- 3D化でさまざまな商品が変わる
業界挙げて新たな価値をアピールしたい
- パナソニック(株)
- 役員
- デジタルAVCマーケティング本部 本部長
- 西口史郎氏
Shiro Nishiguchi
ついにベールを脱いだ「3D」。パナソニックがプラズマテレビVIERAやブルーレイレコーダーDIGAなど、初の3D対応商品を発表した。大きな話題となった3D映画「アバター」の大ヒットも追い風に、この新たな付加価値をいかに訴求していくのか。パナソニック デジタルAVCマーケティング本部の西口本部長に聞く
AV業界は不滅。夢を広げながら
お客様に喜んでいただきたい
プラズマの進化が3Dを実現
ついに誕生「3D VIERA」
── 3Dがいよいよ導入されましたが、素晴らしい臨場感ですね。御社はパナソニックハリウッド研究所で映画のオーサリングを手がけ、そのノウハウを映像関連商品に役立ててこられましたが、今回の3D新製品はそれが素晴らしい形で発揮されました。“入口”から“出口”までのシステムをもっておられるパナソニックならではの3Dの概要を、あらためてお聞かせください。
西口
テレビの進化の歴史をたどってみますと、私どもが常に追い求めて来たのはお客様の満足です。いかに臨場感を感じていただけるか、それを高めていく中でテレビは、白黒からカラーになって、また大画面になって、そしてデファクトがフルハイビジョンになりました。
3Dはその進化度合いが1段高い変革で、白黒からカラーになったときと同じくらいのインパクトですね。我々にとっての積年の夢でもあります。カラー化から50年かかって3Dに到達した意味合いは大きいですから、端末が代わるだけでなく、コンテンツのつくり方や送信方法なども大きく変わります。これもエンドtoエンドといったアプローチでの技術開発の結果、実現したことです。
そしてケーブルや衛星も含めて幾つもの放送局さんが3D放送の開始をアナウンスされており、これも大きな追い風になります。
── プラズマと液晶では、3Dに対してどのような違いがあるのでしょうか。また、ブルーレイとの親和性はいかがでしょうか。
西口我々がプラズマテレビを開発する際、2Dでの画質をアップするためにプラズマの得意技である高い動画解像度やコントラスト感のよさをずっと追求してきました。そして3Dテレビを出すことになったとき、そういったもののよさがよりクローズアップされる結果となりました。
3Dというのは、右目用と左目用の映像を交互に高速で再生する必要があります。画質に妥協しない本物の3Dにとっては、その高速性が必須になります。我々は二重像低減技術と呼んでいますが、そこに毎年改良を重ねてきて、よりメリハリ感のある画質が可能になりました。
液晶の場合には高速応答性という課題があり、それを補うための倍速という技術を使用します。3D化する場合には、通常の液晶テレビから技術的にひとつハードルをクリアさせる必要が生じてくるわけです。それに対してプラズマは、もともと応答性が高く、性能的にもコスト的にも負担なく3D化が可能になると言えます。
2Dから3Dへ土俵が変わることによって、競争条件も変わります。業界の勢力図も大きく変わるのではと、チャンスを我々自身の手でつくっていくという思いです。
── 画面も大きいほど臨場感が増しますね。そういう意味でもプラズマは優位と言えそうです。
西口家庭内のメインのテレビとして想定できるのは、42インチ以上の大画面です。今回発表しました第一号機は、日本の市場環境を考えた場合大画面として臨場感を一番感じていただけ、値ごろ感も出せスペース的にも違和感がないものということで、50インチと54インチというサイズにしました。
しかし当然今後はさらに大きいもの、またもう少し小さいものも準備していこうと考えています。特にパーソナルニーズに対して、サイズについての市場動向など見ながら検討していく必要があると思います。
映画のヒットも追い風に
店頭体験の場を積極展開
── 御社もサポートしておられる映画「アバター」が大ヒットとなり、魅力的な3Dのソフトのひとつとして今後も大いに期待ができます。
西口
「アバター」は、当社も共同プロモーションをやっております。大ヒットするだろうとは思いましたが、公開からわずか40日弱で興業成績ナンバーワンになってしまうとは思いませんでした。しかも日本だけでなく、世界中でほとんどの方が3Dでご覧になっているという状況です。3Dでご覧になっていないのは、近くに3D対応の映画館がなかったとか、やむを得ない場合がほとんどであると見ています。
「アバター」によって3Dに対する認知度と臨場感の体験が一気に高まり、また専用メガネをかけて見るということに対する違和感が払拭されたと思います。
