桂 幹氏

提案力とグローバル展開を武器に差別化
オーディオ市場での存在感を発揮!
イメーション(株)
常務取締役 コンシューマビジネス統括本部長
桂 幹氏
Miki Katsura

TDKマーケティングを統合し、新生イメーションとしてスタートを切り4年。ヘッドホンとスピーカーを中心に新たな事業の柱に据えた“オーディオ”では「TDK Life on Record」のブランドが着実に存在感を高めつつある。記録メディアで培った提案力とグローバル展開を武器に後発の不利を跳ね返し、2012年は新たなステージへ向けた勝負の年と位置付けた。その意気込みを桂常務に聞いた。

 

皆さんがドキッとするような
提案にも力を入れていきます

確かな手応えを第一歩
今年は勝負の年

── 2008年、新生イメーションのスタートから4年が経過しました。

 2つの企業が統合することは、企業文化をはじめとする様々なハードルもありましたが、非常にスムーズに進んできたと思います。コスト削減以外にも色々な面で相乗効果が表れ、光ディスクのシェアも拡大基調にあります。

── 記録メディアでは、HDDの台頭やクラウドなど、環境が劇的に変化しています。DVDからBDへのシフトも想定したほど進んでいない。その一方、デジタルカメラの普及などによりショット数が急増する中で、潜在的なアーカイブのニーズについて指摘されながら、なかなか啓発できていないのが実情です。

 テレビ番組録画など、BDレコーダーで使用するBDについては、国内では順調に需要が拡大しており、それほど心配は要らないと思います。課題は、PCをプラットフォームとする部分です。ご指摘のプライベートコンテンツのアーカイブなど、ここで、DVDからBDへ、なかなか次の一歩が踏み出せない。一社の努力だけで大きな流れを変えていくには限界もあり、できれば業界が一丸となり、量販店さんとも協力した取り組みを行っていければと思います。

BDではまた、これから多層が本格化していきます。今の50GBから100GB、さらにそれ以上と容量が拡大してくる。光ディスクは量産時の低コストが大きなメリットのひとつですから、100GB以上の大容量のものが、HDDより圧倒的な低価格で提供できる局面が整えば、また、展開も変わってくると思います。技術的には、書き換えにおいていくつかのハードルがありますが、そう遠くない時期に、HDDの一部に取って代わることができればと思っています。

地デジ化では、録画機をVHSからBDへ買い替えた例も大変多く見られました。初めて光ディスクを使用される方が数多くいらっしゃることをきちんと認識した取り組みも、用途、需要の拡大へ向けての大切なポイントになると思います。もちろん、光ディスクだけで記録・保存の用がすべて足りてしまうわけではありません。昨年からフラッシュ系のSDカードにも力を入れており、シェアも着実に拡大しています。

── 原材料の高騰やサプライヤーの淘汰などもあり、御社では昨年、DVDとCDの値上げを行われました。

 お客様にとって値上げが望まれないことは百も承知しています。しかし、自分たちの損益改善のためだけに行っているのではなく、中長期的な観点に立って市場を改善していかないと、需要があるのに作り手がいなくなってしまうような、本当に危機的な状況になりかねないのです。先行して値上げを行った分、シェアは段階的に落ちていますが、それも計算済みですし、ここが踏ん張りどころです。夏までには価格以外の要素でいろいろな提案を行っていくことで、元のシェアを取り戻していきたいと思います。

── 記録メディアを取り巻く環境が厳しさを増す中で、新たな柱として注力されるのが、ヘッドホン、スピーカーで参入されたオーディオです。オーディオカセットのトップブランドでもあり、全くの畑違いというわけではありませんね。

  事前の市場調査でも、お客様がTDKブランドに対しオーディオ≠フ強いイメージをお持ちであることもわかり、新規参入が厳しいことは覚悟の上で、2年前に本格参入しました。競合メーカーは多いですが、同時にいろいろな可能性を感じる業界です。音楽を聴くことがなくなることはあり得ません。日常においても、例えばテレビを見るにしても音は大変大きなファクターですからね。

── 参入されてから2年間の手応えはいかがですか。

 主にヘッドホンとスピーカーの2つの商品カテゴリーになりますが、それぞれに手応えがありました。主軸の記録メディアが残念ながら衰退傾向にある中で、会社としても次にリソースをどこへ投入すべきか。それが「オーディオ」だったわけですが、この2年間やってきて、決断は正しかったと確信しています。後発ですので、常に新しいことを提案していきたいと思っています。2年という短い時間ではありますが、その間にも、いくつかの商品でそれができたと感じています。

ご販売店でも、私どもがTDKブランドでオーディオへ参入することに対し、好意的に受け止めていただけたことは、後発の身として大変大きな力になりました。これからはきちんと結果を出していかないと、その期待を裏切ることになりますから、新たなステージへ向け、そうしたプレッシャーも感じています。

メディアで培ってきた
“提案力”が大きな武器

桂 幹氏── 開発体制が二元化されているのが大きな特色のひとつですね。

 本社が全権を握り、国外のそれぞれの地域のニーズと乖離してしまう例はよく見られますが、イメーションでは現場の裁量に任せられている部分が大きく、日本で商品を企画・開発して出す自由度も高くなっています。グローバルで展開する「プレミアムシリーズ」は、ハイエンド・高機能で、最先端のものを採り入れた商品です。しかし、お客様が欲しているのはハイエンドの商品だけではありませんから、ボリュームゾーンでできるだけいいものを欲しいというニーズに応えるのが、日本市場に合わせてローカルで展開する「CLEFシリーズ」になります。価格帯では6000円以下。メインは3000円以下のヘッドホンになります。

