- デジタルカメラを人生の伴侶に
そんな考え方で楽しみを拡げる
- ジェネラル・イメージング・ジャパン(株)
- 代表取締役社長
- 小宮 弘氏
Hiroshi Komiya
お客様一人ひとりに価値ある
商品を提案することが使命
デジカメで生涯を心豊かに
「生涯映育」を推進する
── デジタルカメラグランプリ2012で、御社の商品が高く評価されております。受賞のご感想をお聞かせください。
小宮 ありがとうございます。特に「PJ1」の3期連続の金賞受賞には感激しております。私どもは価値の創造、価値の実現に主眼を置いて参りましたが、これをご評価いただけ、今後の商品企画に際しても大きな励みになります。
さらに4期連続で頂戴しました企画賞は、私どもの誇りです。以前から新化、進化、深化、真化、信化という5つの「シンカ」を標榜していますが、ここに私は「心化」も付け加えさせていただきました。今回「映育」を「生涯映育」として、シンカをご評価いただけたというのは最高の栄誉です。大変ありがたく、今後はこれを企画の段階からどう現実のものにしてお客様お一人ひとりにアプローチしていくか、大きな課題をいただいたと思っております。
── デジタルカメラが一人ひとりの生活に深く関わり、心豊かにしていく「映育」という考え方を、御社ではずっと標榜してこられました。今回特別賞を受賞された「生涯映育」についてあらためてご説明ください。
小宮 私自身、これまで「10倍速」と申し上げ、通常の10倍のスピードで成し遂げるべく目標を定めて参りました。私は50歳の時、75歳までの25年間を4倍速で過ごす「100年計画」を打ち立てましたが、来年初の70歳から80歳までの10年であらためて10倍速で100年間≠過ごさせていただきます。「生涯映育」はそういう「10倍速」の考え方。0歳から100歳までの間で「千年の映育」と言うことです。
例えば人生でもっとも記念すべき生誕日に、両親が「映育」のカメラを買って、それが2年間本人の記録を残していくのです。10倍速では、子どもは満2歳で20歳≠フ成人≠ナす。その頃からカメラを手にすることができますから、本当のデジタルカメラをもって成人≠ェスタートします。
2歳の成人式≠フ日、カメラが両親からいよいよ本人に渡されます。成人≠キるとは人に成るということですから、そこからカメラと共に歩む人生が始まり、カメラを通じて現実を直視し、真実を見出し、真理を探究するのです。そうして、一生の1000年間≠ノ自分で自分を育んでいくという豊かな発想が生まれます。また100年間≠フ区切りとなる10年毎には一つの区切りをつけ、完全にリセットし、新たなチャレンジをしていけます。
世の中はアナログからデジタルの時代へ移り変わっており、情報の伝播が格段に速くなっています。20歳でトップにいるゴルファーの石川遼選手や、囲碁や将棋界の若き天才棋士たちは、20歳で200年間<gップの実力を持ちます。この方たちは師匠をもたず自分で学び、先人の知恵をつけて第一人者になっています。100年かけて地道に山を登って行くというアナログ時代が、一瞬一瞬を大事に自分の人生をまさに10倍生きていくことができます。私どももそんな考え方で、デジタルカメラを通じて皆様の生き様に少しでも寄与することができたらと思うのです。
2歳の子どもが撮った写真は立ち位置や目線がまったく違いますから、プロカメラマンよりも個性的な作品かもしれません。年配になって視力が衰えたとしても、「心眼」で目に見えないものまで捉えることができるかもしれません。それらをまた、親と子、3代、4代の世代を超えてコミュニケートできます。単なる情報交換でなく、心の会話まで含めたコミュニケーションを、デジタルカメラの映像を通して行えるのではと思います。
そういう「生涯映育」を会社の基本的なドメインとし、私どもの責務としたいと考えます。単にカメラを売ることではなく、どれくらいお一人ひとりの生活に寄与できるか。それを実現する手段として、カメラがこれだけ価値あるものだという認識を、今回の受賞を通じて再確認できたと思います。そしていよいよ来年、これに基づいた商品開発を本格的に行って参ります。
さらにここからいかにワンツースリーと「シンカ」していけるか。ぜひとも、次のグランプリでも企画賞をいただけるよう頑張って参ります。
── 御社の考え方は、業界にとっても心のよりどころとなりますね。
小宮 例えばバナナが1本6円、パンが1個60円、ケーキが1個600円とすると、パンやケーキの価格的な価値はバナナの10倍、100倍と高いですが、栄養価で考えるとバナナが一番高いかもしれません。かつてお見舞品になるほど高級だったバナナがなぜ1本6円で買えるのか、それは当たり前のことではなく、我々はそこに100倍の感謝をしなくてはならないかもしれません。
一方で日本では、どんな価格、どんな価値のものも自由に選択することができます。良いものは高い、という概念が浸透し、どんなに高くても、いや高いからこそ是が非でもすぐに手に入れたいムードがありました。しかし、良いものを吟味し、さらにリーズナブルな価格で買うということが主流の時代になってきたように思います。次々と新商品を出していくことがお一人ひとりにとって果たして真の価値の創造実現になるでしょうか。
私たちはまず、自分たちの豊かさに対して感謝の気持ちを持つことが大事です。衣類も一万円、千円、場合によっては100円台で売っています。しかしその価値は、買う人間が判断するもの。一万円払っても欲しいというのは、買う人の価値基準で、いつでもどれでも選ぶことができます。それだけ恵まれた状況でありながら、私たちにはそこに対する感謝が欠けていたのではと思います。
