ヤマハ(株) 執行役員 AV機器事業部長

関口 博
Hiroshi Sekiguchi

音へのこだわりと
ライフスタイル提案とを融合
新たな価値を市場に放つ

ホームシアターシステムの新市場となったフロントサラウンドの分野を切り拓いてきたYSPの充実、AVアンプをはじめネットワークオーディオに積極的に対応した商品展開、さらに音のクオリティとデザイン性を融合させた新スピーカーSoavoの登場、とさまざまな分野で気を吐くヤマハ。楽器メーカーとして音へのこだわりを持ち続けながら、生活空間に溶け込むライフスタイル提案を次なるテーマとし、次々に意欲的な展開を見せている。そんなヤマハの今後の取り組みについて、AV機器事業部長の関口氏にお話を伺った。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

お客様に商品の価値を伝え
その声に日々応えて行く為にも
啓蒙活動は欠かせない

―― オーディオ復活の流れとともに、「2007年問題」が絡んで市場の期待感は高まっています。

関口 オーディオとともに、ホームシアターに引き続き大きな期待をしています。ホームシアターの牽引役となっているのは薄型テレビですが、この先一般家庭でも大画面、高画質、高音質のインフラが整っていき、さらに需要は本格化すると思います。我々はその中で、もう少し人の生活に溶け込んだライフスタイル重視の提案が必要であると考えています。その意味でも、AVアンプやスピーカーを中心とした本格的なシステムがある一方、フロントサラウンドの分野の存在は大きい。そうした新市場を牽引する意味でも、YSPについてはライフスタイル訴求をしっかりやっていきたいと思います。

―― フロントサラウンドは御社を含め、各社から様々に提案されて来ましたが、フロントサラウンドの商品形態でありながらリアルサラウンドで展開できるのは、音にこだわってこられた御社ならではですね。

関口 生活の中で音に求められていることは様々あります。今回の新製品YSP―1100では最大特徴のリアル5・1サラウンドの使い易さを向上させる新たな特徴を加えました。すなわち「マイビーム」という特定の視聴者に向けて音が効果的に届く機能を付加しました。これはYSPを購入されたお客様が普通のTV放送を見ることも多く、その際に便利な機能ということで、お客様の使い方がフィードバックされて機能に反映したものです。

―― 音元出版は昨今、「2WAYシアター宣言」として、より質を高く、リビングの生活空間の中でホームシアターを楽しむことを提唱していますが、その中で、音を視聴者の周りで局所的に再生させる「パーシャルサラウンド」ということがポイントとなると考えています。「マイビーム」というのは、正にそういった考え方ではないでしょうか。

関口 YSPはワンボディのサラウンドサウンドシステムですが、リアル5・1チャンネルを再生する独自の技術的特長がある一方、薄型テレビを普通に楽しまれる顧客へのアプローチも大事と考えました。テレビが大画面になるにつれ、視聴者との距離が広がることで音も大きくなりがちです。そこで、夜間等に音量を絞っても特定の位置にきちんと音が届くようにしたのがマイビームです。テレビの音を楽しむライフスタイルの中に、一つの価値提案ができたのではないかと思います。

―― 今後の展開を、商品カテゴリー別にお聞かせいただけないでしょうか。

関口 YSPは、その素晴らしさをいかに広く知ってもらえるか、認知拡大がテーマです。ここ1〜2ヶ月でヨーロッパの主要市場とアメリカ、日本をまわってきていますが、各市場の有力店では効果的なマーケティングインフラが確立できたと実感しています。現在は、YSPをお客様へ的確にアピールできる状態を保ちながら、いかに展開を拡大するかを考えるステージと思います。

