- 1000の店舗と9000の販売員が
新・写真ビジネス創造への大きな力
- (株)キタムラ
- 代表取締役社長
- 浜田宏幸氏
Hiroyuki Hamada
お客様が写真を楽しむために欠かせない存在となる、新しい写真店像の確立へとさらなるスピードアップを図るキタムラ。1000余の店舗網と9000人のパワーを生かした、信頼という絆で結ばれたお客様との太いパイプが何より大きな強み。次々に繰り出される提案の成果とこれからの成長戦略を浜田社長に聞いた。
ビジネスモデルが確立できない
カオスの状態に陥っている
早過ぎる進化に
取り残されるお客様
── 現在のデジタルイメージング市場をどのようにご覧になっていますか。
浜田
カメラは皆さんが普通に使い始めるようになって、まだ70、80年と歴史の浅いものなのですが、この5年くらいの進化のスピードが早すぎて、どう楽しんだらいいのか、ユーザーの皆さんの楽しみ方が追い付いていないというのが実情です。
フィルムカメラの時代は撮影が難しいために、誰もがキレイに撮れるようになることが進化の方向性でした。やがて、露出もピントもオートになり、レンズはズームになって、誰でも押せばキレイに撮れるようにと進化していきました。いつでも持ち運んで使える「レンズ付フィルム」のような商品も登場しました。
それがデジタルになると、もっと簡単にだれでもキレイに撮ることができます。フィルムを使わなくなったので撮ったものをすぐに見られるし、自分でプリントをしたり、画像を加工することもできるようになりました。
フィルムという制約があったときには、ピントがあっているだろうか、ちゃんとキレイに撮れているだろうかと、皆さんまず、写真屋さんに頼るしかありませんでした。ところがその制約がなくなり、一挙に自由になると、今度は楽しみが大きく拡がりすぎて何をすればいいのかわからない、どうすれば楽しいのかわからない、そんな状態にあります。
これからもっといろいろな楽しみ方が増えてきます。ここで、お客様の楽しみ方を確定してあげないと、その楽しみをサポートすることで成立するビジネスの儲け方も定まらない。ビジネスモデルが確立できないカオスの状態に陥っているのが今の写真業界だと思います。
── カメラ業界全体が大きな過渡期にあるわけですね。
浜田 フィルムがなくなればこのような状況が起こることはある程度想像していました。3万店あったDP店や写真店が、すでにもう1万店を切る状況です。過去のスタイルのままのカメラ店、写真店ならなくても一向に困らない。下駄はあっても、下駄専門店がなくなってしまったのと同じことです。お客様が必要と思って下さるカメラ屋になるためには、お客様がお金を払ってでも使っていただけることを見つけていかなくてはなりません。この変化を乗り切るために、1社で悪戦苦闘するよりは、志を一つにできる企業と一緒に取り組んだ方が大きな力になると考え、M&Aを行ってきたのがここ数年の大きな流れになります。
また、課題は過去に撮った写真についてもあてはまります。フィルム時代に撮った写真が山のようにありますが、今、いろいろな楽しみ方があると言ったのは、すべてデジタルで撮ることを前提にしたものですから、フィルムで撮った写真は対象になりません。利便性や楽しみ方が高まる一方で、過去のものは阻害されて不自由になってしまっています。
「昔撮った写真も楽しめますよ」というサービスを提供できれば、そこには大きなビジネスチャンスがある。私どもでは、過去のフィルムや写真をDVDへデータ化するサービスを発表しました。アルバムを店頭に持ってきていただければ、まるごとデータ化します。現在、一部の店舗でテストケースをスタートしましたが、年内には本格的に導入していきたいと考えています。データ化すれば、いまのデジタルで撮ったものと同様に新しい楽しみ方がすべて楽しめるようになります。現在、ビデオカメラで撮影した映像をDVDへダビングするサービスを行っていますが、こちらも大変好評です。お客様から「キタムラがあってよかったね」と言っていただけるような新しいビジネスを創造していきたいと思います。
感動をカタチにする
きっかけが必要
── 新しい楽しみ方の代表的なものとして、「フォトブック」に大変力を入れていらっしゃいます。
