梶田龍三氏

〈CELLレグザ〉が築き上げた礎
次代を担うエンターテインメント提案に力点
東芝コンシューママーケティング(株)
取締役社長
梶田龍三氏
Ryuzo Kajita

大きな話題と期待を集めてデビューした東芝の〈CELLレグザ〉。圧倒的な画質や先進機能は言うに及ばず、業界の注視を浴びるのは、2011年7月の完全地デジ化後を見据えて打ち出されたそのコンセプトだ。今後のテレビの在り方とビジネスへどのような影響を与えていくのか。2010年の第2ステージ、さらに第3ステージへと、さらなる進化を遂げようとしている〈CELLレグザ〉。昨年末の市場投入からの手応えとこれからの展開について、東芝コンシューママーケティング・梶田龍三社長に話を聞く。

 

ニッチ層へピンポイントで
ズバッと斬り込んでいく

地デジ化後のキーワードは
「エンターテインメント」

── 昨年末に市場に投入された〈CELL〉レグザですが、テレビはもちろん、これからのエンターテインメントのビジネスにおいても大きな意義を備えた商品として注目されています。

梶田 〈CELLレグザ〉はお客様にとっての付加価値が非常に明快な商品です。圧倒的な高画質・高音質はじめ、3テラバイトのハードディスクを内蔵した録画機能やネットワーク機能など、セルの備える物凄いパワーにより実現したものです。今後もソフト開発をしっかり行っていけば、可能性はさらに無限大に広がっていきます。

これからの方向性としては2つあります。1つには、〈CELLレグザ〉のコンセプトをスペックアップしながら、価格をどれだけリーズナブルに抑えていくことができるかということ。もう1つは、セルを搭載しない通常のテレビのラインナップの中へ、〈CELLレグザ〉で実現して見せたコンセプトを、息吹としてどこまで落し込んでいけるかです。この2つの方向性それぞれについて、東芝はとことん追求して参ります。

 

── テレビ市場では単価下落に歯止めがかからず、お客様に対する付加価値提案が大きなテーマのひとつと言われています。

梶田近況では確かに単価ダウンが目につきますが、これは“起こっている”のではなく、必然的にそうなっているのです。ご家庭のリビングルームなどにあるメインテレビの地デジ化は、ほぼ8割近くが済みました。しかし、パーソナル用途のものはまだ3割にも満たない。すなわち、これからパーソナルテレビの買い替えが増えていけば、必然的に単価は低くなります。

 

── 地デジ完全移行後のテレビ販売の落ち込みを心配される声も多く聞かれます。

梶田氏梶田アナログ完全停波となる11年7月を過ぎると、テレビを中心としたビジュアル市場が本当にがくんと落ち込んでしまうのかというと、そうではないと思います。“ポストテレビ”に対し、太陽光だ、オール電化だという見方にも一理あります。しかし、“ポストテレビ”は言うまでもなく、テレビを核にしたオーディオとビジュアルに他ならないのです。

現在は地デジ化で、テレビを買い替えなければなりません。必然的なことですから、お客様が商品に求めるのも、省エネ性能や基本性能がしっかりしていることになります。しかし11年以降は、環境インフラでは、端的な例では3Dも出てきますし、お客様の買い替えを促進していくためには、エンターテインメント性をどう訴求していくかがポイントになってきます。その礎を持っていないといけない。そのときにベースになるのが〈CELLレグザ〉です。

テレビとは言え、中身はパソコンです。ソフトをダウンロードして新しい機能を加え、どんどん進化していくこともできます。これまでのテレビの概念を変えてしまいました。もちろん、価格ゾーンがありますから、通常の価格ゾーンの中にその息吹をこれから先、どう落としていけるか、どこまで高められるかは重要なテーマになってきます。“ポストテレビ”で主導権を握りたいですね。

 

様々な価値観に訴え
ライフスタイルを変革

── 〈CELLレグザ〉は店頭でもどのように説明すればいいのかというくらい、本当に様々な特長を備えています。それらをどのように次のステージで取捨選択されていくのかも注目されますが、店頭でも誰もがまず足を止めてしまうという画質についてお聞かせください。

