- 楽しみ方は聴くことだけではない
様々なシーンで音にこだわっていく
- パイオニア(株)
- 代表取締役 兼 社長執行役員
- 小谷 進氏
Susumu Kotani
リーマン・ショックの後に構造改革を敢行、新たな基盤を築いた上での成長戦略を進めるパイオニア。着実な成果を生みながらの展開で、第2四半期以降にはさらなる期待がかかる。音にこだわり、新たな顧客ニーズに応えながら新展開へ乗り出す同社の近況を、小谷社長に聞く。
パイオニアブランドは大きな資産
最大限に活かし新興国へ打って出る
新規顧客層へ、商品提案だけでなく
情報発信しながらアピールする
12年度1Qは想定内で着地
2Q以降は新製品を連打
── 成長戦略を着実に進めておられますが、昨今の手応えはいかがですか。
小谷 ここのところの国内家電市場は、地デジ化以降の反動で厳しい状況です。さらにオーディオマーケットは世界的に冷え込んでいます。ただオーディオ市場そのものは、大幅な拡大はなくともしっかりと確立されていますから、その中でパイオニアはこれからいい商品を出し、再びシェアアップを図っていこうという段階にあります。
そうした状況でのこの第1四半期決算は、全体的にはほぼ想定どおりでした。数字自体は昨年と比べ特に利益面が厳しくなっていますが、カー市場の伸長により売上げは14%近く伸びています。特に車メーカー様向けのビジネスが震災の影響を受けた昨年から回復し、大きく伸びました。カー事業での利益も第1四半期は昨年の2.7倍となっています。
課題はホームオーディオです。当社のホームオーディオ事業は、ホームAV、光ディスク、プロSV、ケーブル、ヘッドホン・マイクの5つの事業から成り立っており、昨年ようやくホームAVが黒字となって、全事業が黒字化を達成しました。今期はこれをさらに拡大しようというもくろみでしたが、ここにきての誤算は光ディスク事業の大きな落ち込みです。これは、単体レコーダーの地デジ化の反動による落ち込みと、PC市場の落ち込みによるものです。PCは今期新しいお客様が加わって、当社のドライブビジネスは伸びています。しかしレコーダーと比べて単価が安く、売上げ面ではどうしてもレコーダーの反動が影響します。これで第1四半期は残念ながら、昨年の黒字から赤字へと転落してしまいました。
ホームオーディオはもともと第1四半期の売上げ比重が小さく、計画でも新製品をあまり投入しておりません。売上げが小さいため自ずと固定費が重く、ここで赤字になってしまうということです。それでトータルとして第1四半期は6億円の営業利益となりました。昨年は20億円でしたから、マーケットはなぜこんなに落ちたのだという見方をしますが、我々の計画の想定範囲内で着地したと思っています。
── いよいよ第2四半期以降が期待されますね。
小谷 カーの事業は、OEMで引き続き伸長させていきます。エコカー補助金の打ち切りが取り沙汰されていますが、当社にとっての影響はそれほどないと見ています。アフター市場はカーオーディオのディーラーオプションが増えており、車が好調でもアフター市場そのものは昨年と比べて落ちています。
当社ではHUD(ヘッドアップディスプレイ)ナビが非常に好評をいただいておりますが、生産が追いつかずバックオーダーを抱えて数を十分に供給し切れていません。アフター市場そのものは厳しいですが、このようにカー純正にはない斬新な商品をつくればニーズは掘り起こせるという確信をもっています。HUDナビの生産も軌道に乗れば、第2四半期以降下期に向けて売上げが伸びていくと思っています。
ホームオーディオは、光ディスクが今後も難航すると思います。先行きの伸びは期待できませんので、現状を基準にした体制を急いでつくらなくてはなりません。一方でホームAVはいろいろな展開をしかけております。新製品も第2四半期から下期に向けて軒並み出て参ります。面白いものもありますので、これを年末に向けての拡販期にどう展開し、商売を軌道に乗せるか。そこに期待をかけているところです。ただ、やはり世界的な景気の動向が懸念されます。ヨーロッパの問題はある程度盛り込んでいるのですが、これが中国やブラジル、インドなど新興国にも波及してきているとなると心配ではあります。
地域ごとに戦略を立て
新興国に積極展開
── 御社では昨今、海外展開を積極的に進めておられます。
小谷 中国、ブラジル、インド、ロシアといった新興国は当社だけでなく、どこの業種の企業も注目している市場です。だからこそ、そこへ打って出るには他社とは違うことをしなくてはなりません。新興国を攻めるなら、パイオニアらしいビジネスモデルを確立していかなければ意味がない。そういう考え方で、海外展開を進めているのです。
中国では、カーの分野で上海汽車と合弁会社をつくり、ナビのハードからソフトまで手がけていこうとしております。またホームの分野では蘇寧電器という大手量販店と組んで、中国マーケットでの展開を開始しました。具体的には、蘇寧のつくる液晶テレビにパイオニアブランドを供与する形です。ここでの我々の目的はブランドビジネスではなく、パイオニアブランドのテレビとともに、パイオニアのオーディオを販売してもらおうということなのです。
