- 市場活性化への新しい流れを引き寄せる
WIN-WINのビジネスを創造する
- オンキヨー(株)
- 代表取締役副社長
- 中野 宏氏
Hiroshi Nakano
グループ組織を再編し、新たなスタートを切ったオンキヨー。スピード感を増す市場環境に対し、機動力に富んだ事業が展開できる体制を整え、積極的な商品提案で存在感を見せつけていく構えだ。テレビ特需後の大きなテーマとして期待を集めるホームシアターへも、需要創造への並々ならぬ決意と意欲をのぞかせた。
ホームシアターという付加価値で
店頭でも売上げを伸長できる
スピーディーな決断でる
タイムリーに商品提供
── 2010年12月1日付けでグループ組織を再編されました。その狙いについて、お聞きしていきたいと思います。
中野 今回の分社化では、私どもではホールディングスと言う言葉は使わず、オンキヨー株式会社を親会社として、その下に、AV事業をオンキヨーサウンド&ビジョン(以下、OSV)、パソコン事業をオンキヨーデジタルソリューションズ(以下、ODS)、OEM事業をオンキヨーディベロップメント&マニュファクチャリング(以下、ODM)?と、3つの根幹事業の統括会社を?持株会社体制のもとで設立しました。さらに国内にも新たにAVとPC事業の販社としてオンキヨーマーケティングジャパン(以下、OMJ)を新設し、それぞれに責任を明確化しました。
── オンキヨー株式会社に同居していたものを、それぞれの事業別に切り出されたというカタチですね。
中野 今は、よりスピーディーな決断が求められています。また、協業や技術提携においても、従来のオンキヨーという枠組みではあまりにも大き過ぎます。子会社であれば、さらに細分化したところでの技術提携など、いろいろな協業や提携が組みやすくなると思います。
── 例えばオーディオとPCでは、これから商品企画の上で融合が必要になってくる部分も増えてくると思いますが、新しい組織では、こうした点についてどのような形で対応されていくのですか。
中野 今回の組織変更では、開発センターとデザインセンターは本社の機構の中に持たせました。すなわち、ODSの技術的なものをOSVに持ち込むとか、また、その反対の場合などには、本社の開発センターがコーディネート役を担います。迅速に市場に応える商品を出していくことが今回の組織変更の大きな目的のひとつですからね。
デザインについても、デザインセンターにはオーディオのデザインをする部門も、PCのデザインをする部門もありますが、それを各カンパニーの中に置いてしまうと、「オンキヨー」というトータルイメージから外れたものになってしまう危険があります。従いまして、OSV、ODSの両社については、商品の企画から設計、製造、供給がメインのカンパニーとなります。商品企画については、新しくできたOMJからの市場レポートが各カンパニーに提出されるスタイルになっています。
── 市場環境はめまぐるしく変化していますが、今回のグループ再編においてはそれぞれどのようなテーマをお持ちですか。
中野 OSVでは、ワールドワイドでのオーディオ、ホームシアターにおいてどこへ力を入れていくのか。それぞれの国や地域で今後何が伸びていくのか。商品企画を含めたサーベイをしながら、小回りを効かしたディシジョンを早急に下していきます。
オンキヨーというと、これまでどちらかといえばホームシアターのイメージが強く、ハイファイ・オーディオの商品をきちんと出しきれていなかったことがひとつの反省材料として挙げられます。国内もマーケットがなくなってしまったわけではない。根強い支持がある欧州や中国、アジア市場を含め、改めて力を入れていきたいと思います。フラグシップのアンプやプレーヤーも出していきたいと考えています。
── 日本の中高級オーディオ市場のポテンシャルについては率直にどのような見解をお持ちですか。
中野 トライアングルで言えば中抜け状態=Bしかし、そこにお客様がまったくいなくなってしまったのかと言えば、そうではないと思います。ただ、ある程度の資金に余裕がある方となると、若い層ではなく、少なくとも過去にいい音を経験した40代より上のお客様ではないでしょうか。
── 商品の選択肢がなくなってしまったのは大きな痛手ですね。しかし、40代のお客様の手に渡すことができれば、その子供たちへとつながっていく。そうでないと流れが途絶えてしまいます。
中野 何より悲しいのは、今の若い人たちに、携帯やパソコンでダウンロードした物凄い圧縮のかかった音がオーディオの音だと思われてしまうことです。ご両親が聴いているハイファイの音を家で聴くことで、「これは全然違うよ」とわかってもらえると本当にうれしいですね。
── 一方、いち早く提案されたシアターラックもここまで普及してきましたが、大画面テレビの音をどうするかというのは今年、業界をあげての大きなテーマになりますね。
中野 シアターラックを含めたホームシアターをどのように広めていくのかですね。
