- 音楽の楽しみ方が多様化している今
いい音も手軽さも追求しなくては
- (株)ディーアンドエムホールディングス
- 執行役員 プレジデント アジア・パシフィック セールス&マーケティング
- キム テイホウ氏
Tae Ho Kim
昨年11月にディーアンドエムホールディングスのアジア・パシフィック
セールス&マーケティング プレジデントに就任したキム テイホウ氏をお迎えする。100周年を迎えたデノン、そしてマランツの2大ブランドを軸にさまざまなお客様のニーズに応えていく、同社の方向性とは。
ブランドの違い、商品の違いが
伝わりやすい店頭づくりを目指す
複数ブランドでの効率化進む
さらに明確な差別化へ
── まずはご経歴をお聞かせください。
キム 大学卒業後、米系金融サービス会社に勤め、日本の自動車向け音響部品メーカーや金型・FA部品商社を経て現在に至っています。この10年は経営を学ぶことを最優先し、業界や商材には全くこだわりませんでした。前職では、経営書も書いておられる三枝匡さんが社長になられたばかりの時期にお声掛けいただき、セオリーと実戦の両面で大変勉強になりました。勉強とは言ってもかなりハードな環境で、「三枝道場」では毎日のように「けが人」が出ていましたが(笑)、おかげで経営の厳しさも体感できました。
10年間修行した成果を今度は自分の思い入れがある業界で貢献したく、D&Mにお世話になることになりました。入社後、約一年になりますが、小さいころから憧れだったデノン、マランツ、マッキントッシュなどの商品を扱う立場になり、大変うれしく思っています。
── D&Mの印象はいかがでしたか。
キム 当初、私はデノンとマランツが同じ会社であることを知りませんでした。他にも民生用や業務用のさまざまなブランドを傘下に置いていますが、これだけのブランドを集め、どのような方法で会社を運営しているのか興味深く思っていました。
デノンもマランツもそれぞれのブランドフィロソフィーがあり、社員一人一人が自分の担っているブランドに対して強烈な誇りとロイヤリティーを持っています。一方、複数ブランドの相乗効果はまだ一部にしか出ていません。見方を変えれば、それだけ改善できるテーマが多く残っていることになるので、どこまでやれるか楽しみです。
── 生産などバックヤードの体制を整えつつフロントでブランドの差別化を行うという戦略に、御社は早くから取り組まれていました。
キム 小さい会社にとっては、手が出なかった研究開発なども資金や人材、技術面において可能になる。また、手の届かなかった国や地域の販売も促進できる。大きい方からみれば、これまで着目して来なかった分野を取り入れることができ、規模の原理をさらに追及する、などの利点があります。部品の共通化や生産性の向上など、すでに製造コストや効率は良くなっており、今後さらに向上する計画です。新商品導入のタイム・トゥー・マーケットも早まりました。今後はブランド毎に、音質や機能性、デザインといったフロント側ももっと差別化していきたいですね。
違いや良さが一目で伝わる
明快な売り場づくりを目指す
── デノンとマランツはそれぞれ確たる個性をもっており、違いは周知だと思います。今後どのように追求していくのでしょうか。
キム デノンもマランツも長い間お客様にご愛用いただいてきましたが、多くの若い方や女性にとっては遠い存在であるブランドのようです。憧れ、と言えば聞こえがいいのですが、単純に知らないお客様も多いことが各国の調査で分かりました。
そこでお客様がマランツブランドのエントリーモデルから親しみ、買い替え時もマランツにしたい、と思っていただくためのラインナップをどのように増やしていくか、デノンブランドと併存しながら、違いも打ち出しながら…とかなり難易度の高い課題ですが、取り組み続けなければなりません。ブランドポジショニングは、製品もさることながらマーケティングが要となります。今までチャネルよりだったマーケティング活動を、もっと顧客よりにシフトし、コンテンツやメディアも見直していきます。
── 団塊の世代などがかつてシステムステレオ、特にミニコンポの大ヒットを支えましたが、彼らは今カメラなど他の分野へ流れていますね。40代にさしかかる団塊ジュニア層のマーケットも1600万〜1700万人いますが、特にホームシアターに関心がある。さらにその子ども達が中学、高校生になってまさに入門層に当たります。彼らは音楽配信を主として音楽に接しておりますが、ここにデノンらしいシステムが必要ですね。
今ポイントになるのはネットワークで、配信コンテンツを手軽に享受でき、iPod、ウォークマンに対応するシステムが重要です。そして薄型テレビまわり。今年は薄型テレビの出荷台数が9月時点ですでに1400万台を超えており、エコポイントの終了を控えてさらにヒートアップしています。若い人たちが大画面テレビを手に入れ易い環境ができましたから、そこにシアターシステムが提案できます。