ブランドと技術力、マーケティング力はパイオニアが提供し、蘇寧が売り場を提供するわけですから、売りはぐれることがないというのがこのビジネスの強みです。彼らがつくって、彼らの責任により彼らの在庫でものを売るということ。いわゆる川上から川下までひとつのビジネスチェーンを全部おさえているということで、我々にとっては、在庫をさばかなければならないとか、商品が売れなくなってしまうということがないのです。
これは非常に面白いビジネスモデルだと思います。すでにこのやり方をデジタルカメラにも拡げており、さらに他のカテゴリーへ幅広い展開の応用も考えられます。パイオニアならではのユニークなやり方が確立できたと思います。今年はブラジルにも注力していますが、これはまた違ったビジネスモデルで、当社の生産拠点をうまく使っています。ここはもともとカーの商品をメインに生産していますが、そこでEMS事業を請け負う、あるいは部品をつくって、それをパイオニアの商品や他社にも外販もしていく。こういうビジネス展開です。
新興国では、このようにそれぞれ別々の取り組みなのです。ただモノをつくって売るのでなく、それぞれの市場に合ったユニークなビジネスモデルで展開しているところです。来年あたりはインドをターゲットにして参ります。またこれまで新興国にはホームオーディオはあまり展開していなかったのですが、これから国内に新しい商品がたくさん出てきますから、それをどんどん拡大し、新興国でも積極的に取り組んでいこうと思っております。
確立されたブランドが
ビジネス成功の大きな鍵
── こうした展開でも、パイオニアブランドの高付加価値が奏功するわけですね。
小谷 もちろんです。なぜこうした展開ができるかは、まさにブランドの力によるのです。我々にとってはブランドの確立が最大の資産になっているわけで、パイオニアのブランドがすでに高いところで確立できているという素地があるからこそできることです。パートナーにとってもそれが魅力ですし、無名のブランドを使ってもこのビジネスは成り立ちません。そしてこういう場合に一番気をつけなければならないのが、ブランドの毀損です。
中国の蘇寧とのケースでは、パイオニアの品質管理部門、ブランド管理部門を中国にも設置して、技術供与やアドバイス、品質チェックもしますし、これをブランド戦略の一環にも加えます。そういうことをしないと、まさに、せっかくつくりあげてきたブランドに傷をつけてしまうことになりますから、ここには細心の注意を払っています。
── 日本国内では家電はともすれば価格訴求に陥ってしまい、付加価値をどう訴求するかが課題です。そんなとき、ブランドの価値というものが大きく影響してきます。
小谷 おそらくこれから日本のメーカーが生き残るために、強みとなるのはブランドだと思います。中国のメーカーが技術力をつけ、市場に数多く参入して低価格な商品を投入しています。しかしブランドだけは、日本のメーカーが100年をかけてつくりあげてきたもの。中国メーカーがいくらお金を注ぎ込んでいいものをつくろうとも、一朝一夕でブランドを確立することはできないと思います。日本メーカーがこれからブランドをいかにビジネスに結びつけていくか、それは重要な生き残り戦略のひとつになるでしょう。
── 今後の国内でのパイオニアブランドの展開をどうお考えですか。
小谷 国内におけるパイオニアブランドを見直してみますと、全体的に浸透はしていますが、そのユーザー層は、特にホームオーディオにおいては50代以上が非常に多く、若い方々や女性層が少ないのです。パイオニアはここ数年来、こうした方々に向けたオーディオ商品をつくってこなかったということもあり、当たり前の結果ではあります。しかし将来を考えても、これからはいかに若い方々へブランドを浸透させるかが課題です。そこで企画してきた色々なことが、今にしてようやくかたちになってきました。
昨年オープンした「パイオニアプラザ銀座」もそうした方向性の一環で、ここはパイオニアの情報発信基地として機能しています。単なるショールームではなく、これからパイオニアがやろうとしていること、若者・女性向けの商品を提案していきますというメッセージを発信する場なのです。
オープンして1年が経過しましたが、お客様の4割は女性であり、全体の30%ほどが30歳以下の方々となっています。場所柄もありますが、当社の思惑どおりにそうした方々が訪れてくださっており、あらためてあの場所を開設してよかったという思いでおります。新しいお客様向けに商品をつくるだけではなく、そうした方々に向けて情報を発信する、発信する場をつくるということの重要性を実感しました。この方向性はますます強化していきたいと思っています。
── 国内では、オーディオの成長期にパイオニアのお世話になったという販売店が大変多く存在します。新しいお客様に向けて商品をしっかりと出していけば、販売店は力になるはずです。
小谷 そういうご評価はたしかにいただいています。これまでは、パイオニアはうまくいかないとすぐやめてしまうのではないか、本気でやるのかと言われていましたが、昨今そういった声もなくなり、ほとんどの販売店様が積極的にサポートしようとおっしゃってくださいます。そういった期待にぜひお応えしたいと思いますし、簡単に諦めずにいろいろなことをやって参りたいと思います。
