大澤氏

フォスター電機(株) 取締役
フォステクス カンパニー プレジデント

大澤 茂樹
Shigeki Osawa

長年にわたり培ってきた
技術とノウハウを活用してピュアオーディオ市場に参入

ユニットの供給や完成品のOEM供給を中心に世界有数のスピーカーメーカーとして知られるフォスター電機。その同社がフォステクスブランドで、民生用ピュアオーディオ市場に本格参入した。第1号機は業務用モニタースピーカーのフラッグシップ機「RS2」を民生機用に展開した「G1300」。フラッグシップ機の技術を惜しげもなく投入、しかも1本15万円という価格を実現し、注目を集めている。同社がこの市場に参入した背景と狙い、強み、今後の展開計画を、フォスター電機の取締役でフォステクス カンパニーのプレジデントを務める大澤茂樹氏に聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

―― フォステクスブランドではG1300で民生用高級スピーカー市場に参入されました。まずその経緯から聞かせてください。

大澤 フォスター電機は部品やOEMを中心としたスピーカーの分野で非常に長い歴史を持っています。フォステクスはその技術をベースに作られた自社ブランドです。
フォステクスブランドでは、特定分野で高級なイメージを作っていきたいということで、クラフトファン向けのスピーカーユニットやスタジオや放送局などといったプロフェッショナルオーディオの分野に積極的に取り組んできました。
日本のオーディオ市場の成長を支えた団塊の世代が定年を迎える時代に入ってきました。またフォステクスブランドのバックボーンとなっているフォスター電機には、永年にわたるスピーカー開発を通じて培ってきたノウハウがソフトウエアとして蓄積されています。これらがきっかけとなって、フォステクスブランドで、ピュアオーディオ市場に参入することにしました。

―― ピュアオーディオに本格的に取り組んでいかれるとのことですが、市場の現状をどのように見ていますか。

大澤 一部のマニアを対象にした高級オーディオと、ヘッドホンで聴く安価なポータブルオーディオへの二極分化が極端に進んでいます。単品コンポは約30年前までは応接間に飾られるほど高値の華で、それを持つことが夢でした。ところが段々マニア化が進み、市場は非常に小さくなってしまいました。
今、市場で元気があるのはポータブルオーディオです。それ自体は決して悪いことではありません。オーディオ市場全体としては活性化するからです。問題は今の若い人の多くが安価な製品の音で満足しているということです。
私はいい音で音楽を楽しむ層を若年層にまで伸ばしていきたいと考えています。この傾向はスローですが確実に増えてきています。団塊の世代はもちろんですが、それだけでは市場では広がりません。団塊ジュニア、さらにそれよりもっと下の世代にもいい音で音楽を楽しまれる層を広げていきたいと思います。

―― 今回のG1300ではどのような顧客層を想定していますか。

大澤 私はフォステクスのブランドで汎用ビジネスを展開するつもりはありません。他のメーカーさんの中に割って入るつもりもありませんし、われわれの会社にそんな力もありません。Gシリーズを通じてフォステクスの音に対するファンを作り、ピュアオーディオの世界でもフォステクスを高級ブランドとして育て上げていくことがわれわれの狙いです。
今回、発売したG1300は、1本15万円です。今年から来年にかけて、この製品のファミリーモデルを3機種追加投入して、4機種でGシリーズを構築する予定です。価格的には一番高い製品でも1本30万円以下を考えています。他社さんからはもっと高い、1本100万円以上のものも出ていますが、Gシリーズでは、少し頑張ればお買い求めいただける価格でいい音を楽しみたいというお客様をターゲットにしています。

大澤氏―― 高級スピーカー市場では数多くのブランドが存在しています。フォステクスの特徴と強みは何でしょうか。

大澤 フォステクスの最大の強みはフォスター電機の総合力を利用できることです。フォステクスはフォスター電機の自社ブランドです。フォスター電機では長年、様々な用途のスピーカーを作ってきました。その過程で、素材から組み立てにいたるまでスピーカー作りのすべてにわたって高い技術力と開発力、膨大な製造ノウハウが社内に蓄積されています。
スピーカーは部品がシンプルなのでローテクといわれますが、接着剤ひとつでも音は変わります。でもそれは教科書のどこにも書いてありません。ノウハウを蓄積して初めて得られる技術です。ノウハウが蓄積されていない会社は、蓄積されている会社と同じような形を作れても同じ音を作ることはできません。