3Dをご家庭で楽しむにはテレビだけでなく、対応するBDレコーダーも当然必要になってきますから、そこでもハリウッドの研究所で蓄積した我々のノウハウが生きて来ます。そういったときにタイミングよく、ジェームズ・キャメロン監督と我々との出会いがあって、3Dのコンテンツサイドとパナソニックのハード、そしてその間の製作環境ができあがったということがあります。
ジェームズ・キャメロンという方は本物志向であり、妥協を許さないこだわりをもった監督です。ただ単に3D感があるという映像では満足せず、本当の3D感、自分がイメージしているようなものではないとOKしません。そして我々も、3Dは3Dでも本物の3D、フルHDで、しかも飛び出すだけでなく奥行き感のある画というものを「3D元年」の幕開けに楽しんでいただくよう取り組んできました。
監督と我々のそういった思い、そしてタイミングも一致して、こういう形で全世界の皆さんに受け入れられたということで、想像を超えるほどの成果ではないかと思っております。
── 凄い臨場感を体験できる3Dですが、やはり体験しなければそのよさを十分お伝えできません。どのようにプロモーションされていくのでしょうか。
西口その基本は店頭ですから、店頭づくりや店頭での体験を充実させるという方針で、各販売店様と検討を重ねているところです。それ以外にも、公共の場でのイベントなどで身近に体験していただけるような場の提供を積極的に行って参ります。
3Dというと、以前あった青と赤のメガネをかけてのイメージをもたれる方が多いのではと思いますが、我々が発表させていただいたものは全然違います。しかもスクリーンよりテレビで見る方がコントラストが高く、今回発表した50インチクラスのテレビをご覧になってより臨場感を楽しんでいただけると思います。
百聞は一見に如かずで、まず見に来ていただき、こういうのがあったらいいな、と思っていただけるような場作りをサポートをしていきたいと思っております。
── 「アバター」がパッケージソフトになって家庭で見られるようになったとき、テレビや再生機が3D対応であるとともに、やはり音も映画館のように立体感のある状況でないと「没入感」に浸り切れないと思います。今回はシアターシステムも発表されましたが、3Dはそういったものを訴求する際にも効果的だと思います。
西口過去のテレビの進化においても、映像が進化すると必ず音も進化し、より臨場感が高まりました。3Dもまったくそうで、映像とともに音もその場にいるような3Dで味わいたいと思っていただけると思うのです。またそういう提案を私どももしていかなくてはなりません。
今回は本格的なシアターシステムと、簡易的なラックシアターとを発表しましたが、音が画面から出てくるとより感じられるような機能も入れており、映像と音ともに臨場感を楽しんでいただきたいと思います。音というのは重要なのだと実感しています。
店頭での3D体験もいくつかのセッティングが考えられますが、簡易的なセッティングと、音の部分も含めまさに最良の3Dホームシアター体験用のセッティングもあり、店頭を含めいろいろな準備をしていきたいと思います。
── 3Dを体験するには、必ず1人1つずつメガネが必要です。店頭でのデモ用のメガネはどの程度用意されるのでしょうか。
西口今まさにそれを検討しているところです。3Dテレビ発売直後、ご販売店様に初めて3Dが展示されるということになりますが、たくさんの方が見に来られると我々も期待しています。そういう場合でも接客の時間も含め、混乱なく対応していただけるような店頭の環境を提供する必要があると思っています。
じっくりと見ていただきたいですが、お客様がテレビの前に滞留してしまうということも考えられますので、ご販売店様との打ち合わせを重ね、それぞれのお店にあった形の3D体験コーナーをつくっていきたいと思います。そしてメガネはキーになりますので、しっかり考えて参りたいと思います。
── メガネについてはオープンにして、大きさやデザインなどメガネ業界に自由につくらせても面白いと思います。一人一つと限らず、たくさんのニーズが派生すると思いますし、近眼でも老眼でもない人にメガネが売れるわけですから、メガネ業界にとってもチャンスです。
西口今回同梱するメガネは当社独自のものですが、デザイナーも「パナソニックに入社して、まさかメガネのデザインを手がけることになるとは」と言っていました。まさに3Dがこれまでのものとはいかに違う事業かをあらわす言葉だと思います。メガネについては、さまざまな観点から検討して参りたいと思います。
リンクもエコもさらに進化
AVの夢を広げて付加価値訴求
