ソニー(株)
オーディオ事業本部 ホームオーディオ事業部 事業部長

大津 雅弘
Masahiro Otsu

音楽を楽しむクオリティをコンパクトサイズで実現
これぞソニーのオーディオ

デジタルオーディオプレーヤーが席捲し、縮小の一途をたどっていたピュアオーディオ市場に、団塊世代の回帰を覗う新しいオーディオ商品が続々と登場してきた。そんな中、ソニーから、現代が求めるオーディオの象徴とも言える新たなコンポが誕生した。置き場所を選ばないコンパクトサイズ、高音質を実現させた「System501」だ。手がけられたのは同社オーディオ事業部長の大津氏。就任以来、ソニーのピュアオーディオを大きく加速させるべく活躍されている大津氏に、この画期的な新商品が切り拓く新たなオーディオの姿を語っていただいた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

奥行き25cmへの大きなこだわりが
デジタルとアナログ技術の粋を結集
高音質コンポの新たなサイズを生んだ

―― 10年程前に我々が提唱した「ハイコンポ」というオーディオのカテゴリーが生まれました。当時オーディオはフルサイズ単品コンポとミニコンポしかないといった状況の中、ハイクオリティ、ハイデザイン、簡単操作、リーズナブルプライス、といった条件を満たす新しいカテゴリーとして、ひとつの市場をつくりました。今回御社が出された商品は、まさに現代のハイコンポだと思います。

大津 コンパクトサイズで本格的なコンポーネントを、というコンセプトはまさにハイコンポそのものだと思います。ただ当社もこのカテゴリーの商品を出しましたが、当時の技術ではこのサイズで本物のコンポを作るのには少々無理があったように思います。今回の商品「System501」は、ミニとフルサイズコンポを埋める位置づけというより、質的にはコンポーネントそのものです。小さいサイズの中にコンポーネントの中身がそのまま入って、設計や音づくりにも力を入れて作ったものです。
私が昨年ホームオーディオを担当するようになり、さらにピュアオーディオに力を入れたいという思いがありました。そんな中で、設計者が長年積み上げていた技術を具現化してみようと「SS―AR1」というスピーカーを昨年末に発売いたしました。今回の商品はそこからの思いがつながります。今、日本でも海外でもホームシアター全盛と言える状況にあって、もっと音楽を聴きたいという声がきこえていました。それに応えられるものはフルサイズのコンポ、それ以外はマイクロコンポになってしまう。それなら日本の住環境に相応しく部屋に置きやすい形で、本当のオーディオ商品だというものを作ろうということで、501の設計はコンポーネントのグループで取り組みました。
第一のコンセプトとしては、リビングに置ける大きさを実現すること。小さいものをつくろうとすると、パネル幅は収まっても、奥行きはえてして大きくなってしまいます。今回はそうではなく、本棚などにも置けるということを前提に、まず奥行きは25pと決めました。それができたのは、この数年間やってきた“S‐master”を核とするソニーのデジタルアンプ技術があったからです。最初に多少の不安はありましたが、完成して、このサイズでここまでのものができるのだと実感しました。

―― 久しぶりにソニーらしい提案が形になりました。コンパクトサイズに新しい技術を投入して、ハイクオリティを実現しています。かつてのハイコンポは、リビングオーディオというコンセプトそのものは確固たるものとしてありましたが、奥行き25pというようなコンパクトさを実現するのは困難でした。しかし今、こうして御社の商品を前にすると、このサイズとクオリティに大きな価値を実感します。こういった商品が登場することによって、これからの日本のコンポのスタンダードができていくのではないかと思います。商品のアイデアは、大津事業部長ご自身が出されたのですか。

大津 特に大きさのコンセプトなど、自分が言い出したところがあります。しかし話をするうちに周りも盛り上がり、特に営業からは奥行き25pのところは絶対に守れ、と言われました。この点では設計者は相当苦労しました。しかし出来上がってみると、いろいろな方にいいと言っていただきました。奥行きへのこだわりを貫いたことは、正解だったと思います。

