揚 伯裕氏

ひとつひとつの積み重ねとしての点が
振り返った時に、一本の太い実線を描く
(株)スタート・ラボ
代表取締役社長
揚 伯裕氏
Hakuyu Yoh

「日本製」を武器に獲得した消費者からの絶大な信頼感を背景に、記録メディア市場における差別化戦略を展開してきたザッツ。市場を取り巻く環境が刻々と変化していく中で、次なるビジョンをどこへ見定めているのか。新社長に就任した揚氏に、アーカイブビジネスに立ち向かう同社の取り組みを聞いた。

 

プレッシャーがない人なんていない
自分の中でいかに昇華していくかです

5つの「C」で
イニシアチブを発揮

── 社長にご就任されての抱負をお聞かせください。

 成長戦略のベースに、3つキーワードを掲げました。ひとつめは「成長」。販売の数字はもちろん、社員全体の人間的な成長を含めた色々な意味での成長を図っていきます。2つ目は「効率」です。自分のやり方というのはなかなか変えたくないものですよね。しかし、違った角度から見てみると、もう少し効率のいい経営や業務のやり方が見えてくると思います。それを、一人ひとりが強く意識してやっていくこと。3つ目は「チームスピリット」。さらに次のステップへ成長を目指していくには、一体感がないとできない。非常にいい例が、先日のサッカーアジアカップの日本代表チーム。あれこそまさにチーム力ではないでしょうか。

もうひとつ、行動の指針としてまとめたのが「C5イニシアチブ」です。1つめの「C」は「Challenge」。とにかく前を向いて、チャレンジする精神だけは失わないこと。失敗しても、そこから得るものが必ずある。それを次に生かしていけばいい。2つ目は「Commitment」。コミットすることは誰でもいやがります。しかし、コミットがないとレビューはできません。自分自身を鼓舞する上からも必要だと考えています。コミットした後に出てくるのが「Consensus」です。スタート・ラボという会社がどういう方向へ向かっていくのか。そこでは、ソニーと太陽誘電という両親に対して、同時に社内的にもコンセンサスを得ることが絶対条件になります。そして「Creativity」。創造性を持ち、他とは何か違うことをやる意識は欠かせません。他人と同じことをやっていたのでは、他人と同じ結果しか得られませんからね。

最後のCは「Communication」です。コミュニケーションがしっかりとれていないと、こうしたことはどれひとつとってもできません。しっかりとしたコミュニケーションの中で、コミットがあり、コンセンサスを得て、われわれスタート・ラボと言う会社の方向性をはっきりとさせ、クリエイティブに、チャレンジすることで、前へ進むことができるのだと私は考えています。

さらに「バリューチェーン」と呼んでいるのですが、社員一人ひとりが各々のバリューを発揮し、それがひとつに集結し、チームになったときに、もっともっとやれることが出てくる。そう、社員に訴えているところです。

── 2つの異なる企業文化を持つ両親(ソニーと太陽誘電)の下での舵取りには、海外でのご経験も長く、色々な会社で文化の違う人と仕事をされてきたご経歴が大きな武器になるのではないでしょうか。

 一番大事なのは、コミュニケーションをより深掘りして、お互いが、相手の意図する方向性をしっかりと理解することです。その上で、それぞれのバリューをいかにつなぎあわせていくか。それが我々の会社の使命だと考えています。

スタート・ラボは、中島平太郎さん(1993年CD開発の功績により紫綬褒章を受賞)が光ディスクへの情熱で創りあげた会社です。創立15周年の記念式典には、両親会社のトップが参列されたことからも、両社のこの会社にかける意気込みを察していただけるのではないでしょうか。こういう経緯もきちんと理解しておかなければなりません。

強みは抜群の信頼感
課題は伝達の仕方

── 映像やデータを記録するものとしてHDD、さらにはクラウドも台頭しようとしていますが、光記録メディア市場の現状をどのように捉えていらっしゃいますか。

 光ディスクの技術力はあり、業界としてはまだまだ成長していく。今後、それをどういう方向へ伸ばしていくのか。本当にお客様の求めるものを、技術面から提供を可能にしていけるのかだと思います。

民生でも長期に保存できる、クオリティの高いメディアを求めていらっしゃる方は数多くいらっしゃいます。また、放送業界にとっては、アーカイブ・ソリューションは永遠のテーマです。しかし、なかなかそこにソリューションがないのが実態なのです。ドライブやレコーダーなどハードとも一体となった、光記録メディアをひとつのアーカイブのソリューションとしていく動きが、技術的な面からももっと力強くアピールしていきたいと思いますし、そうなり得るものであると信じています。

── とりわけ民生用では、安い、便利だけでなく、それぞれの特性やメリットをもっときちんと理解していただきたいですね。

 われわれを含めたメーカーや販売する側のメッセージの出し方が十分ではないとの反省はあります。将来へ記録を残していく大切な使命を担っているわけですからね。しかも、アーカイブというのはありがたい話で、貯められる一方です。メディアの消費量が増える。そこへ光記録メディアで、新たなビジネスを創造していきたいですね。

── 民生も短中期的に見れば確かに価格志向の厳しいビジネスですが、決してそうではないですね。デジタルカメラの撮影データのアーカイブなど、大きなマーケットが実は眠っている。

 まだまだ大きなビジネスがあると感じています。

── 光記録メディアトータルでの成長と同時に、そこでの御社の強み、他社に対する差別化ポイントについてはどのようにお考えですか。

 太陽誘電の神崎社長から「何か知恵を出して頑張って欲しい」とメッセージをいただきました。価格の低下や市場のシュリンクといった市場環境は否定できません。しかし、万策尽きたわけではない。そこで求められるのが、知恵やクリエイティビティです。

