牧浦弘幸氏

オーディオのお客様を増やす
それが我々の貢献できること
フォステクスカンパニー
プレジデント
牧浦弘幸氏
Hiroyuki Makiura

定評あるスピーカーユニットでのノウハウを活かしてシステム市場に参入、国内有力スピーカーブランドとしてすでに高い地位を築きつつあるフォステクス。オーディオ銘機賞に輝いたGシリーズにつづき、ハイコストパフォーマンスなGXシリーズで大きな話題を呼んでいる同社について、牧浦プレジデントに話を伺った。

必要なのは、お客様に近くなること
期待以上のものを提供すること

好評価Gシリーズで
スピーカーシステムに弾み

── 御社の事業内容と、牧浦プレジデントのご経歴について、あらためてお聞かせください。

牧浦牧浦氏フォスター電機は世界的にOEMのスピーカーやシステムを手がけており、フォステクスはフォスター電機の一事業部という位置付けで、スピーカーのユニット、業務用モニタースピーカー、デジタルの業務用レコーダー、そして最近ではハイファイのスピーカーを展開致しております。

私は6年ほど前にフォスター電機に入社致しまして、昨年3月までは主として車載用OEMスピーカー事業に携わっておりました。そして昨年の4月からフォステクスの責任者という任務に就いております。

── 御社はスピーカーユニットの事業においてすでに高い地位を確立されていますが、3年ほど前から新たにGシリーズというスピーカーシステムを手がけておられ、昨年発売されたフラグシップであるG2000が、オーディオ銘機賞金賞を受賞したのも記憶に新しいところです。Gシリーズの位置付けや販売戦略などについてお聞かせください。

牧浦フォステクスはスピーカーユニット主体で展開しておりましたが、我々の中ではいずれ完成形であるシステムを手がけたいという思いがあり、6年前にNHK様ほか多数の放送局様に私どものスタジオモニターを採用していただいたことで、技術的に十分評価されたという実感を持ち、これを実現させるということになったのです。

システムスピーカーの事業を展開する上でまず一番大事なことは、フォステクスというブランドのイメージを市場の中で形として表すことです。小さいもの、手頃な価格帯のものからシリーズを始めますと、その最終形が見えてこないと考えましたので、まずフラグシップに近いところの商品をひとつ打ち出し、そこから下のクラスと上のクラスに展開していくという戦略をとりました。

おかげさまでGシリーズは非常に高く評価していただき、これを通じてフォステクスの音、フォステクスの目指す方向性というものがお客様にご理解いただけたのではと思います。また我々が日本のメーカーであるということでもご評価いただいたと思いますし、ここに大きくご期待いただいていると強く感じます。

Gシリーズの今後の展開として、すぐ新製品を出すということはありません。ただ私としては、今後本当の意味でのGシリーズのフラグシップモデルというものを手がけたいという気持ちでおります。それがどれほど売れるものかということは正直わかりませんが、そういうスピーカーを出すことによって、お客様にフォステクスの技術力を理解していただき、ご安心された上で商品を買っていただけることになるのではと思います。

── そして今年、リーズナブルな価格帯のGXシリーズを出されました。

牧浦これは、高級ハイファイのファンではなかった方にも楽しんでいただきたい商品です。Gシリーズは大変自信をもって販売している商品ではありますが、一般のお客様にとっては少し高い価格設定で、手が届きにくいと思っておられるお客様も多かったのではと思います。

GXシリーズは、よりお客様に近い商品と位置付けております。発売から2カ月が経過しましたが、予想以上の反響をいただきまして、現在申し訳ないことですが注残を抱えています。この商品は1本5万円、決して安くはないと思いますが、既にお買い上げいただいたユーザー様には価格以上のご評価をいただけていると感じます。

私たちは事業をすすめるにあたって、「ミッション/ビジョン/アイデンティティ」を掲げています。この中の「アイデンティティ」に含まれます「期待以上のもの」「絶対的な安心」「真剣にものをつくっていく」といったことがまさにGXシリーズとして形になって出てきたということなのです。

