勝村治司氏

基本に忠実にやっていくことが重要
お店様と一体で動き、市場活性を図る
エソテリック(株)
代表取締役社長
勝村治司氏
Haruji Katsumura

ここまでの厳しい経済環境の中で、少しずつ商品が動き出した。ピュアオーディオをけん引するのは30万円クラスの逸品。昨年来ここに意欲的な新製品を投入しているエソテリック。USBを搭載するなど新トレンドにも対応する同社の躍進が目を引く。昨年現職に就任された勝村社長に、あらためてその戦略と意気込みを聞く。

 

配信コンテンツを新たなソースとして
前向きな取り組みで活性化したい

野球で培った経験を活かし
正攻法の取り組みを実践する

── 勝村社長には、ご就任以来初めてご登場いただきました。まずご経歴をお聞かせください。

勝村 私は1973年にティアックに入社しましたが、実は当時あったノンプロの野球部に誘われたのです。午前中工場の仕事に従事して、午後から野球の練習を土日もなくやっていました。入社してすぐ入った合宿所で先輩の部屋にオープンリールのデッキがあって、窓越しに揺れるカーテンの影から非常に幻想的で格好よく見えるわけです。それを「いいなぁ、いずれ自分の部屋にも持てたらな」と思ったのが、音楽に興味をもつひとつのきっかけになりました。

1年ほど後にオイルショックで野球部が解散となってしまいましたが、私はそのまま会社に残ることを希望し、神田の営業所に配属されることになりました。最初はAVといっても、正直何をやっているのかわからないという状態でしたが、1年ほどで秋葉原の担当になり8年ほど従事させていただき、そこで商売のノウハウをいろいろと教わったという思いです。

そこから国内のAVにずっと携わってきて、90年に名古屋営業所の所長に、94年に東京営業所の所長になり、2000年に国内営業の部長になりました。そして04年にエソテリックカンパニーの役員となって、09年の6月に現職となったわけです。器用にいろいろできるタイプではないのでまじめにこつこつとやってきたつもりですが、おかげさまで行く先々の営業所でもそれなりの実績をあげることができました。正攻法で取り組んでいくということを、今でも実践しております。

── 勝村社長は基本に忠実で、昔から急がばまわれということを相当厳しくおっしゃってきたそうですね。営業現場でも常に正攻法で、原理原則、ルールを守るということを徹底してきたと聞いています。

勝村 野球の世界でも、一流選手になる人は本当に努力をしています。またどんなに素質があっても、いいかげんでいると結局伸びないのです。すべてを懸けるという意志とエネルギーで努力し、それを成し遂げた人が開花する。どこの世界でも、そういうものではないでしょうか。

新市場を拓く
強力製品群を投入

── 昨年御社は、TANNOYのDefinitionやESOTERICのZ(ハイエンドエレガンス)シリーズなど多くの新製品を投入されました。手応えはいかがですか。

勝村 昨年度を振り返ると10月からじわじわとモノが動き出したものの、12月は思ったほど伸びませんでした。しかし1月からはあまり落ちることもなく、3月には高級機も動きました。そんな中で30万円から50万円クラスの新製品がおかげさまで順調に動いてくれ、久しぶりにほっとしているという状況です。4月もいい数字でスタートました。

タンノイは、昨年6月に出したDefinitionがおかげさまでひとつの柱となりましたが、既存のPRESTIGEシリーズにとって代わるのではなく、両方が動く、相乗効果のかたちとなりました。そしてエソテリックでは、これまでなかった30万円台のクラスとして昨年10月から「ハイエンドエレガンスシリーズ」を投入し、ご好評をいただきました。あとはこれをいかに継続していくかです。

ハイエンドオーディオはこだわりの商品であり、趣味の世界をめざすニッチなマーケットです。ユーザー層も比較的安定していますが、構成する層が団塊世代中心で、若い方が入って来ていないということが課題だと思います。ユーザーニーズにまだまだ市場が応えられていないと認識しているのですが、昨今PCオーディオ、音楽配信といわれるものが出てきました。それをオーディオ活性のひとつのきっかけにしていきたいと考えます。

── D-07や、Zシリーズに搭載されたUSB端子など、御社はPCオーディオに対して積極的に取り組んでおられると感じます。

勝村 私は音源、ソフトということを重視しています。CDのパッケージメディアにない音源がPCを通じて入手できるのであれば、新たな楽しみが広がります。どんな音源も否定せず、いい音で聴いていただけることに取り組むのがメーカーの使命と考えます。パッケージメディアも配信コンテンツもそれぞれ質の違うものですから、そのよさを活かしていかなくては。ただ音質以前に手軽であるという商品もすでにたくさん存在していますが、我々はそこに参入するつもりはありません。あくまでもエソテリックらしい商品づくりにじっくりと取り組んでいきます。

