巻頭言 「頑張らない経営」考 和田光征 先般、ケーズホールディングス「創業60周年感謝の集い」が帝国ホテルで行われ、600名余の人々が参集した。ケーズホールディングスは現在6000億円弱の売上を達成し、名実共にメガ量販の一翼を担い成長を続けている。そんな中での祝宴である。 加藤修一社長は常日頃から「頑張らない経営」を哲学としているが、今回の挨拶でもそのことを自然体で語られていた。「頑張らない経営」とは、「やるべきことをしっかりやる経営」であり、そのやるべきこととはお客様第一主義を貫き、従業員、株主、そして仕入先を何よりも大切に考え、ちゃんと実践することであった。まさに三方良しである。 イトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊氏が、「貸してくれない、売ってくれない、来てくれない」を創業の言葉として語られている。「貸してくれない」とは、銀行が貸してくれないということである。故に、いかに信用をつけていくか。「売ってくれない」とは、お得意様が品物を売ってくれなければ商売はできない訳で、お得意様に心から感謝をし、いい商品を仕入れさせて頂き、ちゃんと売り上げるということである。そして「来てくれない」とは、お客様が来店してくれないということである。多くのお客様がいかに喜んで来店してくれるかによって繁盛するわけであり、顧客第一を徹底し、感謝を込めて、お客様と一体になることである。 加藤社長の「頑張らない経営」のお話しを聞きながら、そのことが脳裏に重なっていた。往々にして、安くさえすればお客様は来てくれると思いがちである。従って、仕入れ値を徹底的に下げさせる結果となり、仕入先は疲弊し、いい商品を創れなくなり、長期的に見ればお客様は来てくれなくなる。結果として皆が不幸になってしまう。 そうした風潮のある業界だけに、メーカー関係者は加藤社長の話を聞きながら、また、卆寿を迎えられた創業者のお話の素晴らしさに一点の曇りのない晴天のさわやかさを感じ、想うものがあったのではないだろうか。 よく、先のことは分からないといわれるが、企業経営で先のことは分からないでは困るわけである。何をもって分かるかと言えば、70年後も人がいるということであり、人の心は変わらないということである。ひとりのいのちは有限であるが、人のいのちは永遠であり、人の心は無限である。そこに人がいる限り、企業は経営できるわけであり、またそれが使命である。 「頑張らない経営」とは、人の心に対して自然体の経営なのである。しかし人の心から逸脱した企業は、顧客から「もういいよ」と言われるだけである。少なくとも10年先を絶えず念頭においた経営が要諦であろう。 ケーズさんが60年、売上を一度も下げることなく急成長している背景には、人の心がそこに張りついているからであり、そのことは60年後においても不変であることを確信した「感謝の集い」だった。
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