また、流通からは薄型テレビの価格が下落する中で価値アップが出来る商材としてもご理解をいただいています。この市場は大変に伸びている市場ですが、今後いろいろとラインナップを考えるときに、単に価格を下げるのではなく、お客様への価値を高める形でアプリケーションを増やして行きたいと考えています。特に、薄型テレビ時代では、映像・音響・ラックのトータルコーディネーションはお客様の大きな関心となっています。YSPの展開では簡単設置を特徴としたレイアウトフリー訴求と、AVラックとの一体セット化によるライフスタイル訴求とで顧客ニーズに合わせた展開を進めていきます。

また、オーディオ全般で言えば、活性化している市場への取組みとして、DAPやインターネットの音楽に対しても音質向上とライフスタイルへの適切な対応が必要です。コンパクトサイズながら独自のSRBスピーカー技術で実現した小型高音質のマルチメディアスピーカーには、今後更に力を注いでいきます。音楽ネットワーク配信への対応については何年も前から需要創造の為の様々な提案をしてきましたが、ここ一連の製品ではそうした機能を新たに搭載したインターネットレシーバーを商品化することで、新しいオーディオの提案を進めています。新しいオーディオのムーブメントがあり、お客様の音楽の楽しみ方にも多様なニーズがあります。そうした動きをどう捉えてメーカーとして対応して行くかがこれからの課題です。

我々は、製品の音質にこだわってきましたが、更にデザインの要素にもこだわりを持ち続けています。そうした意味ではコンパクトマルチメディアスピーカーNX―A01がイタリアのオーディオデザインの賞を、また国内ではNX―A01とともに新しいナチュラルサウンドスピーカーSoavoがグッドデザイン賞をいただいたのは、我々の姿勢が市場からも評価いただけた結果と考えています。生活空間の中で大きな存在となるスピーカーに対し、お客様に持つことの喜びを感じていただくためにはデザインは重要なのです。SoavoやNX―A01はそこにもこだわって企画されています。

―― AVアンプについては、御社は今年DSP20周年を迎えました。今のデジタルマルチチャンネルによるホームシアターは、ヤマハの音場創成がスタートになっているといっても過言ではありません。AVアンプがしばらく踊り場にあった理由のひとつにフォーマットが定まらないという部分がありましたが、そこが一つになってきています。従来からのお客様の買い換え時期と重なり、ここに商品があれば市場が活気づくのではないでしょうか。

関口 そのとおりだと思います。メディアが次の世代に変わる。映像もフルハイビジョンになってきて、商品もそれに対応した内容が求められる、というところにきていますね。

また、メディアが変わるということで音楽を楽しむスタイルやコンテンツも多様化してきている中、ヤマハは携帯音楽プレーヤーやインターネットラジオを楽しめるようにも対応をしています。ここでもヤマハ独自のこだわりを持って商品を開発しており、今回は、圧縮音源に対する高音質化にはかなり力を入れました。今のAVアンプはこうした時代を反映して機能が増えていますから、そこをどう使いやすくするか、またマニアの方々から一般のお客様までどう満足していただくか、方向性がいろいろあり、ニーズをよく見極めていく必要があります。

―― Hi-Fiオーディオについては、Soavoを発表されて、あらためて高級オーディオの世界にも力を入れられてきました。2chを含めた音楽再生について今後の展開はいかがでしょうか。

関口 世界的に2chHiFiへの注目が高まりつつある中で、強化・充実したいと思います。我々はもともとホームシアターも高音質オーディオの一つとして捉え、音質向上を図ってきたわけですが、その意味では2chにせよ、マルチチャンネルにせよ、Hi-Fi高音質で音楽ファンの要望に応えるモノでなくてはなりません。

―― 今後薄型テレビとともにリビング空間に入ってきますと、デザインはますます重要な要素になってきますね

関口 オーディオマーケットは成熟していますが、今こそ大切なのはお客様にとっての新たな価値の実現です。日本をみると、2007年問題でかつてオーディオにこだわった方々がもういちどオーディオに目を向けるようになると言われていますが、それに対して我々がどう市場の動きを受け止めて、それに応えて行くかが重要であると考えています。