―― キーデバイスを内製化されている点も強みだと思われますが。

大澤 コーン紙やボイスコイルなど、スピーカーを作るためのキーデバイスのほとんどすべてを内製化している点も大きな強みです。木工やエンクロージャーの内製化から、接着剤のブレンドまで自社で行っています。
さらに振動板のパルプまで自社で作っています。スピーカーメーカーは世界中に数多くありますが、パルプまで内製化しているメーカーはほとんどありません。
スピーカーを作るうえで、絶対に譲ってはいけない部分が数多くあります。当社ではそこを内製化しています。出来合いのものを買ってきて組み立てても当たり前の音しか出ません。画期的な音や画期的な形を実現していくうえで、キーデバイスの内製化が大きく効いてきます。

―― フォステクスの開発部隊とフォスター電機の開発部隊はどのような役割分担になっていますか。

大澤 フォステクスカンパニーという名前がついているので、フォスター電機とは別会社だと思われている方がいらっしゃいますがそうではありません。フォステクスカンパニーはフォスター電機の社内カンパニーで、フォスター電機の自社ブランドがフォステクスとなります。
社内での役割分担は、素材開発とスピーカーユニットの基礎技術開発は、フォスター電機が担当しています。フォステクスではそれら基礎技術をもとに、フォステクス独自のユニットやエンクロージャーに組み込むなど、より具体的な商品に関する部分をメインにして行っています。ひとつのグループの中でユニットを作る設計者とシステムを作る設計者が同じところで仕事をしていますので、いわゆる垂直統合ができています。そこが当社の一番大きな強みになっています。

―― どのような開発体制からG1300は開発されたのでしょうか。

大澤 ピュアオーディオ用のスピーカーシステム事業を立ち上げるために、約3年前に開発メンバーとマーケティングメンバーによるプロジェクトチームを立ち上げました。ちょうどその時期は業務用のフラッグシップスピーカーシステム「RS2」が放送局に入り始めた時期でした。
そこで、その技術を応用して、ピュアオーディオ用の製品を作ることができないかを検討しました。G1300では純マグネシウムやHRコーンを採用していることが大きな特長になっていますが、これらはいずれもRS2の技術がベースになっています。

―― 業務用と民生用とでは技術を共用できても狙う音は違うと思いますが。

大澤 そのとおりです。業務用のモニタースピーカーは生の音をそのまま忠実に音を再現することが最大の目的です。ある意味で計測器のような役割を果たさなければいけないわけですから、その再生音は必ずしも心地良い音というわけではありません。
それに対して民生用では、音楽を楽しむことが最大の目的ですから、再生音には心地良さが求められます。そのためにプロジェクトチームは試行錯誤の連続でした。

―― プロジェクトチームが一番苦労された点は何だったのでしょうか。

大澤 これがフォステクスの音だというものを作らなければいけなかったことです。当社が狙っている市場は汎用品ではありません。ですから万人向けの無難な音にまとめても意味がありません。
その時に、じゃあフォステクスの音ってどういう音なの?、ということになります。それを決めるのに時間がかかりました。音は好みがありますから難しいですね。七味唐辛子のブレンドのようなものです。いろいろな人に聴いてもらってマーケットサーベイをしたり、コーン紙をいろいろ変更してみたり、コーン紙をブレンドしてみたり、コーン氏のパルプにバナナチップを使ってみたりと、様々な実験を延々と繰り返しました。
G1300の技術面でのベースはRS2ですが、エンクロージャーの設計方法は違います。ユニット部分での音作りに加えて、エンクロージャーの部分での音作りもプロジェクトチームの中でやってきました。

―― そこから生み出された1号機がG1300ということですね。

大澤 今回発売したG1300はこのプロジェクトチームから初めて送り出された商品ではありません。昨年限定販売の形で発売したG850という製品です。この製品は、フォステクスがピュアオーディオ市場への本格的な参入に先立って市場の反応を探るために送り出したものです。
それほど大きな販売計画ではありませんでしたが、予定台数を短期間の間に完売できました。これによって、われわれがそれまで進めてきたことへの確証を得ることができました。そこで、この事業はやれそうだということで、G1300の製品化を決定しました。

