(株)ケーズホールディングス
代表取締役社長

加藤 修一
Shuichi Kato

会社経営は終わりのない
駅伝競走。大切なのは
継続して成長していくこと

2007年、創業60周年を迎えたケーズデンキは、その間一度も売上げを落とすことなく、安定高成長を続けてきた。家電流通を取り巻く経営環境がますます厳しさを増す中で、“頑張らない経営”をその強さの秘訣に、着実に目標へと歩み続ける。様々な課題や期待と共にスタートした2008年。今後の家電流通経営を、加藤社長に聞く。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

お客様を増やす努力と
逃さない努力がある

―― 07年に創業60周年を迎えられました。

加藤修一氏加藤 いつのまにか過ぎてしまった、という印象ですね。常々「頑張らない経営」と言っていますが、それは、できもしないことを望まないということで、やれることはきちんとやりましょうということなんです。大きな負荷をかけないとできないと考える人もいますが、私は、会社経営は終わりのない駅伝競走だと考えています。できることを確実にやり、継続して成長していくことが大切。ケーズデンキ60周年で自慢できることは、この60年間、一度も売上げを落とすことなく、常に成長し続けてきたことです。

―― 3年、5年というスパンならともかく、60年間続けてというのはすごいことですね。

加藤 すごいのではなく、サボっているからです(笑)。やれることを全部やってしまうのではなく、いつでも先のためにとっておく。だから余裕が生まれます。

―― 1年に25%伸ばすと3年で倍、10年で10倍、20年で100倍、30年で1000倍になるとおっしゃってこられました。

加藤 その通り30年で1000倍になりました。今、売上げが4000億円を超えてきましたので、1年に15%、5年で倍になるペースに落としてやっています。「加藤さんは成功したからそんなことを言うけど、世の中そんなに甘くないですよ」とよく言われるものですから、創業60周年をまとめた冊子に成長の軌跡を記しました。今になって言い始めたのではなく、昔から言ってきたこと、やってきたことなんです。

―― 60年間継続して成長してこられた背景のひとつとして、常にお客様の目線で考えていらっしゃいますね。

加藤 それはここ10年、20年の話で、若いときにはやはり、夢中になってテクニックを吸収したり、真似したりしたものです。しかしカンフル剤と同じで、そのときはよくても、後に不要になってしまう。そこで、これは無駄だから頑張ってもしょうがないだろうと考えるようになりました。「頑張らない」という考え方そのものは昔からありましたが、さらにそれが裏付けされたという感じですね。

―― 経営方針として「本当の親切」というスローガンを打ち出されました。これについてお聞かせいただけますか。

加藤 お店はお客様にファンになっていただくために努力をしています。だから、お客様を裏切りさえしなければ、お客様の数はだんだんに増えていきます。また、増やす努力とともに、逃がさない努力というのがあって、そのためには、「ここはいい店だからまたここで買いたい」と思ってもらうことが必要です。

―― サービスのひとつに延長保証がありますが、料金はじめ、各社各様でわかりづらい面がありますね。

加藤 家電商品も昔はよく壊れましたが、いまは性能もよくなり、しかも壊れにくくなりました。それを、壊れた人だけが大きな負担をするのは気の毒ですから、うちで買われたお客様なら、うちが無料で修理しましょうというのがケーズデンキの考え方です。これが本当の保証ではないかと思います。料金を別に支払うと延長保証されるところもありますが、それはお客様の意思で保険をかけたわけで、かけない人は2年目以降は有料になるというのは変な話だと思います。これは、ものごとをどう考えるかなんですね。店の側に視点を置くから、保証料をもらって、そこでまた利益を上げようという考え方になるのではないでしょうか。

お客様の視点は
従業員の視点から始まる

―― ギガス、八千代ムセン電機に続き、07年にはデンコードーを子会社化されました。04年1月号のインタビューでは「10年後には全国展開を」とお話されていましたが、その進捗状況と今後の展開についてお聞かせください。

加藤 現在の店舗網で、チラシ広告をしているのが日本の全世帯数のおよそ3分の1に過ぎません。当面は出店を続けることで、これを早く2分の1にしたいですね。店を出すからには、そのエリアで5人にひとりは支持される店にしたい。そうすると、日本の半分のエリアで商売をして、その20%%のお客様から支持をいただくことになりますから、日本の家電市場で1割の売上げ、およそ8000億から9000億になるというのが2011年の目標です。まだ3分の1ですから、突飛なことをする必要はありません。淡々とスクラップ&ビルドを進めていくのが経営上の考え方です。
計画を進めるとこういう結果になると発表しているだけですから、こうしなければならないということではありません。社員も淡々とやるべきことを実行していけばいいので誰も仕事に迷わない。妙なプレッシャーや負荷がかからないわけです。