日本はかつて原爆の被害を受け、戦後の焼け野原になって、世界1ともいえる非常な努力でみごとな復興、成長を果たしてきた50年間がありました。正にやり抜いて来た時代でした。その後の繁栄成熟の中で、私たちは他人に、あるいは他国に「やってあげている」という目線になってしまっていたのではないでしょうか。私は常々、誇りがあっという間に驕りに変わってしまい、それに自分だけが気がつかないことが多々あります。私たち日本人も知らない間にそうなってしまった面があったかもしれません。
しかし東日本大震災で日本人の価値観は一変し、何もない中でのおにぎり1個のありがたさを再認識しました。震災によって、「させていただく」という時代に変わってきたと思います。被災地のボランティアの方は、行ってやるではなく、行かせていただくという気持ちで行動されている方が大半だと思います。謙虚な気持ち、感謝の気持ちを持つ、いや持たせていただく時代に変わりつつあるかという気がします。
私どもでも先日、岩手県の公立釜石小学校に行って当社のカメラを100台ほど寄贈させていただきましたが、たくさんの生徒さんに喜んでいただくことができました。同時にそこでたくさんの写真を撮り、インスピレーションを文章にしたものとともにまとめて「光ということ、」という作品をつくりました。
震災から7ヵ月が経過して復興作業が進められている中、印象に残るものを写真に収めたのです。津波ですべて流されたあと、たまたま飛んできたコスモスの種子が芽生えて花々を咲かせているところ、たった一本の木だけが残って凛と立っているところ、そうした自然の凄さも目の当たりにしました。
写真は光を捉えますが、それは人間の心の光でもあるでしょう。こうしたものをまとめた作品で、私どもの思いや考え方を表現しましたが、こういうことも大事な生き方のひとつかと思います。また「生涯映育」の考え方につながるものでもあります。これを釜石発の映育として一所懸命発信する。それが、生涯を一生懸命に生きることにつながるかと考え、小さなところから一つ一つ始めていくことにも意義があると思います。
お客様一人一人が
喜びを感じる商品を
── 日本の自然の力、そして日本人の底力が、写真を通じて表現されますね。
小宮 東日本大震災では、地震があり、津波があり、原発事故がありました。ここで日本は大きな打撃を受けて従来の価値観が変わりつつあるように感じますが、あらためて原点に戻り、人間として生きる意味は何かということを身につまされて考える機会を得たように思います。原発事故で日本人は被害者であると同時に、世界各国に対して加害者になり得ます。そんな状況で我々は世界に対して何ができるのかを、考えなくてはならないのではと思います。
現実を直視して真実を見出し、真実を探求する意味で、デジタルカメラほどそれに相応しいツールはないのではないでしょうか。それも2歳の子どもから真物として扱えます。
また、感謝の気持ちがバリュー・フォー・マネーにつながると思うのです。良いものを高く売って企業を支えるという発想ではありません。デジタルカメラは10万円の商品もあれば、1万円以下の商品もある。2歳から本物のカメラを使い、小学校に入ったらもっと自分に合ったカメラに買い替える。年齢や経験などその時々に合った商品を提供していくことで、カメラは一家に1台から無限に広がります。そして子ども達は時代の流れを先取りするような形で学習し、自分を育てていくのです。
今までの制度に捉われず、自分で自分を育てていくという時代、デジタルカメラをそれに見合う生涯映育商品と考えると、どんなものが必要かが見えて来ます。単に機能を充実させ、デザインを整え、他社のカメラとの性能や価格競争をエスカレートさせても、その商品が一人一人の力量ややりたいことに沿えるとは限らず、それだけが本当の価値ではないかもしれません。しかも高い値段で売り、すぐ価格を下げることを続けていては、デジタルカメラはすぐピークを越えた商品になってしまいます。
私どもの会社は何のためにあるか。私たちはお一人ひとりに本当に価値あるものを持ち続けていただくことが何よりも大切だと思っております。グランプリではその根底のところをご評価いただいていると感じ、本当に嬉しい思いです。
── 商品がなければ市場は生まれませんから、市場創造、市場拡大ということを考える時、商品そのものを評価するのは非常に大事なことです。しかし評価の物差しは必ずしもひとつではなく、クオリティというのもひとつの軸であり、使い勝手といった別の視点での物差しも必要になります。市場創造、拡大という見地からそういういろいろな角度での評価が行われているのがこのグランプリであり、審査会ではそういう評価がなされているのです。
小宮 私たちが日本市場に参入して3年ですが、やはり石の上にも3年とはよくいったもので、世界で最も厳しい日本でやらせていただけるというのもありがたいことですし、大切な信用を得てきたと思っております。常に真物をやり続けて、日本市場の皆様に受け入れていただき、6つの「シンカ」が実現しつつあるように実感させていただいております。
最初のワンツースリーの第一ステージが終わって、いよいよ第二ステージです。「シンカ」はこれからどう商品や企画の中に生かしていくか、またそれによってご販売店様や、我々よりたくさんの経営資源をお持ちの他メーカー様がこんな風に価値訴求をやっていきたいと思っていただけるように頑張りたいと思います。もう何台売ってどうだというような価値ではありません。お客様一人一人がデジタルカメラを通じて生きる喜びを感じていただけるような商品を出していかないと、過当競争、機能競争といった外側の要素で市場は終わってしまうように思います。
デジタルカメラは皆様にとって、道具というより伴侶と私は表現しますが、そういう商品をどんどん出していければ楽しみはより深いところへいくのではないかと思います。お一人ひとりの生活の中にも「心のシンカ」を加えた6つの「シンカ」をしていく世界が一杯あると思います。
これからも「生涯映育」を「シンカ」推進することによってお一人ひとりの心豊かな生活づくりに資していきたいと念じています。