シャープ(株) 国内営業本部 副本部長
兼 シャープエレクトロニクスマーケティング(株) 取締役社長

岡田 守行
Moriyuki Okada

アクオスは始まったばかり
周辺機器を含めた提案で
ナンバーワンを継続する

液晶テレビ「アクオス」を世に放ち、薄型テレビの大ブームを牽引すると同時に、国内テレビのシェアNo.1の地位を獲得したシャープ。テレビの大画面化とともに価格低下が加速する昨今、商品の差別化提案が求められている。そんな中フルハイビジョン化を積極的に推進するとともに、新提案「アクオスファミリンク」を打ち出した同社の今後の戦略について、シャープエレクトロニクスマーケティング社長の岡田氏に伺った。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

―― まずご経歴につきましてお伺いしたいと思います。

岡田 私は最初に販売会社にいましたので、大手流通の皆様にお世話になりました。その後、首都圏の責任者の時には、地域店や法人関係の方々とお付き合いをさせていただき、国内のチャネルはほとんど勉強させていただきました。

オーディオ事業部に移ってからは、ヨーロッパ、アメリカのビジネスで日本以上に対流通、販売会社についての勉強をさせていただきましたし、何よりモノをつくる苦しさと楽しさを味わいました。その頃アクオスが立ち上がり、薄型テレビのシアターシステムなどを手掛けました。そして、国内営業本部の副本部長として、全社的な事業の中で自分が預からせていただいているポジションと役割というものを再認識致しました。そして現在は、国内市販の販売会社の責任者を担当しております。

―― 正にアクオスの成長とともに国内の成長をご経験されたわけですね。

岡田 売上げ規模も大きくなりましたし、販売手法も進化しました。社員の考え方やモチベーションも変わりました。そういう意味でも、非常にいい時期に経験させていただいたと思います。アクオスでは、苦労の成果として、国内シェアナンバー1となることができ、これからますます拡大させていかなくてはなりません。

けれどもアクオスは始まったばかりで、ようやく周辺機器などもご提案できるようになったところです。今後が楽しみです。

―― アクオスがここまで来る過程で、シャープの企業体そのものも激変したと思います。そのあたり、企業全体が発奮されたのはいつ頃からなのでしょうか。

岡田 販促策として「アクオス ビッグバン」キャンペーンが国内でスタートしたのが2001年です。その頃から、それまでディスプレイのイメージだった液晶を「テレビ」として認知していただけるようになったと思います。また、アクオスブランドとして展開し、ブラウン管を含めたテレビでシェアナンバー1になった2003年頃から手応えが感じられたと思います。

家電の王様であるテレビでシェアナンバー1になれたということが大きな自信になりましたし、これを継続して行くことがさらに大切であると考えております。家電には必ず買い替え需要がありますが、最初に買っていただくと、次に買っていただくチャンスも増えてきます。ですからシェアナンバー1を最低7年、8年と続けないと意味がありません。2003年にシェアナンバー1になれたことで、国内営業の雰囲気も変わりました。

――  「アクオス」の名称にはどんな意味が込められているのですか。

岡田 「AQUA」の造語です。液晶の持つピュアなイメージと水を結び付けたものですね。これから新しく全国垂直立ち上げをして行くというタイミングでアクオスブランドを打ち出しました。

それから2年でシェアナンバー1になれたわけですが、当時は苦労もありました。今の苦労は競争に対するものですが、当時は前人未到の道を歩いて行くような感覚でした。店頭にはブラウン管しかないという状況の中で、これから薄型ディスプレイの時代が来ると、ご販売店様に説明させていただいていました。会社のトップの方や店長、地域店の皆様方、いろいろなご販売店様と液晶テレビの成長性について対話を繰り返し、特にこれからは液晶テレビの時代になるということを信じてやり抜きました。今思うと懐かしいですね。

―― そしてナンバー1となった2003年から2005年で、ラインナップを揃えてきたわけですね。

岡田 そうです。それまで独立独歩の状態でおりましたのが、各社が参入されて競争の世界に入ってきました。プラズマも出て来て、小型が中型、大型になってきて、ボリュームゾーンも変化しました。あらゆるところで競争が激しくなってきて、その厳しさを日々感じています。

―― 昨年の暮れくらいから大画面化が加速し、30インチ以下クラスの価格低下が進みました。そして亀山ブランドが立ち上がり、フルハイビジョン化も加速したわけですね。

岡田 フルハイビジョンについては意図的にアピールさせていただきました。それに対して、特に流通の方々が一見して分かり易く、また面白い商材であるという認識をしてくださいまして、予想通りの伸長を遂げることができたのです。当社の国内営業本部長の大塚が、2006年度末までにシャープのテレビを全てフルハイビジョンにすると宣言しておりますが、ほぼその通りに進んでおります。

