松岡 建志氏

日立マクセル(株)
コンシューマ販売事業部
事業部長

松岡 建志
Kenji Matsuoka

お客様の目線に立ってどれだけ
メッセージを発信できるか
それがブランドの生命線

新たに「コンシューマ販売事業部」を立ち上げた日立マクセル。経営のスピード感をさらに高め、厳しさを増す市場環境に対応していく。事業部長に就任した松岡建志氏は「本物と偽者を厳しく見分けなければならない時代になればなるほど、マクセルブランドの価値が際立ってくる」と自信をのぞかせる。信頼と安心のブランド「マクセル」。市場をリードするそのビジョンに迫る。


お客様と同じように共感していける企業体であることが、これからのマクセルの発展の原動力になります

―― メディアを取り巻く市場環境も激しく変化していますが、御社では新たに「コンシューマ販売事業部」を発足されました。

松岡 マクセルブランドも多くのご販売店様にお取り扱いいただき、面の広がりという意味では良い環境が整ってきていると思います。競争は益々激しくなり、弊社としても態勢を整え、時代の流れについていかなければ、生き残りは厳しいと考えています。マクセルの商品をもっともっとお客様に使っていただくためには、私どもが流通様の声、お客様の声を伺い、より密接した商品を提供し続けていかなければなりません。

昨年を代表する言葉が「偽」でした。マクセルが扱うディスクや乾電池の外観はどれも同じに見えます。「中身が違う」と言っても中を開けて見ていただくわけにもいかない。だからこそ、「マクセル」というブランドが大切で、「マクセルなら安心だ」と言っていただけることが差別化だと思っています。信頼と安心をお客様にお届けしたい。そんな想いでいきたいと、このコンシューマ販売事業部を発足させました。

もうひとつの理由として、時代の流れの早さが挙げられます。従来は、各事業部で商品をつくり、販売するという体制でしたが、そうした分業では重複する業務が多く、タイムリーに商品を発売できません。半年以上かかっていた開発期間を3ヵ月くらいに短縮できる体制をつくりたい。そのために、開発、設計、調達、販売、品質保証、アフターサービスのすべてを集約しお客様にお届けしていく体制を整えたわけです。

―― メディアは説明商品ではないので、店頭でお客様が商品を購入するに際し、ブランドの持つ意味は大変大きいと思います。

松岡 建志氏

松岡 その通りだと思います。わたしはブランクディスクを販売しているのではなく、「記憶のタイムマシン」をお客様に買っていただいていると思っています。五年後、十年後、さらに何十年後かに見たいと思ったときにきちんと記録されているかどうか。「マクセルなら大丈夫。」お客様にそう思っていただきご購入いただければ、大変うれしいと思っています。

―― ブランド力を研ぎ澄ます一方で、市場でのビジネスを勝ち抜いていくコスト力とのバランスをとっていくのは非常にむずかしいですね。そうした中で「スーパーODM」を昨春から本格導入されています。

松岡 ご指摘の通りです。ディスクの基本性能を維持向上させながら、コストダウンをすることは重要な使命です。

DVDを生産していた筑波工場の全ラインをそのまま全て海外に移転しながら、日本と同じ原材料、生産工程、品質保証で生産しております。筑波工場でつくっていたものと何ひとつ変わらない生産をすることがスーパーODMです。またマクセルのユニークな「ものづくり」を維持向上させるために、事業部の設計、開発、品質保証部を強化しました。品質に徹底的にこだわる。本当に面白い事業部ができたと私もワクワクしているところです。

ユニークな商品をこれからも出し続けていきたい。皆様に注目いただきたいですね。

―― スリム化という面ではどのような対応をされていますか。

松岡 リーズナブルな価格でお届けしていくために、今回の組織改変において組織の重複を避け、販売部、商品部、品質保証部とシンプルな体制としました。各部の役割を明確にすることで責任も明確になり、連携もしやすくなり、効率化を図ることができました。同時にご販売店様の店頭での情報発信力が落ちないように「MRS」(マクセル・リテール・サポーターズ)という主婦を中心とした店頭サポートチームを強化致しました。コストを下げながら、サービスレベルはあげていくという難しい課題にチャレンジし、スリムな体制で実現できたのではないかと思います。

同時に良い商品を作り続けていくことがお客様にリーズナブルと感じていただける基本だと思います。ハードコートで記録面を保護するDVD-R「Premiumハードコート」や、水や湿気に強く光沢感が長持ちするDVD-R「Premium耐水光沢レーベル」等、今後とも付加価値を追及しリーズナブルを実現していきたいと思います

さらに、マクセルの提案をお客様に的確にお伝えしていくことも重要です。マクセルではパッケージデザインひとつにも拘りパッケージ正面だけではなく天面、底面、裏面全部を使って商品の価値をお伝えするようにしています。それでも購入場面では自分の機器に使えるかどうか、お客様は不安になることもあると思います。マクセルではQRコードを採用、使用可能な機器を携帯電話で調べることができるようにしています。ご販売店の方がお客様に「このモデルで使えますか」と聞かれたときにも、その場で携帯電話を使って確認いただけ、正確なご案内ができるようにと採用しました。一度自宅に戻って機器を調べるのは大変です。その場でわかることもリーズナブルなことの一つと思います。こうしたサポート力が最終的にはブランドとしての付加価値になればと思います。

マクセルを選んでいただける理由がたくさんあればあるだけ、リーズナブルな企業になると思います。

―― ディスク以外にも広範なラインナップを展開されています。

松岡 はい、近年は音に拘り、ヘッドホン、イヤホン、スピーカーといった商品を発売しております。カセットテープやCD-R等音の入口は得意なのですが、出口にあたる商品はありませんでした。良い音も映像も出口があって完結する。そんな気持ちで商品化を開始しました。