大澤氏―― 「G1300」は「RS2」の技術をベースに開発されたということですが、具体的にはどのような点にそれが表れていますか。

大澤 「RS2」は1本220万円の業務用モニタースピーカーです。そのクオリティーのほとんどを民生用のスピーカーに展開したのが「G1300」だと言っても過言ではありません。
RS2の最大の特長は声の再生能力が優れているということです。これは13cmのスコーカーユニットの優秀さに支えられています。RS2のもうひとつの特長は高域の歪が極めて少ないことですが、これはトゥイーターに純マグネシウムを使ったことが大きく貢献しています。
RS2は3ウェイ構成をとっていますが、ウーファーとスコーカーのクロスオーバーは200Hzに設定されていますので、2ウェイ+ウーファーというような形で音作りがされています。G1300では、RS2と同様の技術を投入したスコーカーとトゥィーターユニットを用いて、30cmのウーファーを外したコンパクトサイズの2ウェイ構成としています。
2ウェイにするには、13cmのユニットにウーファー帯域まで受け持たせなければいけません。その他にも1本15万円の価格に収めるためには、全く同じユニットを使うわけにはいきませんが、純マグネシウムトゥィーターやハイパーラジアルの採用など、振動板の素材や形状といった部分ではRS2を引き継いでいます。

―― そこでフォスター電機の総合力が大きな強みになっているということですね。

大澤 スピーカーの振動板には、軽さと剛性という物性的に相反する条件が要求されます。それを解決するためには、パルプの配合や形状などについての複合技術が必要になってきます。
たとえばトゥイーターの素材に使っている純マグネシウムは、軽さと内部損失を高いレベルで両立できる非常に稀な金属です。純マグネシウムの物性は従来から分かっていましたが、成型が非常にむずかしいことから汎用品では別の金属を加えたマグネシウム合金が使われています。合金化することによって加工しやすくなりますが、純マグネシウムに比較すると物性は相当劣ってしまいます。

―― Gシリーズは海外でも展開されるのでしょうか。

大澤 日本のスピーカーを海外市場で売るのは大変です。日本人、ヨーロッパ人、米国人ではそれぞれ音の好みが違うからです。かといって、事業ですから地域別に音を変えるわけにはいきません。そこが大変です。でもやらないといつまでたってもスタートできません。
まず国内で足元を固めたうえで、少しずつ海外にも展開していきたいと思っています。全世界に向けてではなく、当面は米国と英国に特化したいと考えています。

―― Gシリーズの今後の製品展開を聞かせてください。

大澤 今秋から来年にかけて、半年に1機種のペースでラインナップを増やして、来年末までには4機種構成にする計画です。この秋には、G1300をベースに13cmウーファーを加えたダブルウーファーを搭載したトールボーイタイプを発売する予定です。来春をターゲットに20cmウーファーを搭載した製品も準備しています。
お客様にラインナップできちんと提案できるようにするために、市場からのフィードバックを取り入れながらラインナップを揃えていく予定です。

―― 最後に販売店の皆様へのメッセージをどうぞ。

大澤 フォステクスは本気でピュアオーディオの市場に入ります。今まで培ってきたプロオーディオのテクノロジーと経験、そしてクラフトスピーカーユニットのテクノロジーを合作して、そのノウハウをベースにフォステクスなりの音作りをした製品をプロデュースしていきます。フォステクスブランドをよろしくお願いいたします。

◆PROFILE◆

Shigeki Osawa

1947年9月4日生まれ。東京都新宿区出身。沖電気梶Aクラウン梶Aベルテック梶Aユニデン鰍経て、83年3月フォスター電機鰍ノ入社。電子本部電子営業課長はじめ、電子精機本部営業二課長、営業本部第五営業次長、営業本部第二営業部長、CAR機器本部長、取締役CAR機器本部長を経て、04年4月取締役フォステクスカンパニー プレジデントに就任。現在に至る。