- いい音で音楽を楽しむということを
色々なシチュエーションの中で提案する
- CAVジャパン(株)
- 代表取締役社長
-
- 法月利彦氏
Toshihiko Norizuki
2006年に設立されたCAVジャパンは今年、新たなるチャレンジを図っている。先に発売されているiPodスピーカー商品群を皮切りに、iPodのユーザー層を取り込む切り札としてついにハイコンポの新ブランド「VAZIO」が発表された。本誌8月号のトップインタビューに続き、CAVの飛躍の軌跡を法月社長に聞く。
単品のカテゴリーブランドも構築
インストールビジネスも展開する
ハイコンポカテゴリーの
新ブランド「VAZIO」
── かねてから話題になっておりました御社のハイコンポ新製品が、「VAZIO」という名でこのたびいよいよ発表されました。
法月我々は、CAVのハイコンポにおけるカテゴリーブランドを今回新たに立ち上げました。それがVAZIOです。これはポルトガル語で「真空」を意味する言葉で、真空管ハイコンポにふさわしいネーミングだと考えております。今後商品の発売にあたり、「VAZIO by CAVジャパン」ということをいろいろな場面で訴求していきたいと思っています。
これまで当社の商品は、CAV、CAVジャパンというブランドを前面に出して来ましたが、ハイコンポに関してはVAZIOブランドで統一します。発表会でも申し上げた通り、今後ブルートゥース対応の商品も予定していますが、音源や中身が変わってもハイコンポカテゴリーに属するものはすべてVAZIOに統一していきます。
── VAZIOの国内展開では、どういったチャネルをお考えでしょうか。
法月VAZIOはiPod対応でフル真空管アンプを搭載したハイコンポであり、デジタルとアナログの融合というコンセプトのもとにリリースした音楽再生装置です。本体にiPodドックを搭載し、シングル回路を搭載する「T-2」、オーディオとしてより高いところを目指しプッシュプル回路を搭載した「T-3」という2種類のモデルを今回発表致しました。これらは量販店様を中心にオーディオを展開されているお店がメインのチャネルとなります。
そしてVAZIOのもうひとつのコンセプトとしてデザイン性、自分の側に置いておきたいという気持ちをかきたてる“かっこよさ”が挙げられます。特に「T-2」ではiPodに親しむ若者層をメインターゲットに据えていることもあり、デザイン的要素を重要視しています。
そういう意味で、従来のオーディオ店とは違った場所にも置いて、まず視覚から入るようなお客様をターゲットにしていきます。そういった要素を前面に出して、インテリア系のチャネルでいくつかのお店様ともご契約いただき、またさらに交渉中のお店様もあります。お客様層に応じてT-2、T-3の機種を選択されるケースもありますが、どちらかというと若いお客様向けにT-2を展開されるお店の方が多いようです。
またVAZIOは、おかげさまで専門店様からも高く評価していただいています。展示在庫を置いてくださるというお店も多数あって、「こういうオーディオを待っていた」という声をいただき嬉しい限りです。
── 昨今ではiPodやPCとの連携をとれるネットワーク系のオーディオについて、専門店の問題意識が大変高くなってきました。1年前とは状況がまったく変わっていると感じます。そういう意味でもVAZIOは、専門店にとって訴求しやすい商品ですね。
法月VAZIOのシリーズとして、次のステップではブルートゥース対応を考えておりますが、広州の工場ともすでにすりあわせができています。MAPIの発表会にもブルートゥース対応としてiPodスピーカーの試作機をお披露目しましたが、それとはまた別のかたちになります。
ソースはCDに限らず、iPodやUSBメディアなどいろいろなものが対象になります。それは、若者のライフスタイルに対応するということです。VAZIOのシリーズとしてはT-3用のCDプレーヤーの発売も予定しており、年明け頃のタイミングを目指して今すすめているところです。
── VAZIOのキャッチとして、「真空管は音楽をより楽しくする魔法のパーツ」という表現を使われています。このようにはっきりと理念が打ち出されていれば、モノづくりにも、販売にも活かしやすいですね。お店もお客様に安心してお薦めできると思います。
若者のライフスタイルに沿った
シチュエーションの提案を