── 2つのシリーズあるからこそ、互いに存在感が高められますね。

 後発で経験も乏しい中で、会社をあげてグローバルで展開しているのは大きな強みのひとつです。米国イメーション本社には、TDKの求めるサウンドを研究するラボがあり、TDKらしい音≠全社あげて追求していく体制が整えられています。フラグシップとしてのプレミアムシリーズがあり、われわれが商品として世の中に提案していく力があることをご理解いただけるからこそ、CLEFシリーズの存在感も増してきます。そこには、「TDKブランドに相応しい音」という縦軸が貫かれていますので、CLEFシリーズをお買い上げのお客様にも、プレミアムシリーズのエッセンスは感じていただけるはずです。

── どれだけ新しい需要が掘り起こせるかがひとつのテーマになる中で、プレミアムシリーズは他にはない味付けがあり、店頭でもきちんとした展開ができれば大きな武器になりますね。

 初代の商品になるワイヤレスヘッドホン「TH-WR700」は、オーディオに特化したワイヤレス技術「Kleer」を採用しました。スマートフォンの普及拡大もあり、これからワイヤレス商品はどんどん広がっていきますが、先進的な提案として、発売以来2年が経ちますが、期待以上の売上げを記録しています。「次のワイヤレスって何?」というテーマも、我々に対する期待、課せられた宿題だと受け止めています。

ヘッドホンへの新規参入にあたっては、アイ・トラッキング調査も行いました。実際の店舗をお借りし、お客様に特殊なメガネをかけて購買していただき、どのように視線が動くのか、また、購入直後のインタビューで、その場面、場面にどういうことを考えていたのかなど、どのような基準でヘッドホンを購入されているのかを分析するものです。

量販店のヘッドホンコーナーには物凄い数の商品が品揃えされ、お客様はその中から自分の好みの商品を選び出すことに楽しみを見出されています。一方、光記録メディア同様にセルフ商品、すなわち、お客様自らが選ぶ商品ですから、数が多ければ多いほどプロセスに時間がかかるなど、お客様が混乱されるケースも見受けられました。

── 御社は記録メディアで、限られたスペースの商品パッケージに込めるメッセージや売り場づくりの提案などのノウハウがあります。

 それが活きている部分はあると思います。また、イメーションはそうした提案ができるのだというところを、我々のひとつのアドバンテージにできればと思います。

── 商品を選ぶのがちょっと不安だったり、わからなかったりするお客様に対しては、そうした提案がないと、メーカーが商品へ込めたこだわり≠燗`わらなくなってしまいますね。

 980円と2980円のヘッドホンではやはり音が違います。あと少し出せばここまでいいものが手に入ることを、実際に体感していただくことで、シフトいただける可能性は十分にあると思います。全体の1割がシフトしても、売上げは大きく変わってきます。

オーディオ部門の組織を強化
スピード感で応え、訴える

── ご販売店からはヘッドホン、スピーカーに続く次の一手≠ヨの期待も大きいのではないでしょうか。

 これから鍵になるのはやはり、スマートフォンにいかに対応していくかだと思います。音を楽しむデバイスとしてのスマートフォンの位置付けが拡大していく中で、そこを強く意識した提案がポイントです。色々な機能を備えたスマートフォンですが、その中にある世界をどれだけ魅力的にお客様に伝えられるかですね。先行する米国でも商品開発を行っていることは、ここでも強みのひとつになると感じています。

音楽もベースがPCへシフトし、外ではスマートフォンで楽しむとして、それでは自宅ではパソコンなのかというと、それでは淋しいですね。ここにも提案の余地がある。昨年発売したスピーカーシステム「Boombox」は、たまには音楽をバーンと大きな音を出して楽しんでもらいたい、そんな思いも込めました。お客様のニーズにお応えしていくことはもちろんですが、同時に、ドキッとするような提案にも力を入れていきたいと思います。

── すでに随所に、オーディオの次のステップへの芽が出ているわけですね。2012年、勝負の年への意気込みをお聞かせください。

 オーディオで2年間やってきて、できていないところ、変えなければいけないところは山のようにあります。ご販売店からのご助言やご指摘も多々いただきました。ようやくスタートラインにたどり着き、これからが勝負。もう「初めてだから」という言い訳も通用しません。

ラインナップもさらに強化し、個々の商品力も上げていきます。オーディオに対する社内の体制も、営業とマーケティングで組織するオーディオ専門部隊を新たに立ち上げました。市場からの反応を素早く受け止め、次の商品に活かせるよう、コンパクトな組織で機動力を高めました。いいことも悪いことも、速く吸収して次に活かすことが大切です。

イメーションはオーディオでは後発ですが、これまで記録メディアで培ってきたノウハウやグローバルのリソースがあります。後発なりの強みを最大限に活かし、数年の内には、「TDKはオーディオのブランド」とまず認知いただけるよう、全力をあげて取り組んで参りますので、どうぞご期待ください。

◆PROFILE◆

桂 幹氏 Miki Katsura
1961年11月11日生まれ。大阪出身、1986年 TDK(株)入社、記録メディア国内営業、アジア統括部経営企画、米州事業部経営企画、2008年 イメーション(株)に入社、日本国内B2C事業担当。趣味はテニス、映画鑑賞。座右の銘は「本当に大切なことは目には見えない」。

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