梶田 高い評価をいただいている画質ですが、これはセルでしか制御ができないのです。年初にラスベガスで開催されたCESで、東芝は、後ろ半分をカットして中身をお見せした〈CELLレグザ〉を展示しました。セルが映像にあわせてどのような細かい制御をしているのかを確認いただきたかったのです。ものすごく細かいエリアでコントロールできるのは、セルの力ならではです。例えば、黒というのは光を通さないわけですが、セルはきちんとそこだけを消すことができる。まさに漆黒です。他社はLEDと言いながらも、LEDがあたっているところは少し光が漏れてしまいますから、漆黒というわけにはいかないのです。数字の上からも、コントラスト比で表わすと500万対1というものすごい数字で表現されます。本当にどんな映像でもこなしてしまいます。

映像でそれだけびっくりしたら、音だってもっといい音にならないのか、という流れを、ビジネスの上でも創っていきたい。「ホームシアター」という言葉もだいぶ言い旧されて来ました。ライフスタイルの中になかなか織り込めないでいます。もちろん、ホームシアターを楽しまれる方が100%いらっしゃるわけではありませんが、映像がこのレベルまで来たら、音も今のままでは満足いかないという潜在的な欲求は誰にでもあるはずです。そこをどう、ビジネスとして広がりを出せるか。大きなチャンスだと思います。

〈CELLレグザ〉は、音も究極を極めました。売り場等ではきちんとご確認いただけない場合もあるのですが、視聴室などやご自宅のお部屋に近い環境で視聴いただくと、画質ももちろんですが、皆さん音についても本当にびっくりされます。音をよく知っている人ほどテレビの音を馬鹿にしてかかるものですが、これまでのテレビの音からすればそれもしようがないのです。〈CELLレグザ〉では、そこへも大きな風穴を開けることができたと思います。音でも人をここまで感動させることができるのかと再認識しています。

これだけ高い再現性を体感すると、必然的に、この音も凄いけど、もっと違う音も体感してみたいという欲が出てきます。例えば、32インチではちょっと小さいなと不満に思っていらした方が、37インチや42インチに買い替えたときに、画面を大きくしただけのシチュエーションのままで本当に満足されるのでしょうか。音の提案をはじめとするエンターテインメントの世界は、これから本格的に花開いていくのではないかと思います。

 

── タイムシフトマシンも、これまでの録画の概念を大きく変えるものになりました。

梶田氏梶田過去24時間にわたり、全8チャンネルを全て録画するという機能なのですが、これが、ライフスタイルを変えてしまうんですね。いままで自分でも気づかないうちに、録画をして見るというライフスタイルが定着していた人が、これまでの生活パターンから解放されたときに、時間や行為に拘束されることがない商品の価値にハッとされるのです。

例えば、“夜家事”をしているような人たちの中にはそういう方が多くいらっしゃると思います。関心をお持ちの方も多いのですが、「早く手に入れたいのだけれど価格が…」という方もいらっしゃいますので、次のステップでは価格帯もこなれさせていきたいと思います。

 

── 生活スタイルを変えてしまうわけですね。

梶田ライフスタイルや価値観はますます多様化していきますが、〈CELLレグザ〉にはこうした様々な訴求ポイントがあり、それぞれがピンポイントで多くの人に訴える力を備えているのです。ある一定の層だけではなく、さまざまなニッチ層に対してピンポイントで、1台でズバッと斬り込んでいくことができる商品となりました。だからこそ、これまでの商品では考えられなかったような、さまざまなシーンで取り上げていただけるのだと思います。

テレビのボリュームゾーンが価格志向になっていくのはひとつの流れだからしようがないことです。しかし、そうした流れとは対峙した、〈CELLレグザ〉のような提案が、必ずなくてはならないと確信しています。

 

創造提案の軸として
専門店でも高評価を獲得

── これからのテレビは、価格軸の他に、機能軸をいかに充実させていくかが重要ですね。テレビ市場では数多くのハイエンドユーザーや専門店からの支持を集めていたパイオニアの「KURO」がフェイドアウトしたちょうどそのタイミングに、〈CELLレグザ〉が登場し、大きな支持を獲得しています。

