- 圧倒的なスピードと柔軟な対応力で
市場のニーズを確実に商品化する
- CAVジャパン(株)
- 代表取締役社長
- 法月利彦氏
Toshihiko Norizuki
中国のトップオーディオブランドCAVの日本国内展開を図り、2006年10月に設立されたCAVジャパン。さらに日本主導による独自の企画でさまざまな商品を国内市場に投入、この秋は真空管アンプをベースにしたモデルでハイコンポのカテゴリーにも参入する。チャレンジし続けるCAVジャパンの法月社長にご登場いただいた。
オーディオマーケットの活性化へ
次につながる若い層を呼び込む
次の目標は国内売上高100億円
海外ビジネスに着手しさらに前進
会社設立を実現させた
大きな信頼関係
── 2006年にCAVジャパンを立ち上げられた法月社長にご登場いただきました。まずは、そこに至るまでの経緯からお聞かせください。
法月
当社の設立ということを振り返りますと、2003年にさかのぼります。
私は以前パイオニアに在籍しておりましたが、当時上海にあるPCHというホールディングカンパニーの社長として、傘下の生産会社や工場などを見るため現地に赴任したのです。また、パイオニアが手がけていたプラズマテレビを中国でも普及させるということが命題でもありました。
中国のマーケットは「改革解放」以後大きく変わり、世界のあらゆるメーカーが次々に建てた生産工場でつくられた商品が、輸出されるだけでなく、中国国内でも売られるという流れになってきていました。13億もの人口があり富裕層も出てきていましたから、日本や韓国の家電メーカーも中国を有力市場と認識して攻勢をかけてきた頃です。
既存のチャネルは量販店と百貨店が中心でした。しかしほとんど場所貸しという概念で運用されているようなもので、店頭はすべてメーカー別にブースが仕切られています。場所代をとって商品を持って来させ、人も出させて、売れたら歩合を出すが、決めた額しか払わない、という状況です。そこで私はほかのチャネルを探すことにし、CAVと出会ったのです。
CAVは中国のオーディオメーカーが幾つも集まる広州にある会社で、当時ハイファイスピーカーとアンプをつくっていました。やはり量販店相手では商売にならず、自社商品だけを売る自前のチャネルをつくり、当時1500ほどの店舗を持っていたのです。
店舗での展開は、自社のアンプ・スピーカーに他社のプラズマテレビやDVDを組み合わせたホームシアターの提案がメインでした。そこに他社プラズマテレビからパイオニアのプラズマに替えるように交渉したのが、私とCAVとのつながりの始まりです。結果的に1500店に各5〜6台というプラズマテレビが置かれることになりました。
私が日本に帰るとき、CAVの黄社長から、「CAVを日本で展開したいのだが、それは可能ですか」と言われました。パイオニアに籍があった私はその時、退社したら考えてもいいと返事をしましたが、私が2006年6月にパイオニアを退社すると、それが実現することになったのです。
CAVジャパンはCAVの日本支社ではなく、双方が対等な関係の独立法人です。こういった関係でやらせて欲しいということを、私は最初に黄社長に言いました。そして2006年10月、会社をスタートさせることになりましたが、こういうことを納得してもらえたというのは、黄社長と私との信頼関係の賜物だと思います。
── 第一弾として日本で発売されたのはハイファイの分野の商品でしたが、その後次々に新しいカテゴリーの商品を出されました。
法月最初の商品は、CAVが中国でもともと扱っているものから選んで日本で発売しました。しかし外観や音色の好みに違いがあり、中国で企画された商品が日本市場で受け入れられるのは難しいのですね。そこで次からはすぐに、CAVジャパンで企画・設計し、中国のCAVの工場にオーダーして商品をつくるというかたちを確立しました。
また当社を設立した頃、私がパイオニア時代からお世話になっておりました大手通販会社にご挨拶に伺ったことがありました。その会社ではちょうどその頃、テレビに付加価値として5.1チャンネルのサラウンドシステムをつけて販売されていましたが、それが果たして本当に付加価値として成り立つのかどうか、社長が迷っておられました。
その時私は、サラウンドシステムは継続していくべきだと申し上げました。中国での経験で、香港で5.1チャンネルシステムが売れないのは住居が狭いからと実感したことがあります。いい音を聴きたい欲求はある、しかし機器を置くのは物理的に無理なのだと。それは日本でも同じですから、2.1チャンネルのフロントサラウンドシステムなら、テレビの付加価値として成立すると考えたのです。
日本では、いい画、いい音をカスタマイズするビジネスがあり、CAVジャパンもこの方面を手がけています。こういうお客様はこれからも増えていくでしょうが、地デジ移行をきっかけに大画面テレビを購入される大多数のお客様には、フロントだけで完結するサラウンドシステムのご提案が有効だと考えます。
