山田達二氏

さまざまな工夫で新価値を創造し
営業政策の強化でチャンスを広げる
シャープ(株)国内営業本部 副本部長
兼 シャープエレクトロニクスマーケティング(株)取締役社長
山田達二氏
Tatsuji Yamada

LED、クアトロンと液晶テレビアクオスで様々な新価値を創造し続けるシャープ。エコポイント終了に伴うテレビ需要増大のタイミングが目前に迫る中、その混乱をどう乗り切り新しい価値を訴求し続けていくのか。さらに地デジ完全移行後の展開は。シャープエレクトロニクスマーケティングの新社長である山田氏に聞く。

 

試行錯誤を繰り返し商品を立ち上げる
この積み重ねこそがシャープの強み

初めてのお客様も納得する
ストーリー性のある売り場を

── これからテレビ市場は様々な転機を迎えます。まず昨今の状況をお聞かせください。

山田 直近の大きな問題として、単価ダウンがあります。昨今の店頭では、3Dの話題性に伴い、3D対応テレビをメインとした展示が目立ってきていますが、実はそれが単価ダウンの要因の一つとなったのではと思っています。

7月5日からアナログ放送時に画面に上下の黒帯が入るレターボックス画面が採用されました。私どもでは店頭応援のセールスがお買い上げのお客様に直接尋ねているのですが、デジタルテレビを初めて買ったというお客様が7月5日以降に約1割以上増え、テレビの実売状況も1割以上上がっています。

7月5日以降に店頭に来られた半数以上のお客様は、デジタルテレビを初めて購入される方と考えられ、そういうお客様は32インチ5万9800円といったような低価格の商品を買いに来られます。その際3D対応テレビをメインにした展示だと、「わぁ凄い、でもうちには早すぎるね」と早々に大画面テレビを諦め、32インチのコーナーに行ってしまわれ、単価ダウンのまま終わってしまいます。

3D対応テレビというのは、いきなりメインに展示しなくても、お客様は必ず興味を持っていただけます。メインの売り場では、LED搭載テレビを全面展開することを再度ご提案したいと思っています。LED搭載テレビは当社のアクオスが昨年から大々的に展開させていただきましたが、今年は各メーカーとも商品化しています。省エネ性、応答速度の速さ、美しい映像といったメリットを見せ、普通のデジタルテレビを買いに来られたお客様に、今の主力はLED搭載テレビということを訴求する。それが単価アップにつながる店頭展開だと思います。

シャープでは、さらにそこから4原色技術である「クアトロン」へとつなげる訴求ができますし、他メーカー様も、LEDを搭載した特長商品があります。その上で3D対応テレビは、LED搭載テレビのラインナップの中でも高付加価値商品の位置付けで展開していきます。そういうストーリー性のある売り場ならば単価アップもできますし、買い替えに来られたお客様に対しても今のテレビはこんなに良くなったとアピールすることができます。

しかし、そういったストーリー性をもった売り場が作れていない現状が、単価ダウンのひとつの要因になったと思っています。これから年末に向け、ぜひそういう売り場をご販売店様と一緒につくらせていただきたいと思います。

── 3月にはエコポイントの移行で店頭が混乱しましたが、エコポイントが終わる12月末にも同様の状況が予測されます。御社の対応策をお聞かせください。

山田 テレビは最後にもっと安くなるのではないかとお客様が思われている中、前倒し需要を喚起するには、今買い替えていただくことでどれだけお客様にメリットがあるかを訴えていく必要があります。また3月は、エコポイント駆け込み需要で最終的に配送が混み合い、持ち帰りしたお客様も多く、アンテナや分配の確認に関して、スムーズな対応ができずに苦労しました。特に初めてのお客様は、アンテナの問題にしっかり対応し、必ずデジタルでの分配のところまで踏み込んで対応していく必要があります。

前倒し需要というのは、前へ倒して買いに来ていただくだけではなく、そういう様々な課題を解決していく必要があると思うのです。それを8月頃からご販売店様とお話をさせていただき、お盆の後から年末までを一つの商戦期間という認識で、いつ何をしなくてはならないか、どういう準備が必要かという取り組み計画を一緒にご検討させていただき前倒し需要を取りにいきたいと思います。

年末の時点では十分な接客が難しいかもしれませんが、前倒しにより「接客の貯金」はできるはずです。お客様は一度来られただけでテレビをお買い上げになることはなく、1〜2ヵ月前から下見を始めて情報収集されます。つまり9月、10月、11月に接客の貯金をきちんとしておけば、お客様は12月に買いに来られるということです。そしてお客様が下見に来られた際、しっかりと理解していただける売り場をつくっておくことが、年末の対応をよりスムーズに展開していくために必要となります。

地デジが初めてのお客様は、おそらく価格の安いモデルに集中するでしょう。非常に付加価値の高いクアトロンは、以前ならメーカーのシナリオ通りに売れたと思いますが、お客様の層が変わってきている年末までの間、全てのお客様に、クアトロンの本当の価値をご理解いただき買っていただけるのだろうかという懸念もあります。現実をきちんと見つめ、LEDの価値を十分訴求し、ご理解いただいた上で、クアトロンや3D対応テレビの付加価値の部分を打ち出して、単価アップにつなげていくストーリーを作る必要があります。

またLED搭載テレビはシャープだけでやりたいところですが、それではお客様の目線に合わせられないでしょう。他メーカー様の商品とともに、シャープのLEDとクアトロン搭載テレビのラインナップを充実させ、売り場においてもいい場所を、営業の力で取りにいきたいと思います。