ハイコンポ、ホームシアターで
次なる展開を探るGXシリーズ

── 音元出版では今、オーディオ市場の拡大を図り、ポータブルオーディオや音楽配信などとの連携といった要素も取り込んだシステムコンポのカテゴリーを、NEWハイコンポの名で確立させていこうという提案をしていますが、GX100はここに組み合わせるのにうってつけなスピーカーだと思います。

音楽ソースは今CDが主流ですが、iPodをはじめデジタルプレーヤーや配信・ストリーム系のコンテンツ、PCオーディオといったものがさらに広がっていき、今後主流となるメディアが変わってくることが考えられ、今年は特にその過渡期となる可能性があると思います。そういった新しい動きを、どのようにご覧になりますか。

牧浦GX100は、まさにおっしゃる通りのスピーカーだと考えています。そして、新しい要素が入ってくることは大変いいことだと思っています。たとえばiPodによって音楽ファンはさらに増えました。ただ今はほとんどの音楽ファンの皆さんはヘッドホンでお聴きになり、それが音のすべてと思っておられるかもしれません。ですからスピーカーで聴いていただける機会を我々でつくっていき、体験の場を設けていくことが必要だと思います。

サイズ、価格、それに対する性能をみてみますと、GX100の出来映えについては私自身感動を覚えます。だからこそ余計に、iPodで音楽ファンになられたようなお客様に積極的にアプローチしていく必要があると感じます。

── GXシリーズについての今後の展開はいかがですか。

牧浦GX100は10cmユニットが1本の2ウェイなのですが、次は10cmユニットを2本、3本と使用したものを計画しており、この秋頃にはリリースしたいと思っております。

そして、GX100を皮切りにホームシアターをスピーカー事業展開の切り口のひとつにしたいという思いがあります。オーディオのお客様を増やす、楽しみ方を拡げるということでは、ホームシアターというやり方がひとつの手段になると考えます。ブルーレイレコーダーやプレーヤーが増え、HDサウンドを楽しめる状況になってきました。フォステクスとしてこの分野を取り上げる以上、これまでのホームシアタースピーカーよりも、さらにこだわった提案をしていきたいのです。

ホームシアターで映画だけでなく音楽も楽しまれる方に、GXのサウンドは大きくアピールしますし、手軽さもポイントになります。テレビのハイビジョン放送などをご覧になる際にも、十分楽しんでいただけると思います。

── ユニット事業についての今後の展開をお聞かせください。

牧浦氏 牧浦私は社内で、ユニットビジネスを今の倍にしたいと言っています。これまでフォステクスを育ててくださった方々に、十分な価値を見いだしていただいていると思うからです。この分野にも新しいお客様を招き入れ、より多くの方々に楽しんでいただくこと、またシステムで使用したものと近いユニットを使って、お客様ご自身でシステムのレベルを超えるかもしれないスピーカーづくりにトライしていただく、ということを拡げていきたいという思いです。

ただ、システムとユニットでは商品企画を分けており、それぞれにしっかりした方向性を出した事業をする必要があります。ユニットは我々が長年にわたって積み上げてきたものがあり、新製品もその延長線上にないと違和感が生じてしまいます。しかしシステムで使った技術がいいものであれば、それをユニットのファンのお客様にも楽しんでいただきたいですから、そういう観点では、システムの技術をユニットに活かすということを考えています。

── OEMをされていることもあり、他メーカーさんとの競合といった問題も生まれてくるかと思いますが。

牧浦コンシューマーのスピーカーをやらせていただく中で、我々の一番の役割は市場のお客様の数を増やすということです。ハイファイ市場は過去20年ほどにわたって、お客様の数が右肩下がりで変遷してきました。ここを増やすということこそ我々が市場に貢献できることであり、他社様がやっておられない部分で、新たにお客様の層を開拓したいという思いでおります。また、売り方そのものもいろいろなことにチャレンジして、お客様に近い売り方も考えてみたいと思います。

