アキュフェーズ(株) 齋藤 重正氏
メカの自社開発は 大きな話題と注目を集めたアキュフェーズ自社開発によるSAーCD/CDドライブを搭載した新製品DPー800/DCー801がオーディオ銘機賞2007金賞を獲得した。オーディオファンから絶大なる信頼を得るアキュフェーズという看板を背負い、メカの自社開発に踏み切った英断。その背景、ならびに商品への想いについて、齋藤重正社長に話を聞く。 ―― 御社SA―CDトランスポートDP―800と、プロセッサーのDC―801が、オーディオ銘機賞2007金賞を受賞されました。おめでとうございます。 齋藤 有難うございます。選者の皆様に心から感謝申上げます。最初のCDプレーヤーDP―80/DC―81を発売したのが1986年7月ですから、あれから20年経ちまして、ようやく自社で開発したSA―CDのドライブ・メカを搭載した製品を発売することができました。金賞の受賞は大変に名誉なことで、感激しております。 ―― フラッグシップの最新バージョンの商品として、アキュフェーズの力作という点に大きな評価が集まりました。中でも注目されたメカの開発の経緯についてお聞かせください。 齋藤 今までの製品に使用してきたメカはソニー様から供給を受けて参りました。CDプレーヤーというのは電気的なところがたいへん多い商品ですので、当社のような電気主体のメーカーでも多分にノウハウを注ぎ込むことができ、お客様からもアキュフェーズ製品として高い評価を頂戴して参りました。 しかし、4年程前にソニー様から諸般の事情で生産を中止するという通告を受けました。しかも、SA―CDと同時にCD専用メカも中止とのことで、一時は途方に呉れてしまいましたが、大事な柱を失うことはできませんので、国内はもとより、海外も含めてメカ入手の可能性を徹底的に調べ上げました。幾つかの候補がありましたが、何れも帯に短し襷に長しでした。中にはかなり可能性の高いものもありましたが、最後の数の段階で年間何十万台ならと、当社のように数百台の規模では歯牙にもかけられないものでした。 ―― それでいよいよ自社で開発する決断をされたわけですね。 齋藤 機構設計を充実させるため、10年ほど前に長年メカ関係を設計していた技術者を入社させておりましたので、彼を中心に開発する決断をしたのが4年前です。企画や構想に1年、実際の開発に3年を要してようやく今年、商品化に至ったというわけです。CD専用機も並行して開発を進めて来まして、買い溜めたメカが無くなった直後に発売と、滑り込みセーフの状態でした。 当社では、毎年設備と金型に約5000万円の予算を計上しておりますが、メカ開発にはこれを上回る投資が必要でしたので、相当な覚悟を強いられました。創業時以来の決断だったと思います。そして、何より、きちんとした性能を確保できるかどうかが一番心配でした。 もうひとつ、このプロジェクトを推進できた大きな要因は「トラバース・メカ」に関しては引き続きソニー様が供給してくれるという確約を下さったことです。 ―― 商品価格も特別に跳ね上がってしまうのではないかという点が気がかりでしたが、そうしたこともありませんでした。 齋藤 これまでのDP―100とDC―101の組み合わせが150万円。DP―800とDC―801で180万円ですから、確かに高価ではありますが、現実的な価格に抑えることができたと思います。CD専用機についても、DP―67が36万円ですから、あまりかけ離れた価格設定とするわけにもいきませんが、DP―500もなんとか40万円という価格でおさめることができました。 ―― 製品にいろいろな想いが込められているのではないかと思います。お聞かせください。 齋藤 まず、SA―CDトランスポートを搭載したDP―800に関しては、やはりSA―CDという高速回転で、しかも高密度の信号を、いかに効率よくピックアップするかに重点を置きました。今までいただいていたメカでも苦労しているところがありましたので、自社開発するならそこもクリアできるレベルまで持っていきたい。具体的には外部振動を受けないがっちりした筐体構造、高剛性・高精度の加工、逆に振動構造の「トラバース・メカニズム」は積極的に軽量化して、ローディング・メカからフローティングさせた分離構造とするなど、メカとしてはかなり面白さがあるとおもいます。 従来のSA―CDプロセッサーはマルチビットのDACを使っていましたが、DC―801は新開発の再生方式MDSD(Multiple Double Speed DSD)を搭載し、遅延器と8回路並列駆動のD/Aコンバーターの組合せで移動平均フィルター回路を構成し、DSD信号を直接D/A変換、さらに高周波領域の不要ノイズを低減させるという、たいへんユニークな技法を採用した製品です。 ―― 今までのプレーヤーの流れを受けた集大成、並びに新世代のモデルと考えてよろしいでしょうか。 齋藤 その通りです。これが新しい基準となり、今後、発展させていきたいと思いますし、ゆくゆくは一体型のモデルも発売していきたいと考えています。 ―― SA―CD/CDメカも進化させていく予定ですか。 齋藤 まずCD専用製品ですが現行のDP―57/67のメカが、先程も申したとおり、予定より1年も早くなくなってしまい、自社開発のメカを急いでいること、そして本命のSA―CDメカが始まるわけですから、もうたいへんです。メカ生産は一応順調にスタートしていますが、1ヵ月の生産量は限られておりますので、わき見をする余裕はありません。また、部品メーカーさんに対しても限界の精度を求めていますので、音を上げるギリギリではないでしょうか。 ―― しかし、アキュフェーズは、メカものははじめてとなるわけで、ここでも非常に高い評価が集まりました。 齋藤 お話したように、メカをやっていた技術者を採用していたのでできましたが、当社の電気系の技術屋だけではできませんでしたね。ただ、走り出した以上は、きちんと育てていく覚悟です。 ―― お客様の反響はいかがですか。 齋藤 非常にいいですね。電気メーカーがメカをよくやったと拍手喝采いただいています。お客様も、すっかりアキュフェーズのファンで、われわれを信じ込んでいるようなところも見受けられます。「よーし、よくやった。それでは買おうか」というお客様もいらっしゃいます。ですから、逆に怖いですね。アキュフェーズという看板を背負っている。中途半端なものは決して許されません。不安がないといえば嘘になりますが、万全を期して、慎重に慎重を重ねて取り組んでいます。 ―― 市場導入や展示についてはいかがですか。 齋藤 現在、営業が各販売店に持ち回りしているところです。展示に対する注文も順調ですし、発表してすぐに、購入の注文をいただいたお客様もありますし、当面は、生産に追われる状況になりますね。 ―― 新生代の商品として、デザインもこれまでにない斬新な形で表現したいといった意見はありませんでしたか。 齋藤 当社は30周年のときに、記念モデルとしてC―2800とM―8000という商品を発売しました。そのときに、おっしゃるように斬新なデザインで、というような案もありました。しかし、当社のお客様は長い年月をかけて揃えてくださる方が大半ですので、新しいデザインがどんなに優れていても、連続性が無ければ受け入れてもらえません。今回の新製品も、この30周年モデルと同一カテゴリーですので、これを踏襲しました。特に木製ケースはC―2800で採用したところ、たいへん好評でしたので、今回の製品にも踏襲しています。 ―― ハイエンドのオーディオ市場で期待されている、いわゆる団塊世代のリタイアに伴う07年問題の影響についてはどのように見ていますか。 齋藤 購買力があるのであれば、自然と出てくるものだと思います。また、オーディオやビジュアルに目を向けていただければ、それはうれしい話ですが、すべてのホビーに関わってくることですし、ライバルは多いと思います。また、アキュフェーズの場合には、毎年全世界で最大6000人ほどのお客様を探していく規模ですので、大げさな数字ではありません。一過性の数字に惑わされることなく、地道に普段の営業を続けて参りたいと思います。 ―― 年末、来年に向けての抱負と戦略をお聞かせください。 齋藤 今お話した通りですから、アキュフェーズには、特別な戦略といったものはありません。経営計画、新製品計画に沿って、営業活動を日々行っていくだけです。SA―CD/CDメカというまったく新しいジャンルにこれから手を染めていくわけですから、そこは何が何でも育てていきたいと思います。 商品ジャンルで見ますと、パワー、プリ、インテグレーテッドのアンプにチューナーと、何れも順調に推移しています。また、新しいひとつの柱となってきたのがデバイダーやイコライザーで、ここはもっと充実させていきたいと思います。 ピュアオーディオの商売を一貫してやってきて、間違いはなかったと確信しています。2チャンネルの見通しも、市場として盛り上がりの気運を見せていますから、今後ますます一生懸命力を入れて頑張っていきたいと思います。 ―― 最後に販売店へのメッセージをお願いします。 齋藤 メーカーと販売店が協力してお客様に品物を渡していくわけですから、メーカーと販売店とは不可分の関係だといつも思っています。販売店の方の期待・応援にお応えしていくためには、お店がお客様に本当に渡したいという製品を、メーカーとして責任を持って造っていかなければならないという決意を新たにしました。来年もピュアオーディオ発展のために一緒に頑張っていきたいと思います。 |