久保田孝一氏

多くの方にプロジェクターを
楽しんでいただくことを目指し
市場を我々の手でつくっていく
セイコーエプソン(株)
映像機器事業部事業部長
久保田 孝一氏
Koichi Kubota

ホームプロジェクター市場の拡大に果敢に挑むセイコーエプソン。本格的ホームシアター構築のニーズに応える高画質タイプと、プロジェクターの様々な楽しみ方を提案するDVD一体型モデルというふたつのゾーンで商品を展開し、プロジェクター市場をけん引している。市場のパイをさらに広げていくという強い意気込みのもとに戦略的新製品を投入した同社の、映像機器事業部・新事業部長となられた久保田氏にお話しを伺った。

市場は飽和したのではありません
商品をしっかりと出していくことと
着実に認知される活動が必要です

新たな楽しみ方を拡げた
DVD一体型モデル

―― 久保田さんは今年の7月に事業部長にご就任されました。誠におめでとうございます。まずは昨今の、御社のプロジェクターの動向について伺いたいと思います。

遠水 清久保田今当社のホームプロジェクターのシェアは、国内では6割ほどになっているかと思います。DVD一体型モデルは他社様から出ていないので、これが大きな要素になっています。

昨年は、従来からの流れをひきつぐEMP―TWD10と、モバイル性を加味したEMP―DM1の2機種を発売しましたが、これらがどう動くかということは当社としても大変興味がありました。私自身の予測としては、画質重視のTWD10の方かと思っておりましたが、結果としてはDM1の方がより動きがよく、現在まで1対2という状況になりました。

TWD10とDM1は同じ一体型モデルといっても、TWD10は画質重視、DM1はポータビリティということでコンセプトはだいぶ違います。DM1のポータビリティというプロジェクターにとっての新しいコンセプトは、外観的にもハンドルをつけたことでかなりアピールできたと思います。さらにスクリーンセットでもお手頃な価格がお客様にご好評をいただいております。こういった要素が全世界的に効いたのかと思っております。

―― 昨年秋頃から薄型テレビが非常に普及し、またサラウンドセットをテレビと一緒に購入されるというお客様も増加してきました。私は日頃から「2WAYシアター」という、テレビとスクリーンでの2つの楽しさを提供するシアター構築を提案していますが、薄型テレビから入ってサラウンドシステムを購入されることにより、そこからスクリーンシアターへと「2WAY」を構築しやすい状況ができてきたと感じます。とりわけ一体型モデルは2WAYシアターを構築しやすいと思います。

久保田今年は北京オリンピックもあり、プロジェクターの販売がテレビの影響を受けた部分もあったと思いますが、テレビとプロジェクターの魅力は画面サイズからして大きく違います。そこを訴えると、体験した方はプロジェクターのよさを理解されます。 DM1は解像度が480pですが、1080pまでを訴求するようになった今お客様がどう反応されるのかということが懸念でもありました。けれども結果として、大きい画面で映像を楽しめる、簡単に使えるということが解像度を超えて理解していただけました。気軽にどこででも使える、テレビとは違うものに対するニーズはあるのだと確信した次第です。あとは、それをしっかりと訴えていかなくてはならないということです。これは我々の使命だと思っています。

―― ホームプロジェクターは、当初薄型テレビが高価だった頃には比較的手頃な商品と位置付けられましたが、薄型テレビは価格が大きく下がり、画面サイズも大きくなってきて、お客様がテレビで満足するようになってしまいました。しかしここにきてサラウンドシステム商品が動き出したということは、お客様が「シアター」を意識されてのことと考えられます。これは「2WAY」への動きに対するチャンスでもあると思います。

久保田大画面化の流れというものは、必ずしも一本調子ではないと思います。大画面テレビが売れる中でも、小さいサイズのものが売れたり、またトレンドが変わってきたりという中で、プロジェクターに対するチャンスは十分にあると思っています。たとえば20型クラスのテレビとプロジェクターという可能性もあるのではないでしょうか。

私どもでは、短期ではなく長期的な視点で、何が望まれているのかということを追求していきたいと思っています。今年の新製品は1080pモデルにシフトした形となっておりますが、DVD一体型モデルは今年ですでに四世代目、来年以降もここからさらに使い勝手を追求していくつもりです。スクリーンも持ち運びやすくなりましたが、改善の余地はまだありますので、手を緩めずにやっていきたいと思います。

―― ご販売店への対策はいかがでしょうか。

久保田DVD一体型モデルについては従来どおり量販店様が中心になって参ります。ただ昨今では、量販店様の中でもプロジェクターコーナーがテレビに押されて、売り場の確保が厳しいといった状況にあると思いますので、私どもとしてはいろいろな形でのアピールが必要であると考え、ウェブでのプロモーション展開などをスタートさせています。ウェブ上での話題が拡がるよう様々な仕掛けを行っています。

こういった商品で楽しめる可能性があるお客様はたくさんいると思います。しかし、商品の訴求がなかなかそういうお客様に対して届かないという難しさがあります。今マーケティングにおいては、お客様とどれだけ接近するかが肝心だと思います。ウェブでターゲットを絞り込んだ視聴イベントなど行いますと、非常に効果的です。また、たとえば公民館や集合住宅の娯楽室のような普段から人の集まる場所にプロジェクターを常時設置して自由に使えるようにする、ホームシアターに関心の高い人が集まる住宅展示場やモデルルームなどで商品を展開する、といった体験の場づくりも必要だと思います。画像データと一緒にプロジェクターを実家に送り、祖父母が孫の写真をスライドショーで楽しめるようにするといった様々な使い方もあります。