3年前にドック関連のオーディオを投入したときも、これまでパイオニアが手がけてこなかったカテゴリーだったのですが、初代、2世代目のモデルはあまり売れませんでした。これまでならそこで諦めるところですが、これを継続して3世代目でようやく上向きになり、4世代目でまとまった数が出るようになりました。
これも振り返ると、当初は簡単な気持ちで出したわけですね。市場のニーズ、ユーザーニーズはしっかり捉えなければならないとあらためて勉強しましたし、そのためにはしっかりと腰を据えてやらなくてはいけないと思いました。昨年から販売しているダンスオーディオのSTEEZについても、立ち上がりはまだ弱いですが、必ず市場はある、しかもこれから大きくなると見ていますから、地道に育てていきたいと思います。
ただいずれにしても、お客様の声は聴かなくてはなりません。改良を重ねて時間をかけて商品を成長させていかないと。つくってみたから売る、というのではだめですね。
── 昔はミニコンポ、システムコンポに勢いがありましたが、今はそのカテゴリーがこわれてしまい、メーカーが各々の提案で商品を投入しています。ある程度のまとまりをもって、カテゴリー提案していけるようでないと市場拡大は厳しいと思います。
小谷 ダンスのカテゴリーもSTEEZでパイオニアだけがやっておりますが、いろいろなメーカーさんに参入していただき、互いに切磋琢磨しながら市場をつくりあげていくということが本来好ましいと思います。ピュアオーディオでも、日本のメーカーではある程度プレーヤーが決まっていて、強いプレーヤーはたくさん存在します。それぞれが足の引っ張り合いをするのではなく、うまくやっていければいいと思います。オーディオの市場は極端に大きくはならないかもしれませんが、確固とした位置づけがあります。中国や韓国のメーカーが低価格商品で入ってくることはできませんし、ここは上手にやっていきたいですね。
音に強くこだわりながら
さまざまな楽しみ方を
── オーディオ市場で昨今特に期待できるのはヘッドホンの分野ですが、今のヘッドホンは、かつてのミニコンやシスコンに代わるメインツールなのかもしれません。そもそも機器そのものの大きさも日本の家屋にとっては問題であり、同じことはシアター関連商品にも言えます。マーケットスケールはもっと拡げられると思うのですが。
小谷 パイオニアは音についてこだわりをもとうという方向性を貫きますが、音の楽しみ方はひとつではありません。聴くことはもちろん、歌ったり奏でたり、踊ったりするときにも音楽があります。それぞれについて音にこだわり、そういうニーズに合った商品づくりを広く展開していこうとしています。
テレビについても、音にこだわる方はかなりいらっしゃいます。デジタルテレビに買い替えて、画質はきれいになったが音は不満であるという声を多く聞きます。日本にホームシアターの市場は必ずあると思いますが、なぜか成長しないのは、やはり商品の大きさにも問題があると思います。現状ではリビングの中には合わせにくい存在なので、工夫が必要だと思います。また無線技術が進めば、さらなる解決策があるかもしれません。
── ここ数年、いろいろな外的要因もあって、国内の経済は非常に厳しい状況にあります。そういう中で御社は構造改革に取り組み、遂行して、成長路線に向け進んでいます。かつてのオーディオブームの頃と比べ非常に困難な環境である今、経営者としてどんな手応えを感じておられますか。
小谷 我々が置かれている環境は確かにがらりと変わりました。以前のように日本のメーカー間だけで競争していた頃は、互いに同じくらいの時間とお金、手間をかけていますから、あとはどれだけ早く、安く商品を出せるかという勝負でした。しかし今の競争環境はまったく異質です。相手も日本のメーカーではなく、中国、韓国、台湾のメーカーであり、あるいは電機でなく、通信やコンテンツメーカーなど異業種との競争です。そうなると、これまでのように自社で何でもやろうという自前主義は足かせになってしまいます。
当社でも3年前に構造改革に着手した際、最初に始めたのがアライアンス戦略です。いろいろな強いパートナーといかに協力し合って、スピードをあげ、事業化を目指せるか。それがこれから生き残るためのキーになるだろうと思います。今回の成長戦略でも、アライアンス戦略は非常に大きなポイントのひとつとなっており、それをどれだけうまくやっていけるかに今後が左右されると思います。
おかげさまでブランドはしっかり確立されていますので、その強みを活かして、まずはスピードを上げるということだと思います。また、市場のニーズを絶対に見失わないようにすることも重要です。パイオニアはとかく技術志向になりがちの会社で、これまではいいものを作れば高価でも買っていただけるというおごりが強すぎたのではと思います。市場のニーズの変化に敏感に対応しなければならないと、あらためて思います。
── ブランドを確立しつつ、新しいニーズに耳を傾けていくのは両立が難しいことと思います。しかし、おっしゃるとおり音楽の楽しみ方は聴くだけではありません。そこに、新しい価値創造のヒントがありそうです。
小谷 まさに、当社のビジョンでもある「街でも家でも車でも、笑顔と夢中が響き合う」ということです。これを確立できれば、申し上げたようにかなりいいところまで達成できるのではと思います。
── これからがますます楽しみですね。おおいに期待しております。