羽片  忠明氏

セイコーエプソン(株)
映像機器事業部 事業部長

羽片 忠明
Tadaaki Hagata

新商品で様々な用途を提案
新たなお客様を獲得して市場拡大へつなげていく

ホームプロジェクターの新商品を発表したセイコーエプソン。50000:1という高コントラストを実現させた最上位機種EMP−TW2000をはじめ、「いつでも、どこでも、誰とでも」のコンセプトで用途提案をひろげるDVDプレーヤー一体型モデルを2機種展開、新たなユーザーの獲得を狙う。ユーザー目線での商品企画を追求し、ホームプロジェクター市場の拡大に挑む同社、映像機器事業部 事業部長の羽片氏にお話しを伺った。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

まず形から先に決めていき
使い勝手を良くする中身を入れる
それが恟、品揩テくりとなる

―― 御社はプロジェクターの新商品を3機種発表されました。フルハイビジョン対応の「EMPーTW2000」、そして従来のEMPーTWD1、TWD3の流れを汲む「EMPーTWD10」、さらに新たなカテゴリーの商品となる「EMPーDM1」です。かつてEMPーTWD1のセンセーショナルな登場は業界に新風を吹き込みましたが、その流れを汲んだ今回の新商品には非常に注目しています。

羽片 これまでプロジェクターは、接続が難しかったり、セッティングに時間がかかったりというような煩わしさがあり、一部のAVマニアや映画マニアのお客様にしかお使いいただけないような側面があったと思います。しかし私どもは、大画面テレビをさらに超えるような超大画面で気軽に映像を楽しんでいただけるものをつくりたいという思いから、EMPーTWD1、TWD3という商品を出させていただいたのです。
そして今回、怩「つでも どこでも 誰とでも揩コンセプトにして商品化したものが「EMPーDM1」です。この商品は、たとえていうならば 怎oーベキューセット揩ニ似ていると思います。バーベキューセットは、野外で飲食をする時の調理道具ですが、単に料理を作ることだけが目的ではなく、気の合う仲間や家族がそこに集まり、楽しい時間を生み出す道具だと思っています。それと同じように、DM1がそこにあることによって皆が集まり映像を中心に楽しい時間を生み出すものにしたいと考えました。
手軽にコンテンツが見られるテレビに対してプロジェクターのよさは何かというと、まず本体が小さいこと。ならばもっと小さくして、テレビでは不可能ないろいろなところへ運ぶということを実現しようと考えました。その上で接続性や設置性についても改善し、今回の商品に行き着いたのです。

羽片  忠明氏―― このような商品は購入された先でどんどん使い方が発展していくものであり、そういうことでヒット商品になっていくのだと思います。商品の随所にさまざまな気遣いも見受けられますね。

羽片 使い方については、我々が想定している以上にいろいろなことをお客様が考えてくださると思います。DM1は、超大画面の映像をどこへでも持って行き、手軽に楽しんでいただける文化を創る第一弾商品ということになります。
この商品は人が集う場所でも使うため、大きな音を出せることにこだわって8Wのスピーカーを2つ付けました。そして気軽に持ち運べるということで、機器がどこかにぶつけられたり煩雑に扱われたりすることも想定し、耐衝撃性ということにも工夫を凝らし、重量も3・8kgと、女性の方でも疲れずに持てる重さにしました。
またお客様像としてごく一般の方を想定していますから、映像機器というような堅苦しいものではなく、楽しめる道具として、家の中にあっても不自然ではないデザインを考えました。

―― この商品では、「天井投射キット」が用意されているということで、非常に面白いですね。

羽片 これについては、お客様からの「寝転がって見たい」、というご要望にお応えしたものです。いろいろなところに映せるというのがプロジェクターの良さですが、家庭内では天井というのが意外に面積のある場所であり、これはぜひやってみようということになりました。例えばお子さんを寝かしつける時や、入院されている方に上を向いたまま楽な姿勢で見ていただくなど、様々な用途が考えられると思います。
また将来的なプロジェクターの用途として、壁のコーナーや床、あるいは丸い柱とか、襞のあるカーテンにもきれいに映すということを考えています。これはご家庭用ということに限らず、商業広告などでの用途にも展開できると思います。

―― これまでのEMPーTWD1、D3については私もよく存じていますが、新商品のEMPーTWD10はさらに小さく、よりハイクオリティな映像を実現しました。

校條 EMPーTWD10のコンセプトは、ご家庭内で映画を手軽に楽しんでいただくということです。またお客様像としては、大画面に興味はあるけれどホームシアターは敷居が高いと思っておられるような方を想定しています。この商品についても価格は非常に重要と考え、コストダウンを強くすすめて参りましたが、720pの高解像度で15万円前後という価格を実現致しました。コストダウン、サイズダウンの上に性能を上げるということに挑戦したのです。
また、この商品は、ただ大画面を見るというだけでなく、家庭内での設置性に工夫を凝らしました。
プロジェクター部分が回転する構造にしたのは、より設置性の自由度を高めるためです。部屋の壁際や真ん中など、設置場所はいろいろ考えられますが、部屋のどこに置かれてもDVDソフトが出し入れしやすいように、また一番いい位置にスピーカーが存在するようにということで、この機構を採用したのです。まずは誰に使っていただくか、どう設置されるかというようなことを起点に商品づくりをし、このような形になったのです。

