大角正明氏

ブレイクスルーの実現に欠かせない
美しさを求める映像技術へのこだわり
(株)東芝
執行役上席常務
デジタルプロダクツ&サービス社 社長
大角正明氏
Masaaki Oosumi

今、市場を突き動かすために、お客様に新たな感動や驚きを提供する商品・サービスを提案することが必要になる。その課題に対し、攻めの商品展開で市場を鼓舞するのが東芝だ。「レグザワールド」の商品群もいよいよ姿を現した。市場からの大きな注目と期待に、どのように応えていくのか。同社2012年の市場創造戦略とその意気込みを、大角正明氏に聞く。

 

自分にとって価値の高い商品を
納得して購入できる環境が必要

現状打破へ牽引力発揮
強力!“レグザワールド

── アナログ停波後、市場環境が大きく変化しています。

大角 エコポイント制度や地デジ化の反動による映像系の落ち込みはある程度予想できましたが、エアコンや冷蔵庫などの白物も、対前年比6割程度で推移する厳しい状況となっています。メーカーとご販売店様とが協力して店頭をつくり込み、今一度、お客様を呼び込んでいく必要があります。市場には今、変化が求められています。

── そこへ御社では、4K2Kのレグザ、タイムシフトマシン機能を搭載したレグザサーバー、さらにレグザタブレットと、この年末にレグザワールドを一気に充実されました。まさに、売り場を大きく進化させていく商品であり、店頭からの情報発信が大変重要になってきます。

大角 09年末に圧倒的な高画質を実現したセルレグザを市場投入し、大きな注目をいただきました。東芝では、映像技術を活かしたより美しい映像を実現し、常に世に問うていきたいと考えています。2011年末には「55X3」として、これまでの2K1Kの世界から大きく一歩踏み込んだ4K2Kの未来映像をお届けします。同時に、この4K2Kを活かしたグラスレス3Dの提案も大きな特長のひとつになります。

3Dについては、飛びだし感≠ナは確かに、現時点ではメガネ有りのものには敵いません。しかし、店頭でパッとご覧いただく分にはその方が効果的ですが、ご家庭でじっくりと3D映像のコンテンツを楽しむときには、必ずしも飛び出し感だけではないはずです。コンテンツを堪能できるナチュラルな奥行き感を、是非、店頭でご確認いただきたいと思います。

── スマホとともに成長株として期待を集めるのがタブレットです。店頭ではまだ、PCの買い替えの選択肢の一つにとどまっており、もどかしさも感じます。

大角 現在、ご家庭のリビングルームには大画面テレビがあり、さらにお子さんの部屋や寝室に2台目、3台目のテレビがあります。タブレットの画面は10インチとまだ小さいですが、反対に、自由に持ち運べるメリットがあり、本当の意味でのパーソナルテレビ≠ノなると思います。iPadのような打ち出し方ももちろんありますが、東芝ではレグザタブレット≠ニ称しているように、レグザのテレビやBDレコーダーと連携できる商品として差異化、差別化を図ります。

圧倒的にキレイな映像は、見ていただければ一目瞭然で、「東芝がタブレットをつくるとこういう商品ができるのか」と実感いただけるはずです。最薄・最軽量の特長をはじめ、映像をいろいろなシーンで存分に楽しんでいただくことができます。

今後の国内市場における映像事業を考えた場合にも、パーソナル化にどのように対応していくかが、市場創出の鍵を握ります。タブレットも、ディスプレイのサイズや多様化するニーズへの対応、そして、これからますます構成比が高まる高齢層の方にとって使いやすい商品とはどういうものなのかなど、今後、さらに注力していきます。

欲する価値を手にできる
環境づくりが大切な使命

── テレビはもはや、ただ番組を見るだけのものではなく、その意味がどんどん進化していますが、東芝ではテレビの在り方はどのように考えているのでしょう。

大角  例えば、4K2Kでは現在、放送としてのソースは存在しません。しかし、敢えてそこへ商品を出した意味は、我々ハードの側から次の新しいサービスの環境づくりを引っ張っていくのだという意思表示でもあるのです。新しい価値やマーケットを創り上げていくためにはスピード感が欠かせません。状況が整うのを待っているのではなく、今まで以上に積極的に打って出る必要があります。

落ち込んでいる売上げをブレイクスルーするためにも必要なことですし、それがイノベーションであり、進化です。東芝はそれができるポジションにありますし、それくらいやらなければ、東芝のブランド価値はないという決意で臨んでいます。

── その根底にあるのは、美しい映像に対するこだわりですね。

大角 映像商品はこだわりがないといいものはできません。映像技術の蓄積はもちろん必要ですが、そこに、飽くなき映像へのこだわりがあったからこそ、セルレグザを生み出すことができた。そして、そのこだわりの技術はやがて、コストの低減に伴い、よりスタンダードの商品へと搭載され、多くのお客様にご提供できるようになります。映像技術に対するこだわりは我々のコアコンピタンスです。そこを基軸として、これからも魅力ある商品をお届けしていきたい。今後の課題のひとつは、そこをどう利益として結び付けていくかですね。

