化していく工夫。どうやって新規のお客様を開拓するか、工夫をされているところは強いと思います。 ―― 量販店さんでもプロジェクターは堅調に売れていますが、なかなか期待以上に伸びません。店頭に暗室を作るなど工夫をされても、プロジェクターよりも液晶、プラズマのほうが売りやすく、そちらに流れてしまっている傾向があります。 横尾 一昨年くらいから、プラズマ、液晶テレビが非常に増えてきていますから、世の中がそちらの方向に流れているのは我々も認識しております。それでプロジェクターはというと、昔からの堅実なマーケットの中で、どうやって投資し回収していけるかを今問われていると思います。ここが正念場ですね。 ―― では最後に、受賞のご感想をお聞かせください。 横尾 個人的にも大変嬉しかったですし、関係している人間も皆驚いていました。小さいメーカーで少ない人数で必死になって取り組んできて、オフィスの中でも「やった」という雰囲気でしたよ。本当にありがとうございます。 ―― これからの御社のご活躍も期待しています。本日はありがとうございました。 ◆PROFILE◆ YOKOO YASUSHI |