- お客様に対して自らが感知することが大切
インからアウトまでトータル提案で訴える
- キヤノンマーケティングジャパン(株)
- 常務取締役
- コンスーマイメージングカンパニー プレジデント
- 佐々木 統氏
Osamu Sasaki
昨年末投入した“新世代EOS”EOS 7Dが市場から高い評価を獲得するキヤノン。巻き返しが期待される2010年のデジタルカメラ市場を、一眼レフからコンパクトに至る圧倒的なラインナップで力強くけん引していく構えだ。さらに市場課題とも言われる、“撮る”だけにとどまらない、“見る”“つなげる”の新しい楽しみ方提案もパワーアップ。最前線で陣頭指揮を執るキヤノンマーケティングジャパンの佐々木統常務に話を聞く。
プリントする文化や飾る文化など
楽しくなる提案を積極的に行う
評価と活動領域が広がる
デジ一眼での動画撮影
── 昨年末に発売されたEOS 7Dが大変高い評価を集めています。発売後の状況についてお聞かせください。
佐々木
デジタル一眼レフカメラのミドルクラスのラインナップをさらに強化する狙いから、一昨年にはEOS 50D、5D MarkIIを発売。そして昨年、満を持して投入したのがEOS 7Dになります。“イメージモンスター”という愛称を皆さんが親しんで、市場に定着させていけることができるように、これから大事に育てていきたいと思います。デジタル一眼レフがここ数年普及し、より高機能のカメラでより良い写真を撮りたいというお客様が増えていることもあり、お蔭様で発売以来、順調に推移しています。
── EOS 7Dは20万円を切る価格ながら、圧倒的なスペックを盛り込み、多機能化が進む一方で、オーソドックスな意味での一眼レフの正統的進化の継承機として、市場での注目度も高いですね。5D MarkIIからは動画機能も搭載されていますが、ほぼ丸一年を過ぎて市場での評価や課題も見えてきたのではないでしょうか。
佐々木一眼レフの世界に動画機能が入り、ここまで脚光を浴びるとは思ってもいませんでした。とりわけ、映像作家やプロカメラマンの方から高い注目をいただいており、映像作家が多い米国では、EOSで撮影された映画作品も登場しています。日本にもどんどんとそういう波が押し寄せており、EOS 5D MarkIIで撮られたコマーシャルやプロモーションビデオ、テレビ番組も既にあります。プロ用の動画として一眼レフが使われ始めていますから、これからいろいろご要望が出てくると思いますが、できる限り応えていきたいと思います。
動画撮影の課題は幾つかあります。動画撮影機能自体はエントリークラスのKissにまで搭載していますが、一般のアマチュアの方にその楽しさをどうやって訴えて伝えるかということ。もうひとつの課題は、動画を撮るという意味での使い勝手は、まだ決してよくありませんので、改善・強化していく点が多くあることです。一眼レフの動画がひとつの大きなトレンドになっていく中で、この機を逃さず、商品と市場への訴えかけを強化していきたいと思います。
── ビデオカメラとの棲み分けがよくテーマとしてのぼりますが、御社もアイビスを商品展開されています。
佐々木アイビスで撮られるものはやはり、お子さんの運動会や学芸会など、ファミリー向けのものが圧倒的に多く、撮影時間も少し長めになります。一方、一眼レフはかなりの画質ですし、ちょっと良いフィルムをつくるような感じで使っていただいています。いわば、“作品をつくる”わけで、同じ動画でも意味が違います。デジタルカメラでも、コンパクトの場合にはまた楽しみ方が変わってくると思いますし、キヤノンとしても、動画の在り方・楽しみ方をいろいろな視点から考えていきたいと思います。
そういう意味で、現時点では棲み分けができていると思います。一眼レフの静止画という部分は、もちろんこれからも強く訴えていかなければなりませんが、付加価値のひとつとして、動画をきちんと提案していきたいですね。
── Kissのお話にも出ましたが、常に進化を続け、エントリークラスでもトップポジションを確立されています。一方でライバルも多く、もっと本体を小さくしようというテーマでは、マイクロフォーサーズの登場もあり、競争がますます激しくなっています。
佐々木
マイクロフォーサーズは各社からも新たに商品が発表されるなど、「レフレス」と呼んでいますが、小さく、軽量化できる特長もあり、シェアを伸長しています。マイクロフォーサーズで一眼を手にして、もっと写真を好きになられたお客様の中から、物足りなさを感じられる方も出てくると思います。一方で、何十年もやってきている一眼レフタイプには、レンズの多さからいろんな写真が撮れますし、システムを含めた使い勝手や操作性など、築き上げてきたノウハウがあり、なんらその存在が揺らぐことはありません。
キヤノンでは現在、コンパクトの上位クラスとして、G11やS90などの商品があり、このクラスのさらなる充実・強化が必要であると考えています。もちろん、マイクロフォーサーズを否定するわけではありませんし、動向は注視していきたいと思っています。
画質評価を見直したい
コンパクトタイプ
── 一方、コンパクトに目を向けると、独自機能による差別化や単価下落に対する対応など、さまざまな課題が見受けられます。
佐々木
2月に春モデルの発表を行いましたが、皆さんに親しまれてきた「IXYデジタル」の愛称から“デジタル”を取り除くことにしました。いまの時代に、デジタルをあえてつけるまでもないだろうということです。コンパクトの看板のブランド「IXY」として、品質・品位的にもきっちりといいものをお届けし、ラインナップを強化していきたいと思います。単価の下落につきましては、今年も十数機種のラインナップをお客様にあわせて揃えて参りますが、できるだけ上のクラスで商売をしていきたい。これは各社とも同じ想いだと思います。