大津氏―― 設計の方々は、どういったところでご苦労があったのでしょうか。

大津 当初は特に電源のところで少しとまどったようです。“S‐master”の商品は数年間手がけており、特にAVアンプではご定評をいただいていました。しかし電源はまだトランスを使っていました。今回あのサイズを実現するには、電源部をスイッチング化する必要がありました。スイッチング電源でありながら過去のアナログ電源に劣らない音を実証するために、今回は一から設計し直して音のよさを追求し、当初の目標どおりの音質にまとめあげることができました。もし奥行き35pあたりのサイズで妥協していたら、おそらくトランスを用いた電源部が入っていたでしょう。サイズの制限が形だけでなく、音質的にもいい方向に作用したと思います。
また、この商品ではデジタル系の信号処理を行っています。そこでAVアンプでは今や当たり前になった自動音場補正の機能を盛り込みました。当社ではTA‐DA9100ESというAVアンプで、高速でスピーカーの距離と音量バランスを揃える、非常に高精度な音場補正システムを採用しています。これを今回の商品にも使ったのです。これはマルチチャンネルばかりでなく2chでも非常に大きな効果があります。一般のご家庭のリビングでは、必ずしもオーディオを理想的な状態セッティングできるとは限りません。そんな場合であっても自動音場補正の技術によっていい音場を作り出し、音楽を楽しんでいただけるのがこの商品の特長のひとつです。
このように申し上げますと、501はデジタルのイメージが強くなると思いますが、音づくりにあたっては聞き込みを重ね、部品や内部のレイアウトも吟味するなど、アナログ的な設計をしています。デジタルの技術と、アナログ的な設計者のこだわりがうまく融合したと思います。

―― 質感もきっちりと確保されたいいデザインになっていますね。コンポに徹したイメージだと思います。

大津 音質も質感も、海外製品と比べても中級クラスの高い位置にあるものだと自負しています。デザインについては当初かなり議論がありました。たとえばボリュームつまみの大きさなども、昔の日本のアンプのイメージですともう少し大きい感じですが、最終的には4つのつまみの径を同じにしました。モックアップなども通常より多く作って吟味したのです。

―― 想定されたユーザー層はどういったところでしょうか。

大津 当初は団塊の世代を始め、今ふたたびオーディオを楽しみたいといった方々を想定しました。私自身もそうですが、昔から趣味でオーディオに触れた経験のある方は、ふと音楽が聴きたくなるときがあると思うのです。
けれどもつくっていくうちに、30〜40代といった若い方々もオーディオに非常に興味をもっておられるとわかり、その世代の設計者などからも「欲しい」という声が聞かれるようになりました。この商品はシニアに限らず幅広い世代に受け入れられると思っております。

―― 30〜40代の方々というと、親の世代にオーディオブームがあって、生まれたときから家庭にオーディオ機器があったという世代ですから、この商品の価値は非常に伝わりやすいと思います。しかしそれ以下の年代になりますと、ヘッドホンプレーヤー以外のオーディオ機器を知らない状況です。こういった世代にこそこの音を聴かせたいですね。

大津 20代以下の若い世代の方は、ヘッドホンプレーヤーに慣れ親しんでいて、CDにどれほどの音が入っているのかを知る機会がほとんどありませんね。本格的なオーディオの装置で聴くと、皆さん驚かれます。最近、ヘッドホンプレーヤーに使用する高額なヘッドホンが好調です。本体そのものよりも高額なもので聴いたりすることも珍しくありません。これは、音に対する問題意識を若い世代も持っておられることの証しだと思います。これは非常にいい傾向です。ヘッドホンだけでなく、空間でいい音を聴くという体験をぜひしていただきたいですね。

