(株)デノンラボ 小出 隆久氏 オーディオ復活が見えてきた デノンラボの新社長に就任された小出氏。ピュアオーディオ復活の機運の高まりをしっかりと捉えるべく、社内のさまざまな改革に着手し、トップセールスマンとして自ら東奔西走するその勢いの原動力は、好きな仕事に就く幸せにあるという。現在のオーディオに対する氏の見解と、デノンラボの今後についてお話を伺った。 インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征 会社が掲げるビジョンの実現に向け ―― このたびはご就任おめでとうございます。オーディオマーケットの現場に戻られるのは10年ぶりかと存じますが、ご感想はいかがでしょうか。 小出 現場を離れて10年ぶりに戻って参りました。音楽再生機器の市場を氷河のようなものとすると、氷の塊が氷結し、割れ目ができて溶け、ふたたび氷結するという繰り返しで、今氷河は大変大きくなっていると思います。この10年間でピュアオーディオの単品コンポーネントの世界は非常に小さくなりましたが、携帯デジタルオーディオプレーヤーの市場が大きくなりなりました。業界の一部では音が悪いとかオーディオが衰退する要因だと言われていますが、私は、音楽を楽しまれるお客様が増えるという意味でいいことだと思いますし、氷河が大きくなっていると思います。次にこの氷が溶けて割れ目ができるときに、単品コンポーネントの世界が大きくなると確信しています。 ―― 2007年問題が浮上して、団塊の世代に向けての商品が次々に登場しています。現在ハイコンポと言われている商品も、そこを狙って出てきたものです。 小出 堺屋太一さんの「団塊の世代 黄金の10年が始まる」という本を一昨年に読みましたが、団塊の世代は「知恵持ち、金持ち、時間持ち」と言うのだそうです。高学歴で、戦前の親世代からの資産移動があって、収入も高い。退職して時間もあり、しかも自分なりの時間の使い方をする。この本には、60歳過ぎたら好きなことをとことんやりなさい、とあります。私はそこに共感しました。 ―― 以前にインタビューさせていただいた時、バリューマーケティングの話を聞きました。今こそ、この展開が必要な時ですね。 小出 ちょうど10年前、和田社長からバリューマーケティングについて話させていただきました。当時は低価格のミニコンポが大ヒットしており、プライスマーケティングに各社が追随していましたが、顧客が真に求めているのは付加価値の高い製品だと思い、バリュープロダクトによるバリューマーケティングを構想しました。趣味商品であるオーディオにとって生命線であると思ったからです。それを私は提唱し、当時の社内で高付加価値のミニコンポや単品コンポーネントを続々と企画し、発売しました。そこに関わるマーケターやエンジニア達が非常に燃えましたし、販売店様から喜ばれました。またそれに対する市場の評価もあったと感じています。 ―― ご就任から三ヵ月程が経過して、どのような印象をお持ちでしょうか。 小出 デノンラボに来てまず驚いたのは、オーディオ好きな人たちばかりが集まっているということです。皆すごいシステムを持っていて、私など恥ずかしくて自分の持ち物をいうことができませでした。それと、着任と同時に全員にインタビューを行いましたら、オーディオを語るときの顔が皆生き生きしているのが印象的でした。また営業マンからもっと製品の勉強会をやって欲しいという要望がありましたので、早速新製品のヘリコン400マーク2の勉強会をやったところ、商品をばらしてもいいと言ったら、本当にバラバラにしていましたね。中のパーツをひとつひとつ、また構造などを、前のモデルとどう変わったか全部確認するのです。それを見て私は嬉しかった。そこまで商品をとことん調べて、なおかつ吸収し、自分の商品知識として伝えたい、ということですね。そういう営業マンがいる限り商品のよさは伝わるし、販売店様も安心して売っていただけるのではないかと思いました。 ―― デノンラボに来られて、まず手がけられたことや、中期的な目標などを具体的にお話いただけますか。 小出 まず始めに、イノベーションとマーケティングをテーマに、経営計画を策定しました。その内容は、SWOT分析により、デノンラボの強みは何か、弱みは何かを明確にし、キーワードを抽出しました。それから4つの視点(財務、顧客、業務プロセス、組織と改革)で、重要成功要因を戦略MAPに落とし込み、アクションプランを完成しました。今までは、売上予算の達成を意識して、目先の数字を上げるための行動になっていましたので、人と組織がまず重要と考えました。そこで営業マン一人ひとりに担当者別、月別目標を設定し、30のチェック項目を決めました。例えば、自分自身のスキルアップや主力取引店とのコミュニケーションの強化、販売促進策の提案です。これを毎月、実行できているかをチェックします。これがちゃんとできれば、売上げや利益は、自然についてくると考えました。米大手バイクメーカーの日本法人の社長は、営業マンに売上予算を設定しないと聞きました。やはりチェック項目だけをやらせる。それを繰り返せば売上げ予算はいらない、と。私の考えと同じだと思いました。それを社員に提示しましたら、皆やろうと言ってくれました。あとは自己管理です。 ―― 注目の新製品について、お話ししていただけますか。 小出 4月1日発売のダリ社のヘリコン400マーク2です。前のモデルが創業20周年記念として登場してから、高い評価をいただきました。従って、このマーク2は、さらに進化させるために、ドライバーユニットの磁気回路の強化、ハイグレードなパーツを採用したネットワーク回路、剛性をさらに高めたキャビネット、と細部に至るまでクオリティーを追求しました。 ―― 最後に、今後の抱負を聞かせてください。 小出 60歳を過ぎてから、好きな世界で好きな仕事ができる。何ともいえない充実感がありますね。これほど幸せなことはありません。微力ですが、お世話になった専門店の皆様のお役に立ちたいと思います。それと、今まで培った自分のノウハウを後進に伝承していきたいと思います。 ―― 力強いお言葉をたくさんお伺いすることができ、今後のご活躍もますます楽しみです。本日はありがとうございました。 ◆PROFILE◆ Takahisa Koide |