巻頭言 映画「ふたたび」考 和田光征 俳優の財津一郎さんとのお付き合いも20年近くになる。昨年あたりから「ふたたび」の映画のお話をよくお聞きした。塩屋俊監督の熱意に打たれて主役を引き受けられた話、また役づくりの苦労話等々。 財津さん演じる貴島健三郎は若い頃ジャズメンで、憧れの神戸のジャズクラブ「ソネ」に出演が決まってバンドメンバー全員が希望に燃えて練習する矢先、指先が動かなくなる。検査の結果ハンセン病と分かり、ソネへの出演も夢と消えたが、メンバー達はいつか必ずソネでやろうと約束をして散り散りになっていく。 そして50年の歳月が流れ、健三郎は息子に引き取られることとなり、隔離されていた島から家族のもとに帰ってくる。健三郎は孫の大翔とともにかつてのメンバーを尋ね歩き、全員と再会する。メンバー役の犬塚弘さん、佐川満男さん、藤村俊二さんらによる再会のシーンが感動的で、また微笑ましい。とりわけ犬塚さんが押し入れの奥からベースを持ち出し突然引き出したときの音が迫力満点、財津さんもプロの音に大感激だったとのこと。 そしてソネのオーナーとして、私も親しくお付き合いいただいているナベサダこと渡辺貞夫さんも出演されている。それまで財津さんと渡辺さんとの接点はなかったそうだ。過日、私が大箱根カントリーを設定し、財津さん、渡辺さん、そしてピットインミュージック代表取締役の佐藤良武さんとでゴルフを楽しんだ。プレー中、プレー後、お2人の間では映画や音楽をはじめ諸々の話の花がいっぱいに咲いていた。 私にとってはお2人とも親しい間柄なだけに、この出会いを“世紀の”奇遇と感じたのだった。財津さんも、映画の中に渡辺さんの演奏があったことで音楽が活き活きと決まったと話され、やはりプロ中のプロは凄いね、と言葉に力をこめた。財津さんからお聞きした、1年以上に亘るトランペットの猛特訓の話には、鬼気迫るものがあった。指が固まった状態で演奏するので、拳と掌が大変だったようだ。財津さんは「渡辺さんには色々と指導頂き教えていただきました。感謝です」と、渡辺さんは「財津さんの音楽センスにびっくりした」とそれぞれ語っておられた。 若かりし頃に健三郎の恋人だったピアニストは子どもを宿すが、健三郎が隔離されたことで、実家で座敷牢に隔離され、産んだ子どもを抱かせてもらえないままあの世へと旅立ってしまう。また健三郎も50年間隔離されていたわけで、子どもを抱くことも顔を見ることもなかった。只々はるかな小島で写真をみて、心に思い描くのみである。 健三郎は陣内孝則さん演じる一人息子、良雄に「抱かせてくれないか」と言う。ウン、と言って良雄は父の胸に抱かれ、その肩越しに号泣する。財津さんは「陣内君は本気で泣いていたよ。嗚咽が全身に伝わってきたもの」と感動を実演も交えて語っていただいた。 まさに50年ぶりの我が子との抱擁だったのだ。50年の隔離生活を送り続けられたのも、家族の絆、メンバーとの約束と絆があってこそだった。そしてラストは良雄がソネにメンバーを集めて父親を驚かせ、渡辺さんも加わっての迫力のライブである。 「お孫さん役の鈴木亮平さんは素晴らしかったですね」と私が申し上げると、「彼はこれから楽しみだよ」と目を細めた。そして健三郎の恋人役のピアニストと、ハンセン病の療養所の職員と二役をこなしたMINJIさん、その天使のような歌声を「光っていましたね」とやさしく微笑みながら語った財津さんであった。 |