── 世界規模で見てしまうと、やはり1万円前後のところで大量に商品がつくられています。
佐々木ワールドワイドで商売をしていますから、新興国で値段の安いものを中心にという考え方はメーカーとしてあります。ただ、日本は独特なんですね。標準以上の機能を備え、デザイン的にも優れたものではないと受け入れていただけないといった傾向が見られます。ですから開発・製造を担当するキヤノン株式会社に対しても、国内市場のニーズに応えられる商品開発を要望しています。
日本でヒットした商品は、間違いなく世界のヒット商品になります。ですから、数を追いかける一方で、“日本発”に対して、これからもこだわり続けていかなければいけないと思います。
── PowerShot G11などは、画質に正面から向かい合いました。誰かがやらなければならないテーマなのに、これまで、どこもできませんでした。社内では、反対ムードなどなかったのですか。
佐々木お客様が望んでいるのはキレイな写真です。画素数の高さがそのままキレイに比例しないことをきちんと言わないと、誤解されたままになってしまいます。こんなことを言ったら売れなくなるのではないかという心配はもちろんありました。しかし、販売店様に対する勉強会なども精力的に行い、店頭でも自信をもってお薦めいただいております。高画素化を否定するわけではありませんが、これからは、基本的な“画質”で勝負していきたいですね。
インからアウトまで
潮流を創り出す
── 周辺商品として大きな成長が期待されているもののひとつにデジタルフォトフレームがあります。御社ではまだ、商品を発売されていませんね。
佐々木インからアウトまで持っている会社ですので、インの撮る楽しみから始まり、アウトのプリント、また、それを飾る文化、フォトブックの世界など、もっと楽しく新しい提案を積極的に行っていかなければならないと思います。現在は、プリントしていただくことを、まず、一生懸命やらなければなりません。ただ、お客様もいろいろなご要望をもたれていますし、プリントではない映像を楽しめる手段のひとつとして、デジタルフォトフレームに手を出さないというわけではありません。ただし、キヤノンが出す以上は、皆さんがご納得いただける商品でなければなりません。
── 私どもが主催している「デジタルカメラグランプリ」では、カメラ映像機器工業会の主催で開催される「CP+」のコンセプトと同様に、「撮る」「見る」「つながる」という写真の新しい楽しみ方を啓発していくべく、カメラ本体にとどまらず、幅広い周辺商品を対象に評価し、そこはもっと強めていこうと考えています。撮影・保存する写真が膨大になり、撮ったのに見られないケースが非常に多くなっています。ています。
佐々木どうやってメディアから取り出してもらうかです。アウトプットのところは、これからもっと便利にしていかなければなりません。プリントするにしても、デジタルカメラのディスプレイのボタンを押すと、すぐプリントアウトできるなど、ユーザーのハードルを低くするアイデアが必要です。
── ユーザーにとってはケーブルをつなぐというのは想像以上に煩わしい作業に感じられますね。
佐々木“つなぐ”ということが、完全に意識しなくてよくなることが理想的です。プリンターでも無線LANが当たり前のようになってきています。デジタルカメラのディスプレイで見ている画面を、そのままプリンターに飛ばしてプリントアウトするということも十分可能だと思いますし、また、そうした流れを、業界をあげてつくっていかなければなりません。
── 「CP+」では、当社でも「プロジェクターで写真を見る」というテーマブースのお手伝いをさせていただきますが、撮った写真をアウトする手段のひとつとして、スクリーンで写真を楽しむという世界についてはどのようにお考えですか。
佐々木当社としてももっと力を入れていかなければならないテーマだと考えていますし、プロジェクターでスクリーンに大きく伸ばして楽しむという分野は確かにあると思いますね。
── それでは最後に、2010年の市場展望についておきかせください。
佐々木一眼レフは昨年、対前年比86%の約107万台と前年を割り込みました。やはり、この景気には打ち勝てず、なかなか伸び切れなかったわけですが、今年は少し落ち着いて、各社からもいろいろな商品が登場してきますので、115万台くらいまで回復し、再度、右肩上がりの状況になると見ています。一方のコンパクトは、昨年が対前年比87%の約870万台でしたが、900万台近くまで復活すると見ています。こちらも、買い替え需要を刺激する色々な商品が各社から出てくることが予想されるのですが、大きな流れで捉えると、かつての1000万台市場というスケールは、今後は少しむずかしいのではないでしょうか。
ビデオカメラは昨年が147万台で、驚くほどに伸長しました。保存媒体としていろいろな方式が出て混沌としていたのが、フラッシュメモリーが主流となり、落ち着きをみせたことが、そのひとつの要因ではないかと思います。お客様も悩まれていたのだと思います。安心して購入できる環境になったということです。ビデオカメラの世界ではまだまだ子供の成長記録がメインですから、あまり大きく伸びることはないと思います。昨年は少し出来過ぎの印象も否めず、今年は140万台くらいと予想しています。
── 3年くらいのスパンで展望したときに、どのようなラインを描いていくと予想されますか。
佐々木一概には言えませんが、全体的にはまだ厳しさが続くと思います。もう少し時間がかかるでしょうね。今年後半には復活の兆しが見え、来年は本格的に回復するという予測も聞かれますが、そう簡単ではないと思います。将来に向けて長期的に考え、お客様に対してもわれわれ自らが感知して、提案していかなければならないと思います。