浜田 ギフト需要が根強い商品で、欧米では早くから浸透しています。クリスマスなどでプレゼントを贈り合う習慣が旧くからあり、その時にモノだけでなく、一緒に写真を贈るといった需要の中で、フォトブックの動きが活発になっています。例えば、孫がおばあちゃんに、自分の今年一年の写真をフォトブックにしてプレゼントするなど、日本とはちょっと楽しみ方が違いますね。確かに日本でもかなりのペースで需要が拡大していますが、欧米に比較すると、期待も大きいだけに、その期待値の半分にも満たないのが実情です。
── いろいろなバリエーションの商品を揃え積極的に用途提案されています。
浜田 3月にエイベックスさんの新人歌手とのコラボレーションで、卒業の記念にフォトブックを贈ろうというキャンペーンを展開したところ、かなりの反響をいただきました。卒業シーズンには他にも、学校がつくる卒業アルバムとはまた別に、担任の先生がクラスの卒業アルバムをフォトブックでつくったり、クラブの後輩たちが卒業する先輩へフォトブックをプレゼントするなど、卒業の時に贈るプレゼントとして大変喜ばれています。手頃な価格でつくれますから、バレンタインにチョコレートを贈るように、卒様のときには記念にフォトブックをお互いにプレゼントし合う、クラスで記念につくる、後輩たちから先輩に贈る、といったブームを創っていきたいですね。
一方では、過疎で生徒が少な過ぎるため、卒業アルバムが高価でつくれない例も少なくないそうです。そこでフォトブックを利用していただければ、先生と生徒が一緒になって、思い出の写真をひとつひとつ集めながら、まさに手作りの卒業アルバムを簡単に手頃な価格でつくることができます。感謝の言葉もいただき、こうしたところから拡がっていくのかなと感じています。
── フォトブックのよさにいろいろな場面で気付き始めたわけですね。
浜田 われわれは仕組みを用意しただけです。こんなものなら喜んでくれるはずだと商品バリエーションの模索を繰り返す一方で、こんなふうにしたら楽しい、こうすると便利だというのは、お使いになるお客様がつくっていくものだと思います。シャッターを押す時には必ず何か心が動いています。フォトブックのように、それをカタチにするきっかけを提供できれば、私どもはビジネスとして収益をあげることができると考えています。
── 御社の商品戦略の中では、フォトブックとともに、撮影サービスの強化を明言されています。
浜田 フィルム時代の撮影は難易度が高かったですが、デジタル化により、カメラマンの育成も非常に容易です。環境さえ整えば、誰がシャッターを押しても満足度の高い写真が撮れる。あとは、お客様への敷居を下げて、気軽に撮ってもらえるような環境を提供してあげればいい。自分で写真を撮る楽しみだけでなく、自分を写真に撮ってもらうという別の楽しみがあることに気づき、数多くのお客様にご利用いただいています。
特に就職活動の写真などは、昔は、“この人に相違ありません”と判別するためのものでしたが、今は、「相手にできるだけ好印象を与えたい」と、写真の持つ意味が変化してきています。・人柄が好印象に伝わる写真をお撮りします・という我々のアピールに、お客様の反応は大変いいですね。
── こども写真館の「スタジオマリオ」も昨年1年間で約120店出店されたとお聞きしています。
浜田 ニーズがあることはもちろんですが、私どもではカメラ店の中へ集中的に出店していきました。それがよかったようです。
こども写真館を利用するお父さん、お母さんはどんな人なのかというと、子供の成長記録を写真で残すのが好きな方。日頃からたくさん写真を撮っている方が多いことがわかりました。最初は、自分で撮る人には必要ないのではないかと考えていたのですが、反対に、写真に興味のない人、自分でもめったに撮らない人は、わざわざ高いお金をかけてまで写真を撮らないことがわかりました。
常日頃からお子さんの写真をたくさん撮られている方は、撮った写真をプリントされるケースも少なくありませんが、日本で一番多くの写真をプリントさせていただいているのがわれわれキタムラです。私どものお店にプリントにいらっしゃると、店の奥にマリオがある。「来月はお誕生日だから奥で写真を撮ってもらおうか」という自然な流れが生まれるわけです。日常的に足を運んでいる店だから安心して写真の撮影も頼める。写真のことなら全部私どもにお任せください。撮る楽しみも撮ってもらうことも全部やっていますよという店のコンセプトが、お客様に支持されたのだと思います。
