ハイコンポトップメーカー緊急座談会 <後編>


まず音を聴かせる
場づくりを確実に

  • 出席者
  • 鹿野 清氏 ソニーマーケティング(株)取締役 執行役員常務
    佐倉住嘉氏 ボーズ(株)代表取締役社長
    市川博文氏(株)ディーアンドエムホールディングス デノン ブランドカンパニー プレジデント
    小宮山正前氏(株)ケンウッド ホームエレクトロニクス事業部 事業部長/技師長
    小林佳紀氏 オンキヨー(株)執行役員 AVC事業本部
  • 座談会進行 音元出版社長 和田光征
    Photo by Daigoro Tobari
  • いま注目を浴びている団塊の世代に向けて、新たな価値をもつオーディオ商品が続々と登場した。心地よく音楽を楽しむためのオーディオ、そんなスタイルは、かつて市場を賑わせたハイコンポに通じる。いまオーディオの再活性化を図るには、現代に向けハイコンポをアピールすることがポイント。そんなテーマのもと、ハイコンポのトップメーカーの面々が集結したこの座談会では、現状の課題、そして明日に向けての意気込みが熱く語られている。それぞれに力を集結し、チャンスを掴み取るために必要なものは何か。いよいよ完結となる後編をお送りしよう。
ハイコンポから始まるもの 各社の今後の展開は

――  ここで1つ押さえておきたいのは、今回の話題の中心であるハイコンポを含めたピュアオーディオの市場が、徐々に上向きになっているということです。これについて、どのくらいの時間軸のもとで、どうしていかれるのかということをお伺いしていきたいと思います。もちろんこれはユーザーとの兼ね合いや、あるいは流通の形態の問題もあると思いますけれども。
たとえば市川さんのところでは今、CXで展開されています。これはシリーズ化された商品というより、現時点ではどちらかというとオーディオへの入り口というべき商品かと思います。今後は、これをどのように展開していかれるのでしょうか。

市川博文 氏
(株)ディーアンドエムホールディングスデノン ブランドカンパニー プレジデント

市川  われわれの歴史を振り返ると、ハイコンポ〜当時、私どもが初めに出したときはポイントコンポという名前を使っていましたが〜その第1世代が出たのが1992年頃でした。その後、プレスタという名前に変わってから、ハイコンポというように表現をしたと思います。そしてラピシア、それからエフという商品を出していきまして、すべて少しずつターゲットにする層を変えたのです。同じようなコンポだけれども、ある商品では比較的高い年齢層、次の商品では学生さん、さらに次は女性層といった形でシリーズを出していきました。
今回のCXというのは、ある程度本格的なもの。ハイコンポの中でも特に本格的なものだということをアピールしています。やはりお客様のセンスが非常に高くなっていますから、似て非なるものを積み重ねていってもなかなか需要は増えないんですね。ですからわれわれとしては、CXのシリーズを増やすことも重要ですけれども、これはある程度本格的なものですから、一方でこれをもう少し振って、別の形で出すことはできないかと。そういう形でトータルの需要を掘り起こしていくという方向を、1つ考えていきたいと思っています。
さらにもう1つは、従来やってきたフルサイズのコンポーネントがあります。これはこれで、今まで同様にやっていく。そういう中で、販売店さんとのコミュニケーションができていって、需要を掘り起こす。そんなふうに考えていますね。

小宮山  われわれとしては、基本的にハイコンポを強化していきたいと考えています。エシュールというのを昨年出しましたけれども、その際、Kシリーズをベースに発展型を考えていって、最初にアンプの部分だけをまずつくったのです。その部分だけのベースでいろいろな評論家の方々にご意見を伺いながら。
そうしてつくっていく過程で、ユーザーの声をある程度調査していくと、ケンウッドに対するお客様の思いが、どうもシステムコンポであるということがわかってきました。それで最終的に、CDプレーヤーとアンプとチューナーが入った一体型に、小型のスピーカーが 2つ付いているというスタイルで商品化したのです。