―― 若い世代に対するそういうきっかけづくりを、この商品が担いそうですね。これからいよいよ発売されるという際、どういうアピールを行っていかれるのでしょうか。

大津 店頭はもちろん、今後A&Vフェスタを始めとするイベントなどいろいろなアピールの機会があると考えています。その際には「音楽を聴くためのオーディオ」という切り口で、「ピュアハートオーディオ」というキーワードを用いて展開していきます。ご販売店からの反響も非常によく、コーナーをつくりたい、というようなお話なども聞いております。またお店での試聴会などというとハイエンド商品が中心ですが、今後はぜひこの商品でも試聴会の働きかけを行っていきたいと思っています。

大津氏―― これこそソニーのコンポーネント、という個性を強く感じます。昨今御社は、ブラビアの好調ぶりや、BDなどの新カテゴリー商品、ハンディカムやデジタル一眼レフなど、デジタルAV商品のイメージが強く出ておられたと思います。そこに、ソニーのオーディオはこうなのだ、という強烈なメッセージが形になって現れました。

大津 ソニーは60年代中ごろにオールトランジスタアンプを商品化するなど草創期からオーディオに取り組んでまいりました。またCDやMDなど音楽をより多くの皆様に楽しんで頂ける提案をさせていただいてまいりました。高い趣味性を持つ音楽鑑賞を再現してくれるのがオーディオ商品の役目です。私どもも良い音で聞ける商品を第一に常に考えて取り組んでおり、今回はそこをもっときちんと出していかなくてはならない、という気持ちがありました。それで、SS―AR1というスピーカーや、ES system1200というフルサイズのコンポも昨年出しましたが、これらが今回の商品の前身となった部分もあります。「音楽を聴く」ということを意識した商品づくりで共通しています。ソニーの商品は、こんなに楽しんで音楽が聴けるのだ、ということを訴えていきたいと思います。「ピュアハートオーディオ」というキーワードには、そういう思いが込められています。

―― 大津事業部長からご覧になって、オーディオマーケットの今後の見通しについてはいかがでしょうか。

大津 国内だけを見ますと、テレビなどの規模が大きく厳しい状況ですが、ヘッドホンステレオを含めると、業界としてはむしろ伸びています。では全世界的にみなヘッドホンステレオになっているかというと決してそんなことはありません。ピュアオーディオと使い分けがなされているのです。音楽を聴くということは文化です。それは無くなるということは絶対にありません。そこに対して我々がヒット商品を出し切れていない、ある意味ビジネスを優先しホームシアターにシフトしすぎているような状態かという気が致します。
昨今、日本もそうですし、特にヨーロッパでは2chのオーディオが増えていて、各社が注力し始めています。これはいい流れなのではないかと思います。マーケットの規模はまだ小さいですが、そういう流れは間違いなくありますので、そこに応えていく商品は必要です。501がその皮切りになります。これは続けていきますし、チャンスもあると思います。

―― 今のマーケット規模、特に国内は小さすぎるように思います。ハイエンド商品はありますが、音楽を聴きたい、楽しみたいというお客様にフィットする手頃な商品がここのところ各社から出てこなかった、というのが原因のひとつだと思います。しかし御社が今回出された商品を始め、ここにきてオーディオメーカー各社では新たなコンセプトの商品を続々と出してきています。そういった商品群が、今ひとつのカテゴリーを生み出す、それは新たなハイコンポ時代の到来と言えます。これは、オーディオのマーケットを広げる大きな力になるのではないでしょうか。

大津 そうやって業界が広がっていけば、お客様にも、音楽を聴くオーディオの姿が伝わりやすくなってくると思います。ぜひそこまでもっていきたいですね。今回は発表会も従来の形ではなく、部屋で聴く状態を実感していただけるような場所を設定して行いました。オーディオ商品でのこういう発表会は久しぶりで、意気込みのほどがおわかりいただけたかと思います。

―― 御社の意気込みに対して、我々も大変期待しております。本日は誠に有り難うございました。

◆PROFILE◆

Masahiro Otsui

東京都出身。1981年ソニー株式会社入社。システムステレオ、AVレシーバーなどホームオーディオビジネスを一貫して歩み、2006年4月オーディオ事業本部ホームオーディオ事業部長に就任、現在に至る。趣味は音楽鑑賞、ゴルフ、テニス。