PCオーディオや音楽配信、そしてレコードやCDといった音源をうまくトータルコーディネートして、それぞれのよさを我々メーカーは追及していくことが大事です。新しい音源を否定することなく前向きに取り組み、それをひとつのきっかけにして趣味のオーディオの世界へお客様を呼び込むことができれば好ましいことだと思います。

── 今後のモデルにもPCオーディオの要素が期待できるのですね。

勝村そうです。ソフトあってのハードですから、いろいろなソフトがあればあるほど、我々もいろいろな引き出しができるわけです。そして、ティアックグループという視点で考えたとき、グループ内にパソコン関連、そしてティアック、タスカムという音楽関連の事業部もあって、グループ内の技術的な交流も含めて強みがたくさんあるわけです。そのシナジー効果を我々がいかにいいかたちで出していけるかということです。

ティアックにはティアックのポリシーとビジョンがあり、タスカムにも、エソテリックにもそれは同様にあるのです。それを大事にしながらシナジー効果を出すことが重要であり、「ワン・ティアック」というスローガンのもとで、どう市場にアピールしていくかが問われます。特にエソテリックの場合、グループ内の役割として、高いブランドイメージをいかに維持していけるかが求められています。我々ならではの特長ある商品をいかに出していくか。そこで我々は、世界の逸品と称される製品をつくっていくということぜひ目標にしたいと思っています。

当社の開発陣は非常に若く、情熱もバイタリティもあります。世界の逸品と称されるものをつくるのはいかに大変かということを、日ごろから私もうるさく言っています。音質がいいのは当たり前、製品としてのクオリティをいかによくしていけるか、実際に使ってみてよかったと思っていただけるか。そういうものをつくっていかなくてはなりません。今回そうした考えで新たな製品を出しましたが、やはりそれだけのものを短期間でつくるということは大変なこと。あらためて開発陣の実力のほどを感じます。昔からメカのティアックと言われ、オープンリールのデッキから始まった録音再生技術の伝統が染み込んでいて、ものづくりに対する高い情熱があったからだと思います。

ティアックグループはコンピューターから音楽関連まで様々な事業部があり、高い技術力をもっていますから、そういった意味での外からの期待も大きいのです。プレッシャーに負けないよう、しっかりといいものをつくっていかなくてはなりません。グループトータルでいかにシナジー効果を出していくか、我々もそこに応えるべく、エソテリックの役割をまっとうできればと思います。グループの技術を活用し、できることを精一杯、着実にやっていきます。

さらなる新製品群で
ラインナップ構築へ

勝村治司氏── これからの新製品もますます楽しみです。

勝村 デジタルプレーヤーにおいては完全にラインが揃いました。あとはすべてのソースにいかに対応できるかということを踏まえ、ブラッシュアップしていければと思います。エソテリックではスーパーハイエンドからミドルまでの価格帯でラインも揃いました。そして薄型のZシリーズも高い評価をいただいています。このシリーズも継続をしたからこそですが、昨年挑戦した一体型ミュージックシステムのインテグレーテッドSACDシステムプレーヤーRZ-1も非常に好評です。「マスターテープで出会った音の感動を余すことなく伝えたい」。この理念を目指した「マスターサウンドワークス」構想に基づくアンプと共に2本柱をつくり、順調に推移しています。

この3月に高音質録音のスタジオに当社のパワーアンプが導入されたのですが、そこに至るまでに音質チェックなどで1年ほど時間がかかりました。業務用ではいかにミュージシャンが出したい音を引き出せるかということが求められ、大変勉強になりましたが、これがようやく完了して業務用としても高い評価をいただくことができ、我々の自信にもつながりました。我々はメカのティアックということで、当社が開発したVRDSメカを世界のハイエンドメーカー6社9モデルにOEM供給しています。それは今後も伸ばしていきたいですし、アンプ、プレーヤーともどもエソテリックの核として構築できればと思います。さらに、海外でも3現法23代理店と契約しておりまして、ようやくそれがきれいに整ったところです。各地にエソテリックの専任をおいて、これからますます充実させていきたいと考えます。

タンノイはイギリスで80年以上も歴史をもつ名門のスピーカーブランドです。デュアルコンセントリックというユニットで非常に定位がよく聴きやすいスピーカーであり、リーズナブルなものからスーパーハイエンドまで展開しております。当社も40年以上代理店業務をしておりますが、今回PRESTIGEシリーズに加えてモダンなタイプのDefinitionシリーズが非常に高く評価されました。年内にはスーパーハイエンドのKINGDOM ROYALの投入を予定しており、さらにリーズナブルなモデルもいくつか出て参ります。エソテリックも合わせてトータルでお客様にアピールしていきたいと考えます。

