- どんなお客様にも合うラインナップで
ヘッドホン市場をさらに拡げていく
- (株)オーディオテクニカ
- 代表取締役社長
- 松下和雄氏
Kazuo Matsushita
厳しい環境の中でも元気な動きを見せるヘッドホンを始め、さまざまなカテゴリーで積極的に市場をけん引するオーディオテクニカ。お客様のニーズをくみ上げ、2010年のさらなる展開へと意欲をみせる同社の松下社長が、これからの方向性と意気込みを語る。
ローカルな視点で開発・販売してこそ
グローバルな展開につながっていく
ローカルな視点でお客様に向き合う
テクニカならではのスタンス
―― 経済環境の厳しい中にあっても、ヘッドホンを始め御社の事業は好調に推移しておられます。
松下おかげさまで、弊社の商品は人気があり、ありがたい限りです。09年度は、売り上げが2〜3割下がる予測のもとに計画を立てやってきました。08年の上期が特によかったものですから、09年上期は前年比3割ほど下がりました。08年の下期は全体に悪すぎましたから、09年下期はその水準に比べればアップしたというところです。
―― 2010年がスタートします。御社の今後の商品展開についてお聞かせください。
松下私どもの主力商品であるヘッドホン、マイクロホンのシェアをさらに高めなければなりません。同時に、ノイズキャンセリングヘッドホンやブルートゥースヘッドセットといった商品の構成を増やしてお客様にさらなる選択肢をご提供し、よりニーズにあったものを選んでいただけるよう努力しなければなりません。価格競争ではなく、お客様に満足していただいて買っていただくという展開をしていきたいと思っています。
―― 御社は以前から北米市場でも大変強い存在でしたが、その他の地域での展開はいかがでしょうか。
松下台湾は私どもの開発、生産拠点がありますが、2008年の夏から台北市内にショールームもつくりました。お客様に自由に触って試聴していただける環境をご提供し、各販売店様からもご好評をいただいています。2010年の2月には高雄にもショールームをつくってお客様にアピールするとともに、営業拠点として活動させていきたいと思っています。
また中国では上海にも百貨店の中にショールームをつくって、たくさんのお客様に来ていただいています。中国国内では杭州に工場があり、上海、北京、広東、武漢といった大きな町には営業所をおいて展開しています。中国の方は日本製品を好む傾向がありますし、中国市場は大きな成長を遂げておりこれからも大いに期待できます。
―― 海外展開では、中国、アジアのほか、欧州や米国でのお取り組みはいかがでしょうか。
松下米国ではオーディオテクニカUSという販社があり、ネット販売も含めた展開をしています。欧州には歴史のあるブランドがいくつもありますから、大きなシェアをとるのは容易なことではなく、まだこれからといったところです。ロンドンとパリに拠点をもっており、ここから少しずつ浸透させていこうと思っています。
―― もはや日本のマーケットだけでなく、グローバルな展開を考えていく必要があります。また日本国内も、ようやく4月頃からおだやかに回復基調に向かうと言われています。どの企業も転換を余儀なくされましたが、経営努力の上で筋肉質の体質にして、景気回復に備えていかなくてはなりません。
松下企業にはもちろん、グローバルな展開も必要だと思います。しかし販売そのものはグローバルではなく、ローカルなものです。ローカルで商品作りをし、ローカルで販売をするということが本当の意味でのグローバルと考えます。日本国内でも北海道から沖縄まで営業拠点を置いていますが、北海道で売れる商品と東京で売れる商品は微妙に違うものです。企業イメージづくりや販売網の構築はグローバルでなくてはなりませんが、販売店やお客様ひとりひとりはローカルの視点で対応する、それが大事です。
お客様のニーズをくみ上げ
選択肢を増やしていく
―― コンシューマー向け事業の中核であるヘッドホンは昨今大きく伸びて来ましたが、これからの市場をどのようにご覧になりますか。
松下先行きが不透明ですから、それがわかればいいと私自身も思うところです。大きな視点で見ると、お客様はスピーカーで音楽を聴くより、ヘッドホンで聴く傾向へとトレンドが変わってきていると思います。またオーディオだけでなく、ワンセグのテレビやゲーム、携帯電話といったようにヘッドホンの需要はますます増えてくると思います。我々はどういうお客様にも合うような商品開発をして、ラインナップを増やしていく必要があります。マーケットをさらに拡大できるような商品作りをしていかなくてはなりません。
―― 音楽を聴くスタイルそのものが大きく変化してきました。家の中でもヘッドホンで聴くという機会も増えて来ました。いろいろなシチュエーションに商品を対応させていくとともに、色やデザインなどの嗜好にも合わせていくとすると、商品の種類がどんどん増えていくことになります。
松下それは楽しみなことと考えます。メーカーはお客様に商品を押し付けず、お客様の考えていることをいかに商品化できるかが重要です。ニーズをいかに汲み上げて提供できるかということです。私どもでは、若いスタッフをメインに据え、お客様が好むような商品開発を心がけています。
―― 昨今急激にヘッドホン市場が拡大しましたが、ご販売店対策や競合に対する差別化はどうされるのでしょうか。
