- 新需要を創り、既存の市場も伸ばす
グローバルへ成功事例を拡大する
- パナソニック(株)役員
- グローバルコンシューマー マーケティング部門
- アプライアンスマーケティング本部 本部長
- 中島幸男氏
Yukio Nakashima
家電商品は厳しい市場環境が続くが、パナソニックは、エコナビ、ナノイーの付加価値展開や理美容商品の新需要創造で、日本の白物商品のシェアを大きく伸長させている。太陽光発電などエナジーソリューションもますます注目される中、2012年の取り組みについて、アプライアンスマーケティング本部長の中島氏に話を聞く。
生活の中の小さな気づきから
常識を覆す新たな需要が創り出せる
グローバルを見据えた
新体制がスタート
── 今年1月1日付で発足された新事業体制で、グローバルコンシューマー マーケティング部門が新設され、中島さんはアプライアンスマーケティング本部の本部長となられました。
中島 当社はもともと事業部制で営業部門も事業部にありましたが、約10年前の構造改革の際に、初めてマーケティング本部を立ち上げたのです。当時あった事業部の営業、宣伝事業部、営業本部をすべて統合した上でパナソニックマーケティング本部とナショナルマーケティング本部に分け、事業部から離れて前線に近いところに位置することになり、宣伝も商品とリンクして成果につながる活動を目指したのです。その後の10年間、おかげさまで着実に成果もシェアも上がりました。
一方、これまでのグローバルの営業体制は、事業会社に商品ごとのマーケティング部門が存在し、それとは別に地域ごとにグローバル営業部門があったため、マーケティング戦略とセールス部門が分離した状態でした。そこで今回、10年間かけて日本で取り組んできた商品を基軸にしたマーケティングで、名実ともにパナソニックがグローバルに成長を果たそうという目的のもと、グローバルコンシューマー
マーケティングという部門が誕生したのです。
私自身は昨年12月まで、日本のアプライアンス・ウェルネスマーケティング本部で白物商品と理美容、電池などの商品を80カテゴリー、8000品番ほど取り扱っていました。このたび活動の拠点を大阪のOBPパナソニックタワーに置いて、従来のホームアプライアンス社やエナジー社、ライティング社、各々のグローバルのマーケティング担当者や地域会社の担当者が一堂に集められた部門となり、グローバルで商品を基軸にしっかりマーケティングをし、増販とシェアアップを図るという組織に生まれ変わったのです。
いわゆる黒物はグローバルでも共通のシャーシを採用し、スタンダードとしていけるのですが、白物は地域によって生活習慣が違いますから、そうはいきません。同じモデルを他の地域で展開できず、まずその国々の生活を研究していかなければなりません。大きく開発投資をしてグローバルで数百万台売るというビジネスではなく、エリアごとに数万台から十万台規模で積み重ねていくものなのです。社長の大坪も言うようにグローバルを攻めていくことは当社の大きな命題です。日本でのシェアを落とすことなく、グローバルでいかに伸ばしていくかが課題となります。
── グローバル展開ではボリュームゾーンも狙っていかれるのでしょうか。
中島 日本では付加価値、ボリューム、ボトムという商品の位置付けがありますが、我々がグローバルで展開するのはボトムではないと思っています。全体として狙うのはボリュームも意識したところで、各国の生活習慣に則したところで展開していきます。富裕層対象のトップエンドから、中間のボリュームゾーンに向けしっかりと商品を揃えていくつもりです。
最重点地域は、パナソニック全社の戦略エリアでもある中国と、インド、ブラジル。さらに我々としてはもともとシェアの高い東南アジア諸国を守りつつ、欧米もやっていきたいと思います。特に欧州は環境意識が高く、環境革新企業1を目指す当社の方向性とも合致します。
新たな需要を生み出してきた
デモグラフィックマーケティング
