巻頭言

求められる真のお客様志向

和田光征
WADA KOHSEI

2012年は「ここからはじまる=いつもお客様のそばに」を年間テーマとした。そして、そのことは業界が大きな転換期を迎え、次なるステージに向う胎動を意味する。

CESは話題豊富で盛り上がった。小社が運営するサイト「ファイル・ウェブ」からは3人のスタッフと3人の評論家が現地に入り、克明なレポートを連日発信、アクセス数は鰻登りとなった。その最大の関心事はスマートテレビであり、「スマート」という名を冠した次世代商品群だったと言えよう。

とりわけスマートテレビは主要各社が中心に据えてアピールし大変話題となったが、CES後の国内でも話題集中であり、業界の救世主的存在となっている。同時にスマートはスマートフォンから始まって、スマートハウス、スマートシティ、スマートグリッド等がこれからの業界を主導し、まさに「ここからはじまる」ものとなっている。

「いつもお客様のそばに」。この語句を言いはじめたのはリーマン・ショックによる世界同時不況が起こった時である。ここから起こり得るお客様の志向は、“吟味して買う”ということであり、それはメーカーに対しても、販売店に対しても“吟味”するということである。

業界はその後、地デジに移行ということからエコポイント制度の僥倖で空前のテレビブームが起こり、巨大な売上げを記録してきた。しかしお客様の“吟味する”というスタンスは狂騒の中においても変わらず育まれ、地下水のごとく流れ続け、そして本年を迎えていると言えるだろう。真の「お客様のために」が今、求められているのである。

私はふと、こうしたお客様はスマートテレビをどう捉えているのかと考えてしまう。新しいスーパー高画質でネットワークに対応するまさに革命的商品群であるが、お客様はどう反応し、購入するのだろうか。テレビは、イノベーター層の完全なる取り込みは勿論であるが、何と言っても生活者をどう取り込むかにかかっているのである。4Kは凄いが、スペックの訴求だけでは雪崩を打ってのブーム化は難しいのではと思ってしまう。

そこで思い当たった。お客様の“吟味”は何のためかというと、それによって起こるお客様の満足のためである。スーパー高画質、ネットワーク等々のスペックを見せるだけでは、生活者はお金を払わず傍観してしまうだろう。つまり業界が描く数字とのギャップが起こるということである。

「ここからはじまる」スタンスは商品のスペックではなく、それによって、具体的に今までにないライフスタイルを創り出す“光”である。例えば1000万台市場のデジカメで撮った写真は、携帯電話を含め家にあるカメラの中に撮り貯めされたままになっている。それを4Kテレビに取り込んで見たら、どれほど感動することか。

つまり、抽象的になりやすい字句ではなく、使うことによる満足の事例からスマートテレビを訴求する。その時にブーム化してくるのではないか。お客様が使って大満足という、お客様側の気持ちから逆流させる訴求をしっかりやる。

上から目線でない業界あげてのアプローチこそ、ユーザー志向の極みである。真の「お客様のそばに」が問われる2012年度である。

ENGLISH