―― 「亀山ブランド」という言葉をお使いになったのはいつ頃でしょうか。

岡田 2004年の1月に亀山第一工場が立ち上がり、3月頃から中部エリアのご販売店様で「亀山ブランド」という言葉を最初に使っていただきました。もともと弊社の液晶テレビを中心に扱っていただいて、名古屋を基盤に営業しておられるご販売店様が、「地元のテレビ」と最初から言ってくださっていました。その中で「亀山」という言葉をポップにつけてくださって、それが環境にやさしい工場であるとか、省エネ、高画質というメッセージにマッチして、お客様からの信頼感を得ることになったのです。

そして弊社の営業部隊がこの成功事例を一気に全国にアピールしました。また「亀山」とは何であるかということを、もう一度北海道から沖縄まで全国のご販売店様に再認識していただいて、工場のすばらしさ、本当にビジネスにつながるのだということをセールス一人一人が体験しながら実感して行ったのです。それが本社にフィードバックされ、広報レベルでも「亀山」がキーワードの1つとなりました。

―― 最近ではご年配のお客様からも「亀山ブランド」という言葉が出ており、随分浸透したと思います。最新鋭の工場であることとメイド・イン・ジャパンの好イメージを凝縮させたような感じですね。

岡田 まさにその通りです。それが安心感、信頼感につながっているのです。そして全国の流通の方を亀山工場にお呼びして、工場自体を体験していただくということも徹底的にやらせていただきました。そして皆様がすごいと実感していただいたことを、地元でも言っていただくことにより浸透を深めました。

―― 吉永小百合さんのイメージも強く浸透していますが、いつ頃から起用されたのですか。

岡田 1999年からですね。もう7年目になります。

―― 彼女の起用は大成功でしたね。我々の世代はもちろん、若い人にもご年配の方々にも知名度が高いですし、どなたにでも好かれる存在です。そのイメージが「亀山」、「アクオス」とうまく結びつきました。

岡田 そうですね。続けて起用させていただくことで、ますます亀山=吉永小百合さんのイメージが強固なものになりましたし、信頼感につながったと思います。これは非常に大事なことです。

10月1日より亀山第二工場の商品を発売させていただきますが、店頭展示などでも繰り返し露出させていただこうと思っています。ここまで浸透して評価していただいているものは、もっと強化しなければならないと思います。

―― 今回の新商品では、テレビに絡めて「アクオスファミリンク」のご提案をされました。あらためてご説明いただけますでしょうか。

岡田 現在「アクオスファミリンク」をご販売店様に提案させていただいていますが、大変高い評価をいただいております。薄型テレビ単体では単価下落が大きく、利益がきちんと確保できないという悩みがありますが、「アクオスファミリンク」を提案することにより、レコーダーやラックとのセット販売ができ、単価アップを図ることができます。映像と音と録画・再生を連携させることにより難しい操作がリモコン1つで操作できるので、ユーザーには非常に優しく、フレンドリーな機能として提案ができます。今商談をしているところですが、我々の想像以上に高い期待を持っていただいています。

「アクオスファミリンク」は日本で一番売れているテレビを核に推進でき、ユーザーへのメリットをきっちり説明することにより販売促進を強化しており、またご販売店様にも賛同をいただいております。弊社の営業も説明しやすいですし、大変手応えを感じているところです。

―― 今回の商品には、1ビットデジタルアンプが搭載され、音質にも注力されていますね。

岡田 おかげさまで音に対しても高い評価をいただいております。1ビットはシャープのオンリーワン技術で、ラックにも搭載しました。このラックはテレビで視聴している放送コンテンツの種類によって、最適なモードを自動設定します。ご販売店様からの反響も大きいですね。もっともっと、流通にもお客様にもアピールしていかなくてはならないと思います。

―― アクオスが立ち上がって以後、独走から競合へと環境が様変わりしましたが、競合戦略、差別化戦略についてはどのようにお考えですか。

「亀山」ブランドでテレビ本来の性能である高画質を謳い、他社とは違う差別化、またアクオスファミリンクによるシステム提案での差別化を図りました。そして、対流通では売り場の中で一番いい場所をとっていただけるように営業活動をしてきたつもりです。

競争が激しくなっても、そういう風にこれまでやってきたことをきっちり進めていけば、ナンバー1であり続けることは可能だと確信しています。流通からもそれだけ評価していただいているということは、我々も感じています。決して油断することなく取り組んでいけば、道は開けると思います。

まずお客様が店頭に来ていただけるような環境をつくるため、「亀山」「吉永小百合さん」でアピールするとともに全社一丸となって取り組んでいくことが大事だと思います。そして事業部がしっかりと商品をつくり、我々がしっかりと営業に取り組んで行けば、負けることはないと考えています。