── 日本の成功事例が、さまざまな地域で奏功しそうですね。
中島 日本で10年前に冷蔵庫、エアコン、洗濯機などの従来の事業部営業を全部まとめてナショナルマーケティング本部を立ち上げた時、ブランドイメージを変える、商品を群で展開する、ということに着手しました。消費電力が大きいエアコンや冷蔵庫、照明器具など個々の商品をレベルアップし、お客様には地球環境と経済性の切り口で訴えていったのです。これは「Nのエコ計画」というキャンペーン名で展開しました。
これが進化して、3年前から「エコナビ」になりました。私もマーケティングの立場で技術系の人間とともにさらに商品力を高め、お客様にわかりやすくということでつくったいわばひとつのブランドです。商品の開発者には、消費電力やCO2の削減に厳しい数値のハードルを設けました。そして対象商品は群展開、固まりでどんと打ち出そうと発売時期も合わせました。まず消費電力の大きいエアコン、冷蔵庫、洗濯機、エコキュートといった商品から始め、その後年々増やしてきましたが、パナソニックの標榜する環境革新につながる商品群として精力的に推進しています。宣伝も従来個々の商品で行っていたものをエコナビでまとめたところ、宣伝量が減っても認知度はぐっと上がりました。
グローバル展開でも、エアコン一つ出したくらいでは認知度も上がりませんから、エコナビの切り口で商品をまとめていきます。ようやくやり始めたところで、中国やアジアなどではなるべくロードマップをつくって展開し、これをヨーロッパや他の地域に拡げていくつもりです。
日本ではさらに「ナノイー」の展開を行っていますが、これをグローバルでも展開します。空気中の水分から生み出される微粒子イオンで、カビ菌やニオイ、アレル物質などを抑制する働きがあるナノイーイオンを、空気清浄機やイオン発生器、エアコン、冷蔵庫、洗濯機など様々な商品に拡げ、生活環境の快適化を図るものです。中国は空気清浄機が非常に伸びており、パナソニックがトップシェアとなっていますから、エアコンや他の商品群でもナノイーの切り口で伸ばしていこうと思います。
さらに日本で売上げを伸ばしているのは、「デモグラフィックマーケティング」を展開した商品です。日本の人口は少子高齢化で頭打ちになっていますが、世帯数は2015年まで増えていくとされています。かつては夫婦と子どもで4人の家族を標準家庭として白物の商品企画も行っておりましたが、昨今の多様化している世帯の変化に合わせたデモグラフィックマーケティングで、2人世帯向け、単身世帯向け、と様々な商品を展開したのです。これを数年間やって、新たな需要を創ることができました。
例えば昨年出した「プチドラム」という洗濯機。洗濯機は一家に一台で総需要450万台ほど、ドラム型と縦型があり構成比がおよそ2対8です。ドラム型は販売数量が少ないものの金額が大きく、これをもっと拡げようと企画したのがプチドラムです。ドラム型が欲しくとも置き場所がないご家庭に向け、幅60p×奥行60pで縦型洗濯機と同じスペースに入る。容量は6sで2?3人家庭には十分です。これを出したところ、従来のドラム型の台数は減ることなくそっくり上乗せになり、ドラム型の総需要を押し上げる結果となりました。しかも縦型から代わった分単価もアップして得意先からも高く評価されています。
この手法を食洗機にも展開し、この2月には「プチ食洗」という新商品を発売しました。食洗機は、システムキッチンのビルトイン製品で年々着実に伸びているのですが、卓上スタイルでは頭打ち。普及率は3割ほどに止まっています。そこでネックとなっている置き場所の問題を解決するため、食器洗いかごのスペースに置ける食洗機を企画しました。一気に需要を伸ばしたいと思っています。
小物商品ではもっと顕著で、電動歯ブラシの「ポケットドルツ」の成功例もあります。年間5億本という歯ブラシの市場で、昼休みに歯を磨くOLの方々に着目し、化粧ポーチにすっぽりと入って、さりげなく使えるような商品です。年間180万本というヒット商品となりました。