そういうことをきっかけに、その通販会社様とのコラボレーションで2.1チャンネルシステムをつくることになりました。これがご好評をいただき、次のステップでスピーカーを内蔵させたテレビラックへと進化させました。そこからHR-1140という市販モデルも登場し、またそれらがさらに進化しながら今に至っています。
今年のモデルは2.1チャンネルから3.1チャンネルへ、アンプもアナログからデジタルになりました。そしてこれから先も、さらに進歩させていきたいと思います。
日本が主導し中国でつくる
武器はスピードと柔軟性
── 御社は、日本市場に合わせた独自の商品も手がけ、お話のように他社とのコラボレーションによる商品づくりも展開しておられます。商品が中国の工場で生産されるまで、どのようなかたちで動いているのでしょうか。
法月先にお話しした通販会社様とのコラボの場合は、商品ができ上がるまで先方と我々とで何度もやりとりをしました。まず先方から商品のコンセプト、売価、納入価をお聞きして、CAVジャパンがその内容に沿って商品企画を起こすところから始まります。先方に確認してOKとなったら、CAVの中国工場でサンプル品をつくり、同時に原価を出してもらいます。それを先方にチェックしていただき、出されたリクエストを中国にフィードバックし、改良品を出してもらう。先方がこれでよしと納得されるまで、こういったやりとりを何度も繰り返していくのです。
こういったプロセスは、当社の市販モデルについても同様です。CAVジャパンが商品企画を主導し、広州の工場でサンプルを起こして改善し、完成させるのです。中国のCAVが企画した商品を日本に取り入れる際は、CAVジャパンの主導で日本の市場に合わせた仕様を反映させます。
ラックシアターの市販モデルであるHR-1140では、白バージョンが欲しいとお声掛けくださっている流通様もあります。CAVのブランドを広めるためにもチャレンジを決め、今中国の工場から板見本を取り寄せるところからやり取りを始めています。
── CAVの中でも、御社の存在感がますます大きいものとなっていますね。
法月先日、CAVからCAVジャパンの社旗をつくってほしいと連絡がありました。広州市の市長がCAVの工場を視察しに来るというのです。広州市長という人は、いずれ広東省の省長の座につき、将来共産党の幹部になることを約束されているような人物なのですね。
広州ではサブプライムローン問題以降、輸出が低下して多くの会社が倒産し、働き手も故郷に帰ってしまったような状況ですが、そんな中で輸出に貢献しているCAVの業績が目立つわけです。黄社長としては、その業績を担ったCAVジャパンの力を認め、社旗を掲げようと考えたのでしょう。そんな風に、CAVにおけるCAVジャパンの貢献度は年々高まっていると言えます。
CAVジャパンの強みは、スピードと柔軟な対応力です。市場のニーズをどんどんくみ上げて商品化するということを、圧倒的なスピードで実現できるのが我々の武器であり、規模の大きいメーカーさんにはなかなかできないことなのです。
広州のCAVの工場では、今やCAVジャパンの商品がほとんどの割合を占めるようになりました。日本からスタッフを送り込んで、商品の品質管理や安全管理も日本のマーケットに合わせた水準で行えるようになり、これも強みです。
お話ししましたような通販会社様とのご縁でコラボレーションできたことで、CAVジャパンの基盤もある程度でき、おかげさまで商品カテゴリーも拡げることができました。ハイファイオーディオ、そして先月発売した「IPIGLET」というiPodまわりのスピーカー、そしてラックシアターを始めとするホームシアターシステムを展開するに至りました。
オーディオに新たな層を呼ぶ
斬新な商品戦略に着手
── 今年の秋は、さらに新しいカテゴリーの商品が用意されていると聞きました。
法月それをご紹介するにあたっては、これからのオーディオマーケットの方向性にも関わるものがあると思っています。
パイオニアに在籍した30数年の間も、今の職についてからも、オーディオマーケットを活性化させるためにはどうしたらいいかを、私は常に考えてきました。私自身は、ハイファイの分野でマーケットを活性化させるのは無理だと思っています。そこには、次につながる若い人たちがいないからです。そして今、肝心のその人たちがDAPの世界で満足してしまっているのが問題です。
そこでまずは若い層を取り込むための第一歩として、iPodスピーカーというカテゴリーを構築しました。それがIPIGLETです。これはもともとCAVとは別の、私が懇意にしている中国のオーディオメーカーが手がけていたものですが、CAVジャパンがオーディオに新たな層を呼び込むための展開を始めるにあたって、デザインや音質などのクオリティが日本の市場でも大きな魅力になるものと考え、やらせていただくことになったのです。