営業的にはシェアをとることも大切ですが、ご販売店様に地道な提案活動をきちんと継続していくことが最終的にシェアとして現れるものだと考えています。

―― アクオスのイメージを徹底的にアピールするということと、商品のラインナップ戦略も大事ですね。ややもすると商品の幅を拡げすぎて足を引っ張り合い、求心力を欠くことになりがちです。

岡田 アクオスを推進する際、社内では恷Oつコブらくだ揩ニして提案するようにしています。サイズ別の販売動向は、40インチ以上の大型ゾーン、37インチのボリュームゾーン、そして20インチ以下のセカンドニーズのゾーンの3つのコブがあり、この3つのコブでの商品ラインナップを揃え、用途別にきちんと提案できることが勝負に勝つポイントとなります。

おっしゃるように無駄のないラインナップを揃えることは大変大事なことだと思いますので、3つのコブの中でお客様に上手に提案していきたいと考えています。我々自身も事業部に対して、こういうラインナップが欲しいのだということを常に言っています。そして3つのコブ全部で勝てるということが大事だと考えています。

―― 2003年から2005年までの3年間、アクオスは破竹の勢いで成長し、ある到達点に来ました。次の2006年から2008年までの3年間は、その地位を安定させていく時期ではないかと思います。

そして2009年からの3年ではいよいよ2011年が来ます。地デジの最終コーナーでまた大きな盛り上がりとなり、成長が期待できますね。

岡田 10月1日に亀山第二工場の商品が発売されます。37インチ以上のゾーンできちんと提案ができるのも、これからが勝負です。これまでは32インチあたりがボリュームゾーンでしたが、早晩40インチ台があたりまえになるでしょう。そうなると楽しみです。メインとなる40インチ台は、ほとんどのご家庭にとって1台しか入れません。そうすると寝室で30インチ台、子ども部屋で20インチ台とまた買っていただけるチャンスがある。これには営業的なことでサポートやサービスをきちんと行っていく必要があります。

とにかく最初にアクオスの大型テレビを買っていただくことの重要性は、想像以上に高いと思います。

―― 今、徐々に海外の低価格液晶テレビが入って来ていますが、その動きをどのようにご覧になりますか。

岡田 国内のユーザーは、目も耳も感性も豊かで、いいモノを見極める力を持っておられますし、購入される財力もお持ちです。そしていいモノを買うことに対する満足感を感じておられます。実は今回提案させていただきましたアクオスファミリンクに加えて、新しいラックを提案致します。

薄型テレビというのは、そもそも夢の壁掛けテレビと言われていました。実際、アクオスを購入された方の3人に1人は壁掛けを考えたことがあるとおっしゃっていますが、ほとんど断念されています。液晶テレビはもっと軽く、もっと薄くできますし、壁掛けテレビと言っていた初期の志を考えますと、我々としてもぜひやってみたい。そこでラックごと壁に寄せるという考え方で、ラックでアクオスの壁掛けを実現しました。これを亀山第二工場のモデルがスタートする10月に合わせて、バリエーションを揃えるべく準備しています。

価格の安さだけを求められることを否定はしません。しかし、夢の壁掛けテレビというようなライフスタイルを求める潜在需要も大いにあります。こう考えますと、日本メーカーの優位性と知恵、技術力はもっと活かすことができると思うのです。低価格商品との価格差は、こういった提案力や商品のスペックといったことで十分お客様に納得していただけると考えます。

―― アクオスでは当初からインダストリアルデザイナーの喜多俊之先生を起用され、ライフスタイル提案という点においても注力されていました。今度の壁寄せラックも優れたライフスタイル提案だと思います。こちらもデザインは喜多先生なのですか。

岡田 今回はデザイン監修を喜多先生にやっていただきまして、いい商品に仕上がりました。10万円台で提案させていただいておりますが、買っていただけるチャンスは大いにあると思います。

―― テレビが大型になればなるほど、デザイン的要素も大事ですね。

岡田 その通りです。コードを見せない、足周りを美しくする、壁にぴったりと付いた形にするなどの配慮をし、アクオスのイメージにぴたりと合うようなラックです。ぜひご期待いただきたいと思います。

―― 今後も御社のご活躍に期待しております。本日はどうもありがとうございました

◆PROFILE◆

Moriyuki Okada

1954年生まれ。1977年シャープ(株)入社。東京中央シャープ販売(株)、シャープライブエレクトロニクス販売(株)を経て、1999年7月シャープエレクトロニクスマーケティング(株)取締役 首都圏統轄本部 第三営業統轄部長に就任。2001年10月専務 首都圏統轄本部長。2002年4月専務 第二営業本部 東日本担当。同年7月シャープ(株)AVシステム事業本部 オーディオ事業部長。2004年4月シャープエレクトロニクスマーケティング(株)副社長。同年10月現職。