インターネットは
“人間力EC”
── 御社ではネット会員の獲得増やプリントのインターネットからの注文増に力を入れていらっしゃいますが、ビジネスツールとしてのインターネットをどのような捉え方をされていますか。
浜田
インターネットには2つの側面があります。1つは、お客様が写真のプリントを注文するためのツールとしての役割です。現在、プリントの注文と受け取りの内訳は、インターネットで注文してお店に取りに来られるお客様が約15%、インターネットで注文して自宅送付を希望される方が約5%、残りの約80%が店頭にお見えになって注文し、受け取っています。95%の方がお店に足を運ばれており、インターネットで注文を出される方も、都合のいいときに店に寄って受け取る方法に利便性を感じていらっしゃるようです。
インターネット注文が全体の2割ほどですが、思ったほど伸長せず、足踏み状態にあります。要因はITの“進化”です。ウィンドウズやインターネットエクスプローラーがバージョンアップするのに伴い、「これまで注文できていたのにできなくなった」といったケースが多く見受けられます。進化していく外部環境に対し、注文ソフトのシステムを追いつかせるのに大変苦労しています。この課題がもう少し整備されていくといいですね。
── インターネット環境の高度化がハードルになるとは皮肉ですね。
浜田 インターネットのもうひとつの側面は“人間力EC”、すなわち、販売員のツールとしてのEコマースです。私どもは小さな店が多く、たくさんの在庫を置いたり、十分な品揃えをすることはできません。そのため昔から、カタログを広げてお客様と商品選びをすることがよくありますが、Eコマースをそのカタログ代わりに、店舗を補完するツールとして活用しようというわけです。
在庫の量と店舗の面積という制約がなくなり、10坪足らずの店舗でも、お客様が数多くの商品の中からぴったりの商品を選ぶことが可能になります。その場ですぐに商品をお渡しすることはできませんが、届いた商品が思っていたものと違っていたときにも、リアル店舗ですから、「店長さん、これちょっと欲しかったものと違うよ」と、もう一度別のものを取り寄せてもらうこともできます。これがインターネットで購入して自宅に届くケースなら、返品はどうすればいいのだろうと大変ですよね。
インターネットが普及し始めたときに、「クリック&モルタル」という言葉をよく耳にしましたが、リアル店舗とネットの融合という理想をどこも具現化できていません。私どもは今、それを成功させることができるもっとも近いところにいます。最大の武器は、お客様との接点になる店舗が全国に大小取り混ぜて1000以上あるということ。そして、そこにはお客様の話に親身に相談に乗れる9000人の従業員が働いているということです。
4月7日からは「カメラのキタムラ TVショッピング」の放送も開始しました。新聞購読も減少し、チラシを見られる方も減っています。お客様へメッセージを伝える手段が手薄になってくる中で、私どものお客様のひとつの核であるシニア層はインターネットを利用されている方も多くありません。そこへ情報発信するためのひとつの手段として考えています。
他のテレビ通販との大きな違いは、ここでも商品を店舗で受け取れることです。店舗なら代金決済の面倒くささもない。商品を選ぶのはテレビ。商品を受け取り、代金を払い、使い方を説明してもらうのはお店というわけです。
── 進化するデジタル時代のお客様の困りごと解決に、身近なカメラ店の必要度はますます高まっていくのではないでしょうか
浜田 写真が技術革新で大きく変化する中でも、お客様はデジタル化による楽しさ、便利さを十分に享受できずに困っていらっしゃいます。お客様が素直に喜べるようになるお手伝いができれば、「カメラ店は要らない」などということには決してなりません。写真はうれしいこと、楽しいことを思い出に残すときに撮るものです。その写真をもっと楽しむために、「キタムラに行けばなんとかなる」「写真のことならキタムラにいけば大丈夫」とお客様にまず一番に思っていただける店にしていきたいと思います。