小宮山正前 氏
(株)ケンウッドホームエレクトロニクス事業部事業部長/技師長
そういうプロセスで開発をしてきたことは、今、おかげさまでそれなりにご評価をいただいています。私どもとしてはその路線、そういう形でお客様の声に応えていきたい。
ただ、これは発展性という意味ではある程度閉じた世界なんですね。ですから一方で発展型の、例えば欲しい機能を追加できるような、バリエーションを持たせる形態。そういうものも、いわゆるハイコンポの世界で考えていきたいと思っています。
そしてもう1つ、ピュアオーディオというところに関して言いますと、私どもはレシーバー、サラウンド系のものは、欧州向けに出したものがありますが、欧州でも非常にピュアの高まりがあるという当社の販社からの声が非常に強く、サラウンドとピュアを切り替えられる機能を持たせたものを発売します。
価格帯によっては、他社さんでも同様のものはありますけれども、当社の場合はローエンドの機種にそういう機能を搭載しています。5・1chも7・1chでもそういうセットがあって、ボタン1つ、リモコン1つでピュアモードにも変えられます。こういった機能を持たせて、ピュアの市場の掘り起こしを国内外でやっていきたいと思っています。

ブランドのこだわりで新たなる商品展開を

――  トリオブランドの商品を記念モデルとして出されましたね。あれはいかがでしたか。

小宮山 私どもがもくろんだ予定台数は超えて販売できました。期間限定という前提の商品ですから、店頭に展開しての売り方はしませんでした。電話でお問い合わせいただくか、あとは当社のホームページからご注文をいただく方法だけです。
店頭に置いていませんから、この商品の音を聴くには、丸の内のショールームに足を運んでいただくしかないわけです。しかし、音を聴かなくとも買われるお客様はいるのです。それはやはり、トリオブランドの商品だという思いで買われるということなんですね。あるいは、Kシリーズであるとか、昔のK'sやK'sエシュールを持っていらっしゃったような方で、次の世代を待っていましたというお客様もいらっしゃいます。

小林佳紀 氏
オンキヨー(株)執行役員 AVC事業本部

小林 当社の場合は、商品づくりそのもののスタンスは全く変えていません。ただ、音の良さはもちろんですが、使いやすさとか発展性といった特徴は、その時その時のニーズに合わせて出していっています。当分は24ビット96ヘルツの、要するにPCからCD以上の音源を再生させることができる、ここのところに商品や販促を集中させて取り組んでいこうと思っています。しばらくの間は、ここに徹底的にこだわります。

佐倉 私どもでは、あまり時間軸の先の話を明らかにはできないのです。でも、私どもでハイコンポカテゴリーに入るウエストボロウのシリーズがしばらく途絶えておりまして、それを今年9月くらいから、再度、違った形で発表させてもらうというつもりではおります。その先のことについては、今のところは分かりません。

鹿野 当社では、3月にSystem501という、幅280ミリ、奥行き250ミリの商品を出したばかりなので、まだこれから市場の反応をつかむ時期だと思っています。
通常私どもでは、何かヒット商品があればそれをシリーズ化していくことが多いのですが、今回やはり音というものに対するこだわりをもって、もう少し広くやりたいということで、「もっと、音楽とひとつに」というテーマをつくりました。サブタイトルで「ピュアハートオーディオ」としましたが、ある意味で今回のハイコンポのようなコンパクトな商品だけではなく、DAPも含めて、あるいはピュアなオーディオを含めた全体での戦略を広げたいという思いがあります。
それは単純にSystem501にアイテムを追加するとか、広げるという発想ではないのです。例えば若い方からシニアの方までいろいろな世代の方に音に接してほしいという意味でも、いろいろな要素を包含してSystem501を出しましたので、次はどのように違う商品で、違う世代の方にアピールしていけるかということで、これをぜひ続けていきたいという思いです。