―― 経営統合では、それぞれの会社に文化があり、考え方があります。むずかしい面はありませんか。

加藤 むずかしいのは、たいがいの人が頑張っているからなんですね。頑張ってきた人から見れば、ケーズデンキの考え方は楽ですから、同化しやすいと思います。「今までなにをやっていたんだ、もっとやらないと」ではなく、「いままではやり過ぎていたから、もうちょっと正しいことをやりましょう」ということです。
本当はこの商品の方がお客様にはいいのだけれど、こちらの方が儲かるから、それをどうやって売ろうかということを従来、頑張ってやっていたわけなんです。しかし、商品をつくった人がいて、それを欲しい人がいる。そこをつなぐのが小売業です。儲かるものをどう売るかに努力をし過ぎて、そこにはかなりの心的負荷もあったはずです。それを、お客様のためという考え方から、「ちょっと間違っていませんか」と解いていくわけです。販売員の肩の荷はぐっと軽くなり、商売も楽しくなります。
ただ、そのことがなかなかお客様に伝わっていない場合がありますから、それは伝えていかなければなりません。わかっていただければ、お客様がファンになってくれる。最終的には儲けさせてくれます。

―― お客様も増えてきますね。

加藤 企業統合にしても、ケーズデンキと一緒に組みたいということで、あまり努力をしなくても仲間が増えていく。無理矢理どこかの会社を買収する必要もありません。本来は、昔のようにエリアで頑張っている状態の方が望ましかったのですが、全国区でないと、メーカーから取引先として重きを置かれない時代になってしまいました。だから皆組んでいるわけで、会社が大きくなりたくてなっているわけではないんです。
ケーズデンキではM&Aをしても、子会社化した会社はそのまま残しています。それは、地域ごとにくくられることが社員の幸せになるからです。給与体系も全国一律ではなく、その地域にあった給与体系の方が社員も納得します。転勤範囲もあまり遠くならないので、単身赴任をするにしても安心感がある。国が進めている道州制がありますが、それくらいの単位で会社が別々にあり、その上でやっていることは一体化されているというのが一番のローコストになると思います。

―― お客様の視点であると同時に、社員の視点なんですね。

加藤 私が社長になったときに考えたのは、従業員を大切にして、お取り引き先を大切にして、そして、お客様に報いるということで、一番は従業員なんです。従業員がお客様に接するわけですから、従業員に負荷がかかってしまうと、言い方は悪いですが、どうやってお客様をだますかということになってしまいます。そうではなく、従業員をまずのびのびさせ、所得や労働環境をよくしてやることが、お客様のためにもなるわけです。取引先との関係をよくすれば、売れ筋商品が潤沢にまわってきて、これもお客様のためになる。最初からお客様のためと言ってしまうと、従業員の給料を安くしたり、仕入れを下げたり、実際にはお客様のためにはならなくなります。

特長を全面に打ち出し
お客様が選ぶ対象に

加藤修一氏―― 価格を安くするために、そうした方策は往々にしてあるのではないでしょうか。

加藤 それでは続かないんですね。お客様に気に入られて、たびたび来店いただけるようになれば、売上げも上げやすくなります。その結果、給与を払っても人件費率が高くならない。ここは能率を上げるのが一番なんです。

―― 家電流通もさらなる寡占化が進む中で、「残った会社はお客様からもメーカーからも支持されなくてはならない」とよくおっしゃっておられます。

加藤 お客様がきちんと選んでいくと思います。行き過ぎることもありますが、必ずゆり戻しが起こります。消費者は一番よく知っていますからね。

―― そういう目で見られたときに、現在の家電量販業界についてどうお考えですか。

加藤 まず、お客様に比較していただける範疇に入らなければなりません。お客様が量販店を比較する場合、住んでいる街の中で、せいぜい3つくらい。5つあっても、全部比べて買うことはまずありません。うちを選んでもらうためには、特長があった方がいい。世の中が皆ポイント制と言うのなら、ケーズデンキはやらないことが特長です。
例えば野菜でも、農薬を使用して、虫の食わない立派な形の野菜を出荷する商売もあれば、ちょっと虫は食ってしまうけれど無農薬で提供するというのもある。どちらを選ぶかはお客様です。お客様がだんだん成長してくると、意外と無農薬を好んでもらうようになるのではないでしょうか。電化製品でも、無理矢理お店が薦めるのではなく、お客様自ら自分にあったものを選び、満足していただくことができる環境ができあがっていくのではないでしょうか。