── 今回の新製品から、新たに「お部屋ジャンプリンク」という表現が出てきましたね。
西口リンクの面でも、今回は大きな進化となっています。従来のリンクから、部屋を飛び越えたリンクという意味で「お部屋ジャンプリンク」と表現しました。
コンセプトとしては、レコーダーであるディーガをホームサーバーとして位置付け、いつでもどこからでもその中のコンテンツがビエラで見られるということです。その進化の中で、ワイヤレスのDLNAを、テレビでは持ち運べるような小型サイズにまで搭載し、まさに「いつでもどこでも」を実現したのです。
3Dを出すタイミングと時を同じくして、リンクもここまで来たということを表しました。3Dでこれからの2010年度、大きく市場を変えていくと同時に、それ以外の切り口でも、たとえば視聴環境において制約を受けずに楽しむことができるということを訴求していきたいと思います。
── 3Dがあまりにも話題を呼んでいますが、お部屋ジャンプリンクも非常に大きなトピックスと考えます。これまではビエラとつなげばということでしたが、つながなくともリンクするということになりました。店頭展開がますます課題になりそうです。
西口そもそも一昨年頃から、リンクというだけではピンと来ないというお客様に対して、お困りごとを解決するという表現で、お客様目線での訴求を行っておりました。お部屋ジャンプリンクに対しても、リビングで録画映像を見ていて、続きは寝室で見たいということはありませんか、というような切り口で「困りごと解決」としての訴求をしていきたいと思います。
また、リンクコーナーについては各法人様で積極的に取り組んでいただいていますから、店頭でもそういったコーナーの拡充を図っていきたいと思います。テレビ、レコーダーといった単品ごとだけでなく、つないだ楽しみを、ポータブルの商品含めて展示してお客様に理解していただけるような売り場を提案したいと考えています。
── エコナビの搭載で、省エネの度合いも高まりました。
西口エコナビのベースは、テレビやレコーダーの消費電力の大幅な削減ということが狙いですが、その上でさらに賢く省エネをしますということです。エコナビはパナソニックの白もの商品でご支持をいただいていますが、それをAV商品にも広げ、パナソニックトータルとして環境に対する考え方に一本筋を通す形にもっていきたいということなのです。
コンセプトも商品によって基軸がぶれないようマーケティング本部で調整しながら、エコナビと呼ぶに相応しい機能をテレビに搭載できたと自負しています。リンクに関連するエコの機能もありますが、これもリンクを先導してきたパナソニックならではの取り組みのひとつとして訴求していきたいと思います
環境というのは大きな命題です。テレビの新製品ではエコナビを一気にすべての機種に搭載し、一足飛びに機種を増やし、パナソニック全体のエコに対する取り組みをよりアピールしていきたいと思っています。
── 今後テレビを中心としたリンク、ネットワークはどんな方向へ進んでいくのでしょうか。
西口核になるテレビがあって、そこからリンクすることにより部屋の中はもちろん部屋を飛び越えて楽しめるようになっていき、またその先にはコンテンツを楽しむに相応しい照明などを含めた部屋の環境までもが視野に入って来ます。さらに家の中だけでなく、外も対象になってきます。「こういうのができたらいいね」という隙間を埋めるような商品を、リンクでつなげることにより、モバイル系の新たな市場が生まれる可能性もあると思います。
── 2011年7月のアナログ放送停止以降のテレビ市場について、どうお考えでしょうか。
西口3D化はテレビだけでなく、さまざまな商品が変わるきっかけになるテーマです。業界全体でそれらを押し上げるかたちにもっていき、テレビについては2011年のアナログ停波が控えている中で、新しい切り口になるものと思います。単価アップ、買い替え促進ともなります。お客様の背中を押す大きな起爆剤にもなるでしょう。
初期の薄型テレビを先行して買った方々がそろそろ買い替えを考えられる時期に来ています。そういう方たちに、新しい時代が来たから買い替えようというきっかけを3Dは与えてくれると思います。
流通の皆様とともに、業界全体として需要の押し上げと新規需要をつくり単価アップにつなげていきたい、我々がそれをけん引する形で進めていきたいと思います。
AV業界は不滅です。まだまだ夢が広がるような形でお客様に喜んでいただきたいと思っていますし、今回の3Dに対する一般のお客様のポジティブな反応を見ますと、ますます自信を深めることができました。引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。