価格至上主義では終わる 専門商法がポイント

――  鹿野さんのところでは、スピーカーもいい製品を出されていますね。

鹿野 清 氏
ソニーマーケティング(株)取締役 執行役員常務

鹿野 おかげさまで、SS-AR1はご評価いただいています。お恥ずかしい話ですけれども、スピーカーとしては久しぶりに1本およそ90万円という価格帯のところで出させていただきました。こういったものは、もちろん大量に売れるわけではないですが、やはりそういうお客様にすぐ反応してもらえるという実感もあります。こういったものから今回のハイコンポまで、もちろん対象になるお客様は違うとは思いますが、やはりある意味では原点に帰って、本当に音に親しんでいただきたいという思いです。それをどう伝えるかということを、徹底してやりたいと思っています。
私どもはAVメーカーですので、テレビも売っていますけれども、やはりここへ来てもう一度音を見直さなければいけないという思いを強く抱いております。単純なAVのホームシアターというのは、ある意味そろそろ限界が来ていると思います。そういう意味でも、音からの切り口も一緒にやらなければいけないというのが大きなテーマです。

――  皆さんの現状とこれからについてご発言いただきました。ありがとうございます。次には、店頭の問題を考えてみたいと思います。
私は今、専門商法ということを主張しておりまして、本誌でも掲げています。専門商法とは、価格中心の商売とは対照的なところを意味することで、商品の価値をお客様にしっかりとご説明し、理解をしていただいて、お客様のご満足の上で、その価値に見合った適正な価格で商品を販売するということ。つまり、販売においてさまざまな意味での専門的なスキルを必要とする商法ということです。今、量販店でも店舗によってはこの専門商法を取り入れていこうとしているところもあります。
しかし一方では、せっかくの商品を送り出すにあたって、そのメッセージを発信する場所としてちょっと時代遅れだと思われる店もあります。ご家族連れでは行きづらいですよね。今ハイコンポを含めピュアオーディオがなかなか普及していかないというのは、このような流通の問題も大きいと思います。
そういう意味で、先に出たように我々で協力し合ってイベントなどを行い、情報を発信していくというようなことはやってみたいと思いますし、またそうして火をつけておいて、チャネル政策をとっていくということも非常に重要だと思うのです。

和田光征
(株)音元出版代表取締役社長
例えば専門店でも、従来型のいわゆるハイエンドオンリーの店もありますけれども、一方で、明るくフレンドリーで、なおかつよく売る店がありますね。
例えば山口のジョイフルさんは、基本的に定価販売というスタンスで販売して、成功しています。オーディオもシアターもやっていますね。あそこでは、たとえばご夫婦で来たときに、店の人が説明をしたり、視聴室で音を聴いたり画を見たりするんですけれども、そのあと店の人は全部引くんですね。店には子供用のスペースもあって、お子さん連れであってもご夫婦だけにしておくことができるんです。それで2人だけで自由に機器を触ったり視聴したりしながら、「どうする?」となるわけです。買おうか買うまいか、どうしようかと。それで15分ぐらいたつとだいたい定まってきて、「いかがですか?」と聞くとだいたい決まるそうなんです。
これを「お客様タイム」と言いまして、しっかりとご説明した上でこういうシチュエーションとか、タイミングをつくることによって、お客様も納得し、満足された上でご成約に至るわけですね。
また一方では、ホームシアターをやっておられる名古屋のネクストさんなど、いろいろな意味で非常に上品な店の展開をしているところもありますね。そういうようなお店が、やはりここへ来てオーディオの展開などされていますよね。
今求められている専門店の形というのは、ジョイフルさんやネクストさんといったお店のような売り方ができるところではないかと思うのです。そういう新しい形の専門店は、結構あるんですね。
往々にして専門店というと、昔からずっとやっているところがメインになって、そこを大事にする戦略は多いと思います。しかし昔ながらの店というのは影響力がやや弱まっていますよね。徐々に差が開いていますから。
そして、やはり資金力のある大きな店こそ、もっとお客様が家族で来られるような演出をしてもらいたい。そういう意味での専門商法というべきやり方があると思うのです。
価格とかポイントといった価値が先行してしまうと、たたき売られてしまって、ハイコンポの寿命などはすぐに終わってしまいます。そんなふうに終わらせないためにも、専門商法を展開できる店を、たとえばわれわれも応援したり、育成したりしていきたい。メーカーさんとしても売る場所をしっかり決めて、断固とした姿勢でやっていくというようなことをしないと、必ず値崩れを起こしてしまいます。
経済誌でも書かれていましたが、大手量販の中には過激なところもありますよね。まだ戦争状態が続くと思います。そんな中にあっては、とにかくこういうハイコンポのような提案ものは、本当にじっくり、じっくり、しっかり売っていかないと、マーケットができていきません。そこは忍耐をして、売り方も、販売店への入れ方も、少し考えていく必要があるのではと思います。