ヤマハはかねてより「ナチュラルサウンド」のコンセプトで長年に亘って商品展開をして参りましたが、そのもっとも重要な商品カテゴリーはスピーカーであると思っています。我々は楽器メーカーとしてオーディオを展開している世界で唯一の会社です。楽器造りを原点に、音や音楽に携わるメーカーとしての100年を越える蓄積が様々な部分に存在します。新たな顧客価値の実現ということを考えて、楽器メーカーならではのそうした蓄積を生かして開発したのがSoavoです。楽器造りの匠の技を生かし、音楽性、中でも人の歌声をよりよく再生するということをめざしましたが、それはもっとも難しいことであり、だからこそそこにこだわりました。

音楽再生能力に加え、存在の大きいスピーカーをいかに生活空間に馴染ませるかにもこだわりました。音響特性の為に平行面を排除した木組み構造を採用しましたが、仕上げとデザインに徹底的にこだわり、そこにヤマハの木工技術を生かしつつ対応し、音響的な裏付けとインテリア的アプローチをうまく組み合わせてまとめました。

―― マーケットの環境も整ってきて、商品も揃ってきました。ヤマハの展開にさらに期待がもてますね。年末に向けてキャンペーン企画などはいかがでしょうか。

関口 商品も多岐に渡っていますので、お客様のセグメントに合わせた試聴会や体験会、更にホームシアターの啓蒙催事等を企画しています。YSPに関しては全国のYSP展開店で恆フ験デー揩実施して更なる認知促進を図ります。また、Soavoでは全国での試聴会の企画の他に、発売を記念してプレミアムCDを作りましたので購入者にプレゼントします。ホームシアターを取扱う専門店様向けの施策としては、今月、dシネマショップに対する研修会を行い、そこでホームシアター20周年を迎えるヤマハの考え方を訴求した他、啓蒙活動の一環として『お父さんのための、ホームシアター講座』も東京・大阪で12月に開催致します。また、マルチメディアスピーカーも含めて様々なサウンドライフスタイル提案という意味から11月に行われる怎Cンテリアショー揩ヨの出展も考えています。

―― オーディオの盛り上がりや、DSPの立ち上げの時期なども、全国でそういったイベントを行われた積み重ねがあってこそだと思います。

関口 今の潜在的なユーザーデマンドを顕在化させるためには、もともとのオーディオビジネスの原点に立ち返って、地道にしっかりやっていくことが重要だと思います。

―― こういう活動で、新しいお客様の層にもアピールできますね。

関口 ある程度物質的に欲求が満たされると、次は感性の時代になる。テレビが大型化されていくと、次は音に注意が向くのではないでしょうか。それが価値あるものだとお客様にわかっていただくためには、啓蒙が必要なのです。啓蒙活動と物作りは車の両輪ですね。技術の進歩とともにものづくりは懸命にやって行くわけですが、その市場が成熟してきた場合には、新たな価値創造の為の啓蒙活動をやって新しいお客様に伝えて行かないと、市場は発展しません。

―― 最後に、国内のご販売店にメッセージをいただけますか。

関口 ホームシアターをはじめとして、団塊の世代を筆頭に、“音”にこだわるお客様が戻ってきたとき、そのお客様の要望に応えなければビジネスは発展しません。お客様の感性に訴えて、体験していただける場を提供することは重要です。また、お客様のライフスタイルまで考えた提案が併せて重要と思います。私どももその辺を十分に考慮した上で、積極的に展開していきたいと思いますので、そこはぜひご協力をお願い致したいと思います。本日は有難うございました。

◆PROFILE◆

Hiroshi Sekiguchi

1949年5月生まれ。東京都出身。74年4月1日ヤマハ(株)入社。00年6月AV・IT事業本部営業本部副本部長兼営業本部AV海外営業部長、01年3月AV・IT事業本部営業本部本部長、02年6月執行役員、03年5月AV・IT事業本部長兼アジア・中国室長、04年2月AV・IT事業本部営業統括部長。06年1月AV機器事業部長、現在に至る。