── テレビはアッセンブル化が進み、単価ダウンが課題として指摘されますが、提案していけることはまだまだありますね。

大角 さきほどパーソナルテレビの話をしましたが、売り場に行くと今、19インチで2万円を切るテレビも珍しくありません。しかし、それでは私たちメーカーもご販売店様も厳しい商売になる。そこにプラスアルファの価値をどうもたらしていくのかを考えると、タブレットのような新しい選択肢が生まれてくるわけです。

日本市場はガラパゴスだと言われますが、グローバルの視点からすれば、1億2000万人の小さなマーケットなのですから、ある意味、ガラパゴスでもいいのではないでしょうか。日本市場とグローバル市場とでは、根本的にスタンスが異なっていて当たり前です。日本のお客様にとっては、店頭で説明を聞き、自分にとって価値の高い商品を納得して購入できることが一番です。企業としてそういう環境づくりを行っていきたいし、また、その思いはご販売店様も同じだと思います。

国内市場では今、テレビメーカーが冬の時代を迎えたことで、各社それぞれの付加価値提案にこれまで以上に力が入ってきました。メーカー各社の商品にも特色が出て、お客様の選択肢も広がってくるはずです。メーカーとしては、多様化することでボリュームは期待しにくくなるわけですから、そこで、商品開発をどのように行っていくかというスキームづくりも、真剣に検討していかなければならないひとつのテーマになります。

大角正明氏レグザサーバーが
新たな文化を創る

── 2012年の事業展開における重点ポイントをお聞かせください。

大角 2012年は、今まで弱かったサービス事業を、グローバル展開でそれぞれの地域に立ち上げていく年になります。ご提案できること、やらなければならないことがまだまだたくさんあり、例えば、東芝ではコンテンツ事業を有していませんが、テレビ事業を水平分業体制の中でシェアを伸ばし、収益を維持してきたように、水平型でも十分に太刀打ちできると考えています。よいパートナーを見つけて、事業を拡大していきます。まだ手つかずの部分ですから、反対に、大きな伸びシロがあると考えています。

商品では、大型テレビで4K2Kを拡大していくこと。同時に、パーソナル需要をきちんと取り込める商品展開の強化です。これからは商品のボーダレス化も加速し、何がテレビで、何がPCで、何がタブレットなのか、境界線はますます曖昧になっていきます。ディスプレイサイズの大きなスマホを含め、いろいろな事業がいろいろな分野に関わってきますが、我々には、26年間にわたりノートPCの、50年間にわたりテレビのそれぞれ主要メーカーをつとめてきた強みがあり、それが間違いなく活かせると確信していますし、大きなチャンスになると思います。

── 2012年の市場創造へ向けての意気込みをお聞かせください。

大角 まずは、売上げを回復基調へ持っていくこと。そのためにも、お客様に店頭へ足を運んでいただかなければなりません。人には本来、消費欲があり、買い物は好きなはずですから、ここにきてのスマホの盛り上がりなども、恰好の起爆剤になるはずです。

映像系の商品で言えば、BDレコーダーが絶好の買い時と言えます。自ら能動的に録画する必要のない「タイムシフトマシン機能」のコンセプトは、1年前にはまだBDレコーダーでは実現できていませんでしたが、今回、「レグザサーバー」として、BDレコーダーの側からも提案を行うことができました。約20万円という高価な商品ですが、大変数多くの予約もいただき、大きな手応えを感じています。

レグザサーバーによるタイムシフトマシン≠フ提案は、どの番組が録りたいから予約するのではなく、何もしなくても保存されている番組の中からどれを選んで見るのか、また、どうやって外へ持ち出すのかというように、テレビの見方そのものを大きく変えるものです。

一度使い始めたユーザーからは、「もう、元には戻れない」といった声もいただいています。タイムシフトマシン≠ェ実現する新しい視聴スタイルが、ひとつの文化になるのではないかと期待しています。そして、それを定着させていくためにも、大きなハードルになる価格については、メーカーの社会的責任として、リーズナブルなところへ引き下げていく努力を行っていきたいと思います。

BDレコーダーはテレビとセットで買われていくことが多い商品のため、テレビのお客様の減少に伴い、売上げへの影響は避けられません。しかし、このような新しい魅力を備え、需要を喚起できる商品として、積極的な買い替えを訴えていきたいと思います。

エコポイント制度でお客様が殺到した売り場とは違い、今は、商品をじっくり選んで説明を受けることのできる時間が十分にあります。来店されたお客様が「この商品、こんなに面白いじゃないか」と感じていただける商品、また、それを伝えることができる、ご販売店様と一緒になっての店頭づくりで、2012年を明るい年にしていきたいと思います。ご期待ください。

◆PROFILE◆

大角正明氏 Masaaki Oosumi
1978年(株)東芝入社。2001年 映像ネットワーク事業部DVD部長、テレビ事業部長、デジタルメディアネットワーク社社長を経て、2010年より執行役上席常務に就任。

back