―― そうした違いをどうやってお客様にわかっていただくかですね。

加藤 そのためには、お店に足を運んでもらわなければなりませんから、そこでケーズデンキは大きな店をつくっています。競争相手より大きな店があれば、お客様も他所の店だけ見て済ましてしまうということはない。あそこにも大きな店があるから見てみようということになります。そのときにケーズデンキの特長を理解してもらえれば、5人にひとりくらいはうちで買ってくれるようになるのではないか、という考え方です。

―― 今、ホームシアターなどでは、お客様からインテリアとして、家具との連動の要求も高まりつつありますね。

加藤 そうしたことをするためにも、大きな売り場が必要です。小さな売り場では、そんなことより購入頻度の高いものを扱った方がいいということになり、ホームシアターの売り場などつくれません。その結果、効率だけの大変つまらない店になってしまいます。ただ、単に大きくすると場所代が高くなり、今度はコストダウンできなくなってしまう。ですからケーズデンキでは郊外に大きな店をつくっています。

お客様視点の不在が
様々な問題の根源

―― 郊外型と駅前立地型、また、地域密着型の地域店との棲み分けについてはどのように見ていますか。

加藤 例えば地域店は町医者のようなもので、なんでも診てくれるし、時間的にも融通が効きます。一方の量販店は総合病院か大学病院といったところで、どちらかがあればそれでいいという関係ではありません。
また、駅前立地型と郊外型も、これも商売のスタイルが違います。駅前立地型というのはデパートと似たような商圏で、広い範囲から人が集まってきます。その分、土地も高く、郊外との比較では10倍以上になりますから、お客様も10倍来ないと同じ店舗コストになりません。ですから、いつでも開店セールのようにお客様で賑わっています。一方、郊外型は、近いから便利だということで来店いただけます。両方にそれぞれのお客様があり、いわゆるデパートとGMSのような関係ではないでしょうか。

―― 家電流通の問題を考えていく上で、NEBAが解散した後、それに代わる受け皿づくりがなかなかできない状態が続いています。

加藤 今は、自分でルールを決め、自分で守っているという状態です。生活の知恵や秩序など、世の中を生きていくためには暗黙のルールがあります。それを守っていきましょうという意識が出てこないと無理ではないでしょうか。
勝てばいいというのは戦争です。競争と戦争とは違いますからね。競争にはルールがあり、それは誰も同じですから、不利にはならない。そこがうまく世の中全体に理解されていないところがあります。最終的に、お客様の利益にもつながりません。

―― 付加価値の高い成長商品がこれだけありながら、製販含め、どこも儲かっていないという状況は、どこかおかしいですね。こんなに安く売らなくても、もっと高価でも満足のいく商品を求めているお客様も少なくありません。

加藤 ある意味では、メーカーに先を見る人がいないのかもしれませんね。自分の任期の間だけのことしか考えていない。毎回毎回そのときだけの話をしていると、会社もくたびれてしまいます。また、流通の在り方を正しくしようということにもあまり力を入れてこなかったように思います。家電リサイクル法の不適切処理の問題なども、お客様を置き去りにして儲けに走ってしまうから、ああいうことが起きてしまうのだと思います。
考え方ひとつで会社は変わってしまいます。悪い社員ばかり集まる会社はありません。パソコンと同じで、そこにどういうプログラムを落とすか、それがすなわち会社の考え方になります。当社では、M&Aをした場合にも、時間をかけて、うちの考え方に馴染んでいただけるようにしていますから、いきなりはよくなりませんが、3年、4年すると必ずよくなってきます。

―― それでは最後に、08年の家電販売業界の見通しをお聞かせください。

加藤 11年に向けてテレビの買い替えは進んでいますが、それに加えて、北京五輪が開催されますので、07年がそれほどいい年ではなかった分も含めて、08年は映像商品を中心に業界もよくなっていくと見ています。

―― 本日はどうもありがとうございました。

◆PROFILE◆

Shuichi Kato

1946年4月7日生まれ。茨城県出身。69年3月東京電機大学工学部卒業。同年4月(有)加藤電機商会入社。73年9月(株)カトーデンキ代表取締役専務、82年3月よりカトーデンキ販売(株)代表取締役社長。01年4月からは日本電気大型店協会(NEBA)の副会長を4年間務めた。“人”を尊重する企業風土と無理・無駄・ムラのない「頑張らない経営」で安定的な成長を続ける。