梶田〈CELLレグザ〉は高画質だけではありませんから、コンセプトは少し異なります。しかし、われわれがいままで入り込めていなかったお客様の層からも高い評価をいただき、専門店という新しいチャネルにおいてもお取り扱いいただくことになりました。専門店はお客様に対するセールストークの質も非常に高く、今後、〈CELLレグザ〉にとどまらず、ブルーレイをはじめとする当社のフラグシップ商品の企画においても、貴重なご意見をいただくことができる非常に有効なチャネルだと思います。

 

── 流通の皆さんからも、〈CELLレグザ〉の登場を歓迎する声が数多く聞かれます。

梶田大変ありがたいですね。〈CELLレグザ〉はマスコミで取り上げていただくことも多く、われわれのこれまでのチャネルのお客様に対しては、メッセージも非常に届きやすかったと思います。マスコミでもあれだけ取り上げていただくと、やはり、ものすごい反響があり、当然売りにも結び付きます。

しかし、そうして取り上げていただくだけでは伝えられないお客様もまだまだいらっしゃるわけです。オーディオやホームシアターの専門店のお客様は、本質機能としての商品のよさを認めていただける方で、自分たちのライフスタイルや趣味嗜好の世界に積極的です。こういう人たちにメッセージをお届けするには、このような専門店のチャネルからアプローチをしていかなければならないというのはひとつの発見でもありました。

 

── 究極の説明商品ですからね。専門店さんでは二代目の若い経営者へ代替わりする店も目立ち、そこでは、もう少し手の込んだものを取り入れ、お客様に提案していきたいという気概が感じられます。その代表例がホームシアターであり、ホームネットワークです。〈CELLレグザ〉はそこで、ホームネットワークを組んだ新しいライフスタイルを創り、提案を行っていく上でも非常にいい商品であると受け止められています。

梶田番組を見るための“モニター”というレベルからは一段上がって、家庭内のネットワークを制御する部分も含めた“メイン”という考え方ですね。

 

── リビングを中心としたデジタルAVの世界、また、ホームネットワークのまさに頭脳、司令塔として、中核に位置する商品になりますね。

梶田これからは映像だけではなく、エンターテインメントという世界が全面に出てくるとなれば、家庭内ネットワークというのはまさに必然です。「ネットワーク」というキーワードがあり、それを何が核になって制御していくのか。制御することができる商品として、〈CELLレグザ〉が出現してきた。これからも、いろいろなことを、お客様にしっかりとご説明していかないと、なかなかご理解がたまわれないような商品ですから、恐らく、売り方そのものも少しずつ変わっていくのだろうと思います。

 

── 専門店では、とりわけ30代、40代のファミリー層からの高い支持を集めています。

梶田高齢化の団塊世代ももちろん重要なターゲットですが、これから先、われわれがコミュニケーションをもっと活発にしていかなければならない世代が明快になるというのは非常にありがたいですね。アプローチとして、これまでマーケティングが十分ではなかったということです。〈CELLレグザ〉により、そこへも入り込むことができました。

これまでも東芝〈レグザ〉は、画質がよいということでは市場からも大変高い評価をいただいて参りました。しかし、〈CELLレグザ〉でこのような高い支持を獲得できたことは、さらにその上にある、琴線に触れるようレベルにまで達することができたのではないかと思います。

 

◆PROFILE◆

梶田龍三氏 Ryuzo Kajita
1952年11月24日生まれ。兵庫県出身。75年3月 慶応義塾大学商学部卒業。同年4月 東京芝浦電気株式会社(現・株式会社東芝)入社。映像メディア事業本部 営業統括責任者、PC事業部PC情報機器営業部長等を歴任の後、01年10月 東芝ライフエレクトロニクス株式会社 執行役員 DM商品部長、03年10月 東芝コンシューママーケティング株式会社 量販企画部長、07年6月 取締役、08年6月 取締役社長に就任。現在に至る。

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