就任早々、1月には福島にある「ザッツ福島」の工場へ行ってきました。「つくる」ところから「売る」ところまでが一体となってやっていかないと、競争には勝てませんからね。冬に寒いところへはあまり行きたがらないものですが、「冬に来るのは真の友」と言いますからね(笑)。ここで先日、役員会も行いました。

メディア工場はいくつか見ていますが、実際に工場を見させていただいて、無人化された製造工程、徹底された品質管理とバックアップ体制は目からうろこでした。ザッツブランドの光記録メディアは元来、クオリティの評価が大変高い。しかし、実際に自分の目で見て改めて、それが大きな自信となりました。

販売力はワールドワイドで見ても、国内で見ても、大手メーカーとはかける人員も違えば、チャネル力も違うわけですから、同じことをやっていてはむずかしい。しかし、クオリティの差異化はできている。であれば、われわれがその強みをどう活かせるかです。

── ものづくりではまさに最高峰にある。それをどうビジブルにわかっていただけるかですね。

 とりわけデータ系の市場では圧倒的に強い。実際に高いシェアもいただいています。例えば、「DVD-R for master」などは、スタジオ用などのプロの世界では圧倒的な支持をいただいています。ある大学では、各ブランドのDVD-Rを比較検証した結果、高価な商品にも関わらず、「DVD-R for master」が一番いいということで、ご使用いただいています。こうした、ザッツブランドに寄せられた抜群の信頼感という事実を、映像用においても、もっと横展開していかなければならないと思います。

また、社内の女性陣の声に耳を傾けると、「女性企画の女性目線のメディアがない」という指摘ももらいました。パッケージひとつとっても、確かにそうかもしれません。独自のオンラインショップもあるのですから、そこでマーケット調査をしてみるとか、何かつくって出してみて、反響を見てよければといった遊び心がもっとあっていいと思います。失うものは何もないわけですから。

バリューをどのようなメッセージで伝えていけるか。「あっ、やっぱりザッツを買ってよかった」「次もザッツにしよう」。お客様のこの言葉がすべてです。リピーターのないビジネスは厳しいですね。

── 昨年はエコポイントと地デジ化でテレビが活況でしたが、今年は録画機の地デジ化が引き続き大きなテーマになります。メディアもBDを中心に一層の活性化が期待される中で、御社はLTHに特化して展開されていますが、LTHゆえのジレンマ等はおありですか。

 ドライブ、レコーダーメーカーとのコミュニケーションをしっかりと図っていくこと。そして、ザッツブランドのLTHの販売量を上げていくことで、業界内でのLTHの存在感をしっかり高めていきたいと思います。全てのメディアとドライブのコンパチビリティがとれていないと、最終的に不便をかけてしまうのはお客様ですから、それは、業界として絶対にないようにしていかないといけない。ハードとソフトの双方がマーケットにソリューションを出していくことが我々メーカーの義務だと思います。その上で各々がどう特徴を打ち出し、伸ばしていくかだと思います。

飛躍を掴むために
今こそ「原点回帰」

揚 伯裕氏── 御社の来期の事業戦略のテーマについてお聞かせください。

 「原点回帰」です。いま、厳しい事業環境であることは間違いありませんが、だからこそ、ここでわれわれのバリューを出していく。そのためにももう一度初心に戻り、われわれの持っている強みと弱みをきちんと理解し、情報を共有していくことが大切です。

苦しいからと立ち止まってしまったら、そこからやり直すには数倍の労力が必要になります。ここしばらくが頑張りどころですよ。そして、次のビジョンに向けた議論も、今、まさにやっていかないと間に合わなくなってしまいます。我々はマーケットをクリエイトしていかなければならないのです。

私に課せられたミッションのひとつは、今あるベースの上に、経営効率をさらに高めた健全なスタート・ラボをつくりあげることです。いろいろな角度から変革をしていかないとそうした改革はできない。自分の中でも、時系列にやることとタイミングを決めながら、社内でも十分に理解をしていただいた上で、ソニーと太陽誘電に対するコミットを毎年行っていきます。

マジックなどありませんから、ひとつひとつの積み重ねです。そして、ふと振り返ったときに、過去の活動ひとつひとつの点が、一本の線、それも太い実線になっているような活動をしていかなければなりません。点が点のままでは事業は続いていかないですし、何をやってきたのかの意味もなくなってしまいますからね。

ビジネスはゲームだと思います。大いにエンジョイしたいですね。プレッシャーがない人なんていないわけですから、自分の中でいかに昇華していくかですよ。ゲーム感覚を仲間と一緒にいい意味で楽しむことです。

私がよく部下から相談されたときに言うのは「向き不向きより前向き」という言葉です。エクスキューズを考える暇があったら、1枚でも多く売ることを考えようということです。
うるさい会社にしたいと思います。「なんか、最近、スタート・ラボはうるさいな、元気があるな」と。カラ元気でもいいですから、とにかく元気にやれる会社にしていければと思っています。

◆PROFILE◆

揚 伯裕氏 Hakuyu Yoh
1958年生まれ、東京都出身。81年ソニー(株)入社。ソニーマグネプロダクツ(仙台工場)で一年間研修の後、磁気製品事業本部に配属され、磁気製品、記録メディア関連製品のセールス、マーケティングに携わる。その後、ソニーオーストラリア(90?93年)、ソニーカナダ(96?98年)に赴任。07年ソニーエレクトロニクス アジア・パシフィック(シンガポール)で記録メディア、バッテリー、Felicaビジネスの統括職を歴任。2011年1月(株)スタート・ラボ代表取締役社長に就任。趣味はスポーツ全般。サッカー歴は46年。現在も暁星高校サッカー部OB会、アストラ倶楽部で活動中。

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