―― 回転は非常にスムーズにできますね。これを見たお客様は、購入に向けて背中を押されるのではないでしょうか。

羽片 そういっていただけるとありがたいです。当社は腕時計からスタートしたわけですが、東京オリンピックの時に競技記録の計時を仰せつかり、その記録を印刷するために電気的に動くミニプリンターを開発しました。当時のプリンターは、からくり的なメカニカルなものでした。このからくり技術は、その後のプリンター商品にも活用されており、今回のTWD10でもその技術が活かされたわけです。
商品はまずデザインからスタートすることが重要です。当社では従来、ある程度商品コンセプトが決まり、ある程度中身の設計が定まってからフォルムを決定していましたが、今は商品コンセプトを決める段階で、フォルムを決定するようにしています。
大きさを含めデザインをまず先に決め、その大きさの中に収まるように中身を設計していかないと、見た目の第一印象とか、持った感触とか、使い勝手を含め、恊g近に感じられる商品揩ノはならないと思っています。原理構造から入ると、ただの機械になってしまうのです。

羽片  忠明氏―― EMPーTWD10、EMPーDM1といった商品について、マーケットをどのようにご覧になっていますか。

羽片 これらは、新しい市場をつくっていく商品であると思っています。市場とはすなわちお客様ですから、お客様にこれをいかに認知していただくかが非常に重要です。そしてこの商品は、お使いいただいてこそ良さを実感していただけるものですから、それをどうお伝えするか、店頭でいかに体感していただくかが最大の課題です。お客様にきちんと伝われば、必ず納得していただける商品だと確信しています。

―― 商品のよさをお伝えするということでは、スクリーンも重要な要素です。

羽片 今回、TWD10、DM1についてはスクリーンセットを前面に出していきます。DM1はD3の時の80インチスクリーンを継続して使用していますが、TWD10では立ち上げ式のスクリーンをセットにしましたので、より手軽にセッティングしていただけると思います。スクリーン自体もまだ大きく、重く、高価であるという課題を抱えています。次のステップでは、さらに小さく、軽く、しかも手軽に設置できるものを追及していきたいと考えています。

―― スクリーンセットというのは、非常に魅力です。ただ80インチのスクリーンがセットということで、お客様に80インチまでのサイズしか見られないという印象を与えてしまいがちです。もっともっと、100インチ以上の画面も楽しんでいただけるということも同時にお伝えしなくてはなりませんね。

―― 最上位機種のTW2000について伺っていきたいと思います。

羽片 EMPーTW2000は、TWD10、DM1とはコンセプトが異なる商品です。映像の美しさをより追求して、映画にのめりこんでいただきたいという思いでつくりました。映像の美しさとは何かというと、まずコントラストだと考えます。そこでTW2000では、50000:1の高コントラストを実現し、かなり自信のある仕上がりとなりました。
この商品は、AVマニアの方だけでなく、AVファン、映画ファンの方々にお使いいただきたいものですから、そこを意識した価格付けをしました。お客様が新築、改築などでホームシアターを導入しようとされる際の予算がすべてを含めて100万円、そこから工事費やオーディオまわりの費用を除くと、だいたい30万円くらいがプロジェクターにまわせるという調査結果をもとにしました。
そのために様々なコストダウンも行いましたが、コストを下げるというのはメーカーの使命です。必要なものを削るのではなく、機能や性能を上げつつコストを押さえ込んでいく技術開発が重要だと考えています。

―― 今後も御社のプロジェクタービジネスは継続、拡大していくわけですが、その中・長期的なビジョンについてお聞かせいただけますか。

羽片 基本的には今回ご紹介した3本柱で展開していきます。映画ファン、映画マニアの方は高品位な映像を求められますので、高画質はこれからも追求していきます。またご家庭の中で楽しんでいただくものとして、専用ルームではなく、リビング環境の中で見られることを想定し、ある程度明るい環境の中でもきれいな大画面映像が見られること、様々な機器との接続性を高めること、そこを追求していきたいと思います。さらに、「いつでも、どこでも、誰とでも」というコンセプトに沿って、もっと小さく、スクリーンの重要性も加味して、第2歩、第3歩と進化させていきたいと考えています。

―― 新商品によって、市場拡大への期待がますます高まります。本日はありがとうございました。

◆PROFILE◆

Tadaaki Hagata

1957年12月1日生まれ。長野県出身。1983年3月信州大学大学院卒業。1983年4月エプソン(株)(現セイコーエプソン(株))入社。2003 年10月BS事業部副事業部長。2005年4月映像機器事業部副事業部長。2005年11月映像機器事業部事業部長就任。現在に至る。趣味は城址めぐり。