プロジェクターの市場やニーズはなくなったわけではありません。販売店の意識も変えていかなくてはと思います。

―― 上位モデルのEH―TW4000、TW3000は、リビングでのシアターやホームシアター専用室などでの使用を想定されているかと思います。このクラスのマーケットの状況についてお聞かせいただけますか。

久保田液晶プロジェクターは、当初なかなかマニア層にアピールしづらい部分がありました。その問題点を独自技術で解決したのが今回の新商品です。特にフラグシップモデルのEH―TW4000につきましては、液晶プロジェクターの技術的進化というものを実感していただけると自負しています。

高いコントラストを出すために、黒を沈ませるとともに白を力強く出せるかたちにしました。コントラスト比はネイティブでも6000対1ほど出ております。また設定の自由度を上げ、マニアのお客様のこだわりにもお応えできるようになりました。また今回初めて倍速駆動ということで、新D7液晶パネルにおいて、テレビでは当たり前になったフレーム補間技術を採用し、よりスムーズな動きを実現しました。またこのクラスの中ではかなりの明るさで、リビングルームで十分お楽しみいただけると思います。

暗室で使用すればきれいに映るというプロジェクターは以前からありますが、我々はそれだけでは不十分だと思っています。私どもでは、マーケットシェアを云々する以前に、多くの方にいろいろな場面でプロジェクターを使っていただきたいという願いをもっております。明るさがどれだけあるかということがその中の要素のひとつであり、ある程度明るい部屋であっても十分楽しんでいただけるということにこだわった結果が、今回の新商品の仕様となっているのです。

そういう意味では、EH―TW3000は特にリビングでの使用ということを強調して、明るさも1800lmとし、お求めやすい価格に設定しました。TW4000はこだわりのある最高のクラスの商品と位置付けており、シアター専用ルームでの使用を想定しています。

―― 今回はデザインも大きく変化しましたね。

久保田従来のEMP―TW1000、TW2000の流線型のデザインについては完成度の高さを自負しておりましたが、4年間踏襲してきましたのでやはり一新する必要性を感じました。デザイナーともさまざまに検討しました結果、飽きのこない、新しいイメージをご提案できるのではと思います。

―― 今回の商品も全世界で展開されると思いますが、海外と国内でのプロジェクターをとりまく状況の違いをお聞かせください。

久保田氏久保田全世界においては、日本が一番プロジェクターの浸透度が低いと思います。海外、特にヨーロッパでは、学校などへのプロジェクターの設置率が非常に高いのが特徴です。先進国ではイギリスで一番浸透していますが、学校内の半数の教室にプロジェクターが入っているという状況です。それに対して日本では、学校内の20%の教室に入っているとのレポートもありますが、我々自身がまわった実感では一校につき数台という感じです。

私どものDVD一体型商品モデルがもし学校に入っていけたら、実に面白い展開ができると思います。実はヨーロッパでは、すでにEMP―TWD10が学校に採用された例がありますが、DVDを入れてすぐ見られる、音響もついている、さらにUSB端子ももっているということで、先生方にも非常に好評だそうです。さらに明るさが欲しいという声も聞こえていますので、そこを少しずつ改良していくことで、学校もそうですが、いろいろな場面で多くの皆様に体感していただける大きなチャンスになるのではと思っております。

市場のパイを拡げるために
必要なこととは

―― 御社のプロジェクター事業の戦略においては、今回の新商品でもそうですが、従来のファン層に対するところと、エントリー層を誘導して市場のパイを広げようというところが見受けられます。

久保田私が一番やりたいことは、市場のパイを広げることなのです。そのためには、商品そのものも含め、次々に新しいことをやっていかなくてはなりません。

伸びが鈍化してきますと、プロジェクター市場は飽和したのではないかと言われます。しかし私は、それは絶対に違うといつも主張しています。たとえばテレビが誰にでも知られているように、プロジェクターのことを誰もが正確に、どんな性能か、価格は幾らくらいかということをご存じで、その上で伸びないということでしたらそうも言えるでしょう。しかし現状では、プロジェクターそのものを知らないという方もいらっしゃるばかりか、ご存じの方のプロジェクターに対するイメージも、専用の部屋が必要だとか、大きくて接続が面倒だ、というかなり古い認識が見受けられます。

そこに対して我々は、一時的に売れづらい状況があったとしてもまず商品をしっかりと出していくこと、そして着実に認知していただけるような活動を続けていくことが大きなポイントだと思います。新しいチャネルなども含め、地道に開拓していくことだと思っております。

―― こうして新商品も出て、これから年末にむけ本格的な展開にかかろうかというところかと思います。ぜひ抱負をお聞かせください。

久保田何と言っても、もっともっと多くの方に、普通にプロジェクターを使っていただくということが目標です。今のままの市場サイズ、市場成長に止まるということでは本当に悔しいという思いです。おこがましいことではありますが、そこを我々の力で何とか伸ばしたい、市場を作っていきたいと思っております。日本の場合は教育市場ももちろんですが、家庭での価値をしっかりと認知していただきたいと思っております。ぜひご支援のほどよろしくお願い致します。

―― この年末商戦も期待しております。本日はありがとうございました。

◆PROFILE◆

久保田孝一氏 Koichi Kubota
1959年、長野県生まれ。1983年3月京都大学卒業。1983年4月エプソン(現セイコーエプソン)入社。PC・各種プリンタの海外営業部門・CS部門を経て、2003年から液晶プロジェクターの営業部門であるVIマーケティング部に。2003年 VIマーケティング部長、2008年7月 映像機器事業部長に就任し、現在に至る。趣味は「外で遊ぶこと」、絵画鑑賞。