しかし、そこから一足飛びにピュアオーディオへの流れをつくることは無理があります。そこにつながりをつくっていくことで、CAVジャパンが目指す地点を示したいのです。そこで、まずIPIGLETのラインナップを拡充します。8月にパンダのバージョン、9月には来年のサッカーの世界大会を意識したサッカーボール型のモデルを出します。さらには、IPIGLETのバッテリー搭載型モバイルバージョンも計画しています。
マーケティング的に言いますと、IPIGLETは若い女性向け。女性誌で展開したり、ファッション感度の高い場所に置いたりといった仕掛けを準備しています。パンダは小・中学生や、そういう子供たちへプレゼントを考える中・高年層までも狙います。またサッカーボールでは男性を狙い、モノ情報を発信する雑誌媒体などでプロモーションをしていきます。
こうして、若者や女性といったオーディオ市場にあまり縁のない層を次々に取り込んでいくのです。またこれらのシリーズついては、ただ販売するだけでなく、販促やイベントなどの景品、ギフトといった用途にも活用することによって、ユーザー層をどんどん拡げていけると思っております。すでにさまざまな業種の会社様から、お声を掛けていただいています。
次は、ハイコンポのカテゴリーの構築です。CAVジャパンが企画したオリジナルの商品で、11月に2モデルの発売を予定しています。
1つは、iPodユーザーである若者層をメインターゲットに、iPodドックを搭載した真空管アンプに、スピーカーを組み合わせたシステムとなります。筐体はアルミのシルバーを基調とした、スタイリッシュなデザインを採用しました。コンパクトで、さまざまな場所に置いていただけると思います。
真空管というものをまったく知らない若者たちに、この商品の魅力をどう表現していくか。ソースがデジタルのiPodであっても、真空管のやわらかい音やあたたかな表現力といったアナログのテイストをアピールしていくつもりです。
もう1つも真空管のシステムで、40代から60、70代といった大人に向け、自分の書斎やオフィスで手軽にいい音を聴きたいというニーズにお応えするものです。真空管システムが欲しかった、かといって単品コンポーネントを購入するまではいかない、そんな向きにコンパクトで気軽に聴けるようなシステムをリーズナブルな価格でご提案して、オーディオの世界を味わっていただきたいのです。デザインも木目調の落ち着いた雰囲気で、ホワイトとブラウンの2色展開とします。
これら一連の商品で、CAVジャパンがオーディオのカテゴリーで目指すものが見えてくると思います。特に新商品のハイコンポについては、オーディオ市場に旋風を起こせる商品ではないかという予感と期待があります。真空管を使ったのも、我々がもともと持っている強みを活かし、デジタルと融合させた新しいご提案をしたいという思いです。デジタルで完結する商品は、他のメーカーさんがすでにたくさん出しておられますから。
またCDプレーヤーについては、セットにするか別売りにするかということも含めてシステムに合うものを探しており、候補が挙っているところです。
さらに、従来から展開している真空管のコンポーネントとして、T―88というモデルに続く新たなものも準備しています。ピュアオーディオファンのお客様にお応えするのはもちろん、ハイコンポからのステップアップに対する流れも万全なものとなります。真空管は得意分野であり、単品コンポーネントについては今後とも真空管でやっていくつもりです。
国内オーディオ市場拡大へ
果敢にチャレンジする
── このハイコンポは国内オーディオに対する御社の姿勢が表現された非常に戦略的な商品であり、私どもが提唱する「NEWハイコンポ」の思想を体現するものとお見受けします。今から大変楽しみな商品ですが、これはどういった販路を考えておられますか。
法月家電量販店様のハイコンポコーナーをはじめとして、上質なインテリアや生活雑貨を扱うお店様での展開も考えています。こういったオーディオ以外の新しいチャネルにも、積極的に挑戦していきたいという思いです。「こんな格好いいモノが欲しかった」とお客様が思ってくださるような演出をしていただけるお店、こだわりを持つお客様が集まるようなお店にアプローチしていきます。
── 御社のビジネスに、iPodまわりからハイコンポへと続くカテゴリーが加わり、いよいよここにCAVジャパンが目指す新しいオーディオの方向性が見えてきました。
法月音の分野には隙間のビジネスがまだたくさんありますが、大手メーカーさんではなかなかそこにチャレンジできないと思います。やりたい気持ちを持つ方は大勢いらっしゃると思いますが、収益性を考えてもオーディオのビジネスは楽ではなく、組織が大きくなると自由にオーディオビジネスの方向性を決めてやっていくのは難しいのではないでしょうか。