── 御社は今年、iPodスピーカーということでまず「IPIGLET」を発売して若者層に対する受け皿をつくりました。そして次のステップにあたるのが、このたび発表されたVAZIOということになります。iPodのユーザー層を吸い上げて、ハイファイへと誘っていくストーリーがいよいよ具体的になってきましたが、その全体の構想を今一度ご説明いただけますでしょうか。
法月当社としては必ずしもひとつの分野に特化しようということはありません。オーディオの中でもハイエンドのボリュームは変わっていないと思いますが、マーケットを支えるボリュームゾーンの人たちがピュアオーディオから離れています。ただそれは、オーディオそのものから離れているのではなく、iPodなどデジタルオーディオプレーヤーのカテゴリーにシフトしているということです。
昨今では、家の中に音楽を聴くシステムがなくなった一方で、いつでもどこでも音楽を聴ける、しかも自分だけが聴けるという状態になりました。またそれに対して、高額ヘッドホンやイヤホンがよく動いているといった現象があります。
そこのユーザー層に、ヘッドホンだけでなく、デジタルオーディオプレーヤーの音源もスピーカーを通じて聴くということをCAVジャパンとして提案したものがVAZIOなのです。当社はこれまで真空管のアンプを核としてきましたが、それを柱に考え、スピーカーとのセット形態でリーズナブルな価格なものを提案するという形をひとつの方法論としました。
そしてハイコンポとは別に、本格的なオーディオについても展開していきます。今回、VAZIOとともに真空管の単品コンポーネントアンプの新製品として「T-6」というモデルを発表しました。さらに今後の展開として、こういったコンポーネントのカテゴリーにおいてもCAVというコーポレートブランドとは別にカテゴリーブランドをつくっていきたいと思います。こちらは年に1〜2モデルほどのペースで、時間をかけてやっていきたいと思っています。
── 以前のインタビューでお伺いしたとき、次に出すハイコンポはオーディオの概念を変えるきっかけになるかもしれないとおっしゃったとおり、VAZIOのコンセプトは、デジタルと真空管の融合を提案し、iPodユーザーを取り込んでいくということで、まさに市場に大きなインパクトを与えるものとなります。
法月今回の新製品もそうですが、先日オーディオ協会が設立したMAPIに参考出品したブルートゥース対応の製品など、日本の市場の中で、過去にあったものもなかったものもよく精査して、いいものをどんどん取り上げて商品化していく。大手のメーカーさんにはできないことがCAVジャパンにはできるのです。
会社の規模がまだ小さく、組織の上から下までの距離が短いですから、市場のニーズや我々自身のアンテナでキャッチしたものを商品化しやすい環境にあり、チャレンジが幾らでもできる。事業を展開するにあたって市場に受け入れられるだろうという見込みさえつけば、商品化は可能なのです。それが我々の強みだと思います。
── ホームシアターやカーオーディオなどの展開については、どのようにお考えですか。
法月日本におけるオーディオ離れの現象を、20年ほど前のオーディオ最盛期の状況に戻すのは無理なことだと私は考えます。時代はアナログからデジタルになり、ソースも変わりました。ただ、時代は変わったけれどもオーディオへの関心は20年前とは違った形で存在するのですから、それに応えるマーケットをつくる必要があると考えます。そのひとつがVAZIOであり、今後出そうとしている単品コンポーネントであり、そしてホームシアターでもあるということです。
ホームシアターについてCAVジャパンでは、市販モデルとしてHR-1140というラック型の2.1ch、3.1chのシステムを展開しています。さらに埋め込み型スピーカーやスクリーンといった、カスタマイズビジネスという分野もあります。これはもともとCAVが北米で展開していたこともあり、今でも一部そちらのディーラー様に提供しています。今後CAVジャパンとしても、そういった分野で日本のマーケットに対して力を入れていこうという考え方ももっています。
ハイファイをつきつめていくことはひとつのフィロソフィであり、そこはしっかりと確立された世界です。しかし、若い方にもオーディオにもっと関心をもっていただくという観点から考えると、音楽をいい音で楽しむということを、色々なシチュエーションの中で提案するべきだと思います。そのために音と画を組ませてもいいし、パーソナルな提案をしてもいい。そうして音に関する可能性のある色々なところに商品提供をしていきたいという気持ちがあります。