もっとお客様に近づく
新たな売り方を探る

── 販売店に対してはどのような展開をされているのでしょうか。

牧浦ユニットのお客様層は年齢が高い方々が多く、システムとはやり方が大分違ってきます。従来は主にクラフト専門店様にご販売いただいておりましたが、システムを展開するに際してはオーディオ専門店様と、それからプレゼンスを増やすという意味で、量販店様にも一部置かせていただいたのです。

最初はやはり、フォステクスというのは何だ、どこのメーカーだというご反応がありました。そこで私たちは、フォスター電機、フォステクス、あるいはGシリーズを造るプロセスを示した資料をご販売店様にお渡しし、我々の中身をご理解いただいた上で、自信をもってフォステクスの商品を売っていただくという作業をすすめています。個々に説明の場も持たせていただき、大分ご理解いただけたという手応えを感じております。

本来、オーディオ商品とはそういう売り方をすべきものなのでしょう。ただ今まで長年、フォステクスはマニアの方や、すでにフォステクスをご存じの方向けの販売をして参りましたから、従来のやり方に甘えていたという部分もあるのだと思います。

そして新しいお客様を招き入れるには、ご販売店様の様々な意見をお伺いしたいと思うのです。お客様ご自身がどういうことを求めておられるのか、またどうすればもっと多くの方々に我々の商品を楽しんでいただけるのか、それを一番知っておられるのはご販売店様の方々なのですから。そこをお伺いして、着実に実現していくことが非常に重要だと感じております。

── 海外展開についてのご計画はいかがですか。

牧浦私たちの「ビジョン」の中にも「中・高級スタジオモニターSS/ハイファイSSは日欧米で最も高く評価されるブランドになる」という項目があり、システムでは海外展開を考えております。ただ複数の地域を同時進行させてどこも中途半端にならないよう、我々の原点である日本でしっかりと地盤を固め、日本の皆様にご評価いただいた上で海外を進めていきたいと思います。

── 経済環境は厳しい状況にありますが、オーディオ市場拡大についてのお考えをお聞かせください。

牧浦かつて活躍されていた日本の多くのスピーカーブランドは大分減ってしまいましたが、ここに来て復活されるブランドもたくさんあり、フォステクスもそこに加わることでお客様の増加に貢献できれば非常に嬉しいことだと思います。

もっとも必要なのは、お客様に近くなることと、お客様の期待以上のものを提供することだと思います。商品はご期待以上のものを提供できているという自負はありますが、売り方についてはさらに方向性を探っていく必要があります。

雑誌に広告を載せる、お店に商品を置かせていただく、という今の私どもの売り方は待つ姿勢ですから、そこにもう一歩踏み出して何かできないかという思いがあります。これまで多くのスピーカーメーカーさんがトライされて築かれてきたことを礎に、いろいろなご意見を伺いながら我々なりのやり方を探っていきたいと思います。

商売は、社屋の中にいてもできません。外に出て、遊ぶ中でも街を感じて、その中で世の中の求めるものがわかってくるのだと思うのです。そこから我々がどういう商品をつくらなければならないか、どう売っていくべきかが見えてくるはずです。我々は往々にして部屋の中で商品企画や売り方を考えてしまいがちで、それが相応しい時代もありますが、今のハイファイオーディオに必要なのは、そうではないと私は思います。とにかく新しいチャレンジの回数をこなし、100回失敗したとしても、101回目にもしかしたら新しいお客様のニーズを掴めるかもしれません。

iPodの例をみても言えるように、お客様にとって音楽への興味がなくなったわけではありません。いい音に触れることで感動を覚えて、さらにいい音、いい音楽を聴きたくなるという気持ちを呼び起こしていただければと思います。そのための接点、橋渡しをどんどんやっていきたいですね。そして今年の終わりには、ぜひ皆様から「日本のあのスピーカーブランドだ」と、フォステクスを認識していただくまでになりたいと思っております。

◆PROFILE◆

牧浦弘幸氏 Hiroyuki Makiura
1947年奈良県生まれ。70年関西学院大学卒業。2003年フォスター電機鞄社。04年取締役 営業本部副本部長就任、07年執行役員 SP事業本部副本部長就任。08年執行役員 フォステクスカンパニー プレジデントに就任、現在に至る。