昭和40年代、50年代の日本を振り返ると、オーディオの普及率は30%にも満たない状況でした。高度経済成長によって「1億総中流」と言われ誰もがオーディオを欲しがった、そんな時なら稚魚のいる市場に餌を撒いておけば魚は育ち、いつかたっぷりと網ですくうことができます。しかし今のオーディオ市場の状況では、稚魚から育てるなど手間ひまばかりかかり、その割には成長する魚も少なく満足な成長も望めない、ということになると思います。
大手企業が積極的に投資し、明日のオーディオ市場を築こうということは現実的に厳しい。そうなると、逆に当社のような企業に大きなチャンスがあるのです。我々が持つスピードと柔軟な対応力という武器を最大限に活用して、ビジネスを構築していけるのです。
── 大きな目標は、日本のオーディオ市場を拡げていくということですね。
法月そうです。前職でオーディオに携わったとき、商品は単品コンポからシステムになり、セパレートになり、一家に一台から一部屋に一台という状況を想定してミニコンが出てくるという変遷を踏んできました。そしてCDが出てデジタル化が進んでいくという中、ホームとともにカーオーディオも進化してきたのです。
そういう変遷をつぶさに見ながら私は、若い世代にとっては、異性に注目されるということが大きな関心事になると実感してきました。そのための重要アイテムのひとつがオーディオであり、さらにはカーオーディオも例外ではありません。その伸びは顕著であり、ホームはもはやそこに勝てないのではと思わせるほどです。
ただ、ホームオーディオの時代は、いつか必ず来ると思います。その武器はホームシアターです。「ウチの映画館に来ない?」という誘い文句が若者の口から出るようになったとき、新しいホームエンターテインメントの時代が来ると思っています。
今の若い方にとっては、ホームオーディオは3万9800円のミニコンやデジタルオーディオプレーヤーでもいいのです。そういう方々をピュアオーディオへ呼び込むには、今までのやり方ではうまくいかないでしょう。そこに一石を投じようというのが、IPIGLETからハイコンポへとつながるCAVジャパンの戦略です。そしてもうひとつ、映像の力を借りるのも手なのです。
映画館というかたちで消費者を家へと呼び込んだとき、そこに新しいオーディオの概念ができるのではないかと考えています。何も5.1チャンネルにこだわることなく、2.1チャンネル、3.1チャンネルの簡易型サラウンドシステムでもいい。ここは、当社のサラウンドシステムやラックシアターを始め、これからの商品を大いにアピールしていきます。
地デジの普及で、音もデジタルサラウンドで放送されるようになってきました。よりいい音で臨場感たっぷりにテレビを楽しめるということを、もっと啓蒙していく。そうすれば、将来的にはシステムのさらなるステップアップも望まれていくのではと思います。
── 昨年サブプライムローン問題が起こって経済危機となり、薄型テレビの売上げも落ちました。しかしエコポイント制度が実施されて「神風」が吹き、シアターシステムにもいい影響を与えています。御社にとっても追い風ですね。
今期国内売上高は50億円
さらに海外進出も図る
法月エコポイントのおかげでテレビ市場は回復していますが、それだけに大きく変化しています。たとえばテレビを販売されている通販会社様からのご注文に備えて、広州には随時ラックシアターの完成品を1万台ほどストックしています。部材はそれとは別に、20万台、30万台といった量が出せるようにとってあります。そうすると、マーケットの動きに素早く対応できるのです。しかしこの対応力をもっと速めるために、他のスペースをとって在庫2段構えとしていくことを進めています。
── 御社は今年の11月で創業3年を迎えられます。これからの経営目標としては、どのようなビジョンを持っておられますか。
法月昨年は、売上高で30億円弱といった結果でした。今期は最低でも50億円となる見込みです。私としては、国内の売上高で100億円を達成するのがひとつの目標です。大きな壁ですが、それをいつ超えられるかです。これまでやってきたことの延長線上では達成できません。アイテムを増やし、それに応じたチャネルも増やし、人も含めた社内の装備も充実させていかなくてはなりません。
そして国内の計画とは別に、海外でもビジネスを展開していきます。CAVジャパンの子会社をつくり、香港にヘッドオフィスを構え、シンガポール、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、台湾という地域を対象にしていきます。まず今月末からシンガポールに飛んで、順次着手していくところです。そしてさらにはヨーロッパも視野に入れていこうと思いますが、これはもう少し時間がかかるでしょう。
さまざまなことがスピーディに実現できる、これからもこの姿勢を武器に、我々は新しいことにどんどんチャレンジしていきたいと思います。