カーオーディオについても同様でその対象となりますが、まずはホームを固めるのが先決だと思っています。カーの場合はチャネルも客層も違いますから、よほどマーケットをリサーチして考えなくてはなりません。もし当社がカーのビジネスをやるとしたら、まずはOEMや、流通のブランドをつかって商品を供給していく形になろうかという気がします。
またホームシアターについてマーケティングの仕方を考えると、これも流通サイドと提携して、モノづくりも提案も一緒にやっていくかたちだと思います。CAVジャパンとして単にそういった商品をつくって提供するということではなく、ホームシアター関連の流通や組織と一緒に、彼らが吸い上げた市場のニーズをききながらモノづくりに落とし込んでいきたいという思いです。
広州工場との連携も強化
さらに海外拠点がスタート
── 商品化するにあたって、広州に工場を持つCAVとの連携が欠かせません。低コストで高品質のものをつくり上げるシステムが、すでに構築されています。
法月2006年10月にCAVジャパンの創業を開始した当初は、まだ我々には商品を企画する力もなく、広州のCAVにあったものを日本に持ってきたわけです。しかし、中国マーケットに対してつくられたものは、日本のマーケットのニーズには必ずしも合致しない。たとえば外観的な色合いとか、音の傾向などですね。中国で企画されたスピーカーなどは、胡弓のような中国の音楽を鳴らすと大変いい音がします。ところが、日本や欧米の音楽を鳴らすとちょっとニュアンスが違うのです。中国人が長い歴史の中で培ってきた歴史や文化といったものが、音にも出てくるのかもしれません。
しかしこれを日本のマーケットで売るには、日本人がモノづくりをしなければ難しい。そこで当社では、企画から設計まで全て日本でやることにし、第一号としてリリースしたのがスピーカーのV-70やV-50、真空管アンプのT-88といったモデルです。ホームシアターのラックであるHR-1140も、日本で企画したものです。
そしてこの段階に至って、中国CAVとの信頼関係も構築されてきました。我々が企画、設計したものをギャランティして中国工場で生産する。これが信頼関係のベースです。こちらが委託しておいて売れないから買わないというのでは相手もつくれなくなってしまいますが、我々はこうして製品を出していく中で信頼関係を築くことができたのです。
今は日本で売るものに関してはすべて日本で企画、設計しておりますが、中国工場にも日本人を派遣するとともに、日本側も人員を増やして厚くし、企画、設計の部分を強化しています。
── 発表会では、香港の拠点がスタートしたことも明らかにされました。
法月名称はCAVインターナショナルといいます。ここを拠点として、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、台湾、香港といった諸国をマーケットにした販売活動を行いますが、近い将来インドや中東、中央アジアといったエリアまで視野に入れてマーケティングしていこうと考えています。
ここは基本的に、CAVジャパンが扱っている商品を東南アジアで展開する拠点となるわけですが、環境は日本とはまるで違います。同じ中華系の民族であってもメイド・イン・チャイナの製品は受け入れられず、一方で日本製に対しては大きな信頼感がもたれているという状況なのです。そこをどうクリアするかという課題はあるのですが、時代が変化する中で価値観も変化し、中国製品に対する偏見も希薄になりつつあると思います。
ここでは、日本で行われていることと同じような形態で流通ブランドも用い、CAVブランドとの両方を使ったビジネスを展開していこうと考えています。流通ブランドでやる商品は、今CAVジャパンが日本のマーケットに出しているような商品だけでなく、広州の工場、香港の拠点、そして流通とで意見をすり合わせて開発し、商品化したものを出していこうと思っており、そのしくみを構築したいと考えています。
こうして日本国内だけでなく、世界へ向けてもチャレンジしていく足がかりができました。機敏なフットワークで、我々らしい様々な展開をしていきたいと思っております。