まずターゲットをはっきりと定め、絞り込んだ商品を企画していけば、一家に一台が常識と言われた商品に新たな需要を創り出すことができます。また1年間だけ需要を創るのは意外とたやすいですが、次の年にそれが1/4になるようでは事業が成り立たず、投資もできませんから、ネタを毎年いくつも用意し、さらに毎年着実に拡大していけるようにしています。それがものづくりにも報いる方法ですから、ポケットドルツも、翌年には子ども用、男性用と展開して着実に進化させており、売上げが上がる仕掛けをしています。
こうした手法はビューティ、ヘルスケア商品が得意とするところで、もともと白物のように総需要が大きく買い替えにつながるようなものではないのです。しかしお客様にしっかりと伝わって、いいと思っていただけたら間違いなく口コミで売れていく実績があります。そういう生活の中のちょっとしたことをキャッチアップし、マーケティングをきちんと展開していけば、需要は創れます。元気になれます。
デモグラフィックマーケティングをここ数年続けてきたことで、白物の事業は年々拡大しています。家電業界は今非常に厳しい状況に置かれていますが、私どもはおかげさまで得意先様からも商品とマーケティングプランを非常に高く評価していただいています。
またこれからは太陽光発電(以下太陽光)にも注力して参ります。パナソニックでは業界最高水準の発電量(太陽光発電システム容量1kWあたり)を誇る独自の「HIT」シリーズを核に展開しております。今年は日本で首位を狙える手ごたえがありますが、日本で基盤を固めながら、グローバルでもしっかりと太陽光を中心としたエナジーソリューションを提案していきたいと思っております。日本では建物の基準や施工のノウハウもありますが、グローバルはこれから。今懸命にリサーチしておりますが、可能性は非常に大きいと思っています。
太陽光発電の取り組みが
次のチャンスをつくる
── 商材が広がって、販売店のアプローチにも発想の変化が求められますね。
中島 トランスフォーメーション、つまり商品構成の変化は課題です。ショップ店様にとっても、従来のようなテレビ一本の手法からいかに違う商品に変えていけるかです。白物や小物に加えて太陽光をしっかり取り込んでいけるお店様は、着実に売上げを伸ばしています。お客様が喜び、お店の売上げも上がる。工事も手がければ、利益率も高い。そういう販売店様は全国にたくさんあります。
太陽光は大きな固まりになって、ようやく投資が実ってきました。本部内でも人も経営資源もシフトして体制を強化し、設置や施工の問題も解決しながら推進しています。研修も販売店様、量販店様向けにさかんに進めています。
── 太陽光の普及には、どのくらいの期間を想定されていますか。
中島 国の補助金政策とも連動しますが、一気にこの数年間で立ち上げていくつもりです。生産能力も高まり、今年は家電の中で数倍というペースで伸ばしていきます。トランスフォーメーションという意味で、従来の量販店様もショップ店様も間違いなく販売構成が変わっています。そういった中で太陽光はぐっと上がっており、年間ベースで前年構成、数パーセントだったのが、15%、30%と伸ばしているお店様もあり、差が出てくると思います。
── いうなれば救世主ですね。
中島 太陽光のような新しい商品もそうですが、エアコン、冷蔵庫、洗濯機の保守本流のエコナビ商品もまだ伸ばせます。昨年の東日本大震災の後、同じ商品群の中でもお客様が省エネ性能の高いものを選ばれ、テレビの単価が下がり続けていく中でもそうした商品は単価が上がりました。本当にありがたいと思います。
エレクトロニクスが厳しい環境と言われる中ですが、大きな可能性を感じて前向きにやっていきたいですね。現状の手ごたえは十分です。今世界各地とやり取りをしながら2012年度の事業計画を作成しており、全員が強い思いでやっていこうと意気込んでおります。
── グローバル、そして日本の展開もますます楽しみになって参りました。期待しております。