小型需要、録画機需要
現場をよく見て答えを探す

小谷 進氏── 小型サイズや録画機能内蔵タイプも有効な商材になってくると思われます。

山田 今そこが一番読みにくいのです。直近のデータで、32インチ以下の構成比が上がって来ているのは間違いありません。2台目需要が来ているということもありますが、もしかしたらより低価格なものに対する需要が大きいのかもしれません。2台目、3台目需要は2通りの売り方があると思われます。早期に32インチのデジタルテレビを50万〜60万円で買われたお客様の買い替えで、そのテレビを寝室に置いてリビングは40インチ以上にという売り方か、それとも、寝室なら26インチの小型サイズがお薦めですという売り方です。

全てのご販売店様にインチアップの訴求をしていただければインチ構成は変わりますが、やはり年末に向けては間違いなく32インチ以下の構成比は上がっていくでしょう。19、20、22、26、32インチとある中、どこに集中していくのかは予測が難しいところです。来年7月の完全地デジ移行まで、テレビ販売は非常に予測の立てにくい状況が続きます。地デジ推進の方策が来年1月には第四段階となり、レターボックスにアナログ放送終了を知らせる文面が常時入ってくるようになりますと、エコポイントが終了し需要の落ち込みが予測される時期であっても、我々が予測しなかったようなお客様の動きがあるかもしれません。誰も経験していない需要を読み、経験していない予測をして販売政策を打ち出していくには、お客様の動きを現場できめ細かく把握して、できるだけスピードを上げて対応していくしか解決策はないと思います。

── テレビに加え、録画機のデジタル化もこれからです。

山田 未だに数千万台のアナログビデオがお客様のところにあると推定されます。来年6月末でアナログ放送の通常番組が終了しますが、そこで録画ができなくなるお客様が多く出れば、非常に大きな問題になることが考えられます。これまで流通様にも様々なご提案をして、地デジ対応の録画機の売り上げ数字は上がって来ましたが、録画機の地デジ移行の問題は、最後まで残ってしまうと考えられます。来年7月24日でテレビの移行は終わると思われますが、録画機の需要はそれ以降も数ヵ月は続くと見ています。

地デジ移行後をどうするか
新たな工夫でパイを広げる

── 地デジ化の需要が終った後の対策についてはいかがですか。

山田 テレビはもともと年間九百数十万台という需要でした。昨年が千五百数十万台で、今年千八百数十万台以上と見られていますが、これまで約1400〜500万台の前倒し需要があったと考えられ、地デジ完全移行後の需要は750万台くらいに落ち込むのではないかという予測もあります。

しかし早期に薄型テレビを買われたお客様がたくさんいらっしゃいます。当時の薄型テレビと今の薄型テレビは基本性能が全く違っていますから、新製品が、お客様に与えるメリットを確実に伝える工夫をしていければ、お客様に新たな価値をご提案でき、販売に繋げていくことができます。

また今はテレビに関連するところに変化が見受けられます。例えば、今後、A4サイズの電子ブックを使ってテレビ番組を視聴する可能性も出てくるでしょう。これから、テレビを取り巻く環境は急激に変化していきます。そこをよくウォッチして商品企画をしていければ、テレビというジャンルにとどまらず色々な可能性が拡がっていくでしょう。

── 御社にはテレビやAVのみならず、白ものもあれば太陽光システムもあります。テレビの数字がなくなるのであれば、そちらで補完するという考え方もあります。

山田 もちろんそれも重要ですが、シャープの場合はテレビ事業のパイが大きいため、テレビ事業そのものを、さらに活性化していく工夫と取り組みが重要となってくるでしょう。また、太陽光についてはシャープアメニティという会社が展開していますが、私どもシャープエレクトロニクスマーケティングでも、販路である一般の電気店様などでビジネスを展開することも今後考えられます。LED電球は現在、量販店様を中心に取り扱いさせていただいておりますが、実際はホームセンターやコンビニなどでも売られており、シャープはまだその一部を展開しているに過ぎません。営業的に考えれば、まだ取り組めていない政策がたくさんあります。そこを強化していくことによってビジネスチャンスは、さらに広げていけると思っています。

── 御社は垂直統合型で技術も自社でもち、さまざまな強い商品を展開されています。

山田 プラズマクラスターもアクオスも一気に立ち上がったように見えるかもしれませんが、実際はそう簡単ではありません。現在に至るまでには、試行錯誤を繰り返し、4年も5年もかかったのです。アクオスは店頭でどんなソフトを再生し、お客様にどんなトークをしたか、売れた際の事例を翌週には全国で一斉に試してみるということを積み重ねました。新しい商品はそうしてやっと立ち上がります。この積み重ねがシャープのDNAであり、強みだと思います。商品を立ち上げてきたことで流通様にも信頼され、我々の提案を聞いていただきやすいという関係になっているのではと思います。

スチームオーブンレンジのヘルシオという商品を立ち上げる時、レンジが9800円という時代に10万円のものを売るということで我々営業マンは本当に苦労したのですが、おかげさまで軌道に乗せることができました。あるメーカー様の商品ご担当の方から「シャープが必死になってやっていることが伝わったから、2年、3年かかっても立ち上がるだろうと思っていた」とおっしゃっていただき、非常に嬉しかったことを今でも憶えています。商品を立ち上げるとは、そういう苦労と挑戦の積み重ねだと私は思っています。

当社でもアクオスが完全にブランドになってから入社した社員が増えてきました。そういう社員に我々が経験してきたDNAをどうやって伝えていくかが、これから企業が生き残っていく上での重要な課題になっていくと思います。積み重ねてきたものを我々の強みとして、これからもまい進して参ります。

◆PROFILE◆

山田達二氏 Tatsuji Yamada
1976年シャープ(株)入社。01年10月シャープエレクトロニクスマーケティング(株)取締役 北海道統轄営業部長に就任。07年4月 同常務取締役、09年6月 同専務取締役を経て、10年4月に現職に就任。

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