新しいタイプの専門店
JOYFUL(ジョイフル) (山口県山口市)
ファミリーで来店しやすいアットホームな店づくりが特徴。スタッフ1人1人がお客様とじっくりと話をしながらお客様満足を提供する
NEXT(ネクスト)(愛知県名古屋市)
インストーラービジネスを中心としたホームシアター専門店として圧倒的存在感を誇るネクスト。「good life designing/快適な暮らしの創造」をキーワードに、ホームシアターとライフシーンを総合プロデュースする

旧来のオーディオ専門店とは一線を画した、新しいタイプの専門店が実績をあげている。そこに共通するのは専門商法を貫く姿勢。商品の価値をお客様がしっかりと理解し、満足した上で、価値に見合った適正な価格で商品を販売できるということである。まずお客様が来店しやすい、居心地のいい、そして何度でも訪れたくなるという雰囲気づくりが基本。お客様との信頼関係を深めてこそ、専門商法は成立する。

量販店にこそ展開したい 音を体験していただく場づくり

佐倉住嘉 氏
ボーズ(株)代表取締役社長

佐倉 さきほど言われたジョイフルさんは私も1度行ったことがあるんですけれども、大きいお店ですよね。ホームシアターのようなかなりの金額のものを売るのだったらそういう売り方でやれますけれども、ハイコンポのように10万円から20万円のものを、お客さんを15分座らせて2人で話をさせてというわけにはなかなかいかないですよね。

鹿野 そういう意味でも、専門店ではないディーラーさんの存在は非常に大きいですよね。まさにそこでどう見せるかということを考えていかないと、伸びないのではないでしょうか。もちろん大変なことですけれども。

――  そういう意味では、量販店の中でも店によっては郊外型とか市街地にあるとか、そういうところである部分は専門化を図っていこうというような意見は聞いています。

市川 販売の規模で言いますと、メーカーさんによって、売れたというふうに評価するか、まだまだだというふうに評価するかは違うと思いますが、私どもはオーディオメーカーですから、オーディオの商品しかありません。ですからいまだにカートリッジもありますし、ターンテーブルもある、CDプレーヤーもラインナップを持っていまして、アンプもある、スピーカーもあるという状態です。
5年ぐらい前にコンポがどん底と言われて、このころから「コンポルネッサンス」という活動を始めました。ショップ・イン・ショップの1つの形態だと言っていいと思うのですが、比較的規模は小さいながらも、デノンのそれぞれの価格帯のラインナップを、3つぐらいのシステムとして組む。それで専門店さん、あるいは賛同していただける量販店さんに置かせていただいて、アナログのレコードでも音が出ます、CDプレーヤーでも音が出ます、ということで、とにかく音を聴かせてくださいと、地道に行こうとしたわけですね。
われわれの認識からすると、そういう活動というのは、それこそ規模の問題はありますけれども、ある程度その成果が出ているのではないかと思います。コンポの分野でどんどん皆さんが撤退されていく中で、おかげさまでわれわれはずっと続けてきて、今までどおりの形で商売ができる。その要因の1つが、やはりそういう地道な活動だと思うのですね。
オーディオは音を聴かせるところから始まる、ということを貫いてきた結果かと思っていますし、これはわれわれとしてはずっと続けていきたい。もちろんいろいろな意味でのプレッシャーというのは強いですけれども、それをあえてやっていきたいと思っています。

――  音を聴いていただける場づくりというのは必要ですよね。専門店、量販店にかかわらず、ユーザーに聴いていただくための地道なプロモーション活動をとにかく続けていくことが肝心だと思います。
そういう意味で今回は、皆さんの忌憚ないご意見を伺うことができ、たいへん有意義な座談会となりました。我々の熱意をぜひ明日に活かして参りたいと思います。どうもありがとうございました。

ハイコンポトップメーカー緊急座談会 <前編>