シアターラックは2.1chが主流になりますが、お客様もご年配の方になりますと、5.1chや7.1chということへの興味よりも、その扱いやすさが何より魅力だと思います。テレビの音よりはいい音ですし、サラウンドも後ろから音が聞こえてくるような感じがするだけで、十分満足されるのではないでしょうか。
その一方で、ブルーレイで映画を存分に楽しみたいとか、50V型の大画面でスポーツ番組を満喫したいというお客様にとっては2.1chでは物足りない。5.1chや7.1chのソフトや放送もどんどん増えてくるわけですから、家でも映画館のような雰囲気や臨場感を味わいたいお客様は増えてくると思います。
疑似的なホームシアターと本格的なホームシアターとに、お客様は二分されていくと思います。私どもとしては、本格的なホームシアターを楽しむお客様に対し、十分な満足が得られる商品を提供していくことが王道だと思います。ハウジングの事情で機器を置く場所がない、大きな音で聴けないという方も大勢いらっしゃいますが、そういうお客様のためには、簡易型のホームシアターも供給していく必要があると思います。
シアターラックにとどまることなく、サウンドバーを含め、ホームシアター的な要素が楽しめる新商品を積極的に投入していきたいと思います。
── 業界としても課題として認識しながら、なかなか大きな市場にできずにここまで来ました。今回の「サウンド&ビジョン」という社名には、御社のそうした意思も明確に表されているように感じますね。
中野 テレビの薄型化がさらに進んだことで、テレビの音はますます貧弱になってきています。デジタル放送の5.1chやハイビジョンの映画を満足できる音だとは思えません。エコポイントと地デジ化後のビジネス展開において、次のステップはやはり「音」。ホームシアターという付加価値で、店頭でも売上げを伸ばしていっていただけると思います。
見極めが大事になる
PC事業との融合
── これまで御社の事業計画では、AVC事業とOEM事業の二本柱で組み立てていく方針が示されていましたが、今回はPC事業も独立したかたちでODSとして再編されました。
中野 オーディオとPC部門を一緒にした方がいいのではないかという見方もあると思います。しかし、現実的にPCは、ビジネス用でもあり、また、iPadのような世界になると、エンドコンシューマーに対するサービス供給の面が強くなります。音楽の配信やサービス、ソフトの部分では確かにオーディオとPCは一緒になってきていますが、ハードをつくる上ではまだ、オーディオファンとPCファンとは完全にジョイントできていない別の要素であると捉えています。
ですから、開発や設計はいまのところはまだ分けておいた方がいいと判断しました。ただし、配信などのソフト面では、PCの技術要素を取り込んでいかなければいけない。例えば、私どものAVセンターは現在、音楽も映像もネットで採り入れられる機能を備えています。今後、PC部門を軽視するわけにはいかないというのがわれわれの立ち位置です。
── 音を中心にした差別化戦略には変わりありませんか。
中野 その姿勢は基本的には変わりません。当社で販売しているPCには、品質の高い独自のスピーカーシステムを搭載するなど、音についての優位性を示していきたいと思います。
── 今回、別の事業体とされたOMJについては、これまでの本体の中にあったときとは違った部分が出てくるのでしょうか。
中野 オーディオを売る営業部門とPCを売る営業部門を一度、一緒にしましたが、バイヤーや売り場も違うものですから、結局、元のスタイルに戻した経緯があります。今回も、ご販売店に対する部分には変わりはなく、主に、バックボーンの業務の合理化、効率化とご理解いただければと思います。
もうひとつのODMについては、メインのスピーカーユニットの供給に加え、次のステップとしてはエレクトロニクスについても、「オンキヨーブランドでないものを生産して欲しい」という要望があれば、積極的に受注していきたいと思います。スピーカーのユニットだけに捕らわれることなく、ビジネス形態を拡げていければと考えています。私どもはエレクトロニクスの部分でもそうしたノウハウがあり、オンキヨーオンリーで門戸を閉ざすつもりはありません。
── 商品もいろいろなものが融合し、一方では、お客様の価値観やライフスタイルも多様化しています。お客様にとって何が一番いい商品なのか。御社では新しい組織のもと、前向きに進んでいかれるということですね。
中野 厳しい環境の中で、メーカーと販売店がお互いにWIN-WINのビジネスをどう展開していくかがこれからの重要なテーマになると思います。お互いにもっと腹を割って話しをすることができる環境づくりも必要になってくるのではないでしょうか。メーカーはお店が売りやすい商品づくりをする。店頭ではメーカーの考えるような売り方を採用していただく。お互いに提案し、相手の意見を採り入れながら、一つのやり方に固執せずに、幅を広げていくことが大切ではないかと思います。われわれも、取り上げていただけるようないろいろな提案を行っていきたいと思います。