現在の音楽は、圧縮して、たくさん持ち歩けるのは良いことなのですが、問題は、圧縮したままでは本来の良い音で再生できないことです。世の中の進歩に反して音の世界だけが逆行しているのではないか。そんな思いからデジタルの良さを生かしながら良い音を再現したいと開発しています。VRAISON(ヴレソン)というヘッドホンは16ビットを24ビットに拡張し、周波数も44kHzまで伸ばすことでアナログ、デジタル問わずナチュラルな音で再生します。SACDに匹敵するくらい良い音楽を再生できるように開発しました。

この技術を使い、今夏にはiPod対応のスピーカーを発売致します。これでドンドン音楽を溜め込んで、良い音で聴いていただきたいと思います。1月には極めて自然な音場を再生するタイムドメイン理論を用いたスピーカー「MXSP-4000.TD」を発売いたしましたが、これも大人気となっています。人の耳はアナログしか理解できません。これからもデジタルを優れたアナログに戻せるように知恵を絞って商品を開発していきます。

―― 昨年、リムーバブルハードディスクの「iVDR」という新しい提案も行われました。

松岡 はい。世界で唯一のハイビジョンを持ち運びができるリムーバブルハードディスクとして「iVDR」を発売させていただきました。iVDRは「iVDRコンソーシアム」が定めた規格で、VHSテープのように誰でも簡単に使えます。DVDメディアとは異なり、記憶容量の差だけで、規格は一つであり、購入や使用時において迷うこともありません。BD(片面1層25G)と比較して10倍と大容量(250GB)かつ転送速度が9倍と使い勝手も格段に上ですから、普段使いに適したメディアだと思います。

BDは大容量で保存用としては大変素晴らしい。でも、ちょっと録画したいとか、シリーズを全部録画したいと言うような用途にはiVDRの方が適しています。

お客様を考えると、選択肢を拡げてあげることが必要です。例えばお年寄りの方など機器に弱い方に「BDを使ってください」といっても抵抗が大きいかもしれません。でもiVDRなら、差し込むだけですからストレスなく使える。誰にでも優しいということを実現していかないといけないと思います。店頭で是非この便利さをお試しいただければと思います。

夏商戦に合わせて、USBやHDMIを備えた「iVDRプレーヤー」の発売も予定しています。テレビとパソコン・通信との融合が叫ばれる中で、パソコンで録画して大型テレビで見る、そんな若い人を中心とした新しい文化を提案して参ります。ご期待ください。

―― アルカリ乾電池でも、御社は高いシェアをお持ちですね。

松岡 建志氏松岡 ありがとうございます。アルカリ電池を日本ではじめてつくったのはマクセルで、社名の由来は「マキシマム・キャパシティ・ドライセル(最高性能の乾電池)」です。マキシマムのMaxと、ドライセルのellを合わせて作った造語です。現在も最高品質のアルカリ電池を大阪で作り続けています。

この2月にはボルテージというアルカリ電池も発売しました。ダイナミックというアルカリ電池の上を行く「瞬発力」「大馬力」「持久力」の長持ちトリプルパワーをもった電池です。機器を選ばすご使用いただけます。

この電池を含め、良い商品を作り続けることは、もっともむずかしいことです。いいものを開発しても、世の中に伝わらないことがほとんどで、伝わることの方がむしろ奇跡です。しかし、だからと言って拘ったものづくりをしなくなると伝えるものがなくなってしまい、伝えたいという努力をしなくなってしまいます。それだけは絶対あってはなりません。伝わらないことを伝えようというところに企業としての面白さがあります。マクセルはすべてはお客様のためにという気持ちを込めてパッケージ1枚もおろそかにせず伝えていきたいと思います。

―― 商品の品質は言うまでもなく。パーケージひとつとっても、お客様のためにとことんこだわる。そこがマクセルの真骨頂というわけですね。

松岡 その通りです。今年は宣伝においても、「次世代に残す大切なもの」をテーマとした6分のCFを作成しました。お客様の記録を残す思いに対し、ストレートにわれわれの品質を伝えていきたいと思い、全6分という長尺で製作しました。ホームページでご覧いただけますので、是非一度ご覧ください。

―― ものづくりに対するそうした姿勢をお客様にどれだけきちんとご理解いただけるかも、大切な取り組みですね。

松岡 マクセルでは「品質保証からはじまるものづくり」をひとつのテーマとして掲げています。品質保証は出口ではない。入口であるというのがその考え方です。ご不満をいただいた場合「それはそうだ」と、そのご不満を共感しえる企業になれるかどうか私どもがどれだけ、メーカーでなく、お客様の立場に戻れるか。その場所が実は品質保証だと思っています。

お客様と共感していける企業体であることが、新しいマクセルの発展の原動力であり、ここから「ものづくり」は始まると考えています。マクセルというブランドに接していただいた時「あのメーカーの商品なら大丈夫」とお客様に言っていただけるように、これからも『全てはお客様のために』をモットーとして拘りぬいていきたいと思います。

―― 本日はどうもありがとうございます。

◆PROFILE◆

松岡 建志 氏 Kenji Matsuoka

1955年7月18日生まれ。広島県広島市出身。79年中央大学法学部卒業、同年日立マクセル(株)入社。横浜営業所で市販営業をスタート。販売推進部、関東支店副支店長、九州支店長、記録メディア業務部長、コンシューマ営業本部副本部長、マーケティング部長、営業企画本部長を歴任後、4月1日同職就任。趣味はゴルフ、日曜大工、園芸。座右の銘は「長短在我、不在日(長短は我に在りて日にあらず)」「成せばなる、成さねばならぬ何事も、成らぬは己れの成さぬなりけり」(上杉鷹山)。