山本和明氏

日立コンシューマ・マーケティング(株)
取締役社長

山本 和明
Kazuaki Yamamoto

現場立脚をさらに徹底コンシューマ事業を牽引するマーケティングカンパニーへ

営業主導型の新体制により、コンシューマ事業の強化を図った日立。新設のマーケティング事業部と日立コンシューマ・マーケティング株式会社による連携を強化。プレミアム商品を中心に、対前年比2桁成長を狙う。新体制の狙い、デジタルAV市場に対する課題や今後の取り組みについて、日立コンシューマ・マーケティングの新社長に就任した山本和明氏に話を聞く。


価格は競争の一つのファクターですが
やはり、いい商品づくりの競争へ
いち早く軸を戻すべきだと思います

コンシューマ事業を
営業主導の新体制に


―― 新しく社長に就任されての抱負をお聞かせください。

山本 日立の搖鍄揩ニして、コンシューマ事業は常に大きな注目を集めています。現在、薄型テレビ市場で苦戦を強いられておりますが、今一度、国内市場を重点的にシェアを伸ばし、高付加価値商品をしっかり売るための新しい体制をスタートさせました。

狙いは、営業主導型のフロントドリブン体制です。これを具体的に組織化しました。コンシューマ事業グループの中に、新たにマーケティング事業部を設け、そこへ私の前任の渡辺が事業部長として赴任いたしました。マーケティング事業部には、AV商品、白物商品の営業はもちろんのこと、私ども日立コンシューマ・マーケティングの広域営業や販売企画、商品企画の部隊も入り、まさに全社をあげてのマーケティング部門となります。また、私自身も、マーケティング事業部のCMOを兼務するなど、二重職制を採用しており、マーケティング事業部と日立コンシューマ・マーケティングの両部門の連携を強化することにより、日立のコンシューマ事業を営業主導型に持っていきます。そうした大きな動きの中での社長就任となりますので、責任と同時に大変やりがいのあるところに就かせていただいたと思っております。

―― これまでは、何ができていなかった、或いは、何が足りなかったのでしょうか。

山本和明氏

山本 企業運営の中心が事業部寄りになってしまったことで、市場との乖離が見受けられました。それを一本の方向にベクトルを合わせるのが私の最大の責務となります。どうしたらお取引様に安心感、信頼感をもって日立のコンシューマ商品を扱っていただけるかというスタンスに立脚して、ものづくりはもちろんのこと、販促や価格政策に対しても、きっちりとものを言っていきます。

これまでは販売会社でも、「事業部側が売れる商品をつくらない」「価格競争力がない」で終わってしまっていたところがあります。一方、事業部では、市場までの距離が大変に遠い。事業部の人間は、最前線の市場や営業マンの思いが理解できなければ事業を運営することはできませんし、一方の販売会社でも、事業部の中の様々なことを理解していなければなりません。かつて、日立家電が日立製作所に吸収合併される以前の体制では、製販ともに同じビルの中にヘッドクオーターがおり、さらに、日立製作所の事業部の営業の人間は、日立家電にも籍を置く二重職制を採用していました。体の半分は事業部、残りの体半分は日立家電の人間というわけです。いま考えれば大変よくできていたシステムなのですが、それに近いイメージの体制がこれから構築できると思います。

付加価値販売への舵取りが
これからの市場課題


―― 御社では、「インスパイア・ザ・ネクスト」をキャッチコピーに、新市場を創造する商品を次々に提案されています。昨年末に市場投入された液晶テレビ「Wooo」UTシリーズなどはその代表例ですが、店頭やお客様に対し、どのようにメッセージをお届けしていくのか。その重要な役割も担っていますね。

山本 これまで、事業部と営業が素直に商品を語り合う機会が足りなかったのではないかと反省しています。例えば、昨年末に投入した液晶テレビ「UTシリーズ」のケースでも、ポツンと32V型がひとつだけでは、店頭から「日立さん、これでは商品計画ができていないですよ」と言われても当たり前なのです。いかに薄さ35mmといっても、島展示で、すぐ隣には他社さんの10万円前後の液晶テレビがズラリと並んでいれば、どうしてこの商品だけ価格が2倍以上もするのだろうかという疑問符でお客様は終わってしまいます。

やはり、壁面に清々とラインナップが並び、プラズマあり、液晶あり、そして、UTシリーズありと、面で見えなければいけない。4月14日に薄型テレビWoooの新商品を発表しました。これから夏のボーナス商戦へ向けて、ラインナップもようやく揃い、面での展開ができる体制が整いました。

―― 群雄割拠の市場で、営業戦略としてはどのようなメッセージを発信していくのでしょうか。

山本 全方位的には戦えませんので、白物でも中心に展開している高付加価値のプレミアム商品、テレビではUTシリーズがまさにそうですが、そこを中心に戦っていきます。そのメッセージをもっと明確に打ち出していきたいですね。「Woooで録画」もそうした主張のひとつです。店頭でも「録画できるならこのテレビですよ」と、日立のWoooをお薦めいただいています。この春には、カセットHDD「iVDR-S」のプレゼントキャンペーンを新商品の導入に合わせた販売施策として展開し、引き続き力を入れて参ります。

―― こうした付加価値商品に対しては、販売店での取り組みにもかなり温度差があるのではないでしょうか。

山本 テレビにおいては、今後さらに薄型化の方向へ向かうことは間違いないと思います。価格競争から脱却するという観点からも、店頭ではこうした付加価値商品をどう販売するかという方向へ、舵を切ってくると思います。