松下私どもでは、特別変わったことをするわけではありません。全国の営業マンがお店にきちんとした展示をさせていただけるようお手伝いをし、支援活動をきちんとやることが大事だと思いますので、この手をゆるめずやっていきたいと思います。
また昨今の国内市場には、ヨーロッパの有名なブランド商品もこれまで以上に入って来ています。しかし我々は日本のお客様の嗜好にあった商品を展開していけると自信をもっています。
同じヘッドホンでも国によりニーズが違い、国内市場においては国内のニーズをくみ上げて商品開発していけることが私どもの強みだと思っています。ニーズに合わせた商品カテゴリーを増やし、お客様のご要望にお応えしてきたいと思います。
このほどブルートゥース対応の新製品も出しましたが、無線の使い勝手のよさということだけでなく音にも非常にこだわっています。おかげさまですでに大変ご好評をいただいており、予想以上の販売状況となっています。この分野ではさらに商品化を進めていきたいと思います。こういったものも、お客様のニーズにお応えできた結果と思っています。
シニア市場に向けて展開する
新たなチャレンジ
―― 10年は冬季オリンピックでのマイクロホンの活躍が期待されますね。
松下バンクーバーオリンピックでは、サポーターとなって大会をしっかりフォローさせていただきます。スキー競技などは競技場の距離が長いですから、ガンマイクで追い続けるなど様々な工夫が必要です。またスケートやカーリングなど室内競技では、氷の音をいかにリアルに録るかということがテーマになると思います。それぞれ危険なスポーツでもありますから、選手の邪魔になったり負担になったりしないような心構えも必要です。サポートさせていただくことで、大会を盛り上げる一端を担えればと考えております。
かつて北京オリンピックのときにもテレビがよく売れましたから、今回もそのような需要が見込まれるのではと思います。何よりお店にお客様が来てくだされば、我々の商品にも波及効果があると思っています。
―― テレビ回りの小物商品には大きなチャンスがあると思います。たとえば高齢者にとって、テレビの音をもっと自分のそばで聴きたいというようなニーズもあるでしょう。サラウンドシステムというよりももっと身近な存在です。
松下私どもでは昨夏から「サウンドアシストシリーズ」という新カテゴリーの商品を発売致しております。キッチンで家事をしながら、あるいは深夜など、ご自分の近くに置いてテレビの音を聴きやすくするといった主旨のシリーズです。ケーブル付きのもの、ワイヤレスのものを用意しております。
高齢化社会ということもあって、これが年配の方にもテレビの音が聞きやすいと非常に評判がよく、品切れになるほどです。我々としても、そこまで売れるとは思っていませんでした。ただ年配のお客様がご自分で買いに来られるということはなかなかないですから、これをいかに知らしめて買っていただくかという課題はまだあります。
―― 売れ筋商品を切らさないよう、販売店様の力を借りるというのもひとつの方策ですね。販売店様がこの価値を理解すれば、テレビだけでなく白物などを購入されるお客様に対してなど、対象を広げてさらに多くの方にアピールできます。レジのカウンターに置いておいてもいいのです。
テレビまわり製品は年間1000万台近く動いています。エコポイント制度も延長になり、さらなるチャンスが生まれるでしょう。
松下販売店様はお客様のリストをしっかりと管理され、年齢層なども把握されていますから、こういった商品が対象となるお客様にアピールするには大変心強い存在です。
テレビは高齢者の最大の娯楽ですから、それをより楽しめる物をメーカーとして提供していかなくてはと思います。このシリーズは、構想としては何年も前からあったものなのですが、商品化に踏み切ったのは昨夏です。都心では核家族化であまり問題はないかもしれませんが、地方では3世帯で同居するなど、ご年配の方が家族でテレビを見るシーンなどで切実な問題があります。商品化にあたっては、当社の開発製造部門のあるテクニカフクイの社員が、自分の家族にとって必要と感じたのかもしれません。
シニア向けのオーディオマーケットはまだ開発されていません。そこで慎重に時間をかけて第一弾商品を送り込んだのですが、これはシリーズとしてまだ続きます。ラインナップを充実させて売り場展開をすれば、さらにお客様の目にとまる機会は多くなると思います。当社のひとつの商品群として、今後も注力していくつもりです。
―― 御社は財団法人オーディオテクニカ奨学会をおもちですが、このほど公益財団となられました。
松下財団設立は2008年の3月14日ですが、2009年秋に公益認定を受けました。格差社会と言われていますが、優秀であっても月謝の工面がままならないといったような学生さんに、学費の一部を援助させていただいています。
昨今は理工離れという話もありますが、それをフォローするためにも奨学制度は理工系の学生さんを対象にしています。理工の学生さんは文系に比べて授業や実験などで多忙であり、アルバイトをする時間もなかなかとれない状況にあります。少しでも勉強に集中していただけるようにという思いです。
学生さんの選考は年に1回行っており、実際に奨学金を受けられている方は現在38名いらっしゃいます。公益化するのは非常に難しいことで、理事と評議委員をきちんと揃え、細かな法規制をクリアしていかなくてはなりません。ここを認めていただけましたので、支援活動をしっかりと行っていきたいと思っています。