キム 今年の秋にマランツ新商品の一つとしてネットワークプレーヤーを発売しました。中価格帯に設定したせいもあったのでしょうか、滑り出しはかなり好調です。しかし、iPodやウォークマン対応商品はかなり遅れています。このカテゴリーはすごい勢いで成長していますが当然競争も激しく、我々がどのように展開するべきか思案中です。音楽を「聴く」から「楽しむ」に世の中が変わったわけですから、商品も売り方も変わらなければなりません。
ホームシアターに関しては、流通も含めた業界全体でのカテゴリー認知に向けた努力が必要ではないでしょうか。DVDやBDプレーヤーからテレビを通じて繰り出される音とは比較にならない臨場感をいまだ体感されていない方がたくさんおられる。あるいは、ご存じでも、シアターシステムやAVアンプは場所をとる、セッティングが分かりにくい、などのマイナス要因が働き、なかなかご購入いただけていない。
そのようなお客様のご不満を解決し、誰にでも使いやすい商品を提供していかなければならないと痛感しています。ただ、商品においての改善では不十分で、売り場での「体感」訴求の工夫も不可欠です。
こだわりも気軽さも大事に
幅広いニーズにお応えする
── 最初に本格的に大画面テレビが売れ出したのが2003年〜2005年頃、当時はプラズマテレビが50インチで百数十万円というような値段でしたから、富裕層が買っています。今彼らが買い替えで50インチ以上を求めていますが、初代のテレビを想定して余った予算で2台目を買ったり、シアターシステムを買ったりするわけです。
しかしいずれにせよ、シアターシステムではスピーカーが林立する状態は嫌われますね。そしてフロントスピーカーはサラウンドだけでなく、2チャンネルとしてオーディオの音をちゃんと再生してくれるようなものが求められます。音楽を聴きたいという要求は非常に高い。ただ薄型テレビを買うだけでなく、そこからもっと楽しみたいという欲求は若い人ほどあるようです。そこにシアターシステムがはまります。
これからエコポイント制度が終わり、さらに地デジに完全移行する2011年7月24日以降、テレビ販売はどうなってしまうのだという思いが業界全体にあります。そこではやはり、ホームシアターを仕掛けていかなくてはなりません。さらにはネットオーディオですね。ここを充実させようという傾向は、メーカーにも流通にもあります。現状を変えていかないとこのままでは危険であり、これをトレンドにしていくためには、クオリティだけでなくデザイン的要素も重要なのです。
キム 薄型テレビに関しては、失礼な言い方かも知れませんが、すでにコモディティ商品になりかけているのかもしれません。世界的には、価格優位性がブランド力を上回ってきているサイズや価格帯が見受けられます。音響の世界でも、気をつけないと一部の商品カテゴリーが丸ごとコモディティ化してしまう危険性があります。
中国市場においてのホームシアターなどは良い例でしょう。流通の激しい価格競争に現地ローコストメーカーの参入も加わり、市場が十分発展する前に成熟期に入ろうとしています。そうならないためにも、商品の真価が売り場できちんと伝わるよう、メーカーが流通にもっと伝わりやすい情報提供や後方支援をする必要があるし、おっしゃるとおり、デザイン面でも明確な差別化が求められます。
それに、前述したとおり、満たされていないユーザーニーズもまだまだある。初めて大画面テレビを買われた方が「これなら試してみよう」と感じていただけるデザインや、使いやすさを取り入れることができればホームシアターはもっと伸びるでしょうね。リモコンの操作性やスピーカーのワイヤレス化など、やれることはたくさんあります。
音一筋のDNAを活かし
あらゆる角度に展開する
── D&Mらしいいい音をつくっていくというスタンス、それは単コンであってもiPodまわりのものであっても同様ですね。そして店は自分のところに来られるお客様に合う商品を選べばいいということです。メーカーはいい音、使いやすいものを哲学をもって追及し、それを営々とやられることが強さです。デノンブランドの100周年というのは、まさにそういうことですね。
キム 当社は「音」一筋。それが我々のDNAです。そのDNAを一緒に育ててくださった専門店の皆様からデノンやマランツはハイファイで勝負してほしい、といった声を良く聞きます。ただ、若い方や女性の方にも良い音をお届けしたい。そのためにも、手頃で使いやすい商品をもっと開発し、あらゆる角度から「良音の世界」を堪能していただきたい。
今年はデノン生誕100周年の年ですが、伝統を大切にしながらも過去におごらず、これからも一層お客様に評価していただけるブランドを作り上げていくつもりです。
── 私は2011年から2013年までを「黄金の3年間」と考えています。リーマン・ショックの余波を今年度一杯で整理して、次の3年間はチャレンジの期間、新たなスタートを切るときです。今後のご活躍もますます期待しております。