UTシリーズの販売実績を見てみますと、実に購入者の約15%が壁掛けにしており、さらに、フロアスタンドや壁寄せまで含めると30%以上になるという結果が出ています。確実に、新しいテレビのある生活シーンが広がりつつあるわけです。

さらに多くのお客様に、広くご理解いただくためには、取り付けのための時間や費用がどれくらいかかるのかや、壁がどんな材質でつくられていて、どのような場合に加工が必要になるのかなど、そうした情報を発信し、店頭で訴求を行っていくためにも、販促助成物等を営業側でも用意して、その付加価値をきちんと訴えていくことができる環境づくりを進めていきます。

―― UTシリーズの発売により、日立さんがWoooをスタートしたときの新しい生活空間を創造するという一貫して訴えてきたメッセージが、再び、ぐっと浮き彫りになってきたのではないでしょうか。

山本 もう一度、量販店さんの売り場で、面で見せていけるように、お客様との接点となる売り場づくりにチャレンジしていきたいと思います。展示の仕方も、「壁掛け」がひとつのポイントになってきますので、もっと具体的にお客様にわかっていただける形でのプロモーション活動にも引き続き力を入れて参ります。特に店頭では、普通のラックではなく、壁掛けや壁寄せ、フロアスタンドを活用して、こんな置き方がある、こんなテレビの視聴スタイルがあるということを訴えていきます。

テレビは消している時間の方が圧倒的に長いわけですから、リビングルームに大きな黒い塊があるのは、やはり、おかしいですよね。背面まで美しいUTシリーズの登場により、リビングシーンが変わっていくと確信しています。

―― UTシリーズでは、薄型化・軽量化により壁掛けのハードルを格段と低くする一方で、やはり、取り付けやインストールとなると、サービス面での店頭フォロー体制も必要になってくるのではないでしょうか。

山本 工事等については、販売店さんではそれぞれ専門の業者さんと提携されているケースが少なくありませんので、慌ててそのための対応をとっていく必要はないのではないかと考えています。反対に、販売店そのものが付加価値として、そうしたサービスをお客様に対してもっと前面に打ち出していかれるようになるのではないでしょうか。

マーケティングの
4つのポイント

―― 08年度の売上目標として、薄型テレビでは前年比140%の数字を発表されました。

山本和明氏山本 市場がさらに拡大していく中で、絶対量を追いかけていくことはやはり必要になります。そしてその中で、プレミアム商品のUTシリーズの構成比をどれだけ高められるかというのが大きなポイントとなります。

価格競争を脱し、付加価値商品をもう一度テレビの主役の座に持っていくためには、大型液晶の半分くらいをUTシリーズで狙っていきたいという意気込みでいます。プラズマテレビでも50V型の超薄型をいろいろな場でお見せしており、「日立のテレビは全部UTになる」という、他社に先んじた、かなり進んだことをやっているというイメージも構築できてきているのではないかと思います。

―― 市場では相変わらず価格競争による厳しい市場環境にあります。

山本 価格は競争の中のひとつのファクターなのですが、やはり、いい商品づくりの競争へ、いち早く軸を戻すべきだと思います。メーカーはものづくりの競争をする、販売する側はその付加価値をどうお客様に伝えていくかという競争をする。そういう業界に変えていかないと根本的な解決にはなりません。

そのためにも、テレビのみならず、アクトビラのような、コンテンツの側面からの展望をお客様にお見せしていくことも大切ですし、システムとしての発展についての説明やアピールも重要なポイントになると思います。

―― それでは最後に、AV商品のマーケティングに対する、山本社長の心得についてお聞かせください。

山本 ひとつには、われわれは不特定多数のお客様に向かって商品を販売しているわけですから、商品のいいところ、悪いところ、改善すべきところ、買われた理由など、とにかく商品について語ることが大切だと思っています。


2つめには、つくった側からすると、その商品のいいところばかりしか見ていないことも少なくありません。もっと、売れなかったケースや買われなかったケースにおいて、その理由や、何と比較され、どこが不満で選択から漏れてしまったのかなどを、突き詰めていくことが必要です。

3つめは、やはり営業ですから、ある前提条件を与えられたときに、数字できちっと表現できることですね。

そして4つめとして、われわれ販売会社はお取引様に一番近いところにいるわけですから、現場で起こっていることに立脚した提案や意見でなければならないということです。これは、事業部サイドにもときどき言っているのですが、市場は遠くても構わない。しかし、月に一度、二度でいいから、きちんと販売店に足を運んでほしい。定点観測をして現場を見ていれば、今、何が起こっているのか、かなりのことが分かるはずです。事業部の人も、そうした形で現場立脚はできるはずです。われわれ販売会社サイドはもちろん、それ以上でなければなりません。

以上の4点を実行できれば、コンシューマ事業を牽引していくことができるマーケティングカンパニーになれるはずだと社員に言い続けております。

―― 本日はどうもありがとうございました。

◆PROFILE◆

山本 和明 氏 Kazuaki Yamamoto

1951年1月26日生まれ。福岡県出身。74年4月(株)日立製作所入社。96年2月映像情報メディア事業部AV製品本部営業部長、02年10月ユビキタスプラットフォームグループデジタルメディア統括営業本部コンシューマ営業本部長、03年4月日立ホーム・アンド・ライフ・ソリューション(株)国内営業部門副部門長、04年4月日立コンシューマ・マーケティング(株)取締役広域営業本部長、05年11月取締役中部社社長、07年4月常務取締役中部社社長、08年4月代表取締役 取締役社長就任、現在に至る。趣味はスポーツ。特にゴルフはシングルハンディの腕前