もうひとつ、アバンギャルドというドイツのスピーカーを扱っていますが、これはダイナミックでスケールの大きい音、アバンギャルドでなければ出ない音が特長ですから、熱狂的なファンの方が多く、短期間で日本にも定着しました。ジェネレーション2という新製品が1月と、3月にはフラグシップを含む3システム7モデルが出たことで、ほぼラインナップが揃いました。今年はこれを積極的に展開し、タンノイとはまた違った魅力をアピールしていきます。

── 昨今のオーディオ市場をどうご覧になりますか。

勝村 底は打ったとみています。今後はPCオーディオなど新しいものが加わり、ピュアオーディオが活性化するきっかけとなってくれることを期待しています。趣味のオーディオですから、体感していただくことは重要であり、そういう努力を業界挙げてやっていかなくてはなりません。それが潜在需要の掘り起こしにもなりますし、それなくしてはオーディオ市場の拡大はないものと考えます。

SACDもCDもアナログも、そしてPCオーディオも、聴いていただいて感じるものがあれば、他には替えがたい感動があると思います。ソフトあってのハードであり、音楽をみつめていくと、やるべきことがたくさんあるのです。そういう意味で当社ではソフト制作も手がけており、デッカとグラモフォンの「名盤復刻シリーズ」としてSACDソフトを発売しておりますが、おかげさまで大変好評です。昨年、「ニーベルングの指輪」を限定1000セット、5万8000円の価格で発売しましたところ、想像以上の売れ行きで完売となりました。内容はもとより音質でも音楽ファン、オーディオファンのこだわりにお応えできたかと思っています。

オーディオのよさをわかっていただくには、まず感じていただくことしか方法はありません。基本に忠実にやっていくことが重要であり、業界としてメーカー、お店様と一体となって動いていくこと。そしてグループ内のブランド維持につとめていき、成果をあげていきたいと思います。できないことをやるのでなく、できることを着実にやり、逸品と言われる製品をつくっていく。そうすれば自然とマーケットも安定し、継続していくのではないでしょうか。

PCオーディオにも期待
体感で市場を拡げていく

── 販売店むけのプロモーションはどのように展開されていますか。

勝村 研修会や勉強会を通じて商品の詳細や我々のポリシーをご説明し、共感をもって一緒になって取り組んでいただいているという状況です。今までも積極的に行っており、特に専門店様については事前に意見交換をさせていただいて、市場の動向やご要望といったものを含め、コミュニケーションをとることを重視しています。これも新製品に限らず、いつも継続してやっていくということが大事ですね。お客様には商品を触って、聴いていただけるよう、お店様と我々と一体になって動いていきたいと思います。

ピュアオーディオの見通しは、決して暗くありません。我々自身がそういうことをしっかりと認識しているということが肝心だと思います。日頃の体験活動、イベントや試聴会を忠実にやっていくということでマーケットを確立していきたいと思います。PCのデータ系のソースは未知数な部分が多いですが、可能性もまたたくさんもっていると思います。これまでPCで音楽を楽しんで来られた方が、もっといい音をと求められたとき、我々はそれに応えられるブランドでありたいと思います。そのためにも体感していただくことは非常に重要なのです。

── 御社の動向には、今後ますます注目されます。

勝村 この2年ほど、当社ではラインナップを充実させるべく商品を投入してきました。世の中の経済状況も悪化し苦労もしましたけれど、お店様とのコミュニケーションを密にしながら市場ニーズを的確に捉え、商品系列を充実させてきたことが、ようやくここにきていい形で花開いたと思います。今後それをさらに加速して、エソテリックの役割をきちんと果たしていくつもりです。

シナジー効果も大切ですが、それぞれのブランドがポリシーとビジョンを明確にもつことはもっと大事です。それを守っていかないと結局シナジー効果も生まれませんから。ポリシーとビジョンを後回しにしたモノづくりではいいものは生まれません。せっかく20数年続いたESOTERICブランドですから、ここから50年、100年と続いてもらいたい。それを原点として、今後も意欲的に取り組んで参りたいと思います。

◆PROFILE◆

勝村治司氏 Haruji Katsumura
1951年2月3日生まれ、東京出身。73年ティアック(株)入社。90年名古屋営業所長、94年東京営業所長に就任。2000年国内営業部長に就任。04年エソテリック(株)取締役に就